地域に根付く外国人子弟への教育支援 在留外国人の定住化が背景に

日系ブラジル人の子供の教育に携わる愛伝舎の取り組み

私たち愛伝舎は、三重県鈴鹿市で多文化共生社会を目指して様々な活動に取り組むNPO法人です。設立は2005年8月。1989年の入管法改正でブラジルなどから日系人の「デカセギ」が増え、その親と一緒に来日した子供の教育が社会問題として指摘され始めた時期でした。現在は理事を始め、約15人が外国人支援の取り組みに携わっています。

三重県内の在留外国人数は、2017年6月末現在で46176人です。県内人口は約180万人ですから、外国人の人口比は2.57%です。小さな県としては相当高い比率です。というのは、自動車や電機メーカーの下請け企業が多く、その作業現場の貴重な労働力としてなっているからです。

企業のCSR(社会貢献)の事業として「夢の懸け橋」奨学金を支給

愛伝舎は、外国人が多く住む地域で彼らのための日本教室、生活セミナー、就労支援などを行ってきましたが、メンバーの中に教員経験者が数人いたことから外国人の子供の教育支援の取り組みを始めました。「夢の懸け橋」と名付けた奨学金の支給事業もその一つです。その頃、その取り組みの中には企業をステークホルダー(利害関係者)とする事業もあり、企業のCSR(社会貢献)の事業として奨学金の支援を呼びかけたところ、賛同してくれる企業があったので、そのスキームができたのです。奨学金を贈ることで子供たちに「将来の夢」を持ってもらいたい。そんな想いを企業と共有することで「夢の懸け橋」を始めたのです。

2013年から始まったこの事業の奨学金の支給対象は、原則として三重県内に住み学業優秀で経済的な支援を必要とし、外国にルーツを持つ高校3年生です。進学してより高い教育を受け、夢を実現できるようサポートするのが目的です。二つの祖国とし育った若者が日本の中だけでなく世界に飛び出して活躍できる人材に育ってほしい、と期待しています。

奨学金は、1人10万円を支給します。決して多い金額ではありませんが、企業の皆様方の心のこもったおカネです。3月末までに進学先が決まらないと、資格を失うことになります。だたし、秋入学の大学を目指す場合は、入試の合格をもって奨学金を支給します。

これまでに奨学金を支給したのは、1期生2人(ブラジル人2人)▽2期生5人(ブラジル人、ペルー人各2人、フィリピン人、インドネシア人各1人)3期生6人(ブラジル人、ペルー人、ボリビア人、フィリピン人、タイ人、中国人各1人)▽4期生6人(ペルー人、フィリピン人各2人)▽5期生4人(フィリピン人2人、ブラジル人、ペルー人各1人)の合計23人です。

外国人の増加とともに、奨学金の支給対象者の出身国も多様化しています。これは、まさに時代の流れという事が出来るでしょう。

支援していただいている企業は、主に地元の会社です。日系人支援に力を入れている大手商社の三井物産の幹部の方の紹介していただいた会社もあります。ブラジルの三重県人会、さらには愛伝舎の経理をお願いしている会計事務所のトップの方など、まさに人と人のつながりから支援の輪が広がっています。

「夢の懸け橋」事業の背景にあるのは、在留外国人の定住化です。そもそも日系人は入管法改正により「定住者」として工場などに就労できるようになり、1990年代に入ってその数が急増します。「デカセギ」はすでにブラジル人の言葉として定着しています。彼らはおカネを貯めたら帰国する出稼ぎ労働者そのものでした。

リーマンショック後に高校進学率が上昇

しかし、2000年代になって徐々に定住化が進み、2008年秋のリーマンショックが彼らに帰国か定住かの決断を迫りました。日系人のほとんどが派遣社員でしたが、リーマンショックで「派遣切り」となって、多くの日系人は職を失いました。日本政府は帰国支援金を出すなどして帰国を促し、日系ブラジル人などは追い立てられるように日本をあとにしました。

それでも日本で暮らそうという人が、人口減少が進む中で地域を支えています。彼らの子供たちは、それまでは公立高校への進学が少なく、中卒か定時制高校に通いながら働く生徒が多かったのですが、日本で暮らすことを決めた人たちは、「子供を高校に行かせたい」「高校に進学させるのは当然」という風に意識が変わるのです。「夢の懸け橋」事業は、時代の変化の中から生まれた、日系人らの子供への期待の気持ちに応える事業でもあります。

政府はこれまで日系3世までだった日本への受け入れ枠を4世にも広げる方針です。送り出し側のブラジルなどの日系人社会から要望があり、労働力不足に悩む日本も需要もあります。急テンポで進む人口減少に伴い、外国人増大の流れは止めようがありません。受け入れる以上、政府は彼らの生活、さらには教育にも責任を持つ必要があります。

