特集・日本語議連
日本語教育推進基本法の原案への海外からの声

特集・日本語議連  日本語教育推進基本法の原案への海外からの声

日本語教育推進議員連盟が公表した日本語教育推進基本法(仮称)の政策要綱(原案)に対し、海外からも反響が「にほんごぷらっと」に寄せられている。その一つである「要請文」を「にほんごぷらっと」が日本語議連の中川正春会長代行と馳浩事務局長に送付した。全米日本語教育学会のメンバーら11人の連名による要請文は以下の通り。

「日本語教育振興基本法案の成立に向けて−在外日本語教からの要請」

私どもは日本国内外で日本語教育・バイリンガル教育に携わる教師、研究者です。このたび日本語教育推進議員連盟の手で「日本語教育推進基本法案」が作成され、国会に上程されることを歓迎するとともに、在外の教師・研究者の立場から、ご関係の皆様に意見と要望をお伝えしています。

特に私ども在外の言語教育関係者が大きな関心を寄せているのは、公開された法案第三項二の2「在留邦人の子に対する日本語教育関係」の文面で、今後の協議を通して現行の文案で「在留邦人の子等」と一括りに書かれている政府支援の対象を明確にし、従来の政策の枠を超えた多くの学習者にも、支援の輪を広げて頂きたいというのが私どもの要望です。

従来の政策によると、在留邦人の子弟に対する日本語教育支援の及ぶ範囲は、文科省認可の補習校・日本人学校に在籍する駐在員の子供たちや、戦前に南米諸国、米国、カナダに移住した日系人の次世代にほぼ限られていました。しかし、この範疇以外にも今回の法案の対象に加えて頂きたいと考えられる学習者は数多くあります。それは戦後の日本から世界各地に渡航し、日本語を話す家庭で育ち、現在は在住国に永住を予定している数万人とも言われる子供や若者たちです。今回の法案の成立の過程では、このような若い人々の存在に目を向け、法案の対象者であることを明確にして頂きたいというのが、私どもが日本語教育推進議員連盟の議員各位にお願いすることです。

上記のような日本にルーツを持つ在外の若い世代は、日本政府からの直接の支援はないまま、長年にわたる居住国での教育を経てその国の言葉に堪能になる一方で、小規模な週末の日本語教室や家庭での教育によって日本語力と日本文化や社会規範についての知識を身につけ、多くの者が現地で優秀な学校に進学して、各種の専攻の知識を習得し、居住国と日本を結ぶ貴重な架け橋になっています。こうした両国の言語・文化・経済・社会規範の知識を身につけた若者は、まさに現在の日本社会が最も必要とするグローバル人材だと思うのですが、「金の卵」ともいうべきこのような若い人材の日本語教育は、従来から文科省の支援の網にも国際交流基金の支援の網にも、また駐在員の子弟教育の支援をする海外子女教育振興財団の網にもかかることが少なく、その多くが現地在住の心ある日本人有志や親たちの自助努力によって細々と支えられてきました。

このような小規模の学校やプログラムは、米国、欧州、アジアをはじめとして日本人家族が居住する世界各地にありますが、資金面の支援も教材や教師研修という教育面への支援もないまま、せっかく作られた学校が低学年までで終わることも多く、さらには学校そのものが数年でなくなってしまう例も稀ではありません。そのため幼少期に家庭や地域で育んだ日本語の発達もその時点で留まり、やがて日本語が忘れられてしまうケースもあります。現在の日本が最も必要とするグローバル人材に育つ最大の可能性を秘めたこのような子どもや若者の母語である日本語支援のために、教師の養成、教材開発、教室の確保などに政府支援の枠を広げて頂きたいというのが私どもの希望です。

世界の多くの地域で日本にルーツをもつ児童・生徒の日本語・日本文化の教育にあたる教師・保護者は多く、その多数がこの法案に大きな関心を寄せています。今後の審議の過程で、この在外の多数の子ども達の日本語教育への支援が可能となるよう、関係者の皆様のご尽力をお願いする次第です。  また在外にあってヒアリングなどに参加できない私どものために、日本語教育推進議員連盟の皆様には、必要な情報のご提供をお願いするとともに、上記の要望に対するご見解を伺えれば幸いです。

 

(寄稿者:五十音順)

稲垣みどり (早稲田大学国際教養学部助手・アイルランド日本語補習校元講師)

カルダー淑子(母語継承語バイリンガル教育学会海外継承日本語部会代表・全米日本語教育学会継承日本語研究グループ理事・ジョンズホプキンス大学国際関係高等大学院日本語講師・プリンストン日本語学校前理事長)

櫻井恵子(韓国継承日本語教育研究会会長・韓国日語教育学会顧問・仁荷大学校元教授 )

鈴木庸子(国際基督教大学日本語教育課程元講師・母語継承語バイリンガル教育学会海外継承日本語部会企画委員・バイリンガル/マルチリンガル子どもネット理事・YMCA医療福祉専門学校準教員)

ダグラス昌子(カリフォルニア州立大学ロングビーチ校教授・全米日本語教育学会継承日本語研究グループ会長・全米継承語学校連盟代表・オレンジコースト日本語学校カリキュラムアドバイザー)

トムソン木下千尋(ニューサウスウェールズ大学教授・豪州日本研究学会元会長・日本語グローバルネットワーク豪州前代表)

中島和子(トロント大学名誉教授・カナダ日本語教育振興会名誉会長・母語継承語バイリンガル教育学会名誉会長・バイリンガル/マルチリンガル子どもネット代表・トロント補習授業校高等部校長)

