【寄稿者:オチャンテ・村井・ロサ・メルセデス】

「日系4世」そして、「移民第1.5世代」として生きて

私は三十数年の人生の半分以上を日本で生活しています。デカセギとして来日した両親の呼び寄せで、ペルーから来日し、日本の義務教育を終えた後、定時制高校、大学、大学院と進学しました。

日本語ゼロという状態で中学校の3年生に編入した後、「平仮名、カタカナ、小学校1年生の漢字」と、日本語の勉強を始めました。出国時は母国や仲良しの友達と離れる悲しみもありましたが、離れて生活していた両親と再び生活できるという喜びの方が遥かに大きかった。それがあったから早く日本に適応することができたと感じます。慣れた環境や友達、親戚との別れで辛い思いをして、日本が嫌になる、学校が嫌になる、適応するまで大きなストレスを抱える子どもたちのケースも見てきたからです。

また、来日した当時、転校した三重県伊賀市の中学校では国際教室が既に設置されていて、多くのブラジル人やペルー人の生徒がいました。そのため、毎日国際教室で日本語の勉強をして、音楽、体育、英語の授業のみに学級に戻り、他の日本人の生徒と勉強をしていました。中学校にはわずか二ヶ月間通って卒業し、定時制高校に進学しました。来日三ヶ月目で高等学校入学試験を受けて合格し、4月から高校生となりました。面接で聞かれそうな質問を丸暗記し、片言の日本語で、一緒に受験した兄と必死に「勉強したいこと」を伝えた覚えがあります。その気持ちが伝わったかどうかわかりませんが、当時の定時制高校の校長先生の配慮で入学することができたと感じています。また、中学校の先生、校長先生の熱意もあって、このような結果となったのではないかと思います。

定時制高校では、中学校と同じ、国語、社会、理科のような科目の代わりに別の教室で日本語の基礎的な指導を受けました。日本語はその取り出し授業の時間以外、一時間目が始まる30分前から高校に行って毎日30分間勉強しました。漢字の勉強、文法、日本語能力試験を受けるための指導も受けました。また定時制高校での勉強以外に、「伊賀日本語の会」というボランティアの教室に毎週参加し、そこで出会った先生に週に二回個別の指導を受けていました。

両親は教育熱心だったため、定時制であっても、昼間日本語の勉強をさせるような考えでしたが、定時制側として、昼間はアルバイトをするようにと強く勧められ、8時から4時半まで働きました。日本語がわからないため、指示をうまく理解できず、最初はよく怒られ、仕事を辞めたいと思ったこともよくありましたが、日本語が分かるようになって、仕事の環境にも慣れ、定時制高校の4年間同じ所で働きました。日本語能力試験の3級、2級と合格し、その後大学の入試に専念するため、教科の勉強もし始めました。

外国にルーツを持つ子どもたちにとって、高校卒業が将来を開く

中学校・高校では基礎的な日本語を継続的に学ぶ機会に恵まれ、卒業後、大学・大学院に進学することができました。もし当時、日本語ができないからと入試を認められなかったら、また、予算がないため日本語の先生を付けることができない等の理由から不合格になっていたら、間違いなく挫折して、母国に帰っていたか、両親と同じ派遣会社で働いていたのかもしれません。そのため、外国にルーツを持つ子どもたちにとって、高等学校に進学し卒業することが将来の可能性に一歩を踏み出す、展望を開くことになると確信しています。入学してから卒業するまでサポートを受けたことでその次のステップである大学進学に踏み出すことができたと感じています。

大学では心理学を専攻し、4年目の夏休みにアルバイトとして卒業した母校(中学校)へ通い、外国にルーツを持つ後輩たちの支援をしているうちに、彼らへの支援や対策について研究したいと思い大学院への進学を決意しました。修了後、奈良県の高等学校、三重県の小中学校で外国にルーツを持つ児童・生徒の支援、保護者の相談、国際理解教育活動をしながら巡回をしていました。毎日様々な困難を抱えながら一生懸命生きている子どもたちの姿が誇らしく、保護者と学校(先生)の連携、担任と児童・生徒の連携、そして場合によっては児童・生徒と保護者のコミュニケーションの手助けや、相互理解を深めるため6年以上に渡って現場にいました。

現在、大学で助教として勤めていますが、当事者、そして研究者として外国にルーツを持つ子どもたちの進路指導、不登校になったケース、高校に入学できたにも拘らず中途退学した若者のケースについて研究し、現状を訴えています。私は「恵まれたケース」であるかもしれませんが、日本にいる全ての子どもたちが今必要としている支援を受けられるよう、声を上げていきます。国籍を問わず、全ての子どもたちにとってアクセスしやすい学校作り、そして卒業するまでのサポートが重要であると考えています。これは、将来の日本を担っていく有力な人材を育てていくこと、将来に投資をすることになるのではないかと考えています。

