やさしい日本語とAI翻訳が出会う時 その1 やさしい日本語が総務省にたどり着くまでの道

やさしい日本語とAI翻訳が出会う時。
その1 やさしい日本語が総務省にたどり着くまでの道。

総務省は2019年4月19日、「デジタル活用共生社会実現会議」報告書(以下「報告書」)で「多言語対応・オープンデータの推進等」の中に「多言語音声翻訳へのやさしい日本語活用」を明記した。法務省に続き、国政レベルで「やさしい日本語」の価値を認めるようになったことは大変な進歩である。こうした進歩の道をこのコラムを通じてお伝えしたい。

2014年に発足した「2020年オリンピック・パラリンピック大会に向けた多言語対応協議会(以下「協議会」)」は、「言葉のバリアフリー」と「ICT(情報通信技術)の活用」を掲げ、公共サインなどは日本語・英語+ピクトグラムを基本とした上で必要に応じ韓国語・中国語・その他の言語での併記を進め、口頭のコミュニケーションは多言語音声翻訳ツール(以下「AI翻訳」)を活用するという形で多言語対応に取り組んでいた。

当時小平市から東京都に出向し協議会事務局を担当していた萩元直樹氏は、リオデジャネイロ2016パラリンピック視察中に、総務省の関係機関である情報通信研究機構(NICT)が開発した多言語音声翻訳アプリ「VoiceTra」を現地とのコミュニケーションで使ってみたところ、かんたんな日本語で入力すればポルトガル語でも十分翻訳できることに気がついた。そこから萩元氏は防災減災・公文書言い換えなどで研究が進んでいた「やさしい日本語」に注目し、ICT活用での連携を進めようと考えた。

そして2016年12月の協議会の「多言語対応・ICT化推進フォーラム」で「やさしい日本語の可能性」というタイトルのパネルディスカッション開いた。パネリストにはやさしい日本語研究の権威である弘前大学佐藤和之教授と一橋大学庵功雄教授、現場で導入している横浜市幹部に加え、当時柳川市でやさしい日本語ツーリズム事業を立ち上げた私も招聘された。「多言語対応」というテーマでやさしい日本語が取り上げられたシンポジウムは、初めてだったと思われる。

当時私は日本人側が言葉を調整することの意義を伝えるのに精一杯だったため、万能感で語られることの多いAI翻訳には否定的だった。しかし「やさしい日本語」に、どのように言葉を調整しどのように相手の理解を検証するか、そしてどのように継続的に学ぶ場を提供するか、ということに限界を感じ始めていた。さらに、「やさしい日本語」で「仲良くなる」ことは可能だとしても、命・人権にかかわることなど重要な情報については、プロの通訳やAI翻訳を使ってでも相手の母語を保障することが必要だと考えるようになった。

そして改めてVoiceTraに注目したところ、実はやさしい日本語のトレーニングツールとして最適であることに気がついた。そして2018年の日経BP「グローバル人材2018」で、「AI翻訳は『やさしい日本語』で使いこなす」という講演を行なった。これ以降、私の講演はすべてこの多言語対応の枠組みの中で話している。

この講演の直後に、小平市に戻っていた萩元氏から「『やさしい日本語×多言語音声翻訳』をテーマに、小平市の住民がVoiceTraを使って地元外国人・訪日外国人と交流する企画を実施する。初回はNICTからも講師を呼ぶので、やさしい日本語ツーリズム研究会として講演をしてくれないか」との依頼があり、受託した。萩元氏は小平市に戻ってからも自らの構想を着々と練り実現のために尽力していた。そして私はこの講演をきっかけにNICTとも直接面識を持つこととなり、AI翻訳活用に関する知見も増えていった。

小平市での一連の取り組みは、内閣官房が進める「beyond2020」の優良事例として選定された。時期を同じくして、私の活動に注目し「やさしい日本語」をゼミ活動にも取り入れていた明治大学国際日本学部の山脇啓造教授が、総務省のデジタル活用共生社会実現会議のICT地域コミュニティ創造部会委員となり、小平市の事例を総務省の事務方に紹介したところ、萩元氏自身が部会メンバーにプレゼンをする機会を得た。これが今回の総務省の方針決定に大きな影響を及ぼしているのは間違いない。

