災害時の外国人への情報提供 改めて「やさしい日本語」を考える

災害時の外国人への情報提供 改めて「やさしい日本語」を考える

日本経済新聞は9月25日の社説で「災害時は外国人にもきめの細かい情報を」と訴えた。北海道や関西での相次ぐ災害を踏まえ、外国人のための防災対策を強化するよう呼びかけた。「外国人受け入れ」に熱心な日経新聞らしい「気配り」を感じさせる社説だ。ただ、触れてほしかったことが一つある。防災のための「やさしい日本語」だ。

社説は「自治体の防災無線やニュースの字幕など、緊急時の災害情報は主に日本語で提供されている。外国人の多くは地震や津波の知識も乏しい。震度の数字や地名だけでは災害の全体像は理解しづらく、不安やデマを生みかねない」と注意を喚起する。まさにその通りだと思う。いまの対応策で十分ではないのは明らかだ。

また、社説では観光庁が東日本大震災を体験した外国人に聞き取りをした情報を紹介する。「日本国内のサイトより母国のメディアや交流サイト(SNS)に頼っていたことがわかった」というのだ。そのうえで「日本の出先機関が各国で積極的に正確な情報を流すのも手だろう」と提案する。「日本の出先機関」とは在外公館か政府系機関の海外事務所を指すと想像するが、政府がそこまで問題意識を持つことができれば、効果があるに違いない。

さらに、こんなアドバイスもしている。自治体国際化協会(クレア)がネットで公開している「災害時多言語情報作成ツール」の活用だ。総務省の外郭団体のクレアは自治体の国際交流協会などの団体とつながっている。「ツール」はトイレ、充電、医療などに関する注意書きを多言語で紹介している。これを民泊業者などがダウンロードして事前に印刷しておけば、いざという時に外国人に手渡しするだけで必要最小限の危機管理に関する情報を提供できるという。

こうした多様な情報提供が外国人観光客にとって、親切な対応であることは間違いない。それは従来の観光サービス以上のものだ。社説が主張するような「きめ細かい情報」を実際に提供できれば、外国人観光客に「安心・安全」の日本側の気配りが伝わるだろう。

社説としては問題意識が明確であり、提案も具体的だ。にもかかわらず、あえて「やさしい日本語」に言及して欲しかったというのは、在留外国人にとって防災・減災に大きく役立つからだ。バイリンガルの在留外国人に情報が伝われば、彼らから母国語で必要な情報が広がる可能性もある。

防災・減災にやさしい日本語は、1995年の阪神大震災をきっかけに研究が始まった。阪神大震災では在留外国人の死傷者の割合が日本人より多かった。どうしてか。避難、誘導、救済措置などの情報が通常の日本語では在留外国人に十分理解されなかったからだ。そうした反省をもとに分かりにくい防災情報を「やさしい日本語」に置き換える取り組みが始まった。それを主導し普及に尽力する弘前大学の佐藤和之教授は消防庁から表彰も受けている。一部の消防署や自治体では職員研修も始まっている。NHKは「NEWS WEB EASY」というサイトを創設し、在留外国人向けに「やさしい日本語」の情報発信を行っている。

「やさしい日本語」には、波及効果が期待できる。在留外国人の260万人を超えたが、彼らに日本国内の情報を母国語で伝えるエスニックメデァイが数多くある。10年ほど前には外国語の新聞、雑誌、インタネットラジオなどが200もあったと聞いている。エスニックメディアの担当者はバイリンガルだ。彼らにも「やさしい日本語」の方は親切だ。きめの細かい情報を伝え、翻訳してもらい母国語で情報発信してもらえば、在留外国人にも外国人観光客にも必要な情報が伝わる可能性が大きい。

外務省には「フォーリンプレスセンター」という関係組織がある。海外に本社を置く海外メディアの日本特派員に情報を発信する場だ。数年前、日本国内のエスニックメディアの記者をオブザーバー参加させるようになったという。海外のメデァイも重要だが、身近な海外メディアへの情報発信も重要なずだ。エスニックメディアは日本の文化や慣習も知っているし、社会情勢に関する情報も持っている。

