愛伝舎創立20周年シンポ(その四)<外国ルーツの若者が未来を語る>

愛伝舎創立20周年シンポ(その四)<外国ルーツの若者が未来を語る>

念シンポジウムのメーンイベントは「外国ルーツの若者とともに考える 私たちの未来」と題したパネルディスカッション。次の7人がパネリストとして登壇した。

  • 宗沙ルイスさん(本田技研工業株式会社鈴鹿製作所社員)
  • 大山ジェシカさん(三重県立久居高等学校教諭)
  • 原丹野カウアンネさん(慶應義塾大学学生)
  • 林マツミさん(四日市市社会福祉協議会職員)
  • 佐々木聖子さん(公益財団法人入管協会執行理事・初代入管庁長官)
  • 関口めぐみさん(三井物産株式会社社員)
  • 粂内直美さん(三重県立飯野高等学校教諭)

登壇者は外国にルーツを持つ若者や、教育・企業・行政の現場で多文化共生を実践してきた専門家たちだ。会場では、社会で活躍する7人が自らの体験を語り、互いを個人として尊重し合える未来像を探った。

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「きっかけ・環境・本人の意思」 ― 宗沙ルイスさん

最初に口火を切ったのは、ペルー出身で現在は本田技研工業でエンジニアとして働く宗沙ルイスさん(39)。

経済破綻に揺れるペルーを離れ、両親の出稼ぎを追う形で小学校低学年の頃に三重県伊賀市へ移り住んだ。

当時は外国人児童の受け入れ体制が整っておらず、全校生徒700〜800人の中で外国人はわずか数人。帰国前提でペルーの通信教育も続けていたが、「日本で生きていく」と決意した小学4年生の頃から、地元に溶け込もうと努力した。

地域住民のサポートで少年団やそろばん教室に通えるようになり、中学では学習支援団体の第一期生として高校受験の準備を進めた経験を語る。「外国人が活躍するためには、きっかけ・環境・本人の意思の3つが必要」と強調し、現在は学習支援ボランティアとして地域に恩返ししている。

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「教育は世界を変える武器」 ― 大山ジェシカさん

10歳で来日したブラジル出身の大山ジェシカさんは、リーマンショックを機にブラジル人学校から公立中学に転校。日本語が分からず孤立した時期を振り返り、「あの経験が今の自分を作った」と語る。

高校は外国人生徒が多い飯野高校に進学。大学進学や海外留学、商社での海外営業を経て、コロナ禍を機に教員の道へ進んだ。「教育は世界を変えるための最も強力な武器」という信念を胸に、今は英語教諭として生徒たちと向き合っている。

「どう違うかではなく、どう一緒に生きるかを考えてほしい」と呼びかけ、「自分を理解し、大切にすることが、他者を受け入れる第一歩になる」と力強く語った。

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母語で安心できる居場所を ― 林マツミさん

5歳で来日した林マツミさんは、当初言葉が分からず孤立感を抱えたが、地域の支えで学校生活になじんだ。

大学時代、通訳アルバイトを経験したことで「人の役に立つ喜び」を知り、現在は四日市市社会福祉協議会で相談員として働いている。

「日本語・ポルトガル語・スペイン語の3言語を使いながら、生活困窮や就労、ひきこもりの相談に対応しています」と説明。「母語で安心して相談できる場を作ることが大切。支援を求めることは恥ずかしいことではない」と訴えた。

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行動力が未来を切り開く ― 原丹野カウアンネさん

慶應義塾大学2年生の原丹野カウアンネさんは、4歳で来日し、日本語を学びながら公立学校とブラジル人学校を行き来した。幼い頃から「日本語を学び続けること」を心がけ、趣味を通じて日本語力を磨いたという。

ハンガリーへの医学部留学を経て、現在は脳科学とメンタルヘルスの研究を志す。将来はウェアラブル技術を活用したメンタルケアの研究を進め、日伯両国をつなぐ架け橋になりたいと語った。

「環境に受け身でなく、自分から行動する勇気が未来を拓く」と若い世代へメッセージを送った。

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教育現場から見た変化 ― 粂内直美さん

三重県立飯野高校で教鞭を執る粂内直美さんは、同校の取り組みを紹介した。

飯野高校では「外国人」という言葉を使わず、「CLD生徒(文化・言語的に多様な背景を持つ生徒)」と呼んでいる。今年度は16カ国から多様な生徒が在籍し、互いに刺激し合う学習環境が形成されている。