オチャンテ 村井 ロサ メルセデス(おちゃんて・むらい・ろさ・めるせです)寄稿者

投稿者プロフィール

奈良学園大学人間教育学部人間教育学科助教。ペルー リマ市生まれ。京都ノートルダム女子大学卒業。三重大学大学院修了。5年以上に渡り三重県内の小・中学校で外国人児童生徒巡回相談員として、外国人児童生徒を支援。NGO大阪ラテンアメリカの会副会長。三重県津市で開かれた「外国人集住都市会議2017」で「当事者として考えるニューカマーの子どもたちの現状と課題」と題した基調講演を行った。

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イベントカレンダー

6月
12
12:00 AM 留学生対象の日本語教師初任者研修... @ オンライン(ZOOM)
留学生対象の日本語教師初任者研修... @ オンライン(ZOOM)
6月 12 2024 @ 12:00 AM – 1月 31 2025 @ 12:00 AM
日振協による文部科学省委託の初任研修が今年も始まります。 告示校で10年程度専任で経験されている方対象です。 OJTで実際の運営に関わりながら研修運営を肌で学んでいただけます。 研修詳細は協会ホームページより、チラシと募集案内をダウンロードしてご確認ください。   「日振協 留学生対象の日本語教師初任者研修」は「オンライン映像講義」「(オンライン)集合研修」「自己研修(自律的学習)」の三位一体の編成により、①自律的・持続的な成長力 ②対話力 ③専門性という3つの資質・能力の育成を目指すもので、忙しい仕事の合間を縫って学べるよう、また地方の教育機関に所属している受講生への負担を減らすため、e-Learningを利用した研修となっています。 2020年度から、この初任者研修と並行して、「育成研修」を併せて実施しています。「育成研修」は初任者研修のサポートを行いながら研修の企画や実施方法を学び、将来全国各地で初任者研修の実施担当者として活躍していただく人材を育成する研修です。具体的には以下のことを目指しています。 ①初任者教員の協働的かつ自律的な学びを支援し、21世紀に活躍できる日本語教師としての資質・能力及びICT活用能力の獲得へと導く ②研修委員に必要な経験と能力を身につける 研修は、フルオンライン(zoom使用)で実施いたします。学内で初任者の指導を任されている方、地方在住でなかなか研修機会に恵まれない方など全国各地からご参加いただきたく存じます。修了生は今後実施委員になっていただく可能性もございます。どうぞ奮ってご応募ください。 チラシ(PDF 裏表2頁/1枚)
6月
29
12:00 AM 留学生に対する日本語教師初任研修 @ オンライン
留学生に対する日本語教師初任研修 @ オンライン
6月 29 2024 @ 12:00 AM – 1月 31 2025 @ 12:00 AM
本研修のカリキュラムは文化審議会国語分科会の「日本語教育人材の養成・研修の在り方について(報告)」に基づいており、初任者が体系的・計画的に日本語指導を行うための実践的能力として (1)自律的・持続的な成長力 (2)対話力 (3)専門性 の3つの資質・能力の養成を狙いとした90単位時間のプログラムです。忙しい仕事の合間を縫って学べるよう、また地方の日本語教育機関の新任の先生方への負担を減らすため、e-Learningを利用した研修となっています。 研修形態はフルオンラインです。昨年度同様、今後日本語教師にますます求められるであろうICT活用能力(オンライン授業やハイブリッド授業の実践等)に重点を置いた研修を行います。 つきましては、ぜひ多数の日本語教師初任者の方にご参加いただきたく下記のとおりご案内いたします。どうぞよろしくお願い申し上げます。 チラシ(PDF 表裏2頁/1枚)
7月
27
1:30 PM 凡人社日本語サロン研修会 『でき... @ 大阪会場TKP 大阪本町カンファレンスセンター
凡人社日本語サロン研修会 『でき... @ 大阪会場TKP 大阪本町カンファレンスセンター
7月 27 @ 1:30 PM – 4:00 PM
