三重県の児童相談所が「24時間多言語電話通訳」 定住外国人の子供たちの「未来」をアドバイス

三重県の児童相談所が「24時間多言語電話通訳」 定住外国人の子供たちの「未来」をアドバイス

2018年11月より、三重県の児童相談所で24時間多言語電話通訳の対応が始まりました。外国につながる子供たちの相談件数が増加したことによって、今回の事業が実現しました。児童相談所の「24時間多言語相談」は全国でも初めての試みではないかと思います。

在日外国人の支援に取り組む私たちNPO法人「愛伝舎」は、2005年に活動を始めましたが、その活動の一つが電話通訳でした。外国人入居者が増えている公営住宅や保健所の電話通訳に取り組みました。日常の生活の場面で通訳が必要な場合、学校や役所に配置されている人が通訳する場合と、外国人が自分で通訳者を探して連れていくケースがあります。しかし、携帯電話を使って行う場合、電話をかければ通訳が使えるのですから、人を探す手間もいりません。電話通訳は、非常に経済的で効果的な方法なのです。

通訳というと、ビジネスや国際会議の場で行われる英語が多く、通訳者は専門的なスキルを求められます。研修制度もあり、プロとしての報酬もあるのが一般的だと思います。これに対し、海外での生活経験のある人や日本語が多少わかる在日外国人が行う「コミュニティ通訳」には、明確な資格や基準、研修などがありません。そのためにコミュニケーションが十分にとれないなどの問題もあります。以下、「コミュニティ通訳」の課題を挙げてみます。

1、専門的なスキルについて 

日本に働きに来て、段々日本語が上手になった人が学校や役所で通訳として働くようになった人が多いのが、「コミュニティ通訳」の領域ではないでしょうか。英語のように、TOEICやTOFULなどで明確に測れる基準もなく、日本人側に通訳者の実力を客観的に測るものがないことが多いかと思います。

語学の質、公平性、守秘義務順守など、通訳の専門家としてのプロの意識が求められます。

2、守秘義務の厳守 

特に守秘義務が重要です。通訳者は外国人住民と同じ地域に暮らしているため、相談者の話が外部に漏れると、プライバシーが同じコミュニティの中で暮らしている人に知られてしまう恐れがあります。発達障害の診断の際に、保護者に通訳者を連れてくるように伝えている自治体もあります。そうした場合は、個人のプライバシーをきちんと守る仕組みが必要です。少し日本語が上手だからというだけで母語がわかる在日外国人に安易に通訳を頼むことは避けるべきではないでしょうか。

3、コミュニティ通訳への認識の不足 

多くの場合、外国人住民の多い自治体は、コミュニティ通訳が配置されていると思いますが、雇用する自治体の側にも、通訳者のレベルを測るノウハウはなく、研修制度もないことが多いでしょう。また、通訳を依頼する外国人側も、自分の意見をうまく表現することに慣れていないケースがあります。

最初は、電話で本当に通訳ができるのか、と疑問に思う人もいましたが、愛伝舎の電話通訳は、隣に通訳がいるのと同じように通訳ができることが理解されるようになりました。また、守秘義務を理解した通訳者が電話通訳を行うことで、依頼者のプライバシーが守られ、依頼者が自分の問題を安心して話せるというメリットもわかりました。電話通訳を採用する側(自治体など)からすると、当初はシステムに対する懸念があるかと思いますが、外国人側は、プライバシーの保護、公平性が守られることの重要が理解されます。

以上のような課題を踏まえて、三重県の児童相談所が、24時間多言語電話通訳の対応を始めた意義は大変大きいと思います。愛伝舎が対応していたのは南米日系人向けのポルトガル語とスペイン語限定で、時間も平日の日中のみでしたが、今回三重県では13か国語(24時間対応―英語、中国語、韓国語、ポルトガル語、スペイン語、タガログ語、日中対応―ベトナム語、インドネシア語、タイ語、フランス語、広東語、ロシア語、日本語)で対応しています。こうした対応は、多言語の通訳の専門会社に委託したからこそできたのです。先駆的な三重県の取り組みに期待しています。

日本で暮らすことになった外国につながる子供の人生を大きく左右する場面で、専門的で公平な通訳が入ることは、子供への的確な判断、対応につながっていく可能性が増すはずです。私たちは「国籍にかかわらず、地球で育つすべての子供たちの幸せ」を願い、守る存在でありたいと思います。政府は来年4月から、外国人労働者の受け入れを拡大する方向で準備を進めています。政府は、労働者として外国人を受け入れる方針ですが、いずれ子供や家族も日本の社会で暮らすことになると思います。虐待や発達障害、病気の診断など、人生にかかわる場面では、特に適切な通訳が必要です。三重県で始まった24時間多言語電話通訳サービスが、全国に広がっていくことを願っております。

NPO法人 愛伝舎  坂本久海子

 

坂本 久海子(さかもと・くみこ)寄稿者

投稿者プロフィール

NPO法人愛伝舎理事長。静岡県熱海市出身。明治学院大学社会学部卒業。1993年ー98年にブラジル滞在。帰国後2002年より、三重県鈴鹿市の小学校で国際教室の講師として、日系人の子供たちの教育に携わる。2007年発足の超党派での「三重多文化共生を考える議員の会」の結成に関わり、地元の政治家への働きかけも行っている。

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令和7年度日本語学校教育研究大会 @ 国立オリンピック記念青少年総合センター
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