永野友雅(ニューヨーク市立ラガーディア短期大学准教授・全米日本語教育学会継承日本語研究グループ理事)

服部美貴(国立台湾大学日本語文学系講師・台湾継承日本語ネットワーク代表・母語継承語バイリンガル教育学会海外継承日本語部会企画委員)

林(高倉)あさ子(カリフォルニア大学ロサンゼルス校アジア言語文化学部日本語科講師・世界言語センター理事・南カリフォルニア日本語教師会元会長)

湯川笑子 (立命館大学文学部教授・母語継承語バイリンガル教育学会会長)

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言語科学会 第26回年次国際大会(J... @ 愛媛大学 城北キャンパス
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言語科学会第 26 回年次国際大会(JSLS2025)開催・研究発表募集のご案内 言語科学会 (JSLS: The Japanese Society for Language Sciences) では以下の要領で、 第 26回年次国際大会 (JSLS2025) を開催いたします。 大会日程: 2025 年 7 月 12 日(土)~ 13 日(日) 開催場所: 愛媛大学 城北キャンパス(愛媛県松山市文京町 3) 大会ウェブサイト: http://www.jslsconference.jpn.org/jsls2025/ 基調講演: Jae DiBello Takeuchi 氏 (Indiana University Bloomington)
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10:00 AM 【!!追加募集!!】NPO法人日本... @ オンライン (オンライン上での集合研修 および 動画視聴による個人学習) ・「就労者の異文化適応」「教材研究」は対面(東京・大阪)で実施。 オンラインでの参加も選択可能。
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【!!追加募集!!】NPO法人日本語教育研究所 主催文部科学省委託 令和7年度現職日本語教師研修プログラム普及事業 就労者に対する日本語教師【初任】研修 就労者に対する日本語教師養成 –日本語教育研究所の多様な研修実績及び人材を活かしたビジネス日本語教育/指導- ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ この研修は、これから新たに就労者に日本語を教えたいと考えている方を主な対象としています。スキルアップにぜひお役立てください。 再受講をご検討の方へ 本研修はこれまでに弊所の研修をご受講された方も、再度ご参加いただけます。 実際に現場に出て、もう一度確認したいことなども出てきているのではないでしょうか。 さらに実践的な指導力を高める良い機会となりますので、ぜひご検討ください。 ─────────────────── ■期間 2025年7月20日(日) ~ 2026年2月8日(日) *日程等の詳細は、募集要項のリンク先からご覧ください。 ■対象 日本語教育機関認定法に基づく「登録日本語教員」を対象としますが、本法の経過措置期間内(令和10年度まで)は、令和6年度までに下記を修了した方も対象とします。 1)日本語教師として下記のいずれかの要件を満たす方  ①大学/大学院で日本語教育に関する教育課程を修了し、大学/大学院を卒業/修了した方  ②大学/大学院で日本語教育に関する科目の単位を26単位以上修得し、大学/大学院を卒業/修了した方  ③公益財団法人日本国際教育支援協会「日本語教育能力検定試験」に合格した方  ④学士の学位を有し、日本語教師養成講座 420 単位時間以上を修了した方 2)原則として、就労者への日本語教育歴が0~3年未満の方 ■定員 100名 ■受講料 20,000円(税込) ※教材費込み ■申込方法 以下のリンクからお申し込みください。 https://forms.gle/JWtnJ6WzzCNQvQx88 ■申込締切 2025年6月30日(月)【募集期間延長しました!!】 ■募集要項 https://docs.google.com/document/d/1uHn1k6zdRIgcQ2-lK5Uyr1Qa5vlwzXCFvKEUw3UjJVU/edit?usp=sharing ■お問い合わせ NPO法人 日本語教育研究所(研修事務局) nikken.kenshu@gmail.com
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令和7年度日本語学校教育研究大会 @ 国立オリンピック記念青少年総合センター
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日本語学校教育研究大会では、各日本語教育機関における実践・事例の報告の機会として、発表の場を設けています。 意見・アイディア交換の場としてぜひご活用ください。 皆様からのご応募お待ちしております。
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10:06 AM 第11回日本語教育支援システム研究... @ 英キール大学(Keele University)
第11回日本語教育支援システム研究... @ 英キール大学(Keele University)
8月 26 @ 10:06 AM
第11回日本語教育支援システム研究会(CASTEL/J)国際大会 第11回日本語教育支援システム研究会(Computer Assisted Systems for Teaching and Learning Japanese – CASTEL/J)国際大会を英国中部スタッフォードシャー州にあるキール大学(Keele University)にて英国日本語教育学会(BATJ)・キール大学ランゲージ・センターとの共催で開催することとなりました。 日本語教育支援システム研究会国際大会は、日本語教育関係者、日本語教育のリーダーに日本語教育におけるテクノロジー使用の最先端の動き、将来の方向性を共有する機会を作ってきました。2020年のパンデミックにより授業のオンライン化・ハイブリッド化が進み、それに加えて、この数年の人工知能(AI)技術の急速な発展と普及により、日本語教育は元より私たちを取り巻くテクノロジー環境が大きく変化しています。これらの技術的発展を効果的に教育・学習に取り入れ促進していくことは今まで以上に重要となっています。世界中からこの分野の優れた研究者、実践者が集まるこの国際大会に是非ご参加ください。 日時:2025年8月26日(火)〜27日(水) 会場:英スタッフォードシャー州キール大学チャンセラーズ・ビルディング 共催:英国日本語教育学会(BATJ)、キール大学ランゲージ・センター

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