多文化共生社会の「究極の少子化対策」とは?カギを握る外国人支援団体の活動

多文化共生社会の「究極の少子化対策」とは?カギを握る外国人支援団体の活動

人口減少が急テンポで進む中で、岸田内閣は「究極の少子化対策」に取り組んでいる。一方、人口減少時代に不足する労働力を補完するため、安倍内閣以降、政府は外国人受け入れ、多文化共生社会の施策に取り組んでいる。だとしたら岸田内閣は「共生社会における究極の少子化対策」を進める必要がある。その実現にはどのような道筋があるのだろうか。ヒントは、先に名古屋市内で開かれたイベントに隠されていると思う。

そのイベントとは、「にほんごぷらっと」ですでにお伝えした調査研究の報告会だ。主催したのは東海3県の外国人支援団体の連携組織「外国人支援・多文化共生ネット」(略称・がいたネット、代表・坂本久海子愛伝舎理事長)。報告内容は、トヨタ財団の助成を受けての調査研究事業だ。事業名は「妊娠から乳幼児施策および外国人保護者の受入れ状況の調査研究と啓発活動による出産子育てできる社会づくり」。

調査研究に参加した団体は、「がいたネット」傘下の12団体とそれとは別の2団体。愛知、岐阜、三重の3県で自治体と連携して外国人の母親や自治体の担当者にアンケートや聞き取りをして子育ての実態を調べた。結果は東洋大学の内田千春教授によって報告書としてまとめられ、子ども家庭庁にも提出された。

併せて「がいたネット」は、参加団体が調査研究の対象とした自治体で行政担当者を交えた報告会を開催した。そこでまずは地域で外国人の妊娠や子育ての課題を共有し意見交換を行った。それを受け参加団体のうち9団体が一堂に会して開いたのが、今回の報告会だ。そこには名古屋入管局のほか、愛知、三重両県、名古屋、一宮、犬山、鈴鹿、亀山など各市の子育て担当が招かれた。行政が外国人支援団体から話を聞く場ができたわけだ。

本来なら政府がまとめた施策について、その実施を地方自治体に指示し、自治体は地元の民間団体に助成金を出すなどして事業に参加させる。それが通常のパターンだ。今回は行政と支援団体がパラレルな関係を築き、形式的にも行政が団体側から意見を聞く仕組みを示した点が新しい動きと言える。

共生社会を作るため地方自治体が政府をリードした例としては「外国人集住都市会議」の取り組みが注目に値する。外国人集住都市会議2001年に浜松市の呼び掛けに群馬や東海地方の都市が賛同して発足したが、参加都市の首長が集う集住会議には厚労、外務、文科、総務、法務など各省の担当課長が出席。集住都市会議の首長が各省に直接要望を伝える場面が多々あり、その結果、具体的な施策が実現したケースがあった。

外国人支援団体は、外国人自身が抱える問題や課題だけでなく、その活動を通じて行政の取り組みに矛盾や限界を感じてきた。そのノウハウや感性を行政に直接伝える意味は大きいはずだ。行政は中央だけでなく地方も人事異動で担当者が変わる。事業を実施するには、地元の事情に詳しい支援団体の連携、協力が必要になる。

「がいたネット」は2016年に当時の名古屋入管の藤原浩昭局長の呼び掛けで発足した。藤原氏は外務省から出向。外務省時代には外国人課長を経験者した。同課は外国人支援の市民団体との交流があり、「がいたネット」の坂本代表とは藤原氏が外国人課長時代からの知り合いだ。

藤原氏が政府の「総合的対応策」の中に「外国人支援団体のネットワーク化」の施策があることに着目し、坂本代表に相談。2人は、それぞれ相手の立場を理解し足らざる部分を補完し合える関係を構築することが外国人支援を進めるうえで得策だと考えた。外国人支援団体の中には入管局への警戒心を持ったり、批判的な立場の団体も少なくないが、「がいたネット」は外国人の施策を進めるには政府への働きかけが必要だと判断した。

そうした考えで活動してきた「がいたネット」にとって、今回の報告会は施策を大きく進める好機となった。子ども家庭庁は発足したばかりで十分な準備ができていない。とりわけ外国人の子育てに関してはノウハウもないはずだ。事情は地方自治体も同じだ。報告会に参加した自治体関係者は「外国人を取り巻く現状を聞かせていただいて、改めて、私達行政ができることには限りがあると実感しました。NPOの皆さん方と連携することで、少しでも、皆さんが済みやすい環境をつくっていければと思っています」と感想を語っていた。

