「やさしい日本語」で外国人の労災防止を 厚労省が「手引き」の改訂版を作成

「やさしい日本語」で外国人の労災防止を 厚労省が「手引き」の改訂版を作成

厚生労働省は、昨年度に刊行した「外国人労働者安全衛生管理の手引き」の改訂版を作成しました。改訂版では、急増している外国人労働者の労働災害の防止策がまとめられ、この中には今回も「やさしい日本語」の活用が提案されています。また、2023年度から5年間の労働災害の防止計画に初めて「外国人労働者の防止対策」が盛り込まれました。外国人技能実習制度の廃止が議論される中、「やさしい日本語」が労災防止にどのように活用されるか注目されそうです。

 「手引き」は、東京労働基準協会連合会への委託事業で作成され、労働安全コンサルタントの田中通洋氏を座長に9人の有識者検討委員が「安全衛生」の在り方を提言しました。改訂版は約200ページで、外国人労働者を雇用する際の課題として、コミュニケーション不足と技能の未熟練を指摘し、その解決策を提供しています。

「手引き」作成の背景には、 外国人労働者の労災事故が急増していることが挙げられます。同省によると、2021年の外国人労働者の労働災害は、休業4日以上の死傷者が5715人で、前年度より1000人以上増えました。この数は、2016年の2211人から年々増加しています。一方、外国人労働者は172万人でこの5年間で約45万人増えています。外国人労働者を雇用する事業所も28万超と過去最高を更新。中小零細の事業所が外国人を雇用するケースが多く、それが労災増加につながっているようです。

労働者1000人当たりの死傷者数を示す「年千人率」は、2021年の外国人労働者が3.3で、全労働者の2.7を0.6ポイント上回っています。外国人労働者の労災に遭う比率が日本人より高いということです。

死傷者を業種別にみると、製造業が3007人(53%)、建設業が934人(16%)とこの2業種で約7割を占めました。製造業の労災の比率は、全労働者で19%ですから、外国人労働者の製造業の労災の多さが際立っていることがわかります。死傷の発生状況の分析では、「はさまれ・巻き込まれ」1162人▽転倒583人▽動作の反動・無理な動作517人▽墜落・転落400人―—など。

「手引き」は計9章で構成され、「安全管理とコミュニケーション」の2章で外国人労働者を雇用する際の課題を挙げ、「コミュニケーション不足」と「技能の未熟練」を指摘しています。そのうえで「コミュニケーションがうまく図れない要因は、外国人労働者が日本語に未習熟であることにとどまらず、むしろ雇用する側に日本語が未習熟な外国人労働へのアプローチの仕方、文化の違いに対する理解が不足していること、未熟練な外国人労働者に対する教育手法・体制が未整備であることも一因となっている」と分析しました。

「手引き」は「安全衛生教育」をはじめ、「健康管理」や「作業管理」「就業制限」などについても詳述していますが、「安全衛生管理とコミュニケーション」の2章では、「言葉の壁」を超えるため「やさしい日本語」の活用を強く促しています。この中で「はっきり言う」「最後まで言う」「短く言う」の「ハ・サ・ミの法則」をコラムの中で取り上げています。

「やさしい日本語」は1995年の阪神・淡路大震災をきっかけに注目されるようになりました。震災による外国人の死亡率が全人口比を大きく上回り、その原因として指摘されたのが外国人への情報伝達が十分にできかなかったこと。災害時には日本語以外の情報がほとんど存在せず、避難や救援物資の支給、医療などの情報が外国人に伝わりませんでした。その結果、被害の拡大や大きな混乱につながったと分析されました。

そこで外国人支援団体などが迅速に情報を伝達する手段として「やさしい日本語」の活用を呼び掛けるようになりましたが、「手引き」では、「防災」で使われている「やさしい日本語」を「労災」にも活用すべきだと提案しているわけです。

厚労省は5年に一度労働災害防止計画を見直していますが、2023年からの5カ年計画では「外国人労働者に対し、安全衛生教育マニュアルを活用するなど安全衛生教育の実施や健康管理に取り組む」と記載しました。災害母子計画が外国人労働者に触れたのは初めてです。これまで見過ごされてきましたが、外国人労働者の労災防止は、多文化共生の社会づくりにも極めて重要な案件です。厚労省は労働現場に応じた具体的な防止策をとるよう呼び掛ける方針です。

