「国際交流協会」といえば、地域の在留外国人と日本人の交流を取り持つ組織として知られる。形態は一般社団法人やNPOなど様々だが、都道府県や市町村を後ろ盾にして日本語教室や交流会を開催するなど地域の国際化を促進している。総務省の外郭団体の自治体国際化協会(クレア)によると、2021年4月現在、都道府県の国際交流協会は63、市町村のそれは784にのぼる。

国際交流協会は、総務省が1989年に「地域国際交流大綱に関する指針」を策定したのを受けて各地で相次ぎ設立された。ブラジルなどから多くの日系人が来日するようになり、地域の国際化が急速に進んだ時期だ。政府や地方自治体にとって、「国際化」が有意な行政課題として浮上したわけだ。

厚生労働省は「国際化」の事業として、外国人の看護師の受け入れに動いた。在留資格の「医療」の中に外国人看護師が就業できる仕組みを作った。先駆的にベトナム人看護師の受け入れ組織を創設した団体幹部によると、「厚生労働省幹部が国際化に適当な事業はないか、と聞いてきたので、外国人看護師はどうかと話したら、すぐに乗ってきた」と語る。

その後、在留外国人の定住化が進み、総務省は2006年に「多文化共生プラン」を策定した。これは。地方自治体が多文化共生社会の町づくりをするための指針となるもので、「プラン」に沿って多文化共生条例を制定する自治体も増えた。「国際化」が一歩前進して「多文化共生」のコンセプトが使われ、行政用語として定着してきた。

「国際交流」と「多文化共生」は、いずれもグローバル化が進展する中で、生まれ育った言葉だ。今回、セサルさんは「国際交流協会(センター)」に着目し、在日外国人の視点でその活動の現場を取材した。    (にほんごぷらっと編集長 石原進)

 

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セサルの挑戦第6回 意義深い千葉県国際交流センターの外国人講師の派遣事業

国際交流協会は都道府県及び地区村町に設置されている組織であり、地域の住民外国人と日本住民の交流を行う機関であると認識しています。私自身が国際交流協会の存在、役割を知らなかったときに、国際交流の場に誘われたことがあります。静岡県富士市で開催された富士国際交流協会主催のペルーの民族楽器を演奏するイベントでした。そのときは、異文化交流のイベントがあるので参加してほしいとペルー人コミュニティの人から持ち掛けられた。その経緯に少し触れておきます。私はペルーの小学校で勉強していたとき、宗教(カトリック)の授業があり、その先生は学校の民族音楽グループを担当されていました。私は、勉強は苦手ではありませんでしたが、英語、日本語(日系学校のため必須科目でした)、音楽と宗教についてはいつも赤点ギリギリでした。民族音楽のグループの先生の「グループのメンバーになったら宗教の成績を多めに見てあげてもいいよ」という誘惑に負けて、グループのメンバーになりました。サンポーニャという楽器をゼロから覚えて、他校のイベントに参加できるようになると、音楽が好きになった。そんな経験がありました。

来日から7年後の1997年、富士市のコミュニティでギターを弾く人と私と同じ楽器サンポーニャを吹く人の3人でグループを形成しました。上記の話した富士市国際交流協会主催のイベントが面白そうだと参加しました。その結果、国際交流協会や国際交流イベントについて知ることができました。

 

当イベント以降、国際交流協会と関わることはほとんどありませんでした。多文化共生の仕事にかかわるまでは。仕事の関係で全国にあるいくつかの交流協会と交流することができました。その中でとりわけ面白い取り組みをされている、と感じた千葉県国際交流センターを訪れ、主任の渡辺昭子さんに取材をお願いしました。

セサル: 千葉県国際交流センターで実施している事業の中で、子供たちと外国人との交流事業について、どのような事業を展開されていますか?

渡辺さん: 今年度は中学生以上を対象とした、「多文化共生開発講座」を実施しています。外国の方から直接お話を聞くことで、世界のさまざまな文化や習慣に親しみをもってもらうことを目的としています。また、中学生以上の生徒さんには、海外留学や、外国で働くこと、あるいは日本で外国籍の方々と一緒に働くことなどについて考えてもらうきっかけになるといいと思っています。

セサル: いつから取り組みされていますか。

渡辺さん: 令和2~3年度までは、小学生を対象に「多文化共生出前講座・小学生版」を実施していました。

セサル: 講師の方々は、どんなお話をされるのですか?

渡辺さん:「小学生版」では、外国の文化や生活習慣などのお話に加え、「外国の小学校での1日」を紹介してもらい、日本の学校生活との違いについてお話してもらっています。

例えば、日本の小学校では、ほとんどの子供たちが徒歩で通学しますが、国によってはマイクロバス、親が送迎する、地域によっては危険な川を渡って何時間もかけて通学するという話や、外国では豪華な食堂で食べ放題、家に帰って食べるなど、給食のスタイルも国によってさまざまです。

セサル: 子供たちからはどのような反応があるのですか?

