ろう教育と「やさしい日本語」――学会の研究テーマにも    

ろう教育と「やさしい日本語」――学会の研究テーマにも                    

外国人のための「日本語教育」と、ろう者のための「ろう教育」。あまり関係ないように見えるが、実は極めて深い関連がある。キーワードは「第2言語習得」である。これは外国人への日本語教育と極めて関連している研究領域であり、母語・継承語・バイリンガル教育学会(MHB学会)が8月8、9の両日に開催した大会テーマ「新時代のマルチリンガル教育を考える〜バイモーダルろう教育からの示唆〜」でも初めて取り上げられた。

ろう者の母語は「手話」であり、手話は日本語とは別な、完全な体系をもった言語である。ろうの子供は手話で思考力を獲得し、その後第二言語として「日本語」を学ぶ。いわば「手話」と「日本語」のバイリンガル教育がろう教育の重要なテーマとなっている。

ろう者と外国人は、日本語を学ぶ上で、間違うポイントがとても似ている。第2言語なのでしかたがないことである。しかし聞こえる日本人はろう者の日本語の間違いをバカにしたり、すぐに直したりして、ろう者を不愉快にさせることがよくある。実際は日本人が英語を間違うのと同じようなことであるにも関わらず。

日本で手話を法律上「言語」だと認めたのは、2011年8月5日に交付された改正障害者基本法が最初とされる。ほとんどの聞こえる日本人は、ろう者にとっての手話や日本語について知らず、ろう者の日本語の間違いに寛容な気持ちがない。

ここに問題を提起しているのが「やさしい日本語」関係者である。2018年3月17-18日に行われたやさしい日本語シンポジウムでは、一橋大学庵功雄教授ほか研究者が、日本語を母語としないものへの配慮としての「やさしい日本語」について指摘している。

筆者も、「やさしい日本語」の活動を通じて、ろう教育に深く関心をもち、MHB学会でも発表をし、関連するFacebookページも立ち上げた。その中で、「聞こえる日本人へのメッセージ」と「日本語習得に悩むろう者へのメッセージ」をプレゼンスライド形式で公開している。この2つは、同じテーマの表裏の関係になっている。ぜひご覧いただきたい。

1)聞こえる日本人向けのメッセージ

〜「やさしい日本語」と、外国人と、ろう者のこと〜

2)ろう者向けメッセージ

〜ろう者が、もっと楽しく、日本語を学べる機会を〜

          吉開 章

吉開 章(よしかい・あきら)寄稿者

投稿者プロフィール

やさしい日本語ツーリズム研究会事務局長、株式会社電通勤務。2010年日本語教育能力検定試験合格。会員3万人以上の日本語学習者支援コミュニティ「The 日本語 Learning Community(Facebook参照)」主宰。ネットを活用した自律学習者に詳しい。2016年「やさしい日本語ツーリズム」企画を故郷の福岡県柳川市で立ち上げ。論文・講演実績などはこちら(WEB参照)。

