中国人の日本語作文コンクール優秀作品の掲載に寄せて

      中国人の日本語作文コンクール優秀作品の掲載に寄せて

「日本語の表現力の高さにまず驚かされる。そして、言語学習を通じての日本の社会や文化についての理解の深さ、鋭さに心底感心させられます」――。これは、「中国人の日本語作文コンクールの第13回受賞作品集」(日本僑報社)に掲載された作家、石川好さんの「推薦の言葉」の一節です。まさにその通りだと感じました。

中国人の日本語作文コンクールの募集は、日本留学未経験の中国人が対象です。にもかかわらず、ここ数年は5000点前後の応募があり、しかも入賞作品はレベルの高いものばかりです。中には中国人だからこその視点も随所に盛り込まれています。どうして魅力的な作品が多いのでしょうか。

コンクールは2005年に始まりました。毎年、優秀作品が作品集として出版されています。昨年までに13冊を数えます。コンクールの作品の募集、審査、作品集に出版などを中心になって進めているのは、中国湖南省出身の段躍中さんです。日本に留学後、「日本僑報社」(東京都豊島区)や日中交流研究所(同)を設立し、日中関係の書籍などの出版活動を行う傍ら、日中の架け橋となってコンクールに取り組んでいます。

その段さんを支える日本語教師ら日本人も、重要な役割を担っています。膨大な作品を審査する審査委員です。彼らの協力なしにはコンクールは続けられません。また、中国人の若者らに日本語を教える日本語教師の存在も重要です。熱意ある先生の指導があってこそ、優秀な作品が誕生するわけです。北京の日本大使館の支援、さらには理解ある団体や企業の経済的なバックアップもコンクールを支えています。

そして何より作文をつづる中国人の若者たち。彼、彼女らこそが主役です。「反日的な教育」が行われている中にあって、日本語が大好きで日本語の作文を書いている若者たちは、まぎれもなく日本ファンです。日中関係が政治的にぎくしゃくしていても、日本語を通じて分かり合える人たちです。

過去のコンクールでは、「中国人がいつも大声で喋るのはなんでなのか?」「中国人の心を動かせた『日本力』」「訪日中国人が『爆買い』以外にできること」などが作文のテーマに選ばれました。そこには私たち日本人が知らなかった「事実」が隠されています。例えば「中国人の大声」の作文には、「大声で主張するのは自信と誠実さを示す美徳だと評価され学校教育で奨励されている」「発音が複雑な中国語は大声で喋ることが不可欠」などと書かれています。そうした様々な「中国側の事情」が分かれば、日本人と中国人の距離がぐっと近くなるはずです。

「にほんごぷらっと」が中国人の日本語作文コンクールの作品を掲載するのは、私たち自身が数々の作文を読んで「作文が多様な見方や考えを知るための一助になる」と考えたからです。一人でも多くに方に作文を読んでいただき、感じたことを感想文として寄せていただければ幸いです。外国人の急増で日本の中に「多文化社会」が広がっています。作文コンクールのページが、「多様な社会」への理解を深める場になればと思います。

                   「にほんごぷらっと」代表世話人・石原 進

 

中国人の日本語作文コンクール

※本文は、第13回中国人の日本語作文コンクール受賞作品集「日本人に伝えたい中国の新しい魅力」(段躍中編、日本僑報社、2017年)より。文中の表現は基本的に原文のまま記載しています。なお、作文は日本僑報社の許可を得て掲載しています。
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