「多様性」が輝いたラグビーワールドカップ

「多様性」が輝いたラグビーワールドカップ

日本列島が1カ月半にわたって熱く燃えた。日本で初めて開かれたラグビーワールドカップ(W杯)。日本チームのベスト8入りという大活躍もさることながら、ラグビー人気が大きく開花した。11月2日に横浜で行われた南アフリカ・イングランドの決勝戦には7万人を超えるファンが詰めかけた。全国16カ所に「パブリックビューイング」などが設置され、スタンドの外でも113万を超える人がラガーマンの激突に熱狂した。テレビの視聴率も極めて高かったようだ。

大会を主催した「ワールドラグビー」のビル・ボーモント会長は大会後の会見で「日本人の情熱はすばらしく、開催都市もたくさんの人を受け入れてくれた。開催国として最高だった」と言葉を弾ませた。日本ではマイナーなスポーツだったラグビーが、どうしてこれほど日本人の心をつかんだのか。

ラグビーは、フォワードの選手を中心に激しくぶつかり合い、チームが1つになって楕円形のボールをつなぐ競技だ。迫力とスピード感あふれるプレー。そして勝利を得るために不可欠な、自己犠牲の精神。個人主義が横行する現代にあって、フォアザチームのひたむきなプレーが日本人のメンタリティーを揺さぶったのかもしれない。試合が終われば、敵味方は関係ないノーサイドの精神もさわやかだった。

五輪やサッカーと違い、国の代表選手が必ずしも国籍を必要としないのも、ラグビーW杯の特徴だ。国籍を持たなくても「3年以上継続して居住している」「両親、祖父母の1人がその国に生まれている」「通算10年以上の居住している」のいずれかの条件を満たせば、代表選手になることができる。日本代表のチームも、登録選手31人のうち15人が外国籍や外国出身の選手だった。

試合前の国歌斉唱。赤白の桜のジャージーの選手たちは肩を組んで君が代をうたった。ニュージーランド出身のリーチ・マイケル主将は「国歌の意味まで知ることが日本代表だと思います」と語る。日韓関係が悪化しているが、元韓国代表の選手を父に持つ具智元選手の活躍に大きな声援が送られた。

リーチ主将は大会前、「日本人も外国人も一緒になって結果を出す。ダイバーシティ(多様性)がすごいチームだと思ってほしい。これからの日本はどんどんグローバルになる。いろいろ感じてほしい」とも話した。

月刊誌「アエラ」のインタビューに、前日本代表チーム主将の廣瀬俊朗さんは「これから日本は人口が減少し、外国出身の人と働く機会がどんどん増えると思います。日本ラグビーは、日本の未来の先をいっています」と答えていた。リーチ主将、廣瀬前主将のコメントは、それぞれにラグビーの魅力と時代の流れを上手に指摘している。

多様性を受け入れ、「共生」を象徴するようなスポーツイベントとなったラグビーW杯の盛り上がりは、大きく変化しつつある日本の姿を映し出したようにも見える。大相撲、サッカー、陸上競技などスポーツ界では「国際化」がどんどん進んでいる。2020年の東京五輪・パラリンピックでは、さらに大きな多様性のうねりが生まれるはずだ。

石原 進

石原 進(いしはら・すすむ)日本語教育情報プラットフォーム代表世話人

投稿者プロフィール

「にほんごぷらっと」の運営団体である日本語教育情報プラットフォーム代表世話人。元毎日新聞論説副委員長、現和歌山放送顧問、株式会社移民情報機構代表取締役。2016年12月より当団体を立ち上げ、2017年9月より言葉が結ぶ人と社会「にほんごぷらっと」を開設。

この著者の最新の記事

関連記事

コメントは利用できません。

イベントカレンダー

5月
16
5:00 PM 【教員対象オープン講座】中高生の... @ オンライン
【教員対象オープン講座】中高生の... @ オンライン
5月 16 @ 5:00 PM – 6:30 PM
日本語探究に関するレクチャーと「中高生日本語研究コンテスト」についての説明を行います。 次のような方におすすめです! ・「中高生日本語研究コンテスト」に関心をお持ちの中高・特別支援・義務教育学校の先生。 ・探究を担当されていて、生徒に様々なコンテストを紹介している先生(教科不問)。 ・日本語好きな生徒を担当している先生。 講師:田中 牧郎(明治大学)/ 村上 敬一(徳島大学)/ 又吉 里美(岡山大学)/ 岩城 裕之(高知大学) お申し込み:https://forms.gle/x8FvkXyzXAZDpR4n7 コンテスト専用サイト:https://www.junior-jpling.org/
5月
31
1:30 PM 廣池学園創立90周年記念シンポジウ... @ 麗澤大学さつき校舎 大講義室/ラーニングホール
廣池学園創立90周年記念シンポジウ... @ 麗澤大学さつき校舎 大講義室/ラーニングホール
5月 31 @ 1:30 PM – 5:30 PM
廣池学園創立90周年記念シンポジウム 日本語の明日を考える 2025.5.31(土)13時30分~17時30分 麗澤大学さつき校舎 大講義室/ラーニングホール YouTubeライブ中継は こちら 13時20分開始予定 会場参加のお申し込みは こちら 12時30分開場予定
6月
28
終日 第34回小出記念 日本語教育学会 年... @ オンライン
第34回小出記念 日本語教育学会 年... @ オンライン
6月 28 終日
開催日:2025年6月28日(土) ・場所:オンライン(Zoom) ・予定(日本時間): 9:40-10:10 会員総会 10:20-10:30 開会・プログラム説明 10:30-12:20 講演   「対話を通した学習者オートノミーおよびウェルビーイングの促進」 講師:加藤聡子氏(神田外語大学 学習者オートノミー教育研究所 特任准教授) 13:20-16:50 口頭発表 16:55-17:10 総括 ・参加費:会員無料・非会員2000円(発表者以外の参加申し込み方法は5月下旬にお知らせします)

注目の記事

  1. 移民政策の先駆者・故坂中英徳さんを偲んで 元東京入管局長で移民政策研究所所長の坂中英徳…
  2. 小説家を目指す日系ペルー人 山田マックス一郎さんが語る夢とは 山田…
  3. LSH奨学会名誉会長、辛潤賛さんの叙勲を祝う会 日韓の60人が祝福 2001年にJR新大久保駅…

Facebook

ページ上部へ戻る
多言語 Translate