この著者の最新の記事

関連記事

コメントは利用できません。

イベントカレンダー

6月
12
12:00 AM 留学生対象の日本語教師初任者研修... @ オンライン(ZOOM)
留学生対象の日本語教師初任者研修... @ オンライン(ZOOM)
6月 12 2024 @ 12:00 AM – 1月 31 2025 @ 12:00 AM
日振協による文部科学省委託の初任研修が今年も始まります。 告示校で10年程度専任で経験されている方対象です。 OJTで実際の運営に関わりながら研修運営を肌で学んでいただけます。 研修詳細は協会ホームページより、チラシと募集案内をダウンロードしてご確認ください。   「日振協 留学生対象の日本語教師初任者研修」は「オンライン映像講義」「(オンライン)集合研修」「自己研修(自律的学習)」の三位一体の編成により、①自律的・持続的な成長力 ②対話力 ③専門性という3つの資質・能力の育成を目指すもので、忙しい仕事の合間を縫って学べるよう、また地方の教育機関に所属している受講生への負担を減らすため、e-Learningを利用した研修となっています。 2020年度から、この初任者研修と並行して、「育成研修」を併せて実施しています。「育成研修」は初任者研修のサポートを行いながら研修の企画や実施方法を学び、将来全国各地で初任者研修の実施担当者として活躍していただく人材を育成する研修です。具体的には以下のことを目指しています。 ①初任者教員の協働的かつ自律的な学びを支援し、21世紀に活躍できる日本語教師としての資質・能力及びICT活用能力の獲得へと導く ②研修委員に必要な経験と能力を身につける 研修は、フルオンライン(zoom使用)で実施いたします。学内で初任者の指導を任されている方、地方在住でなかなか研修機会に恵まれない方など全国各地からご参加いただきたく存じます。修了生は今後実施委員になっていただく可能性もございます。どうぞ奮ってご応募ください。 チラシ(PDF 裏表2頁/1枚)
6月
29
12:00 AM 留学生に対する日本語教師初任研修 @ オンライン
留学生に対する日本語教師初任研修 @ オンライン
6月 29 2024 @ 12:00 AM – 1月 31 2025 @ 12:00 AM
本研修のカリキュラムは文化審議会国語分科会の「日本語教育人材の養成・研修の在り方について(報告)」に基づいており、初任者が体系的・計画的に日本語指導を行うための実践的能力として (1)自律的・持続的な成長力 (2)対話力 (3)専門性 の3つの資質・能力の養成を狙いとした90単位時間のプログラムです。忙しい仕事の合間を縫って学べるよう、また地方の日本語教育機関の新任の先生方への負担を減らすため、e-Learningを利用した研修となっています。 研修形態はフルオンラインです。昨年度同様、今後日本語教師にますます求められるであろうICT活用能力(オンライン授業やハイブリッド授業の実践等)に重点を置いた研修を行います。 つきましては、ぜひ多数の日本語教師初任者の方にご参加いただきたく下記のとおりご案内いたします。どうぞよろしくお願い申し上げます。 チラシ(PDF 表裏2頁/1枚)
11月
22
7:00 PM 教室内談話: 学習者間相互交流とL... @ オンライン(ZOOM)
教室内談話: 学習者間相互交流とL... @ オンライン(ZOOM)
11月 22 @ 7:00 PM – 12月 13 @ 8:30 PM
※この講座の内容は2022年実施分に準じます。 教室内談話: 学習者間相互交流とL2学習を考える 学習者同士が互いに話し合う活動は、近年の外国語(L2) 教室には不可欠です。また、学習者同士 が学習言語で対話する活動の意義やL2 習得における効果は、外国語教育において興味深いトピッ クの1 つです。本講義では第二言語習得理論を適宜参照しながら、外国語教室で行われる学習者同 士の対話の意義や先行研究で明らかになっている効能、より効果的な実践法や課題と展望について 考察を深めます。 【全4回】 日程: 第1回:2024年11月22日(金)19:00-20:30 第2回:2024年11月29日(金)19:00-20:30 第3回:2024年12月6日(金)19:00-20:30 第4回:2024年12月13日(金)19:00-20:30 内容: 第1回:「学習者同士のL2 対話」と第二言語習得理論 第2回:「学習者同士のL2 対話」と第二言語学習 第3回:「学習者同士のL2 対話」と教師 第4回:「学習者同士のL2 対話」とこれからのL2 指導 【受講料】9,000円(税込)※1講座のみお申込み:2,500 円(税込)

注目の記事

  1. 小説家を目指す日系ペルー人 山田マックス一郎さんが語る夢とは 山田…
  2. 多文化共生社会の「究極の少子化対策」とは?カギを握る外国人支援団体の活動 人口減少が急…
  3. 全中国選抜日本語スピーチコンテスト 12日に開催 第17回全中国選抜日本語スピーチコン…

Facebook

ページ上部へ戻る
多言語 Translate