町立日本語学校のソロバン勘定――やり繰り上手なお役所仕事――(第4回)

町立日本語学校のソロバン勘定――やり繰り上手なお役所仕事(第4回)


[町内で開催されるイベント等に参加すると貯まる地域限定のポイントカード]

「留学生には毎月8,000円のポイントを付与して、町内で消費してもらいます。」こう話すのは東川町交流促進課で東川日本語学校の増田善之事務局長だ。町の経済の活性化において、町立日本語学校が果たす役割は大きいという。その仕組みを教えていただいた。

過疎対策事業債、通称「過疎債」というものがある。過疎地域に指定された市町村が特別に認められた地方債である。発行額に応じて国からの地方交付税が増額される過疎地域の貴重な財源である。東川町は過疎債を取っていない。人口は増加しているため、過疎にはあたらないからだ。しかし、人口約8,300人の町の財政は厳しい。

そこで東川町が活用しているのが外国人留学生の支援を目的とした国の特別交付税だ。年間約4億円の町予算で、様々な事業を展開していて、その8割が特別交付税として交付される。町立日本語学校のざっくりとした収支はこうだ。年間の授業料収入約8,000万円に対し、学校運営の支出は年間約3~4,000万円にとどまり黒字経営となっている。では特別交付税は何に使われているのか。町の活性化の仕組みがおもしろい。

まず町予算の4億円の中で、町独自の奨学金制度として留学生の授業料の50%を交付している。例えば、1年コースの授業料は80万円なので、町がその50%の40万円を交付する。また、全寮制の宿舎は朝夕の2食付き2人部屋で月額6万7,000円~7万4,000円の寮費がかかるが、このうち4万円を町が奨学金として交付する。さらに町内に唯一の専門学校の留学生にも同様の支援をしている。

それでは町予算4億円の自治体負担分の2割をどう賄っているのか。町が保有する学生寮を第三セクターである株式会社東川振興公社に運営委託することにより、公社は寮費の収入による利益を得るが、代わりに公社が管理するほかの施設の指定管理委託料を減額することで、そのほとんどが賄えるのだそうだ。つまり、4億円の予算を留学生の学費や寮費の支援に活用し、その8割は特別交付税として国から交付され、町負担の2割については本来町が支出する指定管理委託料を予算から減額することで、予算の増大を抑え実質の負担をゼロにしている。


[日本語学校に隣接する宿泊施設の一角]

そして冒頭の写真にある地域限定のポイントカード「東川ユニバーサルカード(HUC:フック)」の登場だ。町内の約100店舗以上のお店で使えるポイントカードで、1ポイント1円として使える。町で学ぶ留学生に奨学金として付与するのは毎月8,000ポイント。するとどうだろうか。生活者である留学生は喜んで町内のお店で消費を始める。商店にとって留学生は大歓迎だ。毎月の8,000ポイント以上に、自分の財布からも消費してくれるからだ。買い物を通じて商店と留学生との交流にも華が咲く。

さらに町が力を入れるのは5年に一度の国勢調査だ。人口一人当たりに対して国から地方交付税が支給され、算出方法にもよるが一人当たり約15万円程度の増収になるという。留学生であっても国勢調査の基準となる10月1日時点で、3か月以上滞在している、または3か月以上滞在を予定していれば住人としてカウントされる。現在、町民のうち265名は留学生。80名は外国人定住者なのだそうだ。この留学生の人口増加分で得られる財源を町の事業に還元している。つまり住民としての留学生の増収分を、高齢者タクシーの無料チケットや、子育て支援金、道路や建物のインフラ補修の財源に活用しているのだそうだ。

外国人を「お荷物」として扱うのではなく、彼らを活用しつつ人材育成をする、という町の問題意識を具現化したモデルが出来上がっており、この「東川町モデル」を参考にしたいと、国際協力機構(JICA)をはじめ、各地の自治体担当者からの視察が後を絶たないということにも納得である。

取材を通して見えてきた「東川町モデル」。人口減少に頭を抱える自治体に大きなインパクトを与えているようだ。国からの交付税を建物などハード面に投資するのではなく、町の経済に直接寄与する壮大なエコでソフトなシステムを構築していたからだ。やり繰り上手なお役所の知恵が雪国の町に新たな共生社会を形づくっている。

第5回:町の中国事務所が手掛ける「日本語教育ツーリズム」――体験旅行で日本語を―― につづく
特集ページトップに戻る

特集:日本語教育と地方創生

人口減少が急速に進む地方都市において、日本語学校を地域の活性化に結びつけている町があるのをご存じだろうか。北海道旭川空港から東に車で15分の東川町だ。2015年10月、日本初の公立日本語学校を開校し、町をあげて外国人留学生を歓迎している。「偽装留学生」や「デカセギ留学生」などと揶揄されることが多い昨今、地方の公設の日本語学校がどのように留学生と付き合っているのか。雪深い町立東川日本語学校を訪ね、その実情を通して、日本語教育と地方創生の可能性について考えてみた。

アバター

阿久津 大輔(あくつ・だいすけ)「にほんごぷらっと」編集長

投稿者プロフィール

日本語教育情報プラットフォーム設立時より事務局を担当し、フェイスブックページ「日本語教育情報プラットフォーム」の管理人として情報を発信。2017年9月よりネットメディア、言葉が結ぶ人と社会「にほんごぷらっと」編集長。専門分野は外国人人材のキャリアプランニング。

この著者の最新の記事

関連記事

コメント

  1. I visit every day some web sites and information sites
    to read articles, except this website offers quality based articles.