渡辺さん: 外国の常識にビックリした、あとは直接外国の方からお話を聞けたことが、楽しかったという声や、日本にも外国の文化がたくさん入ってきていることがわかり、身近に外国を感じることができるようになった、とインタビューで答えてくれた子もいました。

セサル: 日本以外の世界の国々について知ることができるのですね。

渡辺さん: そうですね。海外旅行であまり行く機会のない国については、子供たちはほとんどイメージを持っていないですね。逆に、情報が多すぎて、偏ったイメージを持っていることもありますから、その国の講師と直接交流することで、その国を正しく理解してほしいですね

セサル: 確かに!ペルーは日本から遠く、渡航費用もかかるので、家族旅行にペルーを選ぶ人は多くないかもしれませんね。遠くの国から日本に来た人たちに直接お話が聞けるのは貴重ですね。

渡辺さん: 現在、世界40カ国以上の国と地域の方々に講師登録をしていただいています。今はコロナ禍で外国に行くことも大変なので、日本で交流できるという点もメリットだと思います。

セサル: 大人になってからではなく、小学生~中学生の学齢期に外国の文化に触れられるという点も興味深いですね。

渡辺さん: そうですね。子供たちに日本での暮らしが、外国の人々にとっては当たり前ではないということを知ってもらえるといいと思います。

セサル: 外国のイメージづくりには、報道も影響しますよね。

渡辺さん: 報道が全てではないことも知ってもらいたいですよね。日本に住む外国人を傷つけてしまう報道も中にはありますが、実際にその国の人と交流したら、全然イメージと違った、その国のことをもっと知りたい、話したい、と思えてきます。「その国の人から直接話を聞く」という姿勢が多文化共生の第一歩となり、外国にルーツのある子どもたちへの理解にもつながるのではないかと思います。

セサル: 私自身も1990年に来日し、日本での生活は32年になりますが、来日直後は、ペルーの文化を周囲に理解してもらえず、いじめられたこともありました。それは、お互いの文化を理解・尊重することができなかったからだと思います。この取り組みによって、いじめや差別が減っていくことを願っています。同じような取り組みをされている国際交流協会は他にありますか?

渡辺さん: 「外国人と市民の交流事業」として、在住外国人に講師になってもらい、出身国の紹介をしてもらう講座は他県、他市でも実施しているところはたくさんあると思います。千葉県国際交流センターでも、元々「ちば出前講座」として一般向けに実施していました。令和2年度からクレアの助成金を得て、小・中学校の授業で活用できるよう、講座内容をバージョンアップし、モデル校となった学校の先生方の学習指導案をまとめたほか、授業で使用できる動画の配信もしています。

セサル: 千葉県内の市町村では在住外国人数によって、講座の依頼数は変わってくるのですか?私は市町村によって日本人住民と外国人住民の暮らしをいかによくしていくかの意欲に差があるのではないかと感じています。その点についてはいかがでしょうか。

渡辺さん: 市民向けの国際理解講座等を独自に実施している市町村もありますので、講座の依頼件数で意欲を測れるものではないのですが、5~6年継続して年間複数回、依頼をいただいているところもあります。毎年色々な国籍の講師を紹介していますが、参加者からは大変好評と聞いています。各市町村にも、積極的に出前講座を利用していただけるよう、講座の楽しさを伝えていきたいと思います。

セサル: ある外国人住民の方から聞いたお話なのですが、子供がゴミの分別について学校で勉強し、家に帰って、お母さんに伝えたそうです。そうすると親も子供経由で日本の文化を学ぶことができるとのことでした。このようなプラスアルファの効果も期待できるのでしょうか。

渡辺さん: 講座は、もちろん子供たちに楽しんでもらうためのものですが、勉強した子供たちに、「ご両親にもお話してね」と伝えました。また、一緒に授業を考えてくださった先生方も、外国にルーツのある子供たちの文化を理解できたので、今後の指導に生かしていきたいとコメントしてくださいました。

セサル: 講座の実施方法は学年ごとですか?クラスごとですか?

渡辺さん: 学年に複数のクラスがある場合は、クラスごとに違う国籍の講師に講演をしてもらい、事後学習として学年全体で共有する発表会を実施した学校もあります。

セサル: 子供たちには、事前にどの国の講師が来るのかお知らせするのですか?

渡辺さん: 子供たちには、講師が来ることを事前に伝えたうえで、インターネットや書籍で講師の出身国について調べ、質問を考えてもらいます。この調べ学習を実施することで、子どもたちに一層興味を持ってもらうことができ、その国に対してのイメージを整理することもできて、大変効果的でした。

セサル: インターネットで何でも調べられる時代ですよね。質問の質や、難易度は上がっているのですか?

渡辺さん: かわいい質問ばかりでしたよ!どんな虫がいるかとか、一番おいしい食べ物とか、なぜ建物がこんな形をしているのかとか・・・大人では考えつかないような質問がたくさん出ていて、講師の皆さんも楽しそうでしたよ!参加した子供たち、先生方、講師のみんなが楽しめたことがよかったです。

セサル: この取り組みに補助金などの活用はあるのですか?

渡辺さん: 自治体国際化協会(クレア)の「多文化共生のまちづくり促進事業」助成金を利用しています。

セサル: 助成金はどのくらいの期間、継続されるのですか?

渡辺さん: 審査が通れば、1つの事業に対して最大3年間、継続して助成を受けることができます。試験的にスタートさせて、事業化していくための助成金申請ですので、3年以上の継続はできません。助成金がなくても、自分たちで継続していかれるかどうかという点も、審査の基準となっています。

セサル: 県での予算化などの可能性もあるのですか?

渡辺さん: 予算化には色々な手続きが必要になりますので、継続していく方法を一緒に考えていただいています。

セサル:本日は外国人講師の活用について、お話をいただきありがとうございました。私もいつかお声がけいただけると嬉しいです。

【セサルのひと言】:
私はこの取り組みにとても関心をもっております。私自身が来日後、思春期に文化の壁にぶつかったからです。ただ、その時は文化的背景の違いが日本に溶け込むために「壁」になっていると気が付きませんでした。現在、千葉県国際交流センターが取り組んでいる外国人講師の派遣は日本の子供たちに少しでも海外の文化に触れてもらい、大人になった時に感じる文化の壁を壊してくれる取り組みであると確認しています。この授業を受けられた子供たちが10年後にどうなるか楽しみです。

 

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