私たち愛伝舎の取り組みはささやかなものですが、課題に対して真摯に向き合い、「夢の懸け橋」を単なる奨学金の支給事業に終わらせず、若者たちが本当に「夢」を実現できるよう、その後も見守りサポートしていくことが必要だと考えます。また、この事業を広げることを通じて外国人と交流の機会が増えています。日本人の側に多文化共生社会への理解を深めてもらうことも重要な課題です。

彼らが日本の社会の中で立派な納税者になり、同時に日本と祖国を結ぶ人材に育つことは、日本の豊かな国づくりに必要なのです。

坂本 久海子(さかもと・くみこ)寄稿者

投稿者プロフィール

NPO法人愛伝舎理事長。静岡県熱海市出身。明治学院大学社会学部卒業。1993年ー98年にブラジル滞在。帰国後2002年より、三重県鈴鹿市の小学校で国際教室の講師として、日系人の子供たちの教育に携わる。2007年発足の超党派での「三重多文化共生を考える議員の会」の結成に関わり、地元の政治家への働きかけも行っている。

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イベントカレンダー

6月
12
12:00 AM 留学生対象の日本語教師初任者研修... @ オンライン(ZOOM)
留学生対象の日本語教師初任者研修... @ オンライン(ZOOM)
6月 12 2024 @ 12:00 AM – 1月 31 2025 @ 12:00 AM
日振協による文部科学省委託の初任研修が今年も始まります。 告示校で10年程度専任で経験されている方対象です。 OJTで実際の運営に関わりながら研修運営を肌で学んでいただけます。 研修詳細は協会ホームページより、チラシと募集案内をダウンロードしてご確認ください。   「日振協 留学生対象の日本語教師初任者研修」は「オンライン映像講義」「(オンライン)集合研修」「自己研修(自律的学習)」の三位一体の編成により、①自律的・持続的な成長力 ②対話力 ③専門性という3つの資質・能力の育成を目指すもので、忙しい仕事の合間を縫って学べるよう、また地方の教育機関に所属している受講生への負担を減らすため、e-Learningを利用した研修となっています。 2020年度から、この初任者研修と並行して、「育成研修」を併せて実施しています。「育成研修」は初任者研修のサポートを行いながら研修の企画や実施方法を学び、将来全国各地で初任者研修の実施担当者として活躍していただく人材を育成する研修です。具体的には以下のことを目指しています。 ①初任者教員の協働的かつ自律的な学びを支援し、21世紀に活躍できる日本語教師としての資質・能力及びICT活用能力の獲得へと導く ②研修委員に必要な経験と能力を身につける 研修は、フルオンライン(zoom使用)で実施いたします。学内で初任者の指導を任されている方、地方在住でなかなか研修機会に恵まれない方など全国各地からご参加いただきたく存じます。修了生は今後実施委員になっていただく可能性もございます。どうぞ奮ってご応募ください。 チラシ(PDF 裏表2頁/1枚)
6月
29
12:00 AM 留学生に対する日本語教師初任研修 @ オンライン
留学生に対する日本語教師初任研修 @ オンライン
6月 29 2024 @ 12:00 AM – 1月 31 2025 @ 12:00 AM
本研修のカリキュラムは文化審議会国語分科会の「日本語教育人材の養成・研修の在り方について(報告)」に基づいており、初任者が体系的・計画的に日本語指導を行うための実践的能力として (1)自律的・持続的な成長力 (2)対話力 (3)専門性 の3つの資質・能力の養成を狙いとした90単位時間のプログラムです。忙しい仕事の合間を縫って学べるよう、また地方の日本語教育機関の新任の先生方への負担を減らすため、e-Learningを利用した研修となっています。 研修形態はフルオンラインです。昨年度同様、今後日本語教師にますます求められるであろうICT活用能力(オンライン授業やハイブリッド授業の実践等)に重点を置いた研修を行います。 つきましては、ぜひ多数の日本語教師初任者の方にご参加いただきたく下記のとおりご案内いたします。どうぞよろしくお願い申し上げます。 チラシ(PDF 表裏2頁/1枚)
7月
27
1:30 PM 凡人社日本語サロン研修会 『でき... @ 大阪会場TKP 大阪本町カンファレンスセンター
凡人社日本語サロン研修会 『でき... @ 大阪会場TKP 大阪本町カンファレンスセンター
7月 27 @ 1:30 PM – 4:00 PM
