規制改革推進会議の「外国人材に関するヒアリング」で意見を述べた神吉宇一武蔵野大学准教授に聞く

規制改革推進会議の「外国人材に関するヒアリング」で意見を述べた神吉宇一武蔵野大学准教授に聞く

首相の諮問を受け規制緩和に向けて様々な角度から議論をしている政府の規制改革推進会議。その中の保育・雇用ワーキング・グループ(座長・安念潤司中央大法科大学院教授)が3月28日、「外国人材に関するヒアリング」を行った。その席で「外国人の日本での就業における日本語教育の現状と課題」と題してプレゼンテーションをしたのが神吉宇一武蔵野大学准教授だ。日本語教育推進議員連盟が日本語教育推進基本法(仮称)の制定に向けて議論を進めている中で、政府の側も政策立案に大きな影響力を持つ規制改革推進会議が外国人の雇用という側面から日本語教育に向き合った。ヒアリングでの発言を踏まえ、神吉准教授に日本語教育の現状と課題を聞いた。(聞き手は「にほんごぷらっと」代表世話人・石原進)

――規制改革推進会議で日本語教育をテーマにした議論が行われたのは恐らく初めてだと思います。ワーキング・グループのヒアリングについては、当日の議事概要が内閣府のホームページ(注1)に掲載されていますが、「外国人に関するヒアリング」の狙いはどこにあったのでしょうか。

神吉氏 私が話をした保育・雇用のワーキング・グループの今回のテーマは雇用でした。外国人留学生の就職が2000年代の半ばから注目を集めていますが、調査では日本で就職したい留学生が7割、実際に就職したのは3割で、就職した留学生の割合がほとんど伸びていません。ワーキング・グループは、問題は日本語教育にあるのではないか、就職する際の日本語教育をもう少しきちんとできれば就職率が上がるのではと。そこで日本語教育をどうするか、特にビジネス日本語教育をレベルアップできないかという観点で、現状と課題について話をしてほしいというのが、私に対するオファーでした。

――神吉先生は大学に勤める前にアジア人財資金構想(注2)の事業に関わり、企業と外国人材のマッチングなどに詳しいですね。プレゼンではビジネス日本語の重要性を指摘しつつ、会社に入った後の外国人材に対する日本語教育を含めたフォローアップが手薄であることを指摘しています。雇用したあと、どう育成していくか、ですね。

神吉氏 受け入れ側の課題が非常に大きい。留学生に「日本で就職したいか」と尋ねると、「したい」という答えが数多く返ってくる。しかし、数年したら国に帰りたいという学生も少なくない。アジア諸国の経済が発展して日本で働く経済的なメリットが薄れてきています。日本型の年功序列などの雇用慣行に魅力を感じない。文化や価値観の違いもある。キャリア形成が見えにくい。日本企業に入ってどれだけ頑張ったら、どこまで行けるのか、外国人には見えないと思います。さらに、女性の進出が遅れている日本では、外国人の女性となると極めて厳しい状況があると思います。このようなことも含め、企業だけでなく、政府としての受け入れの在り方の全体像を考えるべきです。

――外国人の就職という面を見ると、仕事をするうえでビジネス日本語は重要だが、雇用面での企業側の自覚、問題意識が重要だという事ですね。

神吉氏 大手企業は体力があり、ノウハウも貯まってきていると思いますが、中小企業はまだまだだと思います。中小企業が外国人の雇用や育成に独自に対応するのが難しいのなら、例えば地域の商工会議所のような団体で外国人の雇用をサポートできる研修機関のようなものを作ってもいいのではないでしょうか。また、外国人側の研修だけでなく、受け入れる日本人側・企業側にも異文化理解や異文化コンフリクトの解消、コミュニケーションという面の研修が必要です。企業に就職した留学生の定着に関しての研究では、海外に駐在経験があるとか、外国人社員の文化に興味を持って積極的に接する上司がいるとかだと、外国人材の定着率にいい影響があるという結果が出ています。外国人だけでなく、受け入れる側の変化が大切な点だと思います。

――ヒアリングでは、神吉先生のほか、にほんごの会企業組合代表理事の遠藤織枝さんが「日本語教育の公的整備の必要性について」をテーマにプレゼンをしました。ワーキング・グループ側の反応はいかがでしたか。

神吉氏 印象的だったのは、委員の先生方が日本語教育に非常に興味をもってくださっていたことです。日本語教育、外国人材の育成が重要なことだと皆さん感じておられるようでした。思っていた以上にそうしたことが伝わってきて、正直、驚きました。議論の方向性を見ていても、今後、日本語教育に予算を付けるということになると思います。

留学生の日本語教育に予算を付けるとなると、どうしても大学が中心になります。しかし、大学に身を置きながら言うのもなんですが、果たしてそれだけでいいのかと思います。大学というところは組織としての動きが苦手です。担当の教員や職員がたまたま日本語教育に理解と意欲があれば事業として継続しますが、そうでないと持続的に効果のある取り組みは難しいでしょう。アジア人財事業をみても、その後きちんと継続している案件はさほど多くはありません。

――ワーキング・グループでのプレゼンは限られた時間の中で行われ、言い残したこともあるかと思います。付け加えてお話したいことがあればお願いします。

神吉氏 外国人の日本語教育の実施や人材育成をどこの官庁のどのような部署が責任をもって取り組むのか明確にする必要があるように思います。現状では各省庁の政策がパッチワークになっています。これらの取り組みを包括して、社会統合政策として打ち立て、より包括的・効果的・持続的な政策を行うことが必要です。ヒアリングでも触れましたが、例えば大学のビジネス日本語を考える場合、就活との関係も考え直さないといけません。企業は理系の優秀な留学生を欲しがりますが、秋入学の学生などは研究と就活が重なり、そこに時間と労力をとられる。留学して来て、大学に授業料も払っているのに、就活に時間を取られて研究もままならない。こういうことがあると、優秀な留学生ほど嫌気がさすようです。外国人を社会として受け入れるためにどうすればいいのか、解決が難しい課題かもしれませんが、法整備を中心に統合政策として改善できればいいですね。

保育・雇用ワーキング・グループ議事概要(3月28日)
http://www8.cao.go.jp/kisei-aikaku/suishin/meeting/wg/hoiku/20180328/gijiroku0328.pdf

アジア人財資金構想
http://www.meti.go.jp/policy/asia_jinzai_shikin/

 

神吉宇一氏
武蔵野大学大学院言語文化研究科准教授、公益社団法人日本語教育学会副会長、株式会社ラーンズ事業開発アドバイザー、文化審議会国語分科会日本語教育小委員会委員、文化庁委嘱地域日本語教育アドバイザーほか

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