萩元氏は多言語対応・ICT活用の視点からやさしい日本語に行き着き、私は日本語教育から派生したやさしい日本語から、多言語対応や言語保障の新しいあり方に行き着いた。これら2つのやさしい日本語は、本来基準や性格が違うものである。

そもそもこれまで国政レベルでやさしい日本語が取り上げられてこなかった理由の一つに、定義があいまいで法制化にそぐわないということが挙げられる。しかし総務省は報告書でやさしい日本語について「その性質上、多言語音声翻訳システムと親和性が高く、(中略)多言語音声翻訳の精度向上が期待できる」と明記した。今後やさしい日本語は、日本語を多少でも理解するかしないかに関わらず、多言語対応のための重要な考え方として新たな発展を見せていくことだろう。

吉開 章

吉開 章(よしかい・あきら)

吉開 章(よしかい・あきら)寄稿者

投稿者プロフィール

やさしい日本語ツーリズム研究会事務局長、株式会社電通勤務。2010年日本語教育能力検定試験合格。会員3万人以上の日本語学習者支援コミュニティ「The 日本語 Learning Community(Facebook参照)」主宰。ネットを活用した自律学習者に詳しい。2016年「やさしい日本語ツーリズム」企画を故郷の福岡県柳川市で立ち上げ。論文・講演実績などはこちら(WEB参照)。