地震や風水害は日本を避けて通ってくれない。そのための備えは万全であるべきだ。日本は観光の面でもなお、「安心・安全」がウリである。これは日本人にとっても、手放すわけにはいかない重要な「価値」だ。では、どうすればいいのか。日経新聞の社説がそれをほとんど語っている。それに付け加えたいのが「やさしい日本語」だ。

石原 進

石原 進(いしはら・すすむ)日本語教育情報プラットフォーム代表世話人

投稿者プロフィール

「にほんごぷらっと」の運営団体である日本語教育情報プラットフォーム代表世話人。元毎日新聞論説副委員長、現和歌山放送顧問、株式会社移民情報機構代表取締役。2016年12月より当団体を立ち上げ、2017年9月より言葉が結ぶ人と社会「にほんごぷらっと」を開設。

この著者の最新の記事

関連記事

コメントは利用できません。

イベントカレンダー

4月
20
2:00 PM 凡人社オンライン日本語サロン研修... @ オンライン
凡人社オンライン日本語サロン研修... @ オンライン
4月 20 @ 2:00 PM – 3:30 PM
凡人社オンライン日本語サロン研修会 Can-do を学習目標にした授業や評価のあり方がわかる! 『Can-do で教える 課題遂行型の日本語教育』刊行記念イベント   [日 時] 2024年 4月20日(土)14:00~15:30(オープン 13:40)※日本時間   [定 員] 250名(先着順、定員になり次第締め切ります)   [対 象] 日本語教師、日本語教育をこれから学ぶ方、日本語教育の動向に関心のある全ての方   [参加費] 無料 ※要予約 前日(4/19)17 時までに招待URLを送ります   [講 師] 来嶋 洋美 先生 八田 直美 先生 二瓶 知子 先生   [内 容] 『Can-do で教える 課題遂行型の日本語教育』(三修社発行)の出版記念イベントです。 日本語教育の参照枠ができ、4月からは日本語教育機関の認定等に関するもの、また、登録日本語教員の国家資格など新しい法律も施行される中、参照枠に沿った日本語教育、その授業の具体的な内容や方法については教師に委ねられているのが現状です。 参照枠やJFスタンダードに沿った日本語教育とはどんなものなのか、従来通りのやり方からどう変えていったらいいのか、今知っておきたい情報を本書の内容をご紹介しながらお話ししていきます。   [お問い合わせ・お申込み] 主催:三修社・凡人社 お問い合わせ・申し込み先(担当:凡人社/坂井)   E-mail:ksakai@bonjinsha.co.jp   ※下記お申込みフォームかQRコードかメールにてお申し込みください。 メールでお申し込みの際はタイトルに「オンライン日本語サロン研修会(4/20)」と入れて、本文にご氏名・ご所属・ご連絡先をご記入ください。   お申込みフォーム→https://x.gd/JDs6P
4月
21
10:00 AM 第16回:Diffit(ディフィット):... @ オンライン(ZOOM)
第16回:Diffit(ディフィット):... @ オンライン(ZOOM)
4月 21 @ 10:00 AM – 11:30 AM
Diffitは、指定したトピックやキーワード、またネット上のニュース記事や YouTube、さらにはオリジナルの文章などから、 学習者のレベルに合わせた読解教材や語彙リストなどをAIが“自動”で作成してくれる便利なツール!編集機能を使えば、文章の長さや語彙、質問事項の追加なども可能です。 本ワークショップでは、すでに公開されているこちらの動画(https://youtu.be/6g_8eddWoBM?si=7bSsR0avH2BapzVW)と同じ内容を扱います。 動画を見ながらやろうとしたけどわからなかった、一人でやるより他の先生方と一緒に楽しく学びたい!教材を共有したい!という方のご参加をおすすめします。 ▼体験会のゴール(予定) キーワードやトピックから問題を作成&編集することができる ネット上のニュース記事や動画から問題を作成&編集することができる 作成した問題の整理&共有をすることができる エクスポート機能を使ってハンドアウトやGoogleフォーム(※有料機能)に変換できる
10:00 AM 第16回:Diffit(ディフィット):... @ オンライン
第16回:Diffit(ディフィット):... @ オンライン
