「いま、ブラジルの日系社会が危ない」――日伯議連でブラジル日本語センター理事長が講演

「いま、ブラジルの日系社会が危ない」――日伯議連でブラジル日本語センター理事長が講演

日伯国会議員連盟(麻生太郎会長)が16日、衆院第二議員会館で、ブラジル日本語センター理事長の日下野良武(くさかの・よしたけ)氏を講師に招き特別講演会を開いた。日下野氏はブラジルの日系社会における日本語教育について「停滞から衰退の道をたどり始めている」と強い危機感を示し、日本政府に支援を訴えた。

日下野氏はブラジル在住36年。邦字紙のサンパウロ新聞の専務を務めるなどジャーナリストとしても活動。同時に日系社会の日本語教育の振興に努力してきた。講演のテーマを「いま、ブラジルの日系社会が危ない」としたのは、日系社会の文化の根幹である日本語教育が揺らいでいるからだ。

日下野氏は講演でまず、「ブラジルでの日本移民が協力して最初に作ったのが日本語学校だ」と指摘。当初はボランティア活動で、様々な苦労を重ねながらブラジル全土で350校もの日本語学校ができ、日本語教師1200人、学習者は2万3000人にまでなったという。その結果、日系社会の歴史や文化がいまに受け継がれ、政治、法曹、医学など各界で日系人が活躍する源泉になっている、と語った。日下野氏は「まさに日系社会の文化の根幹は日本語だ」と強調した。

ところが、最近は韓国、中国の進出が顕著で日系社会の存在感が薄れていると憂慮の念を隠さない。韓国人社会は韓国人学校をつくり、中国は孔子学院を有力大学の中に創設、中国語や中国文化の普及に力を入れている。韓国、中国は言語政策を国家戦略として力を入れているのに、日本は日本語教育の十分な法的整備すらないのが実情だ。

日系社会では、日本語教師が3世、4世の時代になり、日本文化に触れずに育った日本語教師が大半だという。このため「日本語による日本語教育」では十分な教育が出来なくなっており、「外国語による日本語教育」、つまりポルトガル語による教育に切り替える必要がある、と日下野氏は提案する。

日本からは、JICAや国際交流基金などの支援があるとはいえ、十分でないのは明らかだ。日本語教育、日本語教師の育成などに取り組むブラジル日本語センターの運営も資金繰りに追われる日々が続く。日下野氏は「手遅れにならないうちに日本国政府の多大なご理解、ご支援を切望するところです」と訴えた。

質疑では議員側から「日本語学校を日本文化の発信拠点に」「ブラジル人の日本語教師の養成を」など日下野氏の要望に対して理解を示し、後押しする意見が相次いだ。また、「どの程度の支援が必要なのか」と問われた日下野氏は、サンパウロに日本政府が35億円を投じて建設した「ジャパンハウス」の例を挙げながら、「日本語教育を恒久的に続けていくには10億円程度が必要だ」と述べた。ブラジルは金利が6%程度あり、10億円の基金があれば利息の運用により、日本語教育の振興策が可能だとの考えを示したわけだ。

この日の講演会は自民党文部科学部会、同党海外子女教育推進議員連盟が協賛。また、超党派の日本語教育推進議員連盟にも参加を呼び掛けた。日本語教育推進議員連盟は日本語教育推進基本法の制定を目指している。同議連の河村建夫会長は、今回の講演会を主催した日伯国会議員連盟の幹事長だ。河村氏は講演会の冒頭のあいさつで「日系人社会は4世、5世の時代となり、だんだん日本との関係が薄れていく。それを取り戻すのは日本語だ。そこをしっかりやらなければならない」と述べた。