また、F1通訳ボランティアや地域での学習支援活動など、社会とつながるプログラムを積極的に展開。「卒業生たちが社会でリーダーシップを発揮してくれることを願っています」と語った。

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企業と行政の視点 ― 関口めぐみさん・佐々木聖子さん

三井物産の関口めぐみさんは、2005年から続く外国人支援の歩みを紹介した。リーマンショック以降は奨学金制度を整備し、キャリア支援や専門学校見学会も実施。

「学ぶ機会を届けることが、未来を切り開く力になる」と力を込めた。

初代入管庁長官で入管協会理事の佐々木聖子さんは、制度面から現状を分析。「制度が整ってきた今こそ、社会全体が共生を当たり前と受け止めることが重要」と呼びかけた。

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共生社会の課題と提案

議論では、外国人への固定観念や、ネット上で見られる排斥感情も取り上げられた。「『日本語が上手ですね』という言葉が、悪意なくても毎日のように繰り返されると疲れてしまう」との声に、会場もうなずいた。

解決策として、「日本語力を評価するのではなく、趣味や夢を尋ねるなど個人として関心を寄せる対話が大切」という意見が共有された。また、地域清掃やイベントへの積極参加が、誤解を解く有効な手段になるとの事例も紹介された。

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「共生」を超えて

「国籍や人種を意識しない子どもたちの姿勢に、大人が学ぶべきだ」。この日、多くの登壇者がそう語った。

外国にルーツを持つ子どもたちは、支援と理解があれば、自ら学び、社会で輝く存在になる。その実例が、壇上の7人だった。

「外国人」という枠を超え、誰もが自然に暮らせる社会へ――。愛伝舎の記念シンポは、そんな未来への大きな一歩となった。

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7月
20
10:00 AM 【!!追加募集!!】NPO法人日本... @ オンライン (オンライン上での集合研修 および 動画視聴による個人学習) ・「就労者の異文化適応」「教材研究」は対面(東京・大阪)で実施。 オンラインでの参加も選択可能。
【!!追加募集!!】NPO法人日本... @ オンライン (オンライン上での集合研修 および 動画視聴による個人学習) ・「就労者の異文化適応」「教材研究」は対面(東京・大阪)で実施。 オンラインでの参加も選択可能。
7月 20 2025 @ 10:00 AM – 2月 8 2026 @ 2:45 PM
【!!追加募集!!】NPO法人日本語教育研究所 主催文部科学省委託 令和7年度現職日本語教師研修プログラム普及事業 就労者に対する日本語教師【初任】研修 就労者に対する日本語教師養成 –日本語教育研究所の多様な研修実績及び人材を活かしたビジネス日本語教育/指導- ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ この研修は、これから新たに就労者に日本語を教えたいと考えている方を主な対象としています。スキルアップにぜひお役立てください。 再受講をご検討の方へ 本研修はこれまでに弊所の研修をご受講された方も、再度ご参加いただけます。 実際に現場に出て、もう一度確認したいことなども出てきているのではないでしょうか。 さらに実践的な指導力を高める良い機会となりますので、ぜひご検討ください。 ─────────────────── ■期間 2025年7月20日(日) ~ 2026年2月8日(日) *日程等の詳細は、募集要項のリンク先からご覧ください。 ■対象 日本語教育機関認定法に基づく「登録日本語教員」を対象としますが、本法の経過措置期間内(令和10年度まで)は、令和6年度までに下記を修了した方も対象とします。 1)日本語教師として下記のいずれかの要件を満たす方  ①大学/大学院で日本語教育に関する教育課程を修了し、大学/大学院を卒業/修了した方  ②大学/大学院で日本語教育に関する科目の単位を26単位以上修得し、大学/大学院を卒業/修了した方  ③公益財団法人日本国際教育支援協会「日本語教育能力検定試験」に合格した方  ④学士の学位を有し、日本語教師養成講座 420 単位時間以上を修了した方 2)原則として、就労者への日本語教育歴が0~3年未満の方 ■定員 100名 ■受講料 20,000円(税込) ※教材費込み ■申込方法 以下のリンクからお申し込みください。 https://forms.gle/JWtnJ6WzzCNQvQx88 ■申込締切 2025年6月30日(月)【募集期間延長しました!!】 ■募集要項 https://docs.google.com/document/d/1uHn1k6zdRIgcQ2-lK5Uyr1Qa5vlwzXCFvKEUw3UjJVU/edit?usp=sharing ■お問い合わせ NPO法人 日本語教育研究所(研修事務局) nikken.kenshu@gmail.com
