外国人支援・多文化共生ネットが名古屋入管で活動報告会 コロナに負けない支援の在り方を模索

外国人支援・多文化共生ネットが名古屋入管で活動報告会 コロナに負けない支援の在り方を模索

名古屋出入国在留管理局と連携しながら外国人支援の活動に取り組む「外国人支援・多文化共生ネット」(代表・坂本久海子NPO法人愛伝舎理事長、略称・がいたネット)が3月26日、名古屋市の名古屋入管局の会議室で活動報告会を開催した。コロナ禍によって苦しい生活を強いられる外国人住民が少なくないが、「がいたネット」の各団体からは趣向を凝らした支援の活動例などが報告された。

「がいたネット」は愛知、三重、岐阜の3県のNPOなど12団体で構成。2019年7月、当時の藤原浩昭名古屋入管局長の呼びかけで発足した。藤原氏は外務省からの出向人事で局長を務めたが外務省時代には外国人課長を経験し、多文化共生の活動に取り組む愛伝舎など市民団体との人脈を築いていた。

2018年12月に入管法が改正され、入管業務に新たに外国人の「在留支援」が加わった。これにより入管は出入国の審査や管理だけでなく、国内に居住する外国人の「支援」も重要な仕事になった。政府が策定した「外国人材受け入れ・共生のための総合的対応策」には「外国人支援団体のネットワーク化」という施策も盛り込まれた。これを具体化するため名古屋入管局が関与する形で発足したのが「がいたネット」だった。入管局が関わった全国初の外国人支援のネットワークだ。

ともすれば「官」が「民」を取り込んだ活動のように見る人がいるかもしれないが、名古屋入管とネットは相互に協力し、足らざる部分を補完し合うイコール・パートナーの関係だ。「がいたネット」にとって名古屋入管は現場の要望を国に伝える窓口であり、名古屋入管は外国人支援の「現場の状況」まで団体側から直接吸収できる。

報告会では冒頭、名古屋入管局の北河実則(みのり)主席審査官が挨拶した。北河氏は在留支援の現場責任者であり、その中に「がいたネット」と名古屋入管局との連携の狙いなどがよく表れている。会議後に参加者から「市民団体の活動をよく理解した挨拶だった」との声もあり、以下、主席審査官の発言の要旨を紹介しておく。

名古屋入管局は、多文化共生といわれる在留支援の活動を本格化させている。地方公共団体や外国人支援団体がすでに多文化共生に関わる事業を進めていたので、その経験や知識を借りながら、共生社会の実現に向けた取り組みを進めてきた。そうした観点、使命感から名古屋入管局は外国人支援・多文化共生ネットを支援し、このような場を提供しながらいろいろな情報交換を進めてきた。コロナ社会の現実があったが、当入管局は在留支援の観点から管轄する7県の市町村に対し多文化共生に関わるアンケートを実施し、どのような問題点、課題があるかを分析してきた。

一方で外国人住民に対する情報発信では、名古屋入管は独自にフェイスブックを立ち上げ、8言語で在留資格を説明しコロナ社会にあっての出入国の規制措置などを伝えている。ネットの皆さんは外国人に最前線で活動をしている。この支援で大切なのは支援する側とされる側が十分なコミュニケーションをとりながら支援を進めていくことだと思う。コロナ禍でコミュニケーションがとりづらい中で、支援がどうあったか。活動報告会を通じて披露していただくことは有効な情報共有になると考えている。(文責・にほんごぷらっと)

続いて坂本代表が挨拶し、「がいたネット」の参加各団体との交流を通じて課題解決に向けた新たな情報を得られたことや、これまで「点の支援」だったものが、「面の支援」へと活動範囲が広がったことなど「ネットワーク化」のメリットを強調。コロナウイルの感染が拡大する中での取り組みを通じて、ネットワークの機能を実感できたと語った。

このあと、9団体がそれぞれの活動方針や外国人支援の活動の状況、さらに提言などを発表した。日本語教育をはじめ、自治体と連携してのシンポジウム、セミナーの開催、プレスクールの取り組み、ボランティアの育成、高校進学率アップ支援など、様々な実践例が報告された。

各団体はこの1年、コロナ禍によって活動が大幅に制限されたが、その一方で外国人への特別定額給付金の申請書作成のサポートや多言語によるマスク着用の呼びかけなど外国人社会への情報発信など、行政のコロナ対策を補完する取り組みができたという。

各団体の報告は、①活動方針②活動概要③提言④活動報告――の5点。地域によって活動の状況は異なるが、外国人との「共生」「支援」を目指すことでは共通する。ここでは各団体の活動方針を紹介する。カッコ内は活動範囲。

【愛伝舎】(三重県)人口減少が加速する中、外国人との共生は日本社会の大きな課題です。外国人を地域の構成員として社会を担う人材と捉え、総合的な支援を目指しています。多様性が豊かさにつながるような活力ある社会づくりを進めます。

報告書1 PDF

【東海日本語ネットワーク】(東海4県)日本語を母語としない人の日本語学習及び交流活動を、営利を目的とせずに支援している団体及び個人の相互交流、情報交換を促進することにより個々の日本語学習支援活動の充実を目指すことを目的とする。

報告書2 PDF

【Vivaおかざき!!】(愛知県岡崎市を中心に東海地域)日本人も外国人も国籍・文化の壁を越えてお互い助け合って暮らしていける誰もが住んでよかった Viva(=バンザイ)おかざき!!と思える地域社会のために活動している。

報告書3 PDF

【一宮フィリピンコミュニティ】(愛知県一宮市と周辺の市)日本人とフィリピンの文化の交流会、触れ合い、子供たちの学校教育の説明会や親の相談会

報告書4 PDF

【シェイクハンズ】(愛知県犬山市及び尾北地域)多文化共生に関わる団体や行政などと協働しながら、体験活動を含めた地域に住む多様な背景を持つ子ども達に日本語・学習支援、自立のための支援を行う。また、地域の住民と多文化共生の考え方を共有し、さまざまな背景を持つ人々が生きやすい社会をめざす。

報告書5 PDF

【ABT豊橋ブラジル協会】(愛知県豊橋市など東三河地方)東三河地方を中心としたブラジル人市民をはじめとする在住外国人と日本人市民に対して、相互の交流、共存、共生に関する事業を行い、多文化共生に係る問題の改善や解決を図り、当該地域の 社会全体の利益に寄与することを目的とする。

報告書6 PDF

【トルシーダ】(愛知県豊田市、みよし市、安城市)日本で暮らす外国につながる子どもたちの生まれ持った特徴や文化的多様性を尊重し、同じ地域に暮らす住民として共に学ぶことや寄り添うことを大切にしています。居場所づくりとしての日本語教室や学習支援、進路のサポート等を通し、誰もがふつうに学べる社会を目指しています。

報告書7 PDF

【ASFIL GIFU】(岐阜市及び周辺)フィリピン人生活に役に立つ情報等を提供し、それらから得た知識によりフィリピン人住民が自分の周りの社会に上手く溶け込め、平和で自立した生活が出来るための活動を目指す。

報告書8 PDF

【可児市国際交流協会】(主に岐阜県内)国籍や文化・社会環境の異なる人々も、ひとしく平和に共生できる地域社会の実現 を目指して、地域の人々がともに協力し合い、国内外の人々と共に交流し、学びあい、協働活動を行うことを目指す。

報告書9 PDF

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