外国人受け入れ拡大から共生社会へ 日本語教育推進法案の早期成立を 

外国人受け入れ拡大から共生社会へ 日本語教育推進法案の早期成立を 

  2018年もあとわずか。読者の皆様には、今年1年、「にほんごぷらっと」へのご支持とご理解をいただき感謝申し上げます。12月には、外国人労働者受け入れ拡大に関する政治の大きな動きがありました。メディアの報道も活発でした。その動きに関して今年最後の「時代のことば」でとりあげてみたい。

暮れも押し詰まった25日、政府は外国人労働者受け入れ拡大に関する基本方針と分野別運用方針を閣議決定し、「外国人材の受け入れ・共生のための総合的対応策」を関係閣僚会議で了承した。臨時国会で与党は野党の反対を押し切って、出入国管理・難民認定法(入管法)の改正案を成立させた。来年4月から、政府は外国人の急増に備えて彼らと共生する新たな社会づくりに取り組むことになる。

定住外国人は2018年6月末時点で前年同時期を約16万人上回る過去最高の約264万人。

2017年10月末時点の就労外国人は約128万人で5年前に比べほぼ倍増した。そうした中で、安倍政権が外国人受け入れ拡大に舵を切ったのは、人手不足に悲鳴を上げる業界団体、経済界の強い要望があったからだ。アベノミクスの失速を避けるための決断でもあった。た

改正入管法では、新たな在留資格として二段階の「特定技能」を設けた。また法務省設置法も改正され、入国管理局を「出入国在留管理庁」に昇格させる。同庁は出入国管理の業務だけでなく、外国人の入国後の支援も行うようになる。

すでにマスコミが報道しているが、特定技能では、「相当程度の知識または経験を要する技能」を外国人に「特定技能1号」を与え、最長5年の技能実習を修了するか、技能と日本語能力試験に合格すれば資格を付与する。在留期間は通算5年、家族の帯同は認めない。より高度な試験に合格し「熟練した技能」を持つ外国人には「特定技能2号」を付与する。期間更新が可能で家族帯同を認める。日本の滞在期間が10年に達すれば永住権の取得もできる。

また、特定技能1号の外国人労働者の受け入れやその生活上の支援などを委託する民間組織として登録支援機関を設ける。登録支援機関は出入国在留管理庁に届け出義務があり、同庁から指導、助言を受けるという。

運用方針では、特定技能1号として介護業、ビルクリーニング業、素形材産業、産業機械製造業、電気・電子機器関連産業、建設業、造船・船用工業、自動車整備業、航空業、宿泊業、農業、漁業、飲食料品業、外食業の14業種を指定。分野別運用方針では、業種ごとに受け入れ人数を決め、5年間の受け入れの上限の人数を34万5150人とた。景気が悪くならなければ、いずれ業種はさらに拡大されるだろう。

特定技能は、技能実習生からの資格の切り替えが可能だ。このため実習生を引き続き日本で働かせるための制度だとも言える。業界からは経験を積ませた実習生を期限後も雇用したいという声が出ていた。技能実習生は2018年6月末現在で約29万。外国人労働者全体の2割をこえる。建設や製造業などでは、欠くことができない存在だ。政府はとかく批判の多い技能実習制度から新たな仕組みに移行しようとしているのかも知れない。

一方、「外国人材受け入れ・共生のための総合的対応策」は、「外国人との共生社会の実現に向けた環境整備」が目的だ。対応策には、「意見聴取・啓発」「外国人支援」「適切・円滑な受け入れ」「新たな在留管理体制」の四つの分野に計126の施策を盛り込んだ。すでに実施している施策も少なくないが、政府が「外国人との共生」に向けた施策に正面から取り組むのは初めてだ。

施策の一つ、「多文化共生総合相談ワンストップセンター」について、菅義偉官房長官は福岡市での講演で「外国人労働者が多くいる市町村の全国100カ所に設ける相談窓口に通訳・翻訳システムを拡大させる。20億円程度の交付金をシステム導入費用にする」と紹介した。

医療・保健・福祉に関する「電話通訳や多言語翻訳システムの使用促進」、三者同時通訳による「119番」や多言語対応の「110番」、「外国語版の賃貸住宅標準契約書等の普及」「携帯電話の契約時の多言語対応の推進」なども盛り込んだ。

日本語教育に関しては、日本語教室の「空白地帯」に置かれている約50万人の外国人への対応を急ぐという。柴山昌彦文科相は日本語教育関連予算を今年度3倍の約14億円を計上すると発表した。日本語教育機関(日本語学校)については、「質の向上と適切な管理」を目指し、「告示基準の厳格化」「定期的な点検・報告の義務付け」など管理強化を打ち出した。

こうした施策を実施するにあたり、過去にあった「苦い経験」を念頭に置いてほしい。政府は1989年の入管法改正でブラジルなどの日系人の3世までを「定住者」として受け入れる枠組を作ったことで、90年代から日系人が急増した。しかし、共生のための政府の施策はほとんどなかった。このためデカセギの日系人に同行した子供の教育は置き去りにされ、不登校の子供たちが非行や犯罪に走るケースも少なくなかった。

さらに2008年秋のリーマンショックの際には、まずリストラの対象になったのは日系人だった。そこで政府は帰国支援金を支給して帰国を促した。景気の調整弁として使われ、切り捨てされた日系人は、失意のうちに日本をあとにした。こうした事態を繰り返さぬよう、政府はしっかりした受け入れ策を講じる必要がある。

安倍晋三首相は今回の対応について「移民政策と異なるもの」と繰り返し述べている。外国人受け入れの枠を拡大し、共生のための政策を整えるとすれば、それは事実上の移民政策ともいえる。それを「移民政策」と呼ぶかどうかはともかく、必要なのは共生に向けて「社会統合」を進めるための立法措置だ。政府の裁量でものごとを決める省令に任せにするのではなく、国会での議論を踏まえた法整備が必要だ。

出入国在留管理庁ができると、同庁が外国人問題を取り仕切ることなると思われるが、運用が何でも裁量で行うようになってはいけない。透明度を高くし、国民の理解の得られる運用が望まれる。

臨時国会の最中、超党派の日本語教育推進議員連盟(会長・河村建夫元官房長官)が2年間の議論の末、「日本語教育推進法案」をまとめた。日本語教育推進を「国の責務」と定め、その理念や施策を示した法案だ。国会議員の有志が日本語教育の重要性について共通認識を持ち、党派を超えて連携した。日本語議連の活動についてはすでに詳述しているので繰り返しは避けるが、ぜひとも通常国会で推進法案を早期に成立させてもらいたい。

政府の支援策を見ても、日本語教育、雇用、社会保障、教育など外国人受け入れの課題が山積している。その基盤になるのは、何といっても日本人とのコミュニケーションを図るための日本語教育だ。共生社会の実現に向けて、日本語教育推進をその第一歩にしてもらいたい。

石原 進

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