10月の入国解禁は今後の留学生政策の最大の鍵となる

10月の入国解禁は今後の留学生政策の最大の鍵となる

新型コロナウイルスの感染拡大で日本留学ができない海外の学生らの声を発信する「コロナ禍の日本留学の扉を開く会」。留学ビザを出しながら入国の規制が長期化し、留学生の「日本離れ」が危惧されている。「囲む会」のコアメンバーで新宿日本語学校校長の江副隆秀さんが、コロナ禍で日本留学が直面する課題について投稿してくれた。以下、「にほんごぷらっと」で紹介したい。

10月の入国解禁は今後の留学生政策の最大の鍵となる

G7諸国で留学生を入れていないのは日本だけ

日本社会はオリンピック後のパラリンピックの最中でもあり、コロナの感染拡大で多くの人が内向きになるのも無理がない。確かにコロナ禍は身近に存在する生死に関わる問題だ。これに関する情報は重要で、それを否定するものではない。

ただ、世界は動いている。外国人留学生の件もその一つだ。日本では、ウイルスは外国から来るので、水際対策の一つとして外国人留学生を受け入れないのは当然だという風潮がある。

しかし、「G7諸国の中で、日本だけが外国人留学生を受け入れていない」と言ったら驚く人がいるかもしれない。「日本も国費留学生を入れているでしょう」という声が出るかも知れないが、来日する留学生総数から言ったら僅かだ。

G7諸国で、際立って感染者が多かった米国も、英国も、コロナ禍が始まって以降、一度も外国人留学生の受け入れを止めたことはなかった。昨年の6月からフランス、イタリア、ドイツが外国人留学生の受け入れを開始し、一番遅いカナダでも昨年の10月に受け入れを開始している。

G7の中でいまだに留学生を受け入れていないのは日本だけだ。G7以外で、留学生を受け入れている国をあげれば、アイルランド、韓国、スイス、スペイン、フィンランド、英語教育で有名なマルタ、東南アジアではマレーシアなどがある。

日本と同じように規制をしている国もある。オーストラリアやニュージーランドがそうだ。しかし、どちらの国も、この後いつ入国できるかの発表をすることになっている。少なくとも、留学のサイクルのロードマップを発信しようとしている。

東京オリンピックで、選手及び関係者合わせた来日者数42,681人中、空港で陽性が判明したのは37人と、率でいえば0.09%。さらに選手村や会場での検査数624,364回中、感染が確認されたのは138人で、0.02%と、非常に低い結果が出ている。

韓国政府は、今年2021年度の上半期に入国した留学生34,000人中、入国時の検疫期間中含め、感染者は255人、0.75%だった上、「海外から入国した留学生による大学および地域社会への追加感染の事例なし」と公式ページに掲載している。各国で留学生が大きなクラスター源になったという報告は聞かない。

計画的偶発性理論で、近隣諸国に留学先を変更

ドッグイヤーと言われる昨今、急激な社会の変化を理解している人々は、人生におけるキャリアプランを重要視する。そして、そのキャリアプランには空白は許されない。例えば、留学しようと思い立った時に、自分の人生の中で、いつが留学に適しているのかなどを計画し、実行する。

ジョン・D・クランボルツ(心理学者)が提唱した「計画的偶発性理論」というセオリーがある。これは、もし、日本に留学しようと思っても、日本には入れないとわかった時、その時点の目的は留学であるから、近隣諸国に留学先を変えて、留学という当初の目的を果たそうとするような例も含まれる。

留学先を他国にしなさいというメッセージ

それは、日本が、「外国人留学生は、今は(日本はコロナで大変で)入国できない」というメッセージを出したとしても、それを受け取る外国人留学生の側は、「理由はともあれ、行き先を変えてください」という日本からのメッセージとして受け取ることになる。

入国制限のため日本留学を諦め、韓国に留学先を切り替えたスペイン人女性がいる。父親が日本のアニメが好きで、少しだけ日本語を理解していたそうだ。その父親から5歳の時に「ひらがな」を習ったのが日本に興味をもった最初で、10代後半には家族旅行で来日も果たしている。その後、2020年9月にスペインの大学を卒業し、日本留学を決心、日本語の勉強を続けていた。そして、2021年4月の入学者として日本留学の手続きを完了。ところが、日本は、留学生は受け入れない。

