高度な外国人材の育成を その基礎となるのが日本語教育だ

高度な外国人材の育成を その基礎となるのが日本語教育だ

かつて巨大な軍事力を持つ大国が、アジアの小国ベトナムに襲いかかった。ベトナム戦争は当時、新聞だけでなくTVでも映像化され、高校生だった私に大きな影響を与えた。大学闘争の盛んだった1960年代の後半、B.ディランやR.ストーンズに影響を受けながら「戦争と殺戮」というものに立ち向かう自分がそこにあった。何十万人もいたそんな団塊の世代の私がいま、月の半分はベトナムで暮らしている。すでにハノイをコアに約25年間ベトナムで仕事してきた。去年夏70歳になった。人生の後半戦はベトナムをリングにして闘ってきたと言える。

ここ10年余り、私が代表の「VCIアカデミー」はベトナムの優秀な若者に日本語や日本社会の構造、日本のビジネスマインドなどを教え、「日本に行ってサムライになれ!」と送り出している。日本の中小企業で頑張っている「高度人材」は380人を超えた。

日本政府は昨年暮れの臨時国会で強引に入管法を改正し、この4月から「特定技能」という新たな在留資格で外国人労働者を受け入れようとしている。日本の労働力不足、人材不足は私自身も実感している。しかし、政府の今回のやり方には違和感を覚えざるを得ない。その想いを含め「ハノイ発」で考えを発信したい。

ベトナムから日本に働きに行く方法は、大きく言って二通りある。技能実習生と「技術・人文知識国際業務」など在留資格を取得する、いわゆる高度人材だ。実習生の制度は、ベトナムの送り出し会社(よくある名称は、**人材輸出会社)が、100万円前後の高額な手数料を実習生の家族から搾取している点が批判を浴びている。

どう考えてもそれは、正常なビジネスには見えないので、当アカデミーでは、高度人材(大卒、大学院卒者)のみを扱ってきた。7年前からは農業技術者(大卒)もこのカテゴリーで、対応してきた。私たちは「教育は本来非効率なもの」と割り切り、「人材」を「人財」にすべく丁寧な育成を継続してきた。

「特定技能」など新しい制度(まだよく公表されていない)は、不足する労働力をその場しのぎで対応しているようにしか見えない。AIロボットや、多様な分野での自動化との連動施作もない。さらに、きてくれる外国人に対する人権的な配慮などほとんど感じられない。彼らの向上心や夢などお構いなし。そのための育成策もほとんど見えてこない。特に大切な日本語教育をどうするのか。

当アカデミーに入校するのは、ハノイ工科大、ハノイ貿易大、ハノイ交通運輸大などの一流大学を卒業し、日本社会で活躍すると決意した若者たちばかりだ。日本語能力試験でN4かN3のレベル。成績優秀者だけに入学を認め、オリジナルの教育プログラムやノウハウで人材を育ててきた。、日本の中小企業に正社員として送り出している。努力した若者は大抵日本人と同様にエンジニアや管理職になり第一線で活躍している。

庭付き一戸建ての家やマンション購入したものも少なくない。

学生たちに重要項目として何度も教えてきたことがある。エンジニアを目指すなら、レベルを上げ、就職先の企業でトップエンジニアになること。そのためには「技術雑誌」を読みこなし、テレビの「科学ドキュメント」を理解し、高位の技術系資格を取ることも強く推奨している。日本には一級建築士、技術士、ネットワークスペシャリスト、電気主任、板金技能など、多様な資格(免許)が数百はある。卒業生で一級建築士などを取った者もいる。今後文系が増えれば、通訳案内士、税理士なども出るだろう。10数年後、日本語と日本の情報、技術を持ち帰って母国で活躍して欲しいということだ。

また、仕送りでなく、「日本でお金を使え」ともいっている。「富士山に登れ」「京都、奈良にいけ」「北海道の美しさ見て」「大きな神社・お寺に行って」「秋葉原に通え」「大学キャンパス、小中高の授業も見ればいいと」「SNSはせずテレビを見ろ」「大きな書店を散策してみよ」……。VCIアカデミーの出身者で、日本で結婚し生まれた「VCIファミリー」の子供も30人ぐらいになった。そうした先輩を訪ねることも勧めている。

日本で成功するには、日本語をしゃべるだけでなく、日本語をより深く理解することが必要だ。言葉は「社会や文化、個々人の心と体の総合体」だ。言葉は、道具や生活技術では決してない。社会と多様な文化の泉から湧き出てきたものと言って良い。

その日本語によって、アニメや漫画、ゲーム、映画、文学、コスプレなどの情報が海外に発信されている。そうした日本語や日本文化が日本ファンを増やしている。年間3000万人に達した外国人観光客も日本語ファンの予備軍ではないか。

ハノイのテレビでは約70チャンネルが見られる。ディズニー含むアメリカ系2つ、韓国、中国、旧宗主国のフランスも2チャンネルある。全部、自国語とベトナム語で多くが24時間放送し、各国の文化・トレンドを垂れ流している。しかし、我が日本は、NHKが1チャンネル、それも半日の間に同じコンテンツを英語と日本語で、何回も放映している。民放も一部で始まったが、量質ともに他の国に大きく後れを取っている。ただちに日本語とベトナム語で、「アニメちゃんねる」と「ニュース・ドラマ・ドキュメントのチャンネル」を開始すべきではないか。世界第3位の経済大国だと威張っていながら、どうしてその程度のコスト負担ができないのか。長年現場にいる人間として焦燥感を抑えることができない。 