日下野氏配布資料:今、ブラジルの日系社会が危ない

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6月
12
12:00 AM 留学生対象の日本語教師初任者研修... @ オンライン(ZOOM)
留学生対象の日本語教師初任者研修... @ オンライン(ZOOM)
6月 12 2024 @ 12:00 AM – 1月 31 2025 @ 12:00 AM
日振協による文部科学省委託の初任研修が今年も始まります。 告示校で10年程度専任で経験されている方対象です。 OJTで実際の運営に関わりながら研修運営を肌で学んでいただけます。 研修詳細は協会ホームページより、チラシと募集案内をダウンロードしてご確認ください。   「日振協 留学生対象の日本語教師初任者研修」は「オンライン映像講義」「(オンライン)集合研修」「自己研修(自律的学習)」の三位一体の編成により、①自律的・持続的な成長力 ②対話力 ③専門性という3つの資質・能力の育成を目指すもので、忙しい仕事の合間を縫って学べるよう、また地方の教育機関に所属している受講生への負担を減らすため、e-Learningを利用した研修となっています。 2020年度から、この初任者研修と並行して、「育成研修」を併せて実施しています。「育成研修」は初任者研修のサポートを行いながら研修の企画や実施方法を学び、将来全国各地で初任者研修の実施担当者として活躍していただく人材を育成する研修です。具体的には以下のことを目指しています。 ①初任者教員の協働的かつ自律的な学びを支援し、21世紀に活躍できる日本語教師としての資質・能力及びICT活用能力の獲得へと導く ②研修委員に必要な経験と能力を身につける 研修は、フルオンライン(zoom使用)で実施いたします。学内で初任者の指導を任されている方、地方在住でなかなか研修機会に恵まれない方など全国各地からご参加いただきたく存じます。修了生は今後実施委員になっていただく可能性もございます。どうぞ奮ってご応募ください。 チラシ(PDF 裏表2頁/1枚)
6月
29
12:00 AM 留学生に対する日本語教師初任研修 @ オンライン
留学生に対する日本語教師初任研修 @ オンライン
6月 29 2024 @ 12:00 AM – 1月 31 2025 @ 12:00 AM
本研修のカリキュラムは文化審議会国語分科会の「日本語教育人材の養成・研修の在り方について(報告)」に基づいており、初任者が体系的・計画的に日本語指導を行うための実践的能力として (1)自律的・持続的な成長力 (2)対話力 (3)専門性 の3つの資質・能力の養成を狙いとした90単位時間のプログラムです。忙しい仕事の合間を縫って学べるよう、また地方の日本語教育機関の新任の先生方への負担を減らすため、e-Learningを利用した研修となっています。 研修形態はフルオンラインです。昨年度同様、今後日本語教師にますます求められるであろうICT活用能力(オンライン授業やハイブリッド授業の実践等)に重点を置いた研修を行います。 つきましては、ぜひ多数の日本語教師初任者の方にご参加いただきたく下記のとおりご案内いたします。どうぞよろしくお願い申し上げます。 チラシ(PDF 表裏2頁/1枚)
7月
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1:30 PM 凡人社日本語サロン研修会 『でき... @ 大阪会場TKP 大阪本町カンファレンスセンター
凡人社日本語サロン研修会 『でき... @ 大阪会場TKP 大阪本町カンファレンスセンター
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凡人社日本語サロン研修会 『できる日本語』ブラッシュアップ講座 ~課題に向き合い、仲間とともに,より良い実践をめざしませんか~   [日時・会場・定員] 全日:13:30~16:00(受付開始 13:00) ※各会場先着順、定員になり次第締め切ります     【日付】2024/7/27 (土) 【会場】大阪会場TKP 大阪本町カンファレンスセンター(大阪市中央区久太郎町3-5-19) 【定員】80名   【日付】2024/9/1 (日) 【会場】福岡会場博多バスターミナル(福岡市博多区博多中央街2) 【定員】60名   [対 象] 主に日本語学校の教師・関係者、日本語教育ボランティア、日本語教育に関心のある方   [参加費] 無料 ※要予約   [講 師] 嶋田 和子 先生(『できる日本語』監修) 他『できる日本語』著者の先生方   [内 容] 『できる日本語』の輪が広がり続け、「実践について学べる場がほしい」という声がたくさん寄せられています。 そこで、現在『できる日本語』を使っていらっしゃる方々に向けて、「ブラッシュアップ講座」を開くこととしました。 当日は、具体例を挙げながらより良い実践について考えていきます。 事前にお寄せいただいた質問の中から共通の課題を取り上げ、ご一緒に解決に向けて考えていきます。 また、すでにあちらこちらで【できる日本語ネットワーク】が生まれていますが、今回の対面講座で、さらに新たな輪が生まれることをめざします。   [お問い合わせ・お申込み] 主催:アルク・凡人社 お問い合わせ・申し込み先(担当:凡人社/坂井)   E-mail:ksakai@bonjinsha.co.jp   ※下記お申込みフォームかQRコードかメールにてお申し込みください。 メールでお申し込みの際はタイトルに「日本語サロン研修会(●/●)@●●」と入れて、本文にご氏名・ご所属・ご連絡先をご記入ください。 ※●/●部分は開催日時と場所をご記入ください。   お申込みフォーム→https://x.gd/3kYVu
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10:00 AM 令和6年度日本語学校教育研究大会 @ 国立オリンピック記念青少年総合センター
令和6年度日本語学校教育研究大会 @ 国立オリンピック記念青少年総合センター
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一般財団法人日本語教育振興協会では、日本語教育機関に勤務する教職員等のための「日本語学校教育研究大会」を実施しております。 今年度は2024年8月5日(月)・6日(火)に、5年ぶりの対面開催で行います。 大会では、各日本語教育機関における実践・事例の報告の機会として、発表の場を設けています。 意見・アイディア交換の場としてぜひご活用ください。 皆様からのご応募お待ちしております。 発表応募締切:2024年5月15日(水) 発表応募要項・申込方法: https://www.nisshinkyo.org/news/detail.php?id=3076&f=news ※プログラム内容・参加お申込み方法など、大会の詳細については、 随時 https://www.nisshinkyo.org にてご案内してまいりますので、ぜひご覧下さい。

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