電車の車内アナウンスは、外国人にとって分かりやすいか。もっと「やさしい日本語」を使ってみては――日本語教育学会で研究発表

電車の車内アナウンスは、外国人にとって分かりやすいか。もっと「やさしい日本語」を使ってみては――日本語教育学会で研究発表

在留外国人や外国人観光客が急増しているが、電車の車内アナウンスは外国人にとって分かりやすいのかどうか。こんな疑問に答える研究発表が先に開催された日本語教育学会春季大会であった。「次の駅」などを知らせる録音のアナウンスはセンテンスが短く情報量も少ないため比較的わかりやすいが、敬語の多いアナウンスや早口の事故情報などはわかりくいという。「やさしい日本語」の観点から言えば、改善すべき点がありそうだ。

研究発表したのは、「にほんごの会企業組合」(東京都世田谷区)の宿谷和子さんら3人の日本語教師。調査対象は京王、小田急、地下鉄丸ノ内線、東海道新幹線など23路線の車内、駅構内のアナウンス。アナウンスを車内と駅校内の車掌(男女)や駅員(同)、録音とナマの声の計8種類に分類して録音、文字化して分析するとともに、中国、台湾、ペルーなど11の国と地域の外国人(日本の滞在歴6カ月以上)21人に聞かせ、評価してもらった。

その結果、「次は浅草橋、浅草橋。お出口は左側です。地下鉄浅草線はお乗り換えです」など、「次の駅」「出口」「乗り換え」のアナウンス(女性の声)ついては、ほとんどの外国人が聞き取れた。

一方、「電車が遅れまして、申し訳ございません。なお危険ですので電車の外には絶対出ないようお願い申し上げます」など、事故関連のおわびや注意の呼びかけのアナウンス(男性の声)は、ほとんどの外国人が聞き取れなかった。ナマの声だと話すスピードが速く、また「人身事故」「安全確認」「運転を再開」など漢語が多かったことが、聞き取りにくい理由のようだった。さらに男性より女性の声の方が聞き取りやすいと思われる。このほか、「携帯電話の注意」はよく耳にするせいか、半数以上が理解していた。しかし、「不審物を発見したときの注意」などは、ほとんど聞き取れていなかったという。

外国人への調査では、①電車のアナウンスは役に立つか②携帯電話のマナー、忘れ物注注意などをどう思うか③アナウンスをどう思うか――などを聞いた。これに対して外国人の85%が「役に立つ」と答えた。また「乗り換え情報」が「役に立つ」は75%いたが、同時に「スマホなどを使う」とも答えていた。

車内のマナーや忘れ物の注意に関しては、80%近くが「必要だ」「親切だと思う」と答えるなど好意的に受け止めていた。ただ、否定的な意見の中には「長すぎる」という声もあった。車内アナウンスで知りたいことの中で、最も多かったのが「事故、地震、電車が遅れた時の情報や指示」だった。「どうして電車が遅れているのか、どうすればいいのか知りたい」という声が多かった。事故情報のアナウンスは「聞き取りにくい」「速くてわからない」という人がいた。

自由に意見を述べてもらったところ、「録音のアナウンスはわかりやすいが、ナマはわかりにくい」「ナマのアナウンスは速くてわかりにくい。一部がわからないと全体がわからなくなる」「敬語が多くて、丁寧すぎる。あまり使わない敬語は難しい」「簡単な日本語を使ってほしい。短いセンテンスで話してほしい。『出口は左です』などはわかりやすい」「中国語や英語のアナウンスは便利」などの声があった。

宿谷さんらは発表の中で、「アナウンスの中には敬語を使わず、やさしく言い換えているものもある。アナウンスを『やさしい日本語』にすることも不可能ではないことがわかる」と述べた。ここで言う「やさしい日本語」とは、弘前大学社会言語研究室(佐藤和之教授)のガイドラインを参照にしたものだ。災害時などにより的確に情報を伝達するツールとしての日本語を言う。「やさしい日本語」は外国人向けのツーリズムの分野でも、その活用が提唱されている。電鉄会社の電車のアナウンスも、「よりやさしい日本語」に改善する余地はありそうだ。

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