愛伝舎創立20周年シンポ(その四)<外国ルーツの若者が未来を語る>
- 2025/8/29
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愛伝舎創立20周年シンポ(その四)<外国ルーツの若者が未来を語る>
念シンポジウムのメーンイベントは「外国ルーツの若者とともに考える 私たちの未来」と題したパネルディスカッション。次の7人がパネリストとして登壇した。
- 宗沙ルイスさん(本田技研工業株式会社鈴鹿製作所社員)
- 大山ジェシカさん(三重県立久居高等学校教諭)
- 原丹野カウアンネさん(慶應義塾大学学生)
- 林マツミさん(四日市市社会福祉協議会職員)
- 佐々木聖子さん(公益財団法人入管協会執行理事・初代入管庁長官)
- 関口めぐみさん(三井物産株式会社社員)
- 粂内直美さん(三重県立飯野高等学校教諭)
登壇者は外国にルーツを持つ若者や、教育・企業・行政の現場で多文化共生を実践してきた専門家たちだ。会場では、社会で活躍する7人が自らの体験を語り、互いを個人として尊重し合える未来像を探った。
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「きっかけ・環境・本人の意思」 ― 宗沙ルイスさん
最初に口火を切ったのは、ペルー出身で現在は本田技研工業でエンジニアとして働く宗沙ルイスさん(39)。
経済破綻に揺れるペルーを離れ、両親の出稼ぎを追う形で小学校低学年の頃に三重県伊賀市へ移り住んだ。
当時は外国人児童の受け入れ体制が整っておらず、全校生徒700〜800人の中で外国人はわずか数人。帰国前提でペルーの通信教育も続けていたが、「日本で生きていく」と決意した小学4年生の頃から、地元に溶け込もうと努力した。
地域住民のサポートで少年団やそろばん教室に通えるようになり、中学では学習支援団体の第一期生として高校受験の準備を進めた経験を語る。「外国人が活躍するためには、きっかけ・環境・本人の意思の3つが必要」と強調し、現在は学習支援ボランティアとして地域に恩返ししている。
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「教育は世界を変える武器」 ― 大山ジェシカさん
10歳で来日したブラジル出身の大山ジェシカさんは、リーマンショックを機にブラジル人学校から公立中学に転校。日本語が分からず孤立した時期を振り返り、「あの経験が今の自分を作った」と語る。
高校は外国人生徒が多い飯野高校に進学。大学進学や海外留学、商社での海外営業を経て、コロナ禍を機に教員の道へ進んだ。「教育は世界を変えるための最も強力な武器」という信念を胸に、今は英語教諭として生徒たちと向き合っている。
「どう違うかではなく、どう一緒に生きるかを考えてほしい」と呼びかけ、「自分を理解し、大切にすることが、他者を受け入れる第一歩になる」と力強く語った。
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母語で安心できる居場所を ― 林マツミさん
5歳で来日した林マツミさんは、当初言葉が分からず孤立感を抱えたが、地域の支えで学校生活になじんだ。
大学時代、通訳アルバイトを経験したことで「人の役に立つ喜び」を知り、現在は四日市市社会福祉協議会で相談員として働いている。
「日本語・ポルトガル語・スペイン語の3言語を使いながら、生活困窮や就労、ひきこもりの相談に対応しています」と説明。「母語で安心して相談できる場を作ることが大切。支援を求めることは恥ずかしいことではない」と訴えた。
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行動力が未来を切り開く ― 原丹野カウアンネさん
慶應義塾大学2年生の原丹野カウアンネさんは、4歳で来日し、日本語を学びながら公立学校とブラジル人学校を行き来した。幼い頃から「日本語を学び続けること」を心がけ、趣味を通じて日本語力を磨いたという。
ハンガリーへの医学部留学を経て、現在は脳科学とメンタルヘルスの研究を志す。将来はウェアラブル技術を活用したメンタルケアの研究を進め、日伯両国をつなぐ架け橋になりたいと語った。
「環境に受け身でなく、自分から行動する勇気が未来を拓く」と若い世代へメッセージを送った。
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教育現場から見た変化 ― 粂内直美さん
三重県立飯野高校で教鞭を執る粂内直美さんは、同校の取り組みを紹介した。
飯野高校では「外国人」という言葉を使わず、「CLD生徒(文化・言語的に多様な背景を持つ生徒)」と呼んでいる。今年度は16カ国から多様な生徒が在籍し、互いに刺激し合う学習環境が形成されている。
また、F1通訳ボランティアや地域での学習支援活動など、社会とつながるプログラムを積極的に展開。「卒業生たちが社会でリーダーシップを発揮してくれることを願っています」と語った。
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企業と行政の視点 ― 関口めぐみさん・佐々木聖子さん
三井物産の関口めぐみさんは、2005年から続く外国人支援の歩みを紹介した。リーマンショック以降は奨学金制度を整備し、キャリア支援や専門学校見学会も実施。
「学ぶ機会を届けることが、未来を切り開く力になる」と力を込めた。
初代入管庁長官で入管協会理事の佐々木聖子さんは、制度面から現状を分析。「制度が整ってきた今こそ、社会全体が共生を当たり前と受け止めることが重要」と呼びかけた。
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共生社会の課題と提案
議論では、外国人への固定観念や、ネット上で見られる排斥感情も取り上げられた。「『日本語が上手ですね』という言葉が、悪意なくても毎日のように繰り返されると疲れてしまう」との声に、会場もうなずいた。
解決策として、「日本語力を評価するのではなく、趣味や夢を尋ねるなど個人として関心を寄せる対話が大切」という意見が共有された。また、地域清掃やイベントへの積極参加が、誤解を解く有効な手段になるとの事例も紹介された。
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「共生」を超えて
「国籍や人種を意識しない子どもたちの姿勢に、大人が学ぶべきだ」。この日、多くの登壇者がそう語った。
外国にルーツを持つ子どもたちは、支援と理解があれば、自ら学び、社会で輝く存在になる。その実例が、壇上の7人だった。
「外国人」という枠を超え、誰もが自然に暮らせる社会へ――。愛伝舎の記念シンポは、そんな未来への大きな一歩となった。