町立の日本語学校モデルとは?――三宅良昌校長が描く町の将来――(第3回)

町立の日本語学校モデルとは?――三宅良昌校長が描く町の将来――(第3回)


[初級コースのクラスでは、終始なごやかに授業がすすむ。中央が三宅校長]

「オリンピックが終わったら日本語ブームが終わりではない」「日本語学校は短期的な利益を追求するのではなく、10年・20年と続く前提で考えなければならない」自信を持ってこう発言するのは、東川町立東川日本語学校の三宅良昌校長だ。三宅校長は元国語教師。高等学校の国語科教諭を経て二校の高校で校長を経験。2003~2008年には東川町の教育長を務めたベテランだ。

まだ雪がちらつく2月8日に東川町立東川日本語学校を訪問し、三宅校長に話しを聞いた。

東川町立東川日本語学校は、2015年10月に全国で初となる公立日本語学校として設立された。1985年より写真の町として国内外に開かれた町をつくってきた。2009年に韓国の中高生33名を受け入れ、東川町短期日本語・日本文化研修事業をスタートさせてきた。町として長期の留学生に日本語を教える日本語学校の設立は自然な発想であったようだ。

短期日本語研修では3か月以内の期間で9歳から70歳までの学生が学ぶ。町立日本語学校の役割は、町の未来への投資だという。日本語学校に来る留学生に楽しく勉強してもらい、良い気持ちで帰ってもらうことに注力をしているそうだ。なぜなら町のファンを増やすことが、将来の観光客の誘致やリピート客、次の学生の獲得につながることを長年の取り組みから、経験的に理解をしているからだ。

それだけではない。町立日本語学校を設立したのも、短期だけでは町の良さがわからない。ぜひ長期滞在をしていただき、日本語能力をきちんと身につけるとともに、年間を通した町の生活を経験してほしいとの想いがあったのだ。

東川日本語学校は、小学校の旧校舎を改装した東川町文化芸術交流センター内につくられた。小学校の教室をそのまま活用した開放的な空間で留学生は学ぶ。募集定員は1年コースが40名、6か月コースが40名、町内の学生寮で寝食を共にする。1日の授業は45分1コマの4時間制。午後には自習・試験対策のほか、豊富に用意された地域住民の主催する日本文化学習を選択して参加する。午後の自習時間を多くとるため、短期間での日本語能力向上が可能なのだそうだ。事実、日本語能力検定試験(JLPT)受験者の合格率は非常に高い水準で推移しているという。


[小学校旧校舎を改装した東川町文化芸術交流センターには地元出身の芸術家の作品が展示されている]


[校舎内に併設されている食堂はNPOが運営。町で採れた食材を活用している]

日本文化授業の時間では、茶道や日本舞踊などの文化体験や、東川町の特色である木工や陶芸、写真などの体験学習、大雪山国立公園の麓ならではの自然体験、近隣の動物園や科学館、美術館の見学、研修旅行として北海道の人気観光地を巡るなど、様々な活動が用意されている。

また、同様に1~3か月の短期日本語研修も継続しており、こちらは年間で多いときは300名弱の研修生に日本語を指導する。日本語指導のほか、文化体験や自然体験もプログラムに組み込まれており、町のファンを増やす仕組みが整っている。

日本語教師は元小学校教諭も多く、常勤が6名、非常勤が19名、課外活動専門のスタッフが1名の26名体制で指導にあたっている。

「この町で日本語を勉強してもらうことは、この町が活性化するという意味です。この町に来たら幸せが共有できる。それが東川町です」と三宅校長は熱心に語る。昔から東川町は外に開かれた町づくりをしてきており「小地球村」という発想を持ってきたのだそうだ。短期的な経済効果は二の次で、大切なのは日本の良さを東川町として伝えるということなのだそうだ。

その特色は留学生募集にもあらわれている。「地方の田舎の町立学校に来てくださいではなく、選んで来ていただく」という発想のもと、留学生募集のエージェントに、町の方針や理解をしていただいた方を紹介してもらうのだそうだ。現在は5か国にわたる企業または個人に海外事務所を委託し、勝手のわかったパートナーとして、町の特徴を伝えている。

三宅校長は、町の長期的な考え方を理解している町民はそれほど多くはないという。だが、地域の住民で留学生に対して世話好きな人たちが何人もいて、言葉では理解できなくても、話しかけたり、かまったりして、行動で触れ合えているのだそうだ。このような「住人と留学生とのふれあいが、本当の日本理解につながると思う」と結んだ。

第4回:町立日本語学校のソロバン勘定――やり繰り上手なお役所仕事―― につづく
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特集:日本語教育と地方創生

