文化庁が公認日本語教師の制度化に向け「報告概要案」提示 「文科省告示日本語学校」を求める声も 第6回日本語教師の資格に関する調査研究協力者会議

文化庁が公認日本語教師の制度化に向け「報告概要案」提示 「文科省告示日本語学校」を求める声も 第6回日本語教師の資格に関する調査研究協力者会議

文化庁は5月31日、第6回日本語教師の資格に関する調査研究協力者会議(西原鈴子座長)を開催した。これまでの会議では国家資格の公認日本語教師の要件や日本語教育機関について「留学」「就労」「生活」の3類型の在り方が検討されたが、文化庁はこの日、類型の全体像案や「日本語教師の資格及び日本語教育機関の水準の維持向上を図るための仕組みの在り方について」(報告概要案)を提示した。最終報告書の作成に向けて議論が具体化してきた。

この日の会議では、まず日本語学校関係6団体の事務局担当の谷一郎、森下明子両氏からヒアリングを行った。両氏は6団体がまとめた意見書に沿って日本語学校の立場から公認日本語教師の資格の在り方や日本語教師の類型化に関する意見を述べた。

https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kondankaito/nihongo_kyoin/pdf/92369001_01.pdf

この中で6団体は公認日本語教師の制度化にあたって現在の日本語教師や日本語学校が不利益をこうむらないことなど注文や要望を盛り込んだ。また、日本語学校が「留学」として類型化をされていることについて、「日本語学校は大学、専門学校の進学予備機関として位置づけられているが、就職を目的に日本語を学ぶ学生が増えるなど目的が多様化している」として、「留学」という言葉が必ずしも現実にマッチしたものではないとの認識を示した。

続いて文化庁は「留学」「就労」「生活」の日本語教育機関3類型の全体像を図示する資料を示し、事務当局の考えを説明した。

https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kondankaito/nihongo_kyoin/pdf/92369001_02.pdf

公認日本語教師の資格の取得については、主に日本語学校の教師が想定されている。このため資料では文部科学省が「留学」を認定するための第三者機関の創設に重点が置かれている。同機関が法務省の告示基準の評価項目に新たな審査項目を加え、教育内容を審査。そのうえで法務省が日本語教育機関を告示する仕組みを提示した。これに関連して協力者会議の委員からが、実質的に文科省指定の第三者機関が認定権を持つのであれば、現行の法務省告示を文部科学省告示にすべきではないか、との意見があった。現状では法務省が入管法に基づいて告示校を認定しているが、日本語教育推進法が制定されたこともあり、「文科省告示日本語学校」との議論としては成り立ちそうだ。ただ、文科、法務両省の詰めた協議が必要で、実現にはそれなりのハードルがあるものとみられる。

さらに提示された「報告概要案」は、「日本語教育の資格について」と「日本語教育機関の水準の維持向上を図るための仕組みについて」の2分野で構成され、最終報告書のたたき台となるとみられる文書だ。

https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kondankaito/nihongo_kyoin/pdf/92369001_03.pdf

今回を含め6回を数える調査研究協力者会議の当初の目的は、「日本語教師の資格制度の詳細について検討すること」(2020年4月の文化庁次長決定)だ。検討事項としては①試験②指定試験実施機関・指定登録機関の役割③更新講習――を挙げた。「日本語教師の資格の在り方」については、2018年に文化審議会国語分科会で報告書をまとめており、その線に沿って議論を進めるはずだった。

ところが、日本語教師の国家資格創設には「日本語教師」の存在を法的に位置づけるための工夫が必要だとされ、日本語教育機関の類型化の議論が始まった。このあたりから議論が複雑化する。「留学」「就労」「生活」の類型化によって協力者会議の委員に外国人の就労や生活支援の詳しい識者が加わり、議論の範囲が広がった。

こうした議論の中で提示された「報告概要案」は、日本語教育の「現状」とは内容に多少乖離が見られ、実際の日本語教育の現場からみるとわかりにくい文書となっているのも事実だろう。公認日本語教師の資格要件が後退するなど方針に変化があったことへの説明も不十分だ。

このため第6回会議で委員から「日本語教育の実態を明らかにすべきだ」という意見が出た。議論の前提にすべきものがないという指摘だ。その理由は簡単だ。政府・文部科学省が日本語教育を「教育」として位置付けていない。そのツケが表面化したかっこうだ。

ただ、これは公認日本語教師という新たな国家資格を創設するための「政治的な文書」だと考えれば、文化庁の意図はよりわかりやすくなる。公認日本語教師の創設は関係者にとっては〝悲願〟でもある。来年の通常国会への法案提出を既定路線として掲げた以上、その方針を実現するためのロジックが必要だ。表現や内容の是非はともかく、「ツジツマ合わせ」を重視した文書となった感はいなめない。

報告概要案に記された「指定試験実施機関」や「指定登録機関」が現実に設立されれば、法的に位置づけられた公認日本語教師が誕生する段取りが整うことになる。その過程で、日本語教育の位置づけが大きく変わっていく可能性がある。日本語教育が「教育」として扱われればならない状況が生まれてくることが考えられる。そうなれば「文科省告示日本語学校」への道筋ができる可能性もある。

調査研究協力者会議は政策を決定する機関ではない。有識者から幅広く意見を聞く場だ。今回は日本語学校の団体からも意見を聞いた。政策判断は行政(文化庁)の責任で行うことになるが、集積された意見は「日本語教育の将来」につながるに違いない。残された会議は2回程度といわれる。終盤にきて議論は迷走しているように見る人もいるかもしれないが、多くは有意義な意見だった。