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一般財団法人日本語教育振興協会は標記研修を開催いたします。 昨年度に引き続き、より質の高い研修成果を求めて、研修の核となる2日間の集合研修を東京会場、大阪会場、福岡会場で全て対面にて実施することにいたしました。特に、東京会場は国立オリンピック記念青少年総合センターに宿泊して研修を行うので、研修に参加した仲間や講師との絆がより一層深まることを期待しております。もちろん、どちらの会場での研修も日本全国からご参加いただけます。 加えて、オンデマンドによる事前学習を多く取り入れるなど、集合研修での成果をより高めるための工夫がされております。さらに、各参加者が自校の教育の質向上のための取り組みを発表する機会を作り、より質の高いフィードバックが得られるように集合研修後のフォローアップも強化するなど、より密度の濃い研修プログラムとなっております。 受講希望者におかれましては、7月28日(月)までに,所定の応募方法にて,ご応募くださるようお 願いいたします。 また、当協会の主任教員研修は告示校を対象としているため、たとえ常勤3年以上の経歴を有していても認定校・告示校の教員(認定日本語教育機関の審査申請済みの教育機関(新規開校含む)に所属する主任教員を含む)でない限り研修の対象とはなりません。 《令和7年度 主任教員研修の特徴》 ︎「日本語教育の適正かつ確実な実施を図るための日本語教育機関の認定等に関する法律」の成立により、ますます注目が集まる「日本語教育の参照枠」や「日本語教師の人材育成」について理解を深める事ができる ︎ 現場の“今”を意識した研修プログラムにより、過去の研修受講者が再度受講しても満足できる研修である ︎ グループワークでは経験別や所属学校の属性別のグループを構成することにより、多様な受講者の満足度を保証する 《令和7年度 主任教員研修のねらい》 ◆「日本語教育の参照枠」に基づく学習成果の評価と手法を理解し、実践に活かす力を養う ◆ 人材育成の目的や考え方を知り、自校が求める教員像に近づけるための育成方法を考え実践する ◆ 今の悩みを共有できる仲間や、相談できる先輩とのネットワークを獲得する 《研修について》 ◆研修期間  2025年8月29日(金)~2026年1月8日(木)まで       ※7月29日~8月25日まで事前課題への取り組みがあります       ※研修の詳細な日程については当協会のホームページよりご確認ください ◆開催場所 オンライン(Zoom)+下記いずれかの会場       【東京会場】国立オリンピック記念青少年総合センター       【大阪会場】関西研修センター(KKC)       【福岡会場】リファレンス駅東ビル貸会議室 ◆定員 108名(会場定員:東京会場54名/大阪会場36名/福岡会場18名) ◆参加資格 以下の(1)〜(3)のいずれかの条件を満たす方  (1) 認定校・告示校の主任教員  (2) 認定校・告示校で 3 年以上の常勤教員経験を有する主任教員予定者  (3) 認定申請済機関の主任教員 ◆参加要件 ・研修の全日程に参加できる方 ※参加決定後の会場変更は不可 ・オンライン集合研修において、静かで研修に集中できる環境から参加できる方 ・インターネット環境が整っており、PC で研修に参加できる方  ※スマホやタブレットからの参加は不可 ・自校にて実際に課題改善を行い、その取り組みを発表し、研修レポートとして提出できる方 ◆受講料 30,000円(消費税込)      ※東京会場参加者については、別途宿泊費及び食費等(20,000 円程度)が発生します。       詳細な費用については、参加決定者に対して別途お知らせいたします。      ※大阪・福岡会場参加者については、交流会参加費が発生します。       詳細な費用については、参加決定者に別途お知らせいたします。 ◆詳細・申込方法 https://www.nisshinkyo.org/news/detail.php?id=3370&f=news          ★上記サイトに掲載されている開催案内をよくお読みいただきますようお願いいたします ◆応募締切 2025年7月28日(月) 〔問い合わせ先〕 一般財団法人日本語教育振興協会 主任教員研修担当 Eメール:shuninken@gmail.com TEL:03-6380-6557

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