8月
1
12:00 AM 「実践のプロセスを協働でふり返る... @ 新潟ユニゾンプラザ
「実践のプロセスを協働でふり返る... @ 新潟ユニゾンプラザ
8月 1 @ 12:00 AM – 10月 4 @ 11:59 PM
介護・医療現場や日本語教育などにおける実践について協働でふり返ります。 省察や学びに興味がある仲間と語り、聴き、関わる中で学び合ってみませんか。 皆さま 平素お世話になっております。 「学びを培う教師コミュニティ研究会」からのお知らせです。 この度、ラウンドテーブル2025秋~新潟~「実践のプロセスを協働でふり返る-語る・聴くから省察へ」を開催することになりました。 https://manabireflection.com/archives/activities-japan/%e6%96%b0%e6%bd%9f%e3%83% a9%e3%82%a6%e3%83%b3%e3%83%89%e3%83%86%e3%83%bc%e3%83%96%e3%83%ab2025%e7%a7%8b%e 3%81%ae%e3%81%94%e6%a1%88%e5%86%85 ◆コーディネーター 池田広子(目白大学) ◆ファシリテーター 秋田久美子(大起日本語学校) 上田和子(武庫川女子大学) 宇津木奈美子(獨協大学) 小西達也(早稲田大学) 佐野香織(武蔵野大学) 冨樫里真(青山国際教育学院) ◆日時:2025年10月4日(土)9:30~16:30 ※昼食休憩があります。 ◆場所:新潟ユニゾンプラザ 4階特別会議室 https://www.unisonplaza.jp/access/ (JR越後線上所駅 徒歩10分) ◆参加費:無料 ◆申し込み締め切り:9月22日(月) ◆申し込みhttps://docs.google.com/forms/d/1PjUaqHxz6vCaRlw86qx5vwubQkmWm6bu4a_S84 MMVIg/viewform?edit_requested=true 皆さまのご参加を心よりお待ちしております。 学びを培う教師コミュニティ研究会事務局
8月
29
12:00 AM 令和7年度 文部科学省委託 主任教... @ オンライン+いずれかの対面研修会場(東京会場:国立オリンピック記念青少年総合センター/大阪会場:関西研修センター(KKC)/福岡会場:リファレンス駅東ビル貸会議室)
令和7年度 文部科学省委託 主任教... @ オンライン+いずれかの対面研修会場(東京会場:国立オリンピック記念青少年総合センター/大阪会場:関西研修センター(KKC)/福岡会場:リファレンス駅東ビル貸会議室)
8月 29 2025 @ 12:00 AM – 1月 8 2026 @ 12:00 AM
令和7年度 文部科学省委託 主任教員研修 @ オンライン+いずれかの対面研修会場(東京会場:国立オリンピック記念青少年総合センター/大阪会場:関西研修センター(KKC)/福岡会場:リファレンス駅東ビル貸会議室) | 東京都 | 日本
一般財団法人日本語教育振興協会は標記研修を開催いたします。 昨年度に引き続き、より質の高い研修成果を求めて、研修の核となる2日間の集合研修を東京会場、大阪会場、福岡会場で全て対面にて実施することにいたしました。特に、東京会場は国立オリンピック記念青少年総合センターに宿泊して研修を行うので、研修に参加した仲間や講師との絆がより一層深まることを期待しております。もちろん、どちらの会場での研修も日本全国からご参加いただけます。 加えて、オンデマンドによる事前学習を多く取り入れるなど、集合研修での成果をより高めるための工夫がされております。さらに、各参加者が自校の教育の質向上のための取り組みを発表する機会を作り、より質の高いフィードバックが得られるように集合研修後のフォローアップも強化するなど、より密度の濃い研修プログラムとなっております。 受講希望者におかれましては、7月28日(月)までに,所定の応募方法にて,ご応募くださるようお 願いいたします。 また、当協会の主任教員研修は告示校を対象としているため、たとえ常勤3年以上の経歴を有していても認定校・告示校の教員(認定日本語教育機関の審査申請済みの教育機関(新規開校含む)に所属する主任教員を含む)でない限り研修の対象とはなりません。 