とはいえ、公認日本語教師の議論は一般の人には分かりにくいはずいだ。「資格がないと日本語教師ができない」「失職するのではないか」という誤解もなお少なからずあるようだ。文化庁は会議の運営とは別に、外部に向けてのより丁寧な説明が求められる。

にほんごぷらっと編集部

にほんごぷらっと編集部にほんごぷらっと編集部

投稿者プロフィール

「にほんごぷらっと」の編集部チームが更新しています。

この著者の最新の記事

関連記事

コメントは利用できません。

イベントカレンダー

6月
28
終日 第34回小出記念 日本語教育学会 年... @ オンライン
第34回小出記念 日本語教育学会 年... @ オンライン
6月 28 終日
開催日:2025年6月28日(土) ・場所:オンライン(Zoom) ・予定(日本時間): 9:40-10:10 会員総会 10:20-10:30 開会・プログラム説明 10:30-12:20 講演   「対話を通した学習者オートノミーおよびウェルビーイングの促進」 講師:加藤聡子氏(神田外語大学 学習者オートノミー教育研究所 特任准教授) 13:20-16:50 口頭発表 16:55-17:10 総括 ・参加費:会員無料・非会員2000円(発表者以外の参加申し込み方法は5月下旬にお知らせします)
7月
5
終日 日本語ジェンダー学会 第25回年次... @ 実践女子大学(渋谷キャンパス)
日本語ジェンダー学会 第25回年次... @ 実践女子大学(渋谷キャンパス)
7月 5 終日
第25回年次大会 研究発表募集要項 2025年7月5日(土)に実践女子大学(渋谷キャンパス)にて開催される、第25回年次大会での研究発表を募集します。以下の要領でお申込みください。  発表資格: 研究代表者=当日の発表者は、応募および発表時点で当学会の会員である必要があります。会員登録は、当学会事務局で随時受け付けておりますので、応募時までに会員登録をお済ませください。 会員登録はこちら新しいウィンドウで開きますからお願いします。 なお、研究代表者以外の連名者は、会員・非会員は問いませんが、採択された場合、後日の参加申込みは連名者も含み全員にしていただきます。 発表内容: 言語(特に日本語)・言語による作品・言説・発話・言語使用状況・言語使用環境等をジェンダーの観点から論じた内容を含む未発表のもの(発表内容は、大会テーマに関わるもの or 関わらないもの、どちらでもよい) → 大会テーマ「メディア・ことば・ジェンダー」 発表言語と時間: 日本語で30分(口頭発表20分+質疑応答10分)以内  申し込み期間: 2025年3月3日(月)–  5月7日(水)24:00 (JST) 申し込み方法: 当学会のウェブサイト上の「研究発表申込み書新しいウィンドウで開きます」をダウンロードして、研究者名、発表タイトル、発表概要(1000-1500文字)などを記入してアップロードする。 → 3月3日(月)以後に、こちら新しいウィンドウで開きますにアップロードしてください。 可否通知: 審査後5月16日(金)までに研究発表担当の実行委員からご本人に結果を通知します。場合によっては、一定の条件や修正への要求が提示される場合があります。 予稿集原稿: 採択された方は、6月6日(金)24:00までに予稿集に掲載する発表要旨を日本語で執筆してください。場合によっては、修正や加筆をお願いする場合があります。執筆要項は可否通知の際にお知らせします。 ★二重投稿や剽窃などの不適切な原稿に関しては厳しく対処致しますので、研究者としての良識をもってご執筆ください。 以上.
7月
12
終日 言語科学会 第26回年次国際大会(J... @ 愛媛大学 城北キャンパス
言語科学会 第26回年次国際大会(J... @ 愛媛大学 城北キャンパス
7月 12 – 7月 13 終日
言語科学会第 26 回年次国際大会(JSLS2025)開催・研究発表募集のご案内 言語科学会 (JSLS: The Japanese Society for Language Sciences) では以下の要領で、 第 26回年次国際大会 (JSLS2025) を開催いたします。 大会日程: 2025 年 7 月 12 日(土)~ 13 日(日) 開催場所: 愛媛大学 城北キャンパス(愛媛県松山市文京町 3) 大会ウェブサイト: http://www.jslsconference.jpn.org/jsls2025/ 基調講演: Jae DiBello Takeuchi 氏 (Indiana University Bloomington)
8月
7
10:00 AM 令和7年度日本語学校教育研究大会 @ 国立オリンピック記念青少年総合センター
令和7年度日本語学校教育研究大会 @ 国立オリンピック記念青少年総合センター
8月 7 @ 10:00 AM – 8月 8 @ 4:30 PM
日本語学校教育研究大会では、各日本語教育機関における実践・事例の報告の機会として、発表の場を設けています。 意見・アイディア交換の場としてぜひご活用ください。 皆様からのご応募お待ちしております。

注目の記事

  1. 移民政策の先駆者・故坂中英徳さんを偲んで 第二話 日本型移民政策の提言(上) 元東京…
  2. 日本語教育機関認定法が成立 施行は来年4月 認定日本語教育機関、国家資格の登録日本語教員が誕…
  3. 移民政策の先駆者・故坂中英徳さんを偲んで 第二話 日本型移民政策の提言(下) 元…

Facebook

ページ上部へ戻る
多言語 Translate