「秩序ある共生」に盛り込まれた「排除の論理」
- 2026/3/4
- 時代のことば
- やさしい日本語, 外国人との秩序ある共生社会推進担当大臣, 秩序ある共生, 高市政権
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「秩序ある共生」に盛り込まれた「排除の論理」
政府は1月23日、「外国人の受入れ・秩序ある共生のための総合的対応策」を閣議決定した。これまでの「総合的対応策」が、どちらかといえば「支援」や「共生」というソフト面に力点を置いていたのに対し、今回の決定は明らかにフェーズが変わったように感じる。
その象徴が「秩序ある共生」という言葉だ。高市政権が新設した「外国人との秩序ある共生社会推進担当大臣」が主導したこの対応策には、外国人の「法やルールを逸脱する行為」や「制度の不適正利用」に対して、厳正に対処する姿勢が鮮明に打ち出されている。国民が抱く「不公平感」を払拭するという大義名分のもと、そこには明確な「ペナルティー」の強化が盛り込まれた。
「永住権取消し」という抜本的な厳罰化
報道されている内容で最も波紋を広げているのは、永住許可の取消要件の拡大だ。税金や社会保険料を「故意に納付しない」場合、あるいは1年を超える実刑判決を受けた場合、すでに得ている永住権を取り消すことができる仕組みが導入される。
もちろん、日本で暮らす以上、ルールを守り、義務を果たすのは当然のことだ。しかし、外国人支援団体や弁護士会からは「日本人であれば差し押さえなどで済む問題が、外国人の場合は『日本からの追放』という取り返しのつかないペナルティーに直結する。これは過剰な二重処罰ではないか」という強い懸念の声が上がっている。
「故意」か「やむを得ない事情」かを誰が、どう判断するのか。入管当局の裁量一つで生活の基盤が覆されるかもしれない。そんな懸念が、日本を「終の棲家」としようと考えている定住外国人たちに暗い影を落としている。
見過ごされている「消費者」としての巨大な貢献
一方で高市政権は「強い経済」を掲げている。だが、その経済の一翼を担う外国人を、なぜ「管理の対象」や「潜在的なリスク」としてばかり描くのか。
現在、在留外国人は400万人に迫る勢いであり、日本の労働市場において欠かせない存在となっている。しかし、彼らの貢献は労働力だけではない。見落とされがちなのが、彼らが日本国内で消費活動を行う「生活者」であるという視点だ。
ある推計によれば、定住外国人の国内消費額は5兆円を超えている。彼らは日本で家を借り、車を買い、スーパーで食材を選び、子供を育てている。人口減少が止まらない日本において、これほど安定した国内需要を支えている層は他にない。彼らは納税者であると同時に、日本の地域経済を根底から支える「上客」でもあるのだ。
「総合的対応策」というからには、不法行為への対処といったマイナス面の管理だけでなく、彼らが経済や社会の維持にどれほどポジティブな影響を与えているかを正当に評価し、それを国民に周知する施策こそ盛り込むべきではないか。
「選ばれない国」への転落という危機
今、世界中で「人材獲得競争」が激化している。ドイツやカナダ、韓国などは、優秀な人材を惹きつけるために、より寛容で魅力的な定住パッケージを提示している。その中で、日本が「罰則」や「監視」を前面に押し出したメッセージを発信し続けることは、国家戦略として極めて危うい。
高市政権が右派層や、外国人への不安を抱く層に配慮し、「強い姿勢」を見せたいという政治的意図は理解できる。しかし、それが「排除のロジック」として機能し始めれば、優秀な人材は日本を避け、消費の活力も失われる。結果として、政権が目指す「強い経済」そのものが土台から崩れてしまうだろう。
「秩序」とは、罰則で縛ることだけで得られるものではない。ルールを守る者が正当に報われ、社会の一員として尊重されているという実感があって初めて、真の秩序は生まれる。
「やさしい日本語」が架け橋となるために
我々が推進している「やさしい日本語」は、単なる言語の簡略化ではない。それは、情報の格差を埋め、双方向のコミュニケーションを可能にし、共にルールを守るための「合意形成のツール」である。
政府に求められるのは、管理を強めることではなく、外国人がルールを理解し、社会に参加し、貢献できる「インフラ」を整えることだ。労働災害を防ぎ、納税を円滑にし、消費を活性化させる。そのすべての根底にあるのは、彼らを「排除の対象」としてマイナスイメージを政府が強調していては、共に未来を創る「パートナー」を育てることはできない。
高市首相は「排外主義とは一線を画す」と自信のことばで言っている。だとしたら「秩序ある共生」を、分断を生む「排除のロジック」にすべきではないのは当然だ。今こそ、メディアや教育の現場から、多文化共生がもたらす「豊かさ」と「可能性」を力強く発信していく必要がある。
にほんごぷらっと編集長 石原 進






