人口減少が急速に進む地方都市において、日本語学校を地域の活性化に結びつけている町があるのをご存じだろうか。北海道旭川空港から東に車で15分の東川町だ。2015年10月、日本初の公立日本語学校を開校し、町をあげて外国人留学生を歓迎している。「偽装留学生」や「デカセギ留学生」などと揶揄されることが多い昨今、地方の公設の日本語学校がどのように留学生と付き合っているのか。雪深い町立東川日本語学校を訪ね、その実情を通して、日本語教育と地方創生の可能性について考えてみた。

阿久津 大輔(あくつ・だいすけ)「にほんごぷらっと」編集長

投稿者プロフィール

日本語教育情報プラットフォーム設立時より事務局を担当し、フェイスブックページ「日本語教育情報プラットフォーム」の管理人として情報を発信。2017年9月よりネットメディア、言葉が結ぶ人と社会「にほんごぷらっと」編集長。専門分野は外国人人材のキャリアプランニング。

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一般財団法人日本語教育振興協会は標記研修を開催いたします。 昨年度に引き続き、より質の高い研修成果を求めて、研修の核となる2日間の集合研修を東京会場、大阪会場、福岡会場で全て対面にて実施することにいたしました。特に、東京会場は国立オリンピック記念青少年総合センターに宿泊して研修を行うので、研修に参加した仲間や講師との絆がより一層深まることを期待しております。もちろん、どちらの会場での研修も日本全国からご参加いただけます。 加えて、オンデマンドによる事前学習を多く取り入れるなど、集合研修での成果をより高めるための工夫がされております。さらに、各参加者が自校の教育の質向上のための取り組みを発表する機会を作り、より質の高いフィードバックが得られるように集合研修後のフォローアップも強化するなど、より密度の濃い研修プログラムとなっております。 受講希望者におかれましては、7月28日(月)までに,所定の応募方法にて,ご応募くださるようお 願いいたします。 また、当協会の主任教員研修は告示校を対象としているため、たとえ常勤3年以上の経歴を有していても認定校・告示校の教員(認定日本語教育機関の審査申請済みの教育機関(新規開校含む)に所属する主任教員を含む)でない限り研修の対象とはなりません。 《令和7年度 主任教員研修の特徴》 ︎「日本語教育の適正かつ確実な実施を図るための日本語教育機関の認定等に関する法律」の成立により、ますます注目が集まる「日本語教育の参照枠」や「日本語教師の人材育成」について理解を深める事ができる ︎ 現場の“今”を意識した研修プログラムにより、過去の研修受講者が再度受講しても満足できる研修である ︎ グループワークでは経験別や所属学校の属性別のグループを構成することにより、多様な受講者の満足度を保証する 《令和7年度 主任教員研修のねらい》 ◆「日本語教育の参照枠」に基づく学習成果の評価と手法を理解し、実践に活かす力を養う ◆ 人材育成の目的や考え方を知り、自校が求める教員像に近づけるための育成方法を考え実践する ◆ 今の悩みを共有できる仲間や、相談できる先輩とのネットワークを獲得する 《研修について》 ◆研修期間  2025年8月29日(金)~2026年1月8日(木)まで       ※7月29日~8月25日まで事前課題への取り組みがあります       ※研修の詳細な日程については当協会のホームページよりご確認ください ◆開催場所 オンライン(Zoom)+下記いずれかの会場       【東京会場】国立オリンピック記念青少年総合センター       【大阪会場】関西研修センター(KKC)       【福岡会場】リファレンス駅東ビル貸会議室 ◆定員 108名(会場定員:東京会場54名/大阪会場36名/福岡会場18名) ◆参加資格 以下の(1)〜(3)のいずれかの条件を満たす方  (1) 認定校・告示校の主任教員  (2) 認定校・告示校で 3 年以上の常勤教員経験を有する主任教員予定者  (3) 認定申請済機関の主任教員 ◆参加要件 ・研修の全日程に参加できる方 ※参加決定後の会場変更は不可 ・オンライン集合研修において、静かで研修に集中できる環境から参加できる方 ・インターネット環境が整っており、PC で研修に参加できる方  ※スマホやタブレットからの参加は不可 ・自校にて実際に課題改善を行い、その取り組みを発表し、研修レポートとして提出できる方 ◆受講料 30,000円(消費税込)      ※東京会場参加者については、別途宿泊費及び食費等(20,000 円程度)が発生します。       詳細な費用については、参加決定者に対して別途お知らせいたします。      ※大阪・福岡会場参加者については、交流会参加費が発生します。       詳細な費用については、参加決定者に別途お知らせいたします。 ◆詳細・申込方法 https://www.nisshinkyo.org/news/detail.php?id=3370&f=news          ★上記サイトに掲載されている開催案内をよくお読みいただきますようお願いいたします ◆応募締切 2025年7月28日(月) 〔問い合わせ先〕 一般財団法人日本語教育振興協会 主任教員研修担当 Eメール:shuninken@gmail.com TEL:03-6380-6557

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