《令和7年度 主任教員研修の特徴》 ︎「日本語教育の適正かつ確実な実施を図るための日本語教育機関の認定等に関する法律」の成立により、ますます注目が集まる「日本語教育の参照枠」や「日本語教師の人材育成」について理解を深める事ができる ︎ 現場の“今”を意識した研修プログラムにより、過去の研修受講者が再度受講しても満足できる研修である ︎ グループワークでは経験別や所属学校の属性別のグループを構成することにより、多様な受講者の満足度を保証する 《令和7年度 主任教員研修のねらい》 ◆「日本語教育の参照枠」に基づく学習成果の評価と手法を理解し、実践に活かす力を養う ◆ 人材育成の目的や考え方を知り、自校が求める教員像に近づけるための育成方法を考え実践する ◆ 今の悩みを共有できる仲間や、相談できる先輩とのネットワークを獲得する 《研修について》 ◆研修期間  2025年8月29日(金)~2026年1月8日(木)まで       ※7月29日~8月25日まで事前課題への取り組みがあります       ※研修の詳細な日程については当協会のホームページよりご確認ください ◆開催場所 オンライン(Zoom)+下記いずれかの会場       【東京会場】国立オリンピック記念青少年総合センター       【大阪会場】関西研修センター(KKC)       【福岡会場】リファレンス駅東ビル貸会議室 ◆定員 108名(会場定員:東京会場54名/大阪会場36名/福岡会場18名) ◆参加資格 以下の(1)〜(3)のいずれかの条件を満たす方  (1) 認定校・告示校の主任教員  (2) 認定校・告示校で 3 年以上の常勤教員経験を有する主任教員予定者  (3) 認定申請済機関の主任教員 ◆参加要件 ・研修の全日程に参加できる方 ※参加決定後の会場変更は不可 ・オンライン集合研修において、静かで研修に集中できる環境から参加できる方 ・インターネット環境が整っており、PC で研修に参加できる方  ※スマホやタブレットからの参加は不可 ・自校にて実際に課題改善を行い、その取り組みを発表し、研修レポートとして提出できる方 ◆受講料 30,000円(消費税込)      ※東京会場参加者については、別途宿泊費及び食費等(20,000 円程度)が発生します。       詳細な費用については、参加決定者に対して別途お知らせいたします。      ※大阪・福岡会場参加者については、交流会参加費が発生します。       詳細な費用については、参加決定者に別途お知らせいたします。 ◆詳細・申込方法 https://www.nisshinkyo.org/news/detail.php?id=3370&f=news          ★上記サイトに掲載されている開催案内をよくお読みいただきますようお願いいたします ◆応募締切 2025年7月28日(月) 〔問い合わせ先〕 一般財団法人日本語教育振興協会 主任教員研修担当 Eメール:shuninken@gmail.com TEL:03-6380-6557
9月
13
11:00 AM 日本語教育の夏フェス2025 @ 東京外国語大学 府中キャンパス
日本語教育の夏フェス2025 @ 東京外国語大学 府中キャンパス
9月 13 @ 11:00 AM – 4:30 PM
「日本語教育の夏フェス2025」  ◆開催日:2025年9月13日(土)  ◆会 場:東京外国語大学 府中キャンパス(東京都府中市)  ◆参加費:3,000円(税込み、クレジットカード決済可)  ◆スケジュール   ●11:00 ~ 開場、書籍販売、協賛企業によるプレゼンテーション   ●13:00~14:30     講演・ワークショップ 選べる4つのテーマ(定員各50名)      ・日本語教師の新たな引き出し:「アドバイジング」の視点で支える学び     ― 対話で育む自律性と学習者の気づき ―      (木下 直子 氏)    ・思考力を育てるために授業でできること ― プロジェクトワークを通して―      (後藤 倫子 氏)    ・日本語学習者のメンタルヘルスにどう向き合うか      ― 日本語教育者としてのアプローチと “Dos and Don’ts”(やるべきこととやってはいけないこと)―      (白井 優 氏)    ・学習者との共通理解ポイントを探ろう! ― 猫ダルマメタファーによるレポート指導体験 ―     (藤浦 五月 氏)   ●15:00~16:30 対談型講演(定員200名)     ・日本語教育×コーチング ― 伴走/伴走者としての教師を目指して ―       (横溝 紳一郎 氏 × 吉田 有美 氏)    ◆協賛企業   アスク出版 アルク カシオ計算機 くろしお出版 国書刊行会 三修社 スリーエーネットワーク    ジャパンタイムズ出版 Jリサーチ出版 東京外国語大学出版会 ひつじ書房 凡人社   協賛企業によるプレゼンテーション(希望制)の情報は順次ウェブサイトにて更新します。 ◆お申し込み ことばと学びでつながるなかまの会ホームページ https://komatsunajp.wixsite.com/mysitekomatsuna 主催者のカテゴリ

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