そこで、6月に韓国の大学の語学研修所に方向転換。今後1年韓国での留学を続ける方向で、韓国の入国手続きがスムーズだったことに満足している。韓国に行った理由を聞くと、やはり基本的には「時間がもったいない」ということだった。

日本として、「もったいない」というのは、こうした学生を失っている事実だろう。実際、韓国に留学先を変更している学生は、彼女だけではない。この機に韓国へのシフト現象が起きている。海外から見たら、日本も韓国も大きな違いはないのである。

ビジネスパーソンも大事だが、留学生は未来の宝

留学生に多いのは20代から30代の青年だ。この年齢は、文化に対する受容性が高く、理解のために留学先に同化しようとする傾向も強い。10年後、20年後に、ヨーロッパで日本と異なる発想で日本批判の発言を始める人が出るというような、今は想像できないことが起こるかも知れない。

日本では、ビジネスが一番で、まず、ビジネスパーソンの入国が第一のように思われている。しかし、ビジネスでは入国制限を理由に取引先を容易に変更するのは難しい。それに対して、留学生個人が行き先を変えるのは、一晩で十分だ。一度も留学生に国を閉さなかった英米に比較し、留学生を受け入れていない我が国の状況は、その重要性に気づいていないということの証明なのかも知れない。

未来予測も必要・10月入国は必須

また、少し先に起こる可能性についても、述べてみたい。

例えば、来年4月に日本が留学生に入国許可を出したとしよう。その場合の最大の懸念は大量のキャンセルである。2020年度の未入国者のうち、34%ものキャンセルが出たという調査結果がある(日本語教育機関関係6団体 2021年3月12日作成データ、242校回答)。10月入国が実現しなかった場合は、少なくとも50%以上のキャンセルが予測される。

キャンセルが少なかった場合は別の問題が発生する。2020,21,22年に滞留している3年分の留学生が一気に入学することになり、未だコロナ状況が不安定な中、宿舎、教室に収容しきれなくなる。そもそも定員管理上、このことに対応できるのであろうか。

G7諸国ではそのような混乱は発生しないことは、ここまで読んでくださった読者の方には理由を説明するまでもないだろう。

こうした、予測される混乱まで含み、G7諸国と同じように、日本は、留学生の受け入れを開始すべきだろう。そして、混乱を防ぐ時期は、この10月である。この10月を逃したら、混乱は防げない。日本留学はリスキーであるという風評が確定し、高度人材ほど離れて戻らないだろう。

もう一つ、アドラー心理学などから類推されることは、「」を言われた側は、「自分の存在の否定」と受けとめ、その裏返しは、「否定されたことへの恨み」となる可能性が高い傾向があるということだ。

「日本のこと?もう興味ないよ」。今は、そういう外国人学生をたくさん生み出す可能性がある瀬戸際に来ている。10月の留学生受け入れは、真剣に検討し、解決しなければならい課題だ。

なお、こうした留学生の声は去る8月18日に「コロナ禍の日本留学の扉を開く会」が開いたンターネット・イベント、が現在YouTubeで「日本からは来られるのになぜ私達は日本に行けないの」という題で以下のURLで視聴できます。ぜひ、ご覧いただきたい。

https://youtu.be/Y_RROndrhYs

ダイジェスト版(8分)

https://drive.google.com/file/d/1oxVhAGIpF7mbsPYuBbHKrZuQQXYYPYdH/view

 

