企業の後継者難が叫ばれる中、「跡取り娘物語」を出版 日本語学校の跡取りも

企業の後継者難が叫ばれる中、「跡取り娘物語」を出版 日本語学校の跡取りも

中小企業庁が2016年度に中小企業の現状を調査したところ、70歳未満の経営者が約136万人だったのに対し70歳以上の経営者は2倍近くの245万人にのぼった。そのうち127万人が「後継者が決まっていない」と答えたという。

このため黒字なのに廃業に追い込まれる企業が60万社に達し2025年までには約650万人の雇用と22兆円のGDPが失われると試算した。この調査から6年余りが経過したが、人口減少と高齢化は想定通り進んでおり、後継者不足が深刻の度を深めている。

そうした中で女性の活躍が期待され、企業のトップの座を女性に承継しているケースが増加しているようだ。帝国データバンクが調べたところ、女性社長が1990年の4.5%から2021年には8.1%に上昇した。劇的とは言えないまでも着実に増えているわけだ。

このほど「跡取り娘物語」という本が出版された。出版したのは一般社団法人「跡取り娘共育協会」。すでに事業承継をしている女性やこれから承継を目指す女性らが交流する団体だ。この協会の15人が自らの取り巻く環境や事業承継に至った事情など執筆し「物語」としてまとめた。

承継事業は製造業をはじめ不動産業、酒類や米穀販売の流通業など様々だが、岡山外語学院の副理事長の森下明子さんも執筆者の一人だ。岡山外語学院は、石油精製の会社を経営していた父親が開校。人口減少時代を迎え、増加する外国人労働者との共生社会を築くには日本語教育が必要だとの考えから立ち上げた日本語学校だ。

その父は2013年に急逝し、母が理事長を継いだが、いずれ森下さんが学院の跡取りをする覚悟だ。森下さんは大学を卒業後、金融機関に務めたが、結婚とともに退職。米国公認会計士の資格を取得して法人監査の仕事をしたほか、日本語教師の資格もとり、東京都内の日本語学校で非常勤講師を務めた経験もある。

現在は家庭の主婦であり、岡山外語学院の副理事長として学校経営にも関わっている。日本語学校はコロナ禍で留学生の入国規制が長期にわたったため、経営的に深刻な打撃を受けた。森下さんは日本語学校の業界団体に事務局を担当し、政府に規制の緩和や解除を働きかけてきた。

森下さんは「跡取り娘物語」の中で「日本語教育に新風を!」と訴え、「やさしい日本語」の普及の取り組む方針を強調する。そして、より幅広い分野で日本語教育が必要だと考えを示し、「物語」では「岡山外語学院が培ってきた日本語教育が、文化やバックホーンの異なる人たちの相互理解を深め、おもいやりのある社会づくりの一助になればと思っています。それができてこそ、『多文化共生社会』を重視し、その礎になろうとした亡き父からの事業承継ができたといえるでしょう」と述べている。

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