4月 21 @ 10:00 AM – 11:30 AM
Diffitは、指定したトピックやキーワード、またネット上のニュース記事や YouTube、さらにはオリジナルの文章などから、 学習者のレベルに合わせた読解教材や語彙リストなどをAIが“自動”で作成してくれる便利なツール!編集機能を使えば、文章の長さや語彙、質問事項の追加なども可能です。 本ワークショップでは、すでに公開されているこちらの動画(https://youtu.be/6g_8eddWoBM?si=7bSsR0avH2BapzVW)と同じ内容を扱います。 動画を見ながらやろうとしたけどわからなかった、一人でやるより他の先生方と一緒に楽しく学びたい!教材を共有したい!という方のご参加をおすすめします。 ▼体験会のゴール(予定) キーワードやトピックから問題を作成&編集することができる ネット上のニュース記事や動画から問題を作成&編集することができる 作成した問題の整理&共有をすることができる エクスポート機能を使ってハンドアウトやGoogleフォーム(※有料機能)に変換できる
4月
27
1:30 PM 凡人社日本語サロン研修会 『でき... @ 東京会場凡人社麹町店
凡人社日本語サロン研修会 『でき... @ 東京会場凡人社麹町店
4月 27 @ 1:30 PM – 4:00 PM
凡人社日本語サロン研修会 『できる日本語』ブラッシュアップ講座 ~課題に向き合い、仲間とともに,より良い実践をめざしませんか~   [日時・会場・定員] 全日:13:30~16:00(受付開始 13:00) ※各会場先着順、定員になり次第締め切ります   【日付】2024/4/27 (土) 【会場】東京会場凡人社麹町店(千代田区平河町1-3-13 平河町フロントビル8階 【定員】30名   【日付】2024/5/19 (日) 【会場】名古屋会場ECC 日本語学院名古屋校(名古屋市中区金山1-16-16 金山ビル) 【定員】60名   【日付】2024/6/29 (土) 【会場】札幌会場札幌青葉鍼灸柔整専門学校(札幌市中央区南3条東4丁目1-24) 【定員】50名   【日付】2024/7/27 (土) 【会場】大阪会場TKP 大阪本町カンファレンスセンター(大阪市中央区久太郎町3-5-19) 【定員】80名   【日付】2024/9/1 (日) 【会場】福岡会場博多バスターミナル(福岡市博多区博多中央街2) 【定員】60名   [対 象] 主に日本語学校の教師・関係者、日本語教育ボランティア、日本語教育に関心のある方   [参加費] 無料 ※要予約   [講 師] 嶋田 和子 先生(『できる日本語』監修) 他『できる日本語』著者の先生方   [内 容] 『できる日本語』の輪が広がり続け、「実践について学べる場がほしい」という声がたくさん寄せられています。 そこで、現在『できる日本語』を使っていらっしゃる方々に向けて、「ブラッシュアップ講座」を開くこととしました。 当日は、具体例を挙げながらより良い実践について考えていきます。 事前にお寄せいただいた質問の中から共通の課題を取り上げ、ご一緒に解決に向けて考えていきます。 また、すでにあちらこちらで【できる日本語ネットワーク】が生まれていますが、今回の対面講座で、さらに新たな輪が生まれることをめざします。   [お問い合わせ・お申込み] 主催:アルク・凡人社 お問い合わせ・申し込み先(担当:凡人社/坂井)   E-mail:ksakai@bonjinsha.co.jp   ※下記お申込みフォームかQRコードかメールにてお申し込みください。 メールでお申し込みの際はタイトルに「日本語サロン研修会(●/●)@●●」と入れて、本文にご氏名・ご所属・ご連絡先をご記入ください。 ※●/●部分は開催日時と場所をご記入ください。   お申込みフォーム→https://x.gd/3kYVu

注目の記事

  1. 国籍法違憲訴訟で最高裁が上告を退ける 外国の国籍を取得すると日本国籍を失い、二重国籍を認められ…
  2. 移民政策の先駆者・故坂中英徳さんを偲んで 元東京入管局長で移民政策研究所所長の坂中英徳…
  3. 認定日本語教育の法案を閣議決定、国会に提出 政府は2月21日、「認定日本語教育機関」と「登録日…

Facebook

ページ上部へ戻る
多言語 Translate