愛伝舎創立20周年シンポ (その三)◆佐々木聖子さんの基調講演「自然体の多文化共生をめざして」◆

  • 2025/8/29
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愛伝舎創立20周年シンポ(その三)

◆佐々木聖子さんの基調講演「自然体の多文化共生をめざして」◆

公益財団法人入管協会執行理事の佐々木聖子氏が、愛伝舎20周年記念の集いで「自然体の多文化共生を目指して、皆さんに期待すること」と題して講演した。長年、法務省入国管理局に勤め、出入国在留管理庁の初代長官も務めた佐々木氏は、外国人受け入れの現状と課題を振り返りながら、未来への展望を語った。

冒頭、佐々木氏は日本に暮らす外国人の増加についてデータを示した。

「1995年には136万人だった外国人が、2024年末には377万人にまで増えました。30年間で240万人増えたうち、直近4年間だけで88万人が増加しています。まさに加速度的な増え方です」

特に2023年から24年の1年間で36万人が増え、これは「四日市市の人口を上回る規模に相当する」と強調した。また、日本全体の人口に占める外国人比率はこの30年で1%から3%へ上昇。「40人学級で2人いれば3%を超える。いずれ10%、すなわち“1割時代”が到来することは確実だ」と述べた。

三重県の外国人比率は全国平均より高く、四日市市では4.4%に達しているという。佐々木氏は「すでに全国的な先進地域の一つ」と指摘。「この地域での取り組みは、やがて訪れる“1割時代”に向けたモデルケースとなりうる」と期待を寄せた。

社会の変化として最初に挙げたのは教育の現場だ。外国にルーツを持つ子どもの増加に対応し、自治体は国際教室や日本語指導の充実を進めてきた。佐々木氏は「外国ルーツの子どもたちは日本で育ち、日本文化を自然に身につけている。彼らが大人になり、日本社会の担い手として活躍し始めている」と指摘した。

さらに重要なのは、その隣にいた日本人の存在だという。

「子ども時代に外国ルーツの友人と机を並べた日本人もまた、多文化を当たり前に感じ取って育っています。この世代が社会に増えていることは、大きな希望です」

次に紹介したのは地域レベルの対応だ。自治体は多言語による情報発信やワンストップ相談窓口の設置を進め、国も「外国人在留支援センター」を設けている。市民団体の活動も広がり、支援の担い手に外国ルーツの人々自身が加わってきた。

「支援される側から支援する側へ――。これは大きな変化です。やがて“支援する・される”という区別すらなくなり、普通の隣人として共に地域づくりに参加する時代になってほしい」と語った。

労働の分野でも変化がある。技能実習や特定技能制度により、新しい外国人 労働者が増えている。制度上の支援は義務化されているが、佐々木氏は「単なる義務ではなく、自発的に支援体制を整える企業こそが“選ばれる企業”になる」と指摘する。また、日本人従業員が外国人と共に働く機会も増えている。「言葉や文化の違いを超え、同僚として自然に受け入れられるかどうか。それが企業文化となり、やがて社会全体の雰囲気をつくります」

もちろん課題もある。外国人の高齢化や生活困難への対応、地域住民の中に依然として接点が少ない層がいることなどだ。しかし、各地で外国文化に触れるフェスティバルやイベントが増え、関心を持つ機会が広がっている。

「多文化との接点を持つことが、理解の第一歩です。ふらりと立ち寄った祭りが、共生社会への入り口になるかもしれません」

講演の最後に佐々木氏は、「自然体の多文化共生」とは何かを語った。

「多様性は寛容性です。面白さや活力であるとともに、自分と違うものを受け入れる寛容さが、人を大切にし、「和」の社会につながります。自然体の多文化共生社会とは、多様性に寛容な社会なのです」

そして会場に向けて次のように結んだ。

「日本で育った外国ルーツの若者、そして彼らと共に育った日本人が、次の20年を担います。支援する・されるという枠を超え、隣人として共に地域をつくる社会へ――。皆さんの取り組みがその礎になることを期待します」

愛伝舎の20周年を祝う場は、日本の未来を見据えた「多文化共生のこれから」を考える時間となった。佐々木氏の言葉は、人口減少社会を歩む日本において、外国人と共に暮らす姿を「特別なことではなく自然なこと」と捉える視点を会場に残した。