にほんごぷらっと編集長・石原 進

 

 

にほんごぷらっと編集部にほんごぷらっと編集部

投稿者プロフィール

「にほんごぷらっと」の編集部チームが更新しています。

この著者の最新の記事

関連記事

コメントは利用できません。

イベントカレンダー

3月
30
10:00 AM 凡人社オンライン日本語サロン研修... @ オンライン開催
凡人社オンライン日本語サロン研修... @ オンライン開催
3月 30 @ 10:00 AM – 11:30 AM
凡人社オンライン日本語サロン研修会 漢字授業の事前準備とテキストの使い方,ときどき模擬授業 ~『日本語学習者のための漢字634』を中心に~   [日 時] 2024年3月30日(土)10:00~11:30(オープン9:40)※日本時間   [定 員] 250名(先着順、定員になり次第締め切ります)   [対 象] 主に日本語学校の教師・関係者、日本語教育ボランティア、日本語教育に関心のある方   [参加費] 無料 ※要予約、前日(3/29)17時までに招待URLを送ります。   [講 師] 二村 年哉 先生、阿部 仁美 先生(『日本語学習者のための漢字634』著者)   [内 容] 漢字学習は、既習文法の確認や身近な例とリンクさせることで効率的、かつ学習効果や学習者の満足度もアップします。 今回のセミナーでは、スパイラル学習のしやすい『日本語学習者のための漢字634』(北海道大学出版会発行)を元に進めていきますが、どのテキストを使っても授業の基本は同じです。 手元にテキストがあるかのように画面に表示しながら模擬授業形式で進めていきますので、それを見ながら何をどのように教えたら効果的か、必要な準備は何かについて考えていきましょう。   [お問い合わせ・お申込み] 主催:凡人社 担当:凡人社/坂井 E-mail:ksakai@bonjinsha.co.jp   ※下記お申込みフォームかメールでお申し込みください。 メールでお申し込みの際はタイトルに「オンライン日本語サロン研修会(3/30)」と入れて、本文にご氏名・ご所属・ご連絡先をご記入ください。   お申込みフォーム→https://x.gd/3Tbk8
4月
6
10:30 AM 凡人社オンライン日本語サロン研修... @ オンライン開催
凡人社オンライン日本語サロン研修... @ オンライン開催
4月 6 @ 10:30 AM – 12:00 PM
凡人社オンライン日本語サロン研修会 『【動画で学ぶ】 コンビニの日本語』出版記念 ~執筆者から直接学べる 活用研修~   [日 時] 2024年4月6日(土)10:30~12:00(オープン10:10)   [定 員] 200名(先着順、定員になり次第締め切ります)   [参加費] 無料 ※要予約、前日(4/5)17 時までに招待URLを送ります。   [講 師] 遠藤 由美子 先生(学校法人 ARC日本語学校) 佐藤 恭子 先生(学校法人アジアの風 岡山外語学院) 森下 明子 先生(学校法人アジアの風 岡山外語学院)   [お問い合わせ・お申込み] 主催:アルク・凡人社 お問い合わせ・申し込み先(担当:凡人社/坂井)   E-mail:ksakai@bonjinsha.co.jp   ※下記お申込みフォームかQRコードかメールにてお申し込みください。 メールでお申し込みの際はタイトルに「オンライン日本語サロン研修会(4/6)」と入れて、本文にご氏名・ご所属・ご連絡先をご記入ください。   お申込みフォーム→https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSdq_wSLFk5_WY8GzE4fbL5jzFUOL9k1oonVEoT9JbeevhO6Fw/viewform?usp=pp_url
4月
20
2:00 PM 凡人社オンライン日本語サロン研修... @ オンライン
凡人社オンライン日本語サロン研修... @ オンライン
4月 20 @ 2:00 PM – 3:30 PM