いまさら指摘するまでもなく、日本は究極の人口減少時代を迎える。1億2700万人が50年後には9000万人弱にまで激減すると予測されている。人口減少を補うには、より優秀で日本が大好きな外国人を受け入れる必要がある。そのミッションを先駆的にはたしているのが、VCIアカデミーだ。そんな自負を持って人材育成に取り組んでいるが、基本となるのが日本語だ。日本語をしゃべり、理解する外国人を増やすこと。言葉を代えれば、「日本語人口」の拡大だ。それは。人口減少時代の日本が優先的に取り組むべき国策ではないか。中国の孔子学院展開に学び、日本語の世界展開が望まれる。

つまり、きちんと認識してほしい、「国力は日本語」なのである。日本語が国力の実はコアなのだ。わかりやすく、美しく、そして日本文化総体のエッセンスである日本語を世界の若者に伝えよう。

ここに国力や人口減問題の要がある。

阿部正行

阿部 正行

投稿者プロフィール

1948年(昭和23年)8月 仙台市生まれ。早稲田大学第一法学部中退。大学時代から、東映でテレビドラマ制作に携わる。リクルート、ダイヤモンド・ビック社などを経て1993年2月にマーケティングの仕事でベトナムへ。2004年10月にNPO法人 VCI人材戦略研究所を設立、代表理事に就任。
2005年にハノイVCIアカデミー設立。ハノイ工科大卒の約150人を含む優秀なベトナムの若者約370人(2019年1月現在)を日本の中小企業に正社員として送り出してきた。2017年3月 ハノイに農業マッチング会社VAIO設立。2018年11月CAN THO市に農業技術者育成学校(VCIの分校)を設立。ベトナムでは、元国家主席など多数の人脈を持つ。

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終日 留学生に対する日本語教師初任者研修 @ オンライン開催
留学生に対する日本語教師初任者研修 @ オンライン開催
7月 1 2023 – 1月 3 2024 終日
日振協による文化庁委託の初任者研修が今年も始まります。 告示校で3年程度までの経験者対象です。 映像講義の視聴とテスト、数回のオンライン集合研修、自分の授業を改善する自己研修の3つに分かれており、様々な角度からの学びと教師としてのステップアップを目指せるカリキュラムとなっております。 研修詳細は https://www.nisshinkyo.org/index.php 最新トピックスをご覧ください。
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全8回_【少人数】養成講座修了者向... @ オンライン開催
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全8回_【少人数】養成講座修了者向け日本語教師実践スキルアップコース_23年10月17日(火)~12月5日(火)毎週火曜13:00-15:00 @ オンライン開催
【少人数】全8回_養成講座修了者向け日本語教師実践スキルアップコース_初級 初級の実習(技能別)を徹底的に復習できます。 養成講座の授業を担当しているTCJ日本語教師養成講座の専任教務リーダーが教育実習を指導する講座です。 【講師】 岩崎 透(TCJ日本語教師養成講座 教務リーダー) 経歴:大学卒業後、印刷会社大手に入社。国内MBAを取得し、国際協力活動に従事し複数の国で日本語を教えはじめる。その後、異文化理解と日本語教育への関心が深まり、筑波大学大学院にて日本語教育を専攻。修了後は、国際交流基金にてインドネシアで教師育成研修を推進。帰国後TCJ入社。現在は養成講座の教務リーダーとして実技指導の教壇に立ちながら、日本語教師の新任研修や育成サポートも実施。 Youtubeでも活躍中 https://www.youtube.com/@nihongo_kyoushi_yousei/about 【こんな方にお勧め】 ・自分の授業の進め方に自信がない方 ・受講生とのコミュニケーションの取り方が不安な方 ・経験したことのないレベルを担当することなった方 ・資格は取ったけど、実際の教壇に立つまでに再度実技を学んでおきたい方 ・職場の人に聞きにくいことについて、情報交換・知識交換をしたい方 ・対面授業しか経験がなく、オンラインでの授業もできるようになりたい方 【対象】養成講座を修了している方 ※TCJ養成講座以外の方もご参加いただけます。 【講座回数】 計8回(約2か月) 【総講座時間】 16時間(週1回/1回2時間) 【日時】 10月17日~12月5日まで。毎週火曜日13:00-15:00 (10/17、10/24、10/31、11/7、11/14、11/21、11/28、12/5) 【講座内容】 第01回 文法「聞きにくい…、初級文法の授業ってこれでいいの?」 第02回 文法 模擬授業(普通形・名詞修飾) 第03回 読解「初級の読解って語彙じゃない…?どうやってやると効果的?」 第04回 読解 模擬授業(トピック導入・大意取り・精読) 第05回 聴解「聴解って、音声流して、解答言って、再度聞いて…。このやり方でいいのかな?」 第06回 聴解 模擬授業(聴解授業のやり方) 第07回 会話「会話の授業が丸暗記の授業になっちゃう。学生は楽しそうにしてるけど…これでいいのかな?」 第08回 会話 模擬授業(タスク中心の授業、ICTツールも使いこなそう!) 【受講料】 88,000円(税込) 【受講形式】 オンライン(Zoom) 【修了書発行基準】 全8回のうち、6回以上出席、かつ、偶数回(模擬授業の回)の全参加の方に、受講修了書を発行いたします。 ※奇数回は、録画します。欠席された方は動画でキャッチアップいただけます。 ※全8回における修了書発行のため、1回ずつの申込はできません。 【定員】 12人(少人数制) 【問い合わせ先】 東京中央日本語学院 養成講座事業部 https://xn--euts3n8lg6bk91h.jp.net/
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日本語教師のためのじっくり学ぶ講... @ オンライン(ZOOM)
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