愛伝舎創立20周年シンポ(その四)<外国ルーツの若者が未来を語る>

 

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一般財団法人日本語教育振興協会は標記研修を開催いたします。 昨年度に引き続き、より質の高い研修成果を求めて、研修の核となる2日間の集合研修を東京会場、大阪会場、福岡会場で全て対面にて実施することにいたしました。特に、東京会場は国立オリンピック記念青少年総合センターに宿泊して研修を行うので、研修に参加した仲間や講師との絆がより一層深まることを期待しております。もちろん、どちらの会場での研修も日本全国からご参加いただけます。 加えて、オンデマンドによる事前学習を多く取り入れるなど、集合研修での成果をより高めるための工夫がされております。さらに、各参加者が自校の教育の質向上のための取り組みを発表する機会を作り、より質の高いフィードバックが得られるように集合研修後のフォローアップも強化するなど、より密度の濃い研修プログラムとなっております。 受講希望者におかれましては、7月28日(月)までに,所定の応募方法にて,ご応募くださるようお 願いいたします。 また、当協会の主任教員研修は告示校を対象としているため、たとえ常勤3年以上の経歴を有していても認定校・告示校の教員(認定日本語教育機関の審査申請済みの教育機関(新規開校含む)に所属する主任教員を含む)でない限り研修の対象とはなりません。 《令和7年度 主任教員研修の特徴》 ︎「日本語教育の適正かつ確実な実施を図るための日本語教育機関の認定等に関する法律」の成立により、ますます注目が集まる「日本語教育の参照枠」や「日本語教師の人材育成」について理解を深める事ができる ︎ 現場の“今”を意識した研修プログラムにより、過去の研修受講者が再度受講しても満足できる研修である ︎ グループワークでは経験別や所属学校の属性別のグループを構成することにより、多様な受講者の満足度を保証する 《令和7年度 主任教員研修のねらい》 ◆「日本語教育の参照枠」に基づく学習成果の評価と手法を理解し、実践に活かす力を養う ◆ 人材育成の目的や考え方を知り、自校が求める教員像に近づけるための育成方法を考え実践する ◆ 今の悩みを共有できる仲間や、相談できる先輩とのネットワークを獲得する 《研修について》 ◆研修期間  2025年8月29日(金)~2026年1月8日(木)まで       ※7月29日~8月25日まで事前課題への取り組みがあります       ※研修の詳細な日程については当協会のホームページよりご確認ください ◆開催場所 オンライン(Zoom)+下記いずれかの会場       【東京会場】国立オリンピック記念青少年総合センター       【大阪会場】関西研修センター(KKC)       【福岡会場】リファレンス駅東ビル貸会議室 ◆定員 108名(会場定員:東京会場54名/大阪会場36名/福岡会場18名) ◆参加資格 以下の(1)〜(3)のいずれかの条件を満たす方  (1) 認定校・告示校の主任教員  (2) 認定校・告示校で 3 年以上の常勤教員経験を有する主任教員予定者  (3) 認定申請済機関の主任教員 ◆参加要件 ・研修の全日程に参加できる方 ※参加決定後の会場変更は不可 ・オンライン集合研修において、静かで研修に集中できる環境から参加できる方 ・インターネット環境が整っており、PC で研修に参加できる方  ※スマホやタブレットからの参加は不可 ・自校にて実際に課題改善を行い、その取り組みを発表し、研修レポートとして提出できる方 ◆受講料 30,000円(消費税込)      ※東京会場参加者については、別途宿泊費及び食費等(20,000 円程度)が発生します。       詳細な費用については、参加決定者に対して別途お知らせいたします。      ※大阪・福岡会場参加者については、交流会参加費が発生します。       詳細な費用については、参加決定者に別途お知らせいたします。 ◆詳細・申込方法 https://www.nisshinkyo.org/news/detail.php?id=3370&f=news          ★上記サイトに掲載されている開催案内をよくお読みいただきますようお願いいたします ◆応募締切 2025年7月28日(月) 〔問い合わせ先〕 一般財団法人日本語教育振興協会 主任教員研修担当 Eメール:shuninken@gmail.com TEL:03-6380-6557
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日本語教材まつり2025 in 大阪 @ TKP 大阪本町カンファレンスセンター ホール 3B
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