留学生は町に定住するのか――卒業生の進路と町の想い――(第7回)

留学生は町に定住するのか――卒業生の進路と町の想い――(第7回)


[在学中の留学生と卒業生に話を聞いた]

日本初の公立日本語学校、東川町立東川日本語学校に通うベトナム出身のグエンさんは3月に卒業し東京の大学に進学する。昨年卒業した台湾出身の何さんは、地元の観光会社に正社員として働いている。町が長期的に描く日本語コミュニケーション能力の高い人材の定着や、留学生の帰国後も町と連携していく国際ネットワークづくりについて、東川日本語学校の留学生や卒業生に聞いた。


[1年コースに在学中のグエン・タン・ファットさん(ベトナム・ホーチミン出身)]

グエンさんはベトナム・ホーチミン出身。1年コースに在籍中の留学生だ。流暢な日本語を操るグエンさんに、進路と将来についてうかがった。

――なぜ北海道にある日本語学校に入学したのですか。

わたしはベトナムの大学でITの勉強をしていましたが、ホーチミンの都会の環境に合わなくて、自然豊かな田舎で学びたいと思っていました。以前から興味のあった日本への留学をしようと大学を中退して留学をしました。雪が見たかったのも北海道の日本語学校に入学した理由です。

――東川日本語学校での生活はいかがですか。

とても勉強に集中できます。毎日、自然に触れながら、日本語を学んだり、文化活動に取り組んできました。町のコンビニエンスストアでアルバイトもできたので、働くと生活の日本語が身に付きました。

(東川日本語学校では校長との個別面談で認められた場合にのみ、アルバイトをすることができる。成績をさげないことが条件となる)

――卒業後は進学をされると伺いました。

はい。4月からは東京の大学に入学して国際ビジネスを学びます。日本語のほかに英語も勉強したいです。

――将来は東川町や北海道の周辺地域に住むことも考えていますか。

住みたいです。ちょっと寒いけど、とても気に入りました。でも、せっかくの日本だから東京にも住みたい。将来は日本とベトナムの間でビジネスをやりたいです。東川町とも何か一緒にできればと思っています。


[6か月コースを卒業した何昭葦(カ・ショウイ)さん(台湾出身)]

何さんは台湾出身。大学院卒業後に日本語学校に留学した。片言の日本語の印象ではあるが、日本語能力検定試験(JLPT)N2に在学中に合格し、卒業後は地元企業で働く。何さんに現在の仕事や将来についてうかがった。

――なぜ北海道にある日本語学校に入学したのですか。

山や自然が大好きで、日本や日本語も好きだったので北海道に来たいと思っていました。台湾で大学院を卒業してから留学を決定しました。

――卒業後に就職されたそうですが、お仕事について教えてください。

旭川市で開かれた留学生向けの就活合同説明会に参加しました。何社か応募をして面接に行きました。今働いているロープウェイの運営会社から内定をもらい、就職することにしました。中国語や英語、日本語でロープウェイに乗車するお客様を案内しています。

――なぜ今の仕事をやりたいと思ったのですか。

東川町での生活を通して北海道が好きになりました。働きながら山や自然を楽しめるのでこの仕事をやりたいと思いました。とても楽しい仕事です。

――仕事をするときに大変だったことは何ですか。

日本人はみんな早口だから同僚の日本語がわからないときがあります。電話対応もとても難しいです。それから、領収書をくださいと言われると、日本人の名前の漢字がわからなくて書けないことがあります。それが大変です。

――将来も長く北海道に住みたいですか。

はい。将来は北海道で自然ガイドになりたいです。長く住みたいと思っています。

東川日本語学校の在校生、卒業生へのインタビューを通じてみえてきたのは、必ずしも町が描くような外国人の定住には結びついていないという実態である。しかし、この学校で学ぶ留学生は、この東川町が好きになり、留学後も町や地域のファンでいつづけるだろう。「無理に外国人に定住していただくのではなく、彼らが残りたいと思っていただけるように努力をしていく」という町の姿勢は、インタビューをしたお二人に明確に伝わっていると感じた。

第8回:日本語学校を起点とした地方創生は成功するのか につづく
特集ページトップに戻る

特集:日本語教育と地方創生

人口減少が急速に進む地方都市において、日本語学校を地域の活性化に結びつけている町があるのをご存じだろうか。北海道旭川空港から東に車で15分の東川町だ。2015年10月、日本初の公立日本語学校を開校し、町をあげて外国人留学生を歓迎している。「偽装留学生」や「デカセギ留学生」などと揶揄されることが多い昨今、地方の公設の日本語学校がどのように留学生と付き合っているのか。雪深い町立東川日本語学校を訪ね、その実情を通して、日本語教育と地方創生の可能性について考えてみた。

阿久津 大輔(あくつ・だいすけ)「にほんごぷらっと」編集長

投稿者プロフィール

日本語教育情報プラットフォーム設立時より事務局を担当し、フェイスブックページ「日本語教育情報プラットフォーム」の管理人として情報を発信。2017年9月よりネットメディア、言葉が結ぶ人と社会「にほんごぷらっと」編集長。専門分野は外国人人材のキャリアプランニング。