凡人社日本語サロン研修会 『できる日本語』ブラッシュアップ講座 ~課題に向き合い、仲間とともに,より良い実践をめざしませんか~   [日時・会場・定員] 全日:13:30~16:00(受付開始 13:00) ※各会場先着順、定員になり次第締め切ります     【日付】2024/7/27 (土) 【会場】大阪会場TKP 大阪本町カンファレンスセンター(大阪市中央区久太郎町3-5-19) 【定員】80名   【日付】2024/9/1 (日) 【会場】福岡会場博多バスターミナル(福岡市博多区博多中央街2) 【定員】60名   [対 象] 主に日本語学校の教師・関係者、日本語教育ボランティア、日本語教育に関心のある方   [参加費] 無料 ※要予約   [講 師] 嶋田 和子 先生(『できる日本語』監修) 他『できる日本語』著者の先生方   [内 容] 『できる日本語』の輪が広がり続け、「実践について学べる場がほしい」という声がたくさん寄せられています。 そこで、現在『できる日本語』を使っていらっしゃる方々に向けて、「ブラッシュアップ講座」を開くこととしました。 当日は、具体例を挙げながらより良い実践について考えていきます。 事前にお寄せいただいた質問の中から共通の課題を取り上げ、ご一緒に解決に向けて考えていきます。 また、すでにあちらこちらで【できる日本語ネットワーク】が生まれていますが、今回の対面講座で、さらに新たな輪が生まれることをめざします。   [お問い合わせ・お申込み] 主催:アルク・凡人社 お問い合わせ・申し込み先(担当:凡人社/坂井)   E-mail:ksakai@bonjinsha.co.jp   ※下記お申込みフォームかQRコードかメールにてお申し込みください。 メールでお申し込みの際はタイトルに「日本語サロン研修会(●/●)@●●」と入れて、本文にご氏名・ご所属・ご連絡先をご記入ください。 ※●/●部分は開催日時と場所をご記入ください。   お申込みフォーム→https://x.gd/3kYVu
8月
5
10:00 AM 令和6年度日本語学校教育研究大会 @ 国立オリンピック記念青少年総合センター
令和6年度日本語学校教育研究大会 @ 国立オリンピック記念青少年総合センター
8月 5 @ 10:00 AM – 8月 6 @ 4:30 PM
令和6年度日本語学校教育研究大会 1 開催日時 本大会 2024年8月5日(月)10:00~16:45 8月6日(火)10:00~16:15 ポストセッション 2024年8月23日(金)19:30~21:00 2 会場 国立オリンピック記念青少年総合センター(東京都渋谷区) 3 参加方法 会場参加:8/5、6は会場参加。後日一部プログラムのアーカイブ配信視聴可。8/23ポストセッションに参加可。 オンライン参加:一部プログラムのライブ配信・後日アーカイブ配信を視聴可。8/23ポストセッションに参加可。 3 応募締切:2024年7月24日(水) 4 詳細、申込方法 https://www.nisshinkyo.org/news/detail.php?id=3163&f=news 「日本語教育の適正かつ確実な実施を図るための日本語教育機関の認定等に関する法律」施行に伴い、各校においては教育理念や到達目標、評価方法、および教育・学習内容等の見直しを進められていることと存じますが、認定されることがゴールではなく、その先を見据えて、自分たちの教育、および学校全体を見直し、リニューアルすることが大事なのではないでしょうか。 今回は、大会のテーマを「これからの新しい日本語学校の話をしよう」とし、プログラムを企画しました。 日本語学校教育に興味・関心をお持ちの方ならどなたでもご参加いただけます。 皆様のご参加お待ちしております。 【8/5】 講演「日本語教育機関の認定と登録日本語教員について」 (文部科学省総合教育政策局日本語教育課) 講演「技能実習制度及び特定技能制度をめぐる状況と育成就労制度の創設について」 新井靖久(出入国在留管理庁政策課 課長補佐) 講演「『逆向き設計』論に基づくカリキュラム設計-より良い教育評価を目指して」 奥村好美(京都大学 教育学研究科 教育学環専攻教育・人間科学講座准教授) パネルディスカッション 加藤早苗(インターカルト日本語学校 校長)亀田美保(大阪YMCA日本語教育センター センター長) 山本弘子(カイ日本語スクール 代表) 【8/6】 分科会Ⅰ「大学との教育連携を考える~送り出し側と受け入れ側の視点~」 分科会Ⅱ「自ら学び続けるために~学習者と教師のオートノミー~」 義永美央子(大阪大学 国際教育交流センター 教授) 分科会Ⅲ「モジュールボックスを使って学習活動と評価を考えよう!」 自由研究発表・ポスター発表・デモンストレーション・トーキングショップ 協賛団体紹介ブース 【8/23】 ポストセッション(オンライン交流イベント) 〔問い合わせ先〕一般財団法人日本語教育振興協会 事業部 小野寺陽子 TEL:03-6380-6557 FAX:03-6380-6587 E-mail: nisshinkyo2@gmail.com

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