一等賞 里美ちゃんへの返事 ―中国の新しい魅力「環境保護の価値観」  上海理工大学 黄鏡清

テーマ「日本人に伝えたい中国の新しい魅力」

里美ちゃんへの返事 ――中国の新しい魅力「環境保護の価値観」 上海理工大学 黄鏡清

拝復 里美ちゃん

お久しぶり! 最近どうしてる? 別れてもう半年経ったね。去年九月、大学の短期プログラムで来ていた里美ちゃんと一緒に過ごした日々が、昨日のことみたいだよ。一緒に授業を受けたり、食事したり、上海のあちこちを歩き回ったり、ほんとうに楽しかったよね。

里美ちゃんはこの間のメールの中でこんなことも言ってたね。

「中国って本当に広い。歴史的景観も多いし、料理も地方色が豊かだから、あちこち行ってみたいな」。里美ちゃんがそう言ってくれて、私もうれしい。でも里美ちゃんは町の人々のよくないマナーや習慣なども見ていたから、そのことで中国へのマイナスの印象を持ってしまったよね。

「どうして中国人はいつも公共の場所で騒がしくするの? どうしていつも気軽に道ばたにゴミを捨てたり、つばを吐くの? 中国人のマナーってその程度?」。里美ちゃんは正直な子だね。ここまで言われると、中国人として恥ずかしくなってしまうよ。

里美ちゃんの親友だから私も正直に言うね。実はあの時、私は中国人としての誇りが傷ついたの。同時に、人々のこういうふるまいは、ちょっと注意したり文句を言ったりしても、簡単になくなるものじゃないって感じた。だから私、「この国をきれいで清潔な国にする。そのためにも、自分だけじゃなく、みんなでがんばって環境問題に取り組もう」って決めたんだ。

それで去年の十二月、「グリーンバード」っていうゴミ拾いNPOの活動に参加したんだ。「きれいな街は、人の心もきれいにする」をコンセプトに、日本の原宿・表参道から始まった団体。上海にいる日本人を中心に、最近、この町でも活動が広がっているの。中日両国の青年たちがお揃いのユニフォームを着て、月一回、ゴミ拾いボランティア活動をしているのよ。この活動に参加している間、プロジェクトの日本人リーダーと何度も話をした。ちょっとその会話の一部を思い出してみるね。

「なぜ日本の町は上海より清潔なんですか?」

「うん、そうだね、ぼくたち日本人の多くは、幼い頃からずっと、環境を大切にしなさいって教育されてきたものさ」

「多くの中国人の大人たちは、特に何も考えずポイ捨てしてるんです。でも一方で、グリーンバードに参加するような中国の若者も増えてきましたよ」

「確かに」

「私、グリーンバードに出合えて良かったと思ってます。ここでの活動のおかげで、私たち中国人は、今の中国に足りないものが何なのかに気づくことができます。でも、やはり中国の環境を守る活動の主役は、中国人自身でなければなりませんよね」

最近もグリーンバードの活動があって、私も参加した。そしたら、これまでの活動の成果として、路上に捨てられている吸殻・ペットボトルなどの量が明らかに減ってきているし、街の人々の注目や支持も集まってきているんだって。

上海ではそれ以外にも新しい動きがあったのよ。「シェア自転車」って知ってる? 今、中国各地で大ブームなの。この動きが広がってきたことで、中国では「もう一度自転車に乗って環境を守ろう」という流れが起きているんだ。中国もどんどん変わってきてるんだな、と思わない?

今の中国では、多くの若者が私と同じように、「自分たちの行動を通して中国の環境を守りたい」と思って、実際に行動しはじめている。最近私は、大学内でゴミ分類についての学生意識調査をやったんだけど、環境保護の価値観が確実に定着してきている、ってわかったのよ。こういう価値観が持った人々が、これからの中国を担っていく。そのことが中国の新しい魅力だと言える日が、もうすぐ来るんじゃないかな。

また里美ちゃんに会いたい。一緒に上海の街でシェア自転車に乗ろうよ。私ももっと勉強したり、ボランティア活動をしたりしながら、里美ちゃんが来るのを待ってるからね。またお会いできる日を楽しみに。

敬具
 
(指導教師 郭麗)

 黄鏡清(こう・きょうせい)

1996年、福建省出身。上海理工大学日本語学部2年。この作文コンクールへの参加は、今回が初めて。
国際電話により口述審査を受けた際は「突然、作文の内容から将来の進路まで聞かれて、ちょっと緊張しました。日本語を書くのは先生のご指導のもと何とかなっても、話すのはまだまだで、もっともっと努力する必要があると痛感しました」と反省をバネに奮起している。
今回の受賞作で描いた“交流”については「中日友好がいつまでも続くためには、中日両国の国民間の友好交流が必要。日本語の勉強を契機に多くの日本の友人を持つ私は、平和の伝書鳩として、中日友好のために努力したい」とその実践に大きな希望を抱いている。趣味は、テニス。
 

※本文は、第13回中国人の日本語作文コンクール受賞作品集「日本人に伝えたい中国の新しい魅力」(段躍中編、日本僑報社、2017年)より。文中の表現は基本的に原文のまま記載しています。なお、作文は日本僑報社の許可を得て掲載しています。

 

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第11回日本語教育支援システム研究... @ 英キール大学(Keele University)
8月 26 @ 10:06 AM
第11回日本語教育支援システム研究会(CASTEL/J)国際大会 第11回日本語教育支援システム研究会(Computer Assisted Systems for Teaching and Learning Japanese – CASTEL/J)国際大会を英国中部スタッフォードシャー州にあるキール大学(Keele University)にて英国日本語教育学会(BATJ)・キール大学ランゲージ・センターとの共催で開催することとなりました。 日本語教育支援システム研究会国際大会は、日本語教育関係者、日本語教育のリーダーに日本語教育におけるテクノロジー使用の最先端の動き、将来の方向性を共有する機会を作ってきました。2020年のパンデミックにより授業のオンライン化・ハイブリッド化が進み、それに加えて、この数年の人工知能(AI)技術の急速な発展と普及により、日本語教育は元より私たちを取り巻くテクノロジー環境が大きく変化しています。これらの技術的発展を効果的に教育・学習に取り入れ促進していくことは今まで以上に重要となっています。世界中からこの分野の優れた研究者、実践者が集まるこの国際大会に是非ご参加ください。 日時:2025年8月26日(火)〜27日(水) 会場:英スタッフォードシャー州キール大学チャンセラーズ・ビルディング 共催:英国日本語教育学会(BATJ)、キール大学ランゲージ・センター

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