学校法人江副学園
新宿日本語学校 江副隆秀

にほんごぷらっと編集部にほんごぷらっと編集部

投稿者プロフィール

「にほんごぷらっと」の編集部チームが更新しています。

この著者の最新の記事

関連記事

コメントは利用できません。

イベントカレンダー

7月
1
終日 留学生に対する日本語教師初任者研修 @ オンライン開催
留学生に対する日本語教師初任者研修 @ オンライン開催
7月 1 2023 – 1月 3 2024 終日
日振協による文化庁委託の初任者研修が今年も始まります。 告示校で3年程度までの経験者対象です。 映像講義の視聴とテスト、数回のオンライン集合研修、自分の授業を改善する自己研修の3つに分かれており、様々な角度からの学びと教師としてのステップアップを目指せるカリキュラムとなっております。 研修詳細は https://www.nisshinkyo.org/index.php 最新トピックスをご覧ください。
10月
1
10:00 AM 凡人社オンライン日本語サロン研修... @ オンライン開催
凡人社オンライン日本語サロン研修... @ オンライン開催
10月 1 @ 10:00 AM – 12:00 PM
凡人社オンライン日本語サロン研修会 新しい一歩を踏み出そう~『ビジネス日本語 教え方&働き方ガイド』   [日 時] 2023年10月1日(日)10時00分~12時00分(オープン 9:40)   [定 員] 250名(先着順、定員になり次第締め切ります)   [対 象] 主に日本語教師、フリーランス、日本語教育ボランティア、など   [参加費] 無料 ※要予約 (前々日(9/29)17 時までに招待URLを送ります。 )   [講 師] 小山 暁子 先生(『ビジネス日本語 教え方&働き方ガイド』著者) 武田 聡子 先生(『ビジネス日本語 教え方&働き方ガイド』著者) 長崎 清美 先生(『ビジネス日本語 教え方&働き方ガイド』著者)   [内 容] 現在、日本で、日本人と働く外国籍社員が増えてきています。 それに伴い、ビジネス日本語の需要も高まっています。 このたび、私たちが長年にわたり携わってきたビジネス日本語教師、またコーディネーターとしての経験を1冊の本にまとめることができました。 セミナーでは、本書をご紹介しながら、ビジネス日本語とは何なのか、具体的なコース例や実践例を紹介しながらお話しします。 さらに、ビジネス日本語教師の働き方についても紹介します。 皆さんが日本語教師としての幅を広げる、前に踏み出す第一歩のお手伝いができればと思っています。   [お問い合わせ・お申込み] 担当:凡人社/坂井 E-mail:ksakai@bonjinsha.co.jp   下記お申込みフォームかメールでお申し込みください。 ※メールでお申し込みの際はタイトルに「オンライン日本語サロン研修会(10/1)」と入れて、本文にご氏名・ご所属・ご連絡先をご記入ください。   お申込みフォーム→https://onl.sc/xtvzdKr
10月
14
10:00 AM 凡人社オンライン日本語サロン研修... @ オンライン開催
凡人社オンライン日本語サロン研修... @ オンライン開催
10月 14 @ 10:00 AM – 11:30 AM
凡人社オンライン日本語サロン研修会 コンテントベースのデザインレシピー学習者の批判的思考を促す日本語の授業―   [日 時] 2023年10月14日(土)10時00分~11時30分(オープン9:40)   [定 員] 250名(先着順,定員になり次第締め切ります)   [対 象] 主に日本語教師、フリーランス、日本語教育ボランティア、など   [参加費] 無料 ※要予約 前日(10/13)17時までに招待URLを送ります。   [講 師] 小山 悟 先生(九州大学留学生センター准教授)   [内 容] 『コンテントベースのデザインレシピ』(凡人社発行)は、コンテントベースの日本語授業のデザインについて“レシピ”を提示する一冊です。 批判的思考を促す手段として、質問作成活動を導入しています。 教育心理学や学習科学、第二言語習得研究の知見に基づいた実践とデザイン実験を積み重ねた軌跡から、コンテントベースの授業デザインのヒントと刺激を得られます。 全編、先生と元学生(新米日本語教師)の対話形式。 『コンテントベースのデザインレシピ』の紹介をしながら皆さまといっしょに、授業デザインについて悩み、より良い方法を探っていきます。   [お問い合わせ・お申込み] 担当:凡人社/坂井 E-mail:ksakai@bonjinsha.co.jp   下記お申込みフォームかメールでお申し込みください。 ※メールでお申し込みの際はタイトルに「オンライン日本語サロン研修会(10/14)」と入れて、本文にご氏名・ご所属・ご連絡先をご記入ください。   お申込みフォーム→https://onl.la/ULbrZa9