凡人社オンライン日本語サロン研修会 Can-do を学習目標にした授業や評価のあり方がわかる! 『Can-do で教える 課題遂行型の日本語教育』刊行記念イベント   [日 時] 2024年 4月20日(土)14:00~15:30(オープン 13:40)※日本時間   [定 員] 250名(先着順、定員になり次第締め切ります)   [対 象] 日本語教師、日本語教育をこれから学ぶ方、日本語教育の動向に関心のある全ての方   [参加費] 無料 ※要予約 前日(4/19)17 時までに招待URLを送ります   [講 師] 来嶋 洋美 先生 八田 直美 先生 二瓶 知子 先生   [内 容] 『Can-do で教える 課題遂行型の日本語教育』(三修社発行)の出版記念イベントです。 日本語教育の参照枠ができ、4月からは日本語教育機関の認定等に関するもの、また、登録日本語教員の国家資格など新しい法律も施行される中、参照枠に沿った日本語教育、その授業の具体的な内容や方法については教師に委ねられているのが現状です。 参照枠やJFスタンダードに沿った日本語教育とはどんなものなのか、従来通りのやり方からどう変えていったらいいのか、今知っておきたい情報を本書の内容をご紹介しながらお話ししていきます。   [お問い合わせ・お申込み] 主催:三修社・凡人社 お問い合わせ・申し込み先(担当:凡人社/坂井)   E-mail:ksakai@bonjinsha.co.jp   ※下記お申込みフォームかQRコードかメールにてお申し込みください。 メールでお申し込みの際はタイトルに「オンライン日本語サロン研修会(4/20)」と入れて、本文にご氏名・ご所属・ご連絡先をご記入ください。   お申込みフォーム→https://x.gd/JDs6P
4月
27
1:30 PM 凡人社日本語サロン研修会 『でき... @ 東京会場凡人社麹町店
凡人社日本語サロン研修会 『でき... @ 東京会場凡人社麹町店
4月 27 @ 1:30 PM – 4:00 PM
凡人社日本語サロン研修会 『できる日本語』ブラッシュアップ講座 ~課題に向き合い、仲間とともに,より良い実践をめざしませんか~   [日時・会場・定員] 全日:13:30~16:00(受付開始 13:00) ※各会場先着順、定員になり次第締め切ります   【日付】2024/4/27 (土) 【会場】東京会場凡人社麹町店(千代田区平河町1-3-13 平河町フロントビル8階 【定員】30名   【日付】2024/5/19 (日) 【会場】名古屋会場ECC 日本語学院名古屋校(名古屋市中区金山1-16-16 金山ビル) 【定員】60名   【日付】2024/6/29 (土) 【会場】札幌会場札幌青葉鍼灸柔整専門学校(札幌市中央区南3条東4丁目1-24) 【定員】50名   【日付】2024/7/27 (土) 【会場】大阪会場TKP 大阪本町カンファレンスセンター(大阪市中央区久太郎町3-5-19) 【定員】80名   【日付】2024/9/1 (日) 【会場】福岡会場博多バスターミナル(福岡市博多区博多中央街2) 【定員】60名   [対 象] 主に日本語学校の教師・関係者、日本語教育ボランティア、日本語教育に関心のある方   [参加費] 無料 ※要予約   [講 師] 嶋田 和子 先生(『できる日本語』監修) 他『できる日本語』著者の先生方   [内 容] 『できる日本語』の輪が広がり続け、「実践について学べる場がほしい」という声がたくさん寄せられています。 そこで、現在『できる日本語』を使っていらっしゃる方々に向けて、「ブラッシュアップ講座」を開くこととしました。 当日は、具体例を挙げながらより良い実践について考えていきます。 事前にお寄せいただいた質問の中から共通の課題を取り上げ、ご一緒に解決に向けて考えていきます。 また、すでにあちらこちらで【できる日本語ネットワーク】が生まれていますが、今回の対面講座で、さらに新たな輪が生まれることをめざします。   [お問い合わせ・お申込み] 主催:アルク・凡人社 お問い合わせ・申し込み先(担当:凡人社/坂井)   E-mail:ksakai@bonjinsha.co.jp   ※下記お申込みフォームかQRコードかメールにてお申し込みください。 メールでお申し込みの際はタイトルに「日本語サロン研修会(●/●)@●●」と入れて、本文にご氏名・ご所属・ご連絡先をご記入ください。 ※●/●部分は開催日時と場所をご記入ください。   お申込みフォーム→https://x.gd/3kYVu

注目の記事

  1. 全中国選抜日本語スピーチコンテスト 12日に開催 第17回全中国選抜日本語スピーチコン…
  2. 多文化共生社会の「究極の少子化対策」とは?カギを握る外国人支援団体の活動 人口減少が急…
  3. 有識者会議が政府に技能実習制度廃止を提言 政府の有識者会議が4月10日、外国人の技能実…

Facebook

ページ上部へ戻る
多言語 Translate