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コメント

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6月
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1:00 PM 第61回 外国人による日本語弁論大会 @ ふくやま芸術文化ホール リーデンローズ(広島県福山市)
第61回 外国人による日本語弁論大会 @ ふくやま芸術文化ホール リーデンローズ(広島県福山市)
6月 13 @ 1:00 PM
  第61回 外国人による日本語弁論大会 The 61st International Speech Contest in Japanese 世界の人々に日本語で意見を発表する場を提供することにより、日本や国際社会のあり方をお互いに考え合うことを目的としています。1960年より毎年開催されております。第61回大会は、広島県福山市で以下の要領で開催されます。 日時 2020年6月13日(土)午後1時開始 会場: ふくやま芸術文化ホール リーデンローズ(広島県福山市) 応募受付期間: 2020年2月17日(月)から4月23日(木) 主催: 国際教育振興会、国際交流基金、福山市 後援: 外務省/文化庁/広島県/広島県教育委員会/福山市教育委員会/公益財団法人ひろしま国際センター/ふくやま国際交流協会/公益社団法人福山観光コンベンション協会/福山商工会議所/エフエムふくやま/ NHK / NHKエデュケーショナル/日本語教育学会 協賛: キッコーマン株式会社/専門学校新聞社/にほんこの凡人社/リコージャパン株式会社/株式会社スリーエーネットワーク/鞆鉄道株式会社/福山ニューキャッスルホテル/ツネイシホールディングス株式会社/株式会社エフピコ/アイデアル株式会社/学校法人 穴吹学園/外国人留学生を支援する会/一般財団法人義倉/学校法人教文学園 広島アカデミー/国際ソロプチミストローズ福山/有限会社ぬまくま夢工房/専門学校 福山国際外語学院/福山市日本中国友好協会/福山大学/福山元町通商店街振興組合/株式会社ブランパートナーズ/まごころ料理 ふな家 第61回実施要領、申込書などはこちら → ポスター → 実施要領 → 申込書(Word) → 申込書(PDF)
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第29回 小出記念日本語教育研究会 @ 国際基督教大学
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第29回小出記念日本語教育研究会 ――開催のお知らせと発表の募集―― 小出記念日本語教育研究会を下記の通り開催いたします。今回も、口頭発表とポスター発表を募集いたします。募集要項をご覧の上、ふるってご応募ください。 さて、社会の変化に伴い、学習は教えられた知識をただ覚えることから、知識を社会と結びつけること、社会において実践すること、複雑化する社会の問いに対して、自分と他者との意見をまとめてよりよい答えを提案することへと変化しようとしています。また、このように急速に社会が変化する中で、グローバル化は進み、日本語教育も大きな変化の時期を迎えていると言えるでしょう。今後、日本社会の変化に伴いどのような変化の局面を迎えるかは計り知れません。複雑化する社会の問いに対して、新たな価値を生み出す人材が求められていると言えるのではないでしょうか。 このような変化の流れの中で、言語教育/学習はどう捉えなおされるべきか、学習者の主体的な学びを支えるために教師は何ができるか、また、学習を活性化する活動にはどのようなものがあり、それは言語学習にどう取り入れることができるか、新たな学びを評価するとはどういうことか。このような様々な問いを参加者の皆さんとともに考え、明日の現場につながる何かを持って帰ることができる機会を持つことができないだろうかと考えました。 そこで、今回は、学習科学の分野を牽引していらっしゃる白水始氏(東京大学)をお迎えし、ワークショップを含みご講演いただくこととなりました。学習理論をベースとし、協調活動やテクノロジーを利用し学びの質を上げようとする実践的教育学である学習科学の視点から、複雑な社会に立ち向かっていく学習者とその学びを支える教師に有益な示唆をいただけると期待しています。 多くの方々のご参加をお待ちしております。 2020年1月19日 第29回小出記念日本語教育研究会研究委員 世良時子・山岸宏明・高橋亘・中岡樹里 記 日時:2020年6月27日(土)12時30分より(会員総会は11時30分より) 場所:国際基督教大学(〒181-8585東京都三鷹市大沢3-10-2) 予定:11:30-11:45 会員総会 12:30-12:45 開会・プログラム説明 12:45-14:50  講演・ワークショップ「学習科学の視点から見た21世紀型スキルと言語学習-変化の時代における新しい学びと評価を支える」 講師:白水始氏(東京大学 高大接続研究開発センター 教授) 15:00-16:40 研究発表(口頭発表とポスター発表) 16:45-17:30  閉会・お茶の会 発表テーマ:日本語教育にかかわる研究(日本語学、異文化理解教育なども含む) ※オリジナリティのある未発表のものに限ります。 ※理論的な研究も実践報告もどちらも歓迎いたします。特に、日本語教育の現場における実践に基づいた研究の成果、および、現場と理論がどうつながるのかを問う内容を歓迎します。 発表形態:①口頭発表(発表20分、質疑応答10分) ②ポスター発表(A0判 84㎝×119㎝1枚以内の掲示および参加者との意見交換) 応募の資格: 応募の時点での会員資格は問いません。ただし、発表の採択決定後、発表年度(2020年度)の会費納入手続きが始まり次第、速やかに発表年度の会費を納入してください(会費納入状況によっては、発表取り下げとなる場合があります)。また、共同発表者の入会手続きは、筆頭発表者が責任をもって期日までに完了させてください。 ※年会費は支払いのあった年度のみ有効です。2020年3月末より前に納入された会費は2019年度分になりますので、ご注意ください。 応募方法:申込締切日までに研究発表申込フォームよりご提出ください。 https://bit.ly/2E5jNZt 何等かの理由により、オンラインフォームによる発表申し込みができない場合、下のURLからMicrosoft Word形式の「発表申し込みフォーム」をダウンロードし、必要事項をご記入の上、メールに添付し、下記の連絡先までお送りください。 https://bit.ly/36ojDsb 申込期間:2020年1月27日(月)~2020年2月23日(日) 締め切り日の2月23日(日)は、日本時間17時 必着 採否の通知:4月上旬までに審査の結果をメールでお知らせいたします。 連絡先: koide.happyo@gmail.com ※ご質問やお問い合わせもこちらへどうぞ。 注意:・応募の時点で未発表のものに限ります。他の学会・研究会の発表に応募している人が、同様の内容で本研究会の発表に応募すること(二重投稿)はできません。 ・いかなる理由があっても発表題目と内容の変更、発表者の増減は認められません。 その他:・採択の際に、研究委員より発表内容等に助言を与えることがあります。 ・採択の場合は、5月中旬までに予稿集の原稿をお送りいただくことになります。 ・研究会後、10月下旬までに論文集(2021年3月発行予定)掲載用要旨をご提出いただきます。 ・ご応募いただいたデータは、採否にかかわらず、1年間の保存期間のあとで責任をもって削除いたします。
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