公認日本語教師の受験資格「学士以上」設けず 教育実習の一部免除も 第4回日本語教師の資格に関する調査研究協力者会議

公認日本語教師の受験資格「学士以上」設けず 教育実習の一部免除も 第4回日本語教師の資格に関する調査研究協力者会議

文化庁は3月23日、第4回日本語教師の資格に関する調査研究協力者会議(西原鈴子座長)を開催した。前回の会議では文化庁が日本語教育機関について「留学」「就労」「生活」の3類型を示し、「教師の資格」を検討するよう提案した。これを受けて今回は公認日本語教師の能力判定試験を中心に議論が行われ、①必須とされていた「学士」を受験の要件とせず受験資格を特に設けない②教育実習の一部免除――などの方針が示された。

公認日本語教師の資格に在り方については、文化審議会国語分科会の日本語教育小委員会が2020年3月に報告書をまとめ、この中で「日本語教育能力を判定する試験の合格」「教育実習の履修・終了」「学士以上の学位」という資格取得のための3要件が示された。このうち「学士以上の学位」は大卒以上の学歴が必要とされることから、大学を卒業していない日本語教師などから不満の声が出ていた。

日本語教育機関と言えば、留学生受け入れ政策の中核を成す法務省の告示校の日本語学校から地域のボランティアが従事するいわゆる日本語教室まで様々な形態がある。公認日本語教師は当初、日本語学校の教師を想定していたが、日本語教育機関が3つに類型化されたことで議論が複雑化した。「生活」に類型化された日本語教室の教師の中には「学士以上の学位」を持たないボランティアの先生も少なくないのが現状だ。このため結果として受験資格において「格差」を内包する制度になってしまった。

この日、文化庁が提示した資格のイメージは、こうした格差を是正するものになった。「学士以上の学位」の要件を外し、受験資格については「特に設けない」とされた。公認日本語教師の能力判定試験は、だれでも受験できる仕組みになったわけだ。

ただ、能力判定試験については「区分ごとの基礎的な知識・技能を測定する筆記試験①」と「区分横断的な複合問題及び聴解試験の筆記試験②」で構成するというが、筆記試験①は「文部大臣による指定機関により基礎的な知識・技能の習得が担保される日本語教育養成機関の課程修了をもって、試験免除」の規定が盛り込まれた。日本語学校の教師や教師経験者らは筆記試験①を受験しなくていいわけだ。

また、能力判定試験の要件緩和に加えて教育実習についても指定機関の日本語教師は免除される。さらに「一定期間の更新研修の受講・修了する」としていた更新研修についても「研修環境の充実・強化に努める」と内容を後退させた。

文化審議会国語分科会で決めた内容を大きく軌道修正したわけだが、試験の一部免除などについて文化庁は「資格取得の際の門戸を広げ、日本語教師の量の確保に資する」「必要な知識、技能を有していることが確認できる者については改めて試験を行う必要性は乏しい」「同じ名称独占の国家資格である社会福祉士などの試験も一部試験の免除がある」など説明している。

これに対し調査研究協力者会議の議論では賛成、反対の双方の意見が出された。受験資格に制限を設けなくなったことで、公認日本語教師の質の低下が危惧されるからだ。文化庁の軌道修正の案に対しては「国語分科会で十分な議論を経てまとめた内容を覆していいのか」「日本語教師の質の向上させることによって待遇もアップさせるのが目的だったが、ハードルを下げてしまう」などの反対意見があった。

公認日本語教師は名称独占の国家資格である。この資格がなくても日本語教師として働くことは可能だ。いってみれば国家資格という「箔」を付けるための制度だ。しかし、国家資格とする以上、試験や教育実習などが必要で、それを実施するための新たな機関を創設することになる。そのための法整備や実施機関の在り方などの議論もしなければならない。文化庁は試験の実施を「2024年以降」としている。

調査研究協力者会議は「日本語教師の資格の詳細について検討するため」に設置された会議であり、方針を決定する機関ではない。文化庁は委員から出された意見を参考にしつつも、資格試験の制度設計などについては、大筋ででは提案した内容に沿った方向で決定するものとみられる。

関係資料は以下の文化庁のホームページで見ることができます。

https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kondankaito/nihongo_kyoin/92369001.html

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