10月
17
1:00 PM 全8回_【少人数】養成講座修了者向... @ オンライン開催
全8回_【少人数】養成講座修了者向... @ オンライン開催
10月 17 @ 1:00 PM – 12月 5 @ 3:00 PM
全8回_【少人数】養成講座修了者向け日本語教師実践スキルアップコース_23年10月17日(火)~12月5日(火)毎週火曜13:00-15:00 @ オンライン開催
【少人数】全8回_養成講座修了者向け日本語教師実践スキルアップコース_初級 初級の実習(技能別)を徹底的に復習できます。 養成講座の授業を担当しているTCJ日本語教師養成講座の専任教務リーダーが教育実習を指導する講座です。 【講師】 岩崎 透(TCJ日本語教師養成講座 教務リーダー) 経歴:大学卒業後、印刷会社大手に入社。国内MBAを取得し、国際協力活動に従事し複数の国で日本語を教えはじめる。その後、異文化理解と日本語教育への関心が深まり、筑波大学大学院にて日本語教育を専攻。修了後は、国際交流基金にてインドネシアで教師育成研修を推進。帰国後TCJ入社。現在は養成講座の教務リーダーとして実技指導の教壇に立ちながら、日本語教師の新任研修や育成サポートも実施。 Youtubeでも活躍中 https://www.youtube.com/@nihongo_kyoushi_yousei/about 【こんな方にお勧め】 ・自分の授業の進め方に自信がない方 ・受講生とのコミュニケーションの取り方が不安な方 ・経験したことのないレベルを担当することなった方 ・資格は取ったけど、実際の教壇に立つまでに再度実技を学んでおきたい方 ・職場の人に聞きにくいことについて、情報交換・知識交換をしたい方 ・対面授業しか経験がなく、オンラインでの授業もできるようになりたい方 【対象】養成講座を修了している方 ※TCJ養成講座以外の方もご参加いただけます。 【講座回数】 計8回(約2か月) 【総講座時間】 16時間(週1回/1回2時間) 【日時】 10月17日~12月5日まで。毎週火曜日13:00-15:00 (10/17、10/24、10/31、11/7、11/14、11/21、11/28、12/5) 【講座内容】 第01回 文法「聞きにくい…、初級文法の授業ってこれでいいの?」 第02回 文法 模擬授業(普通形・名詞修飾) 第03回 読解「初級の読解って語彙じゃない…?どうやってやると効果的?」 第04回 読解 模擬授業(トピック導入・大意取り・精読) 第05回 聴解「聴解って、音声流して、解答言って、再度聞いて…。このやり方でいいのかな?」 第06回 聴解 模擬授業(聴解授業のやり方) 第07回 会話「会話の授業が丸暗記の授業になっちゃう。学生は楽しそうにしてるけど…これでいいのかな?」 第08回 会話 模擬授業(タスク中心の授業、ICTツールも使いこなそう!) 【受講料】 88,000円(税込) 【受講形式】 オンライン(Zoom) 【修了書発行基準】 全8回のうち、6回以上出席、かつ、偶数回(模擬授業の回)の全参加の方に、受講修了書を発行いたします。 ※奇数回は、録画します。欠席された方は動画でキャッチアップいただけます。 ※全8回における修了書発行のため、1回ずつの申込はできません。 【定員】 12人(少人数制) 【問い合わせ先】 東京中央日本語学院 養成講座事業部 https://xn--euts3n8lg6bk91h.jp.net/

注目の記事

  1. 出入国在留管理庁で政府が日本語学校に課してした特例措置を終了 政府は5月8日をもって新型コロナ…
  2. 小説家を目指す日系ペルー人 山田マックス一郎さんが語る夢とは 山田…
  3. 日本語教育機関認定法が成立 施行は来年4月 認定日本語教育機関、国家資格の登録日本語教員が誕…

Facebook

ページ上部へ戻る
多言語 Translate