  2. アバター

    I’ve been browsing online more than 4 hours today, yet I never found any interesting article like yours.
    It’s pretty worth enough for me. In my view, if all
    web owners and bloggers made good content as you did, the web will be a lot more
    useful than ever before.

  3. アバター

    Can I just say what a relief to find a person that genuinely knows what they are talking about online.
    You certainly understand how to bring a problem to light and make
    it important. A lot more people need to look at this and understand
    this side of your story. I was surprised you’re not more
    popular because you surely possess the gift.

  4. アバター

    Healthy Male Viagra Offer [url=http://cialtadalaf.com]cialis overnight shipping from usa[/url] Buy Prednisone 5mg Amoxil 500mg With Food

  1. この記事へのトラックバックはありません。

CAPTCHA


イベントカレンダー

1月
18
12:00 PM パワーポイント入門! なりたい日本... @ 東京スクエアーガーデン6階 環境情報センター セミナー室
パワーポイント入門! なりたい日本... @ 東京スクエアーガーデン6階 環境情報センター セミナー室
1月 18 @ 12:00 PM – 2:00 PM
日本語教師の皆さん! まだ紙のフラッシュカードを使って授業していますか? イラストは手書きですか? お家の中は教材でいっぱいじゃありませんか? 時間がかかるし、イラストも苦手・・ 紙のフラッシュカードはバラバラになっちゃう・・・ 日本語業界でもICT化が進んでいるけど、とにかくまずはパワーポイントが使えなきゃ! でも今さら誰にも聞けない・・・ そんなお悩みを持っている先生にやさしくパワーポイントの使い方をお教えします。 パワーポイントでできること 作成や保存の仕方 基本的な文字入力 イラストの挿入方法 イラスト教材の作り方の基礎 などなど、文字のフラッシュカードとイラスト教材を1つ作ることを目標に学んでいきましょう!
1月
19
2:00 PM 外国につながりのある生徒のための... @ kokoka京都市国際交流会館 3 階研修室
外国につながりのある生徒のための... @ kokoka京都市国際交流会館 3 階研修室
1月 19 @ 2:00 PM – 4:00 PM
外国につながりのある生徒のための日本語支援のあり方について ―『中学生のにほんご』を例としてー http://kicainc.jp/seminar/images/s20200119.pdf 日 時: 2020 年 1 月 19 日(日)14:00~16:00 (受付 13:30~) 会 場: kokoka京都市国際交流会館 3 階研修室 (京都市左京区粟田口鳥居町2-1) 京都市営地下鉄東西線 「蹴上駅」 下車 北へ徒歩 5 分 定 員: 40 人 参 加 費: 1,000 円(KICA 会員 無料) 主 催: 一般財団法人 京都国際文化協会(KICA) 協 力: スリーエーネットワーク 問合せ/申込み (一財)京都国際文化協会 Mail:kica@kicainc.jp Tel:075-751-8958
1月
25
1:00 AM 多文化共生シンポジウム @ TKP 大阪本町カンファレンスセンター
多文化共生シンポジウム @ TKP 大阪本町カンファレンスセンター
1月 25 @ 1:00 AM – 5:30 AM
多文化共生シンポジウム テーマ:地域連携、異文化コミュニケーション、多文化共生、人づくり、街づくり 今まで以上に様々な国の人たちが関わって社会を創っていく日本にとって、必要なことはどんなことか、何をすべきかなど、様々な分野の方の意見をもとに話し合います。これまでの日本語教育の視点だけではなく、「共に生きる」から、テーマを掘り下げていきます。地域において外国人の生活や日本語の支援をしている方、地方公共団体のご担当者、日本語学校の先生など、ぜひご参加ください。 スケジュール 13:00 受付開始 13:30~15:30 パネルディスカッション(パネリスト講演) 15:30~15:45 休憩 15:45~16:45 パネルディスカッション 16:45~17:30 まとめ 登壇者(敬称略) 伊東祐郎(国際教養大学専門職大学院教授) 澤田幸子(合同会社おおぞら日本語サポート理事) 徳井厚子(信州大学教育学部教授) 深江新太郎(NPO多文化共生プロジェクト代表) 増田麻美子(文化庁国語課日本語教育専門職) 主催:株式会社アルク、株式会社凡人社
1月
26
10:00 AM 令和元年度兵庫県地域日本語教育の... @ 姫路市市民会館第6会議室
令和元年度兵庫県地域日本語教育の... @ 姫路市市民会館第6会議室
1月 26 @ 10:00 AM – 4:30 PM
【ご案内】日本語支援に関する研修会(1月26日姫路会場) 令和元年度兵庫県地域日本語教育の総合的な体制づくり推進事業 1月26日(日曜日) 第1部:午前10時~12時30分 「ICT教材活用のための研修会」 講師:三宅直子氏(国際交流基金関西国際センター日本語教育専門員) 第2部:午後2時~午後4時30分 「地域に根ざした日本語支援を考える研修会」 講師:金田智子氏(学習院大学 教授) 開催場所:姫路市市民会館第6会議室(姫路市総社本町112番地) 定員:第1部、第2部それぞれ65名(定員になり次第、締め切ります) 参加費:無料 参加方法:申込書に必要事項をご記入の上、郵送・FAX・Eメールでお送りください。 申込書は下記からダウンロードできます。 https://www.hyogo-ip.or.jp/…/rea…/nihongosuishin/kenshu.html WEB申込フォーム:フォームを開いて直接ご記入ください。 https://www.hyogo-ip.or.jp/…/documents/chiikinonihongo_2019… 締め切り:令和2年1月17日(金曜日)
ページ上部へ戻る