この著者の最新の記事

関連記事

コメントは利用できません。

イベントカレンダー

6月
28
終日 第34回小出記念 日本語教育学会 年... @ オンライン
第34回小出記念 日本語教育学会 年... @ オンライン
6月 28 終日
開催日:2025年6月28日(土) ・場所:オンライン(Zoom) ・予定(日本時間): 9:40-10:10 会員総会 10:20-10:30 開会・プログラム説明 10:30-12:20 講演   「対話を通した学習者オートノミーおよびウェルビーイングの促進」 講師:加藤聡子氏(神田外語大学 学習者オートノミー教育研究所 特任准教授) 13:20-16:50 口頭発表 16:55-17:10 総括 ・参加費:会員無料・非会員2000円(発表者以外の参加申し込み方法は5月下旬にお知らせします)
7月
5
終日 日本語ジェンダー学会 第25回年次... @ 実践女子大学(渋谷キャンパス)
日本語ジェンダー学会 第25回年次... @ 実践女子大学(渋谷キャンパス)
7月 5 終日
第25回年次大会 研究発表募集要項 2025年7月5日(土)に実践女子大学(渋谷キャンパス)にて開催される、第25回年次大会での研究発表を募集します。以下の要領でお申込みください。  発表資格: 研究代表者=当日の発表者は、応募および発表時点で当学会の会員である必要があります。会員登録は、当学会事務局で随時受け付けておりますので、応募時までに会員登録をお済ませください。 会員登録はこちら新しいウィンドウで開きますからお願いします。 なお、研究代表者以外の連名者は、会員・非会員は問いませんが、採択された場合、後日の参加申込みは連名者も含み全員にしていただきます。 発表内容: 言語(特に日本語)・言語による作品・言説・発話・言語使用状況・言語使用環境等をジェンダーの観点から論じた内容を含む未発表のもの(発表内容は、大会テーマに関わるもの or 関わらないもの、どちらでもよい) → 大会テーマ「メディア・ことば・ジェンダー」 発表言語と時間: 日本語で30分(口頭発表20分+質疑応答10分)以内  申し込み期間: 2025年3月3日(月)–  5月7日(水)24:00 (JST) 申し込み方法: 当学会のウェブサイト上の「研究発表申込み書新しいウィンドウで開きます」をダウンロードして、研究者名、発表タイトル、発表概要(1000-1500文字)などを記入してアップロードする。 → 3月3日(月)以後に、こちら新しいウィンドウで開きますにアップロードしてください。 可否通知: 審査後5月16日(金)までに研究発表担当の実行委員からご本人に結果を通知します。場合によっては、一定の条件や修正への要求が提示される場合があります。 予稿集原稿: 採択された方は、6月6日(金)24:00までに予稿集に掲載する発表要旨を日本語で執筆してください。場合によっては、修正や加筆をお願いする場合があります。執筆要項は可否通知の際にお知らせします。 ★二重投稿や剽窃などの不適切な原稿に関しては厳しく対処致しますので、研究者としての良識をもってご執筆ください。 以上.
7月
12
終日 言語科学会 第26回年次国際大会(J... @ 愛媛大学 城北キャンパス
言語科学会 第26回年次国際大会(J... @ 愛媛大学 城北キャンパス
7月 12 – 7月 13 終日
言語科学会第 26 回年次国際大会(JSLS2025)開催・研究発表募集のご案内 言語科学会 (JSLS: The Japanese Society for Language Sciences) では以下の要領で、 第 26回年次国際大会 (JSLS2025) を開催いたします。 大会日程: 2025 年 7 月 12 日(土)~ 13 日(日) 開催場所: 愛媛大学 城北キャンパス(愛媛県松山市文京町 3) 大会ウェブサイト: http://www.jslsconference.jpn.org/jsls2025/ 基調講演: Jae DiBello Takeuchi 氏 (Indiana University Bloomington)
8月
7
10:00 AM 令和7年度日本語学校教育研究大会 @ 国立オリンピック記念青少年総合センター
令和7年度日本語学校教育研究大会 @ 国立オリンピック記念青少年総合センター
8月 7 @ 10:00 AM – 8月 8 @ 4:30 PM
日本語学校教育研究大会では、各日本語教育機関における実践・事例の報告の機会として、発表の場を設けています。 意見・アイディア交換の場としてぜひご活用ください。 皆様からのご応募お待ちしております。

注目の記事

  1. 「寄り添い、ともに一歩を」をモットーに活動する行政書士法人IPPO 顧客のハードル…
  2. 日本語教育機関認定法が成立 施行は来年4月 認定日本語教育機関、国家資格の登録日本語教員が誕…
  3. 労災防止に「やさしい日本語」を 日本語議連の里見事務局長が国会で議論 日本語教育推進議員連盟事…

Facebook

ページ上部へ戻る
多言語 Translate