凡人社日本語サロン研修会 『できる日本語』ブラッシュアップ講座 ~課題に向き合い、仲間とともに,より良い実践をめざしませんか~   [日時・会場・定員] 全日:13:30~16:00(受付開始 13:00) ※各会場先着順、定員になり次第締め切ります     【日付】2024/7/27 (土) 【会場】大阪会場TKP 大阪本町カンファレンスセンター(大阪市中央区久太郎町3-5-19) 【定員】80名   【日付】2024/9/1 (日) 【会場】福岡会場博多バスターミナル(福岡市博多区博多中央街2) 【定員】60名   [対 象] 主に日本語学校の教師・関係者、日本語教育ボランティア、日本語教育に関心のある方   [参加費] 無料 ※要予約   [講 師] 嶋田 和子 先生(『できる日本語』監修) 他『できる日本語』著者の先生方   [内 容] 『できる日本語』の輪が広がり続け、「実践について学べる場がほしい」という声がたくさん寄せられています。 そこで、現在『できる日本語』を使っていらっしゃる方々に向けて、「ブラッシュアップ講座」を開くこととしました。 当日は、具体例を挙げながらより良い実践について考えていきます。 事前にお寄せいただいた質問の中から共通の課題を取り上げ、ご一緒に解決に向けて考えていきます。 また、すでにあちらこちらで【できる日本語ネットワーク】が生まれていますが、今回の対面講座で、さらに新たな輪が生まれることをめざします。   [お問い合わせ・お申込み] 主催:アルク・凡人社 お問い合わせ・申し込み先(担当:凡人社/坂井)   E-mail:ksakai@bonjinsha.co.jp   ※下記お申込みフォームかQRコードかメールにてお申し込みください。 メールでお申し込みの際はタイトルに「日本語サロン研修会(●/●)@●●」と入れて、本文にご氏名・ご所属・ご連絡先をご記入ください。 ※●/●部分は開催日時と場所をご記入ください。   お申込みフォーム→https://x.gd/3kYVu
8月
5
10:00 AM 令和6年度日本語学校教育研究大会 @ 国立オリンピック記念青少年総合センター
令和6年度日本語学校教育研究大会 @ 国立オリンピック記念青少年総合センター
8月 5 @ 10:00 AM – 8月 6 @ 4:30 PM
令和6年度日本語学校教育研究大会 1 開催日時 本大会 2024年8月5日(月)10:00~16:45 8月6日(火)10:00~16:15 ポストセッション 2024年8月23日(金)19:30~21:00 2 会場 国立オリンピック記念青少年総合センター(東京都渋谷区) 3 参加方法 会場参加:8/5、6は会場参加。後日一部プログラムのアーカイブ配信視聴可。8/23ポストセッションに参加可。 オンライン参加:一部プログラムのライブ配信・後日アーカイブ配信を視聴可。8/23ポストセッションに参加可。 3 応募締切:2024年7月24日(水) 4 詳細、申込方法 https://www.nisshinkyo.org/news/detail.php?id=3163&f=news 「日本語教育の適正かつ確実な実施を図るための日本語教育機関の認定等に関する法律」施行に伴い、各校においては教育理念や到達目標、評価方法、および教育・学習内容等の見直しを進められていることと存じますが、認定されることがゴールではなく、その先を見据えて、自分たちの教育、および学校全体を見直し、リニューアルすることが大事なのではないでしょうか。 今回は、大会のテーマを「これからの新しい日本語学校の話をしよう」とし、プログラムを企画しました。 日本語学校教育に興味・関心をお持ちの方ならどなたでもご参加いただけます。 皆様のご参加お待ちしております。 【8/5】 講演「日本語教育機関の認定と登録日本語教員について」 (文部科学省総合教育政策局日本語教育課) 講演「技能実習制度及び特定技能制度をめぐる状況と育成就労制度の創設について」 新井靖久(出入国在留管理庁政策課 課長補佐) 講演「『逆向き設計』論に基づくカリキュラム設計-より良い教育評価を目指して」 奥村好美(京都大学 教育学研究科 教育学環専攻教育・人間科学講座准教授) パネルディスカッション 加藤早苗(インターカルト日本語学校 校長)亀田美保(大阪YMCA日本語教育センター センター長) 山本弘子(カイ日本語スクール 代表) 【8/6】 分科会Ⅰ「大学との教育連携を考える~送り出し側と受け入れ側の視点~」 分科会Ⅱ「自ら学び続けるために~学習者と教師のオートノミー~」 義永美央子(大阪大学 国際教育交流センター 教授) 分科会Ⅲ「モジュールボックスを使って学習活動と評価を考えよう!」 自由研究発表・ポスター発表・デモンストレーション・トーキングショップ 協賛団体紹介ブース 【8/23】 ポストセッション(オンライン交流イベント) 〔問い合わせ先〕一般財団法人日本語教育振興協会 事業部 小野寺陽子 TEL:03-6380-6557 FAX:03-6380-6587 E-mail: nisshinkyo2@gmail.com

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