日振協の研究大会で中川正春氏が基調講演―「基本法」めぐるパネルディスカッションも

日本語教育振興協会(日振協)の平成29年度日本語学校教育研究大会が7日、3日間の日程で東京・代々木の国立オリンピック記念青少年センターで始まりました。初日は日本語教育推進議員連盟(日本語議連)会長代行の中川正春元文科相が基調講演を行い、日本語教育推進基本法(仮称)制定に向けての議論の経緯を説明するとともに、来年の通常国会で「基本法」を制定したいとの考えを明らかにしました。

会場には「過去最高」の300人を超える日本語教師など関係者が詰めかけました。冒頭、佐藤次郎理事長が日本語議連の取り組みや告示基準の改定のほか、政府の骨太の方針や自民党の「1億総活躍推進本部」の提言でも日本語教育の重要性が指摘されていることなどを踏まえ、日本語教育にとって「大きな転換期である」と強調し、「明るい方向もあるわけですから、それぞれの現場でご活躍されることを期待しています」とあいさつ。

また、大会委員長の奥田純子氏(コミュニカ学院)が、状況の大きな変化を受けて、今大会のテーマを「基本法で変わる!変える!私たちの日本語学校教育」としたことを報告しました。

基調講演に立った中川氏は日本語議連の議論の進捗状況を説明。すでに8回の総会で関係省庁、団体などからヒアリングを行うとともに、中川氏が座長となって議連内に立法チームを設け、基本法の法案の「たたき台」の議論を行っていることを明らかにしました。臨時国会中に総会の議論を得たうえで基本法案をまとめ、衆院解散・総選挙など不確定要因がなければ、来年を通常国会で基本法案を全党の賛成で可決成立させたいという考えを示しました。

また、中川氏は「たたき台」について、「まだ議論が詰まっていない点があるので公表できない」としながらも、日本語教育基本法の中には「法の目的」「日本語教育の定義」「基本理念」「国と地方自治体の責務」「関係機関の連携強化」「財政上の措置」「基本的な施策」などの事項が盛り込まれると述べました。

さらに中川氏は「基本的な施策」の中に日本語学校に関連する施策も想定されているとし、①日本語教育の普及・推進②日本語教育の質の保証③調査研究④その他―がたたき台の案として挙がっていることを明らかにしました。

中川氏によると、「基本法」はあくまで法的な枠組みの基本的な部分を担うもので、日本語学校の多様な設置形態の在り方などについては、別に法律を制定するか、どのような類型を考えるかなど、基本法制定後の第二段階の議論に委ねられるという。株式会社立など学校法人以外の日本語学校については、今後、「新たな類型」をつくることで対応することも考えられるとし、その場合には「質の保証」のための参入規制、または参入後が新たな課題として浮上するという。こうした流れの中で、日本語学校側では当事者としてより深い議論を行うとともに、その方向性について一定のコンセンサスづくりが必要となりそうだ。

パネルセッション「基本法で変わる!変える!私たちの日本語学校教育

この日、午後から行われた同セッションでは、モデレーターに黒崎誠氏(ラボ日本語研究所所長)が務め、阿久津大輔(日本語教育情報プラットフォーム事務局)▽西原純子(京都日本語教育センター京都日本語学校代表理事)▽井上靖夫(ジェット日本語学校校長)▽西澤信夫(日本学生支援機構日本語教育センター長)▽加藤早苗(インターカルト日本語学校校長)の各氏がパネリストとして参加しました。

黒崎氏がまず「基本法ができたらそれに従うというイメージではなく、我々自身の問題としてとらえてもらいたい」とパネルセッションとしての問題意識を説明し、まず阿久津氏がプラットフォームとして日本語議連の議論などを情報発信してきたことを踏まえ、基本法の性格などを改めて説明しました。これを受けて西原氏が「国における日本語教育の必要性と日本語学校の位置づけ」、井上氏が「留学生30万人計画の理念と、日本語教師という職業の魅力」、西澤氏が「進学予備教育機関としての在り方」、加藤氏が「日本語学校における『教育』と『教員』の『質保証』」というテーマで論点をそれぞれ提示しました。西原氏が政府への注文とともに「いまこそ日本語学校の在り方を再考すべき時期」と訴えるなど、パネリストがそれぞれの視点から問題提起も行いました。

さらにパネリストから提示された論点について、会場の参加者に少人数で議論をするよう提案し、会場とパネルの双方向で議論が展開されました。

日本留学アワーズは大学院部門で早稲田大学大学院が「殿堂入り」

続いて日本留学アワーズの表彰式が行われ、先に発表されたノミネート校の表彰のあと、それぞれの部門の大賞が発表されました。各部門の大賞は、▽専門学校の東日本が専門学校東京国際ビジネスカレッジ東京校、西日本は専門学校辻調理師専門学校▽私立大文科系部門は、東日本が東洋大学、西日本が四日市大学▽私立大理科系部門は、東日本が足利工業大学、西日本が福井工業大学▽国公立大学部門では、東日本が横浜国立大学、西日本が名古屋大学▽大学院部門では、東日本では早稲田大学大学院、西日本は北陸先端科学技術大学院大学

早稲田大学大学院は5年連続で大賞を受賞したため、「殿堂入り」の表彰を受けました。殿堂入りは昨年の日本電子専門学校(専門学校部門の東日本)以来、2ケース目です。


ノミネート校として表彰されたのは、以下の専門学校・大学などです。日本留学アワーズのホームページ参照。
http://www.ryugakuawards.org/untitled-c1036

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言語科学会第 26 回年次国際大会(JSLS2025)開催・研究発表募集のご案内 言語科学会 (JSLS: The Japanese Society for Language Sciences) では以下の要領で、 第 26回年次国際大会 (JSLS2025) を開催いたします。 大会日程: 2025 年 7 月 12 日(土)~ 13 日(日) 開催場所: 愛媛大学 城北キャンパス(愛媛県松山市文京町 3) 大会ウェブサイト: http://www.jslsconference.jpn.org/jsls2025/ 基調講演: Jae DiBello Takeuchi 氏 (Indiana University Bloomington)
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10:06 AM 第11回日本語教育支援システム研究... @ 英キール大学(Keele University)
第11回日本語教育支援システム研究... @ 英キール大学(Keele University)
8月 26 @ 10:06 AM
第11回日本語教育支援システム研究会(CASTEL/J)国際大会 第11回日本語教育支援システム研究会(Computer Assisted Systems for Teaching and Learning Japanese – CASTEL/J)国際大会を英国中部スタッフォードシャー州にあるキール大学(Keele University)にて英国日本語教育学会(BATJ)・キール大学ランゲージ・センターとの共催で開催することとなりました。 日本語教育支援システム研究会国際大会は、日本語教育関係者、日本語教育のリーダーに日本語教育におけるテクノロジー使用の最先端の動き、将来の方向性を共有する機会を作ってきました。2020年のパンデミックにより授業のオンライン化・ハイブリッド化が進み、それに加えて、この数年の人工知能(AI)技術の急速な発展と普及により、日本語教育は元より私たちを取り巻くテクノロジー環境が大きく変化しています。これらの技術的発展を効果的に教育・学習に取り入れ促進していくことは今まで以上に重要となっています。世界中からこの分野の優れた研究者、実践者が集まるこの国際大会に是非ご参加ください。 日時:2025年8月26日(火)〜27日(水) 会場:英スタッフォードシャー州キール大学チャンセラーズ・ビルディング 共催:英国日本語教育学会(BATJ)、キール大学ランゲージ・センター

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