政府が「外国人就労 拡大に転換」へ 西日本新聞が1面トップで報道

政府が「外国人就労 拡大に転換」へ 西日本新聞が1面トップで報道

西日本新聞社は20日朝刊の1面トップで「外国人就労 拡大に転換」、社会面では「実習名目の就労限界」の見出しを掲げたキャンペーン記事を掲載した。政府は、長期の外国人労働力の確保のために「労働開国」にかじを切った――との内容だ。政府が6月に公表する「骨太の方針」に増加する在留外国人の「共生」や日本語教育の支援なども盛り込む方針だとも伝えている。日本語教育など外国人受け入れの環境整備は、まさに「待ったなし」の状況だ。

西日本新聞社は「新 移民時代」の長期連載などを通じて、九州などの地方都市の労働現場の窮状や外国人受け入れの課題を詳報した。大手メディアではほとんど使わない「移民」という言葉を連載のタイトルに掲げ、一連の報道は早稲田ジャーナリズム大賞を受賞するなど社会的に高い評価を受けた。

今回、朝刊で大きく取り上げたニュースは、政府が「特定技能(仮称)」という新たな在留資格を検討していることを紙面化。農業、介護、建設、造船などの分野を対象に各業界団体の日本語能力や専門技能に関する試験をパスすることを条件に外国人に与える新たな在留資格を想定している。言ってみれば、高度人材や技能実習生ではなく、「ミドル・スキル」の労働者の受け入れとも言えそうだ。

政府は「特定技能」による受け入れを前提に外国人労働者の目標人数を試算しているという。それによると、介護分野は毎年1万人増。農業では2017年の約2万7000人が23年には最大10万3000人、建設では17年の約5万5000人が25年には30万人以上にそれぞれ拡大すると予測。「特定技能」という新たな受け入れ枠を設けることで政府が「労働開国」にかじを切るというわけだ。

解説記事では、昨年10月現在で外国人労働者は前年より20万人増えて128万人に達し、うち4割を留学生のアルバイトと技術移転が目的の技能自習生が占めている実態を指摘。「建前と現実のひずみが、不法就労や過酷労働の温床となってきた」と対応の遅れを批判している。また、人手不足に伴う人材の争奪戦は国際的に加熱しとており、「外国人に来てもらえる国」となるには、労働者としてだけでなく生活者として受け入れるための施策も重要だと強調。「開国」には共生社会に実現が欠かかせない、と主張する。

社会面では、介護施設をはじめ国家戦略特区に指定された農業や新たに技能実習生の対象となった「宿泊業」の関係者の声などを紹介する。いずれも人材不足で対応に四苦八苦しているだけに、外国人就労枠の拡大を一様に歓迎している。宿泊業者にとっては、インバウンドの外国人観光客が増大する中で外国人の採用枠が増えることは助かるはずだ。その一方で昨年11月には技能実習適正化法が施行され、受け入れ先を監督する「外国人技能実習機構」が新設された。今後、どのように外国人を受け入れ、彼らとの共生の道筋をどうつけるのか。政府の対応が注目される。

ところで、西日本新聞のニュースのポイントは、記事の見出しにあるように、それまで「外国人就労」に消極姿勢だった政府が「拡大」へ方針転換を図ったことだ。そのこと自体が「労働開国」だという。その際には外国人を単なる労働力と見なすのではなく、共生社会の一員として迎えるための環境整備が必要だと主張する。その通りだが、そのためにどのように法的な整備を進めるかが重要になる。

2008年6月に自民党の外国人材交流推進議員連盟が「日本型移民政策の提言」をまとめ、移民受け入れのための法整備を提案したが、反発が強く頓挫。最近では労働力不足を背景に自民党内で外国人受け入れに積極的な意見が目立つが、法整備は進んでいない。

そうした中で2016年11月に超党派の日本語教育推進議員連盟が発足、日本語教育推進基本法(仮称)の制定を目指し議論を進めている。外国人受け入れを拡大するならば、日本語教育の在り方を抜本的に見直す必要があるだろう。外国人労働者にとっては、「働くための日本語」も新たに必要になるはずだ。その受け皿となる就労者のための日本語学校の整備も考えなければならないだろう。

私たち「にほんごぷらっと」は、日本語議連の議論を詳報するとともに幅広く日本語教育に関する様々な情報を発信してきた。併せて国境を越えて日本語教育を充実させることによって、「海外の日本語人口1億人」を目指すべきだと主張している。マスメディアからみれば荒唐無稽な話に思えるかもしれないが、日本が急激な人口減少と超高齢化社会を乗り切るために、日本文化の源泉ともいえる日本語を「資産」として海外で活用する術を考えるべきではないかと。

目の前のニュースを特ダネとして報じるのはメディアの重要なミッションである。その意味では西日本新聞の今回の記事は、時流をとらえた見事なスクープだ。「労働開国」後には日本社会がどう変わり、共生社会を実現するにはどのような法整備が必要なのか。今後の報道にも期待したい。

石原 進(いしはら・すすむ)日本語教育情報プラットフォーム代表世話人

投稿者プロフィール

「にほんごぷらっと」の運営団体である日本語教育情報プラットフォーム代表世話人。元毎日新聞論説副委員長、現和歌山放送顧問、株式会社移民情報機構代表取締役。2016年12月より当団体を立ち上げ、2017年9月より言葉が結ぶ人と社会「にほんごぷらっと」を開設。

この著者の最新の記事

関連記事

コメントは利用できません。

イベントカレンダー

6月
28
終日 第34回小出記念 日本語教育学会 年... @ オンライン
第34回小出記念 日本語教育学会 年... @ オンライン
6月 28 終日
開催日:2025年6月28日(土) ・場所:オンライン(Zoom) ・予定(日本時間): 9:40-10:10 会員総会 10:20-10:30 開会・プログラム説明 10:30-12:20 講演   「対話を通した学習者オートノミーおよびウェルビーイングの促進」 講師:加藤聡子氏(神田外語大学 学習者オートノミー教育研究所 特任准教授) 13:20-16:50 口頭発表 16:55-17:10 総括 ・参加費:会員無料・非会員2000円(発表者以外の参加申し込み方法は5月下旬にお知らせします)
7月
5
終日 日本語ジェンダー学会 第25回年次... @ 実践女子大学(渋谷キャンパス)
日本語ジェンダー学会 第25回年次... @ 実践女子大学(渋谷キャンパス)
7月 5 終日
第25回年次大会 研究発表募集要項 2025年7月5日(土)に実践女子大学(渋谷キャンパス)にて開催される、第25回年次大会での研究発表を募集します。以下の要領でお申込みください。  発表資格: 研究代表者=当日の発表者は、応募および発表時点で当学会の会員である必要があります。会員登録は、当学会事務局で随時受け付けておりますので、応募時までに会員登録をお済ませください。 会員登録はこちら新しいウィンドウで開きますからお願いします。 なお、研究代表者以外の連名者は、会員・非会員は問いませんが、採択された場合、後日の参加申込みは連名者も含み全員にしていただきます。 発表内容: 言語(特に日本語)・言語による作品・言説・発話・言語使用状況・言語使用環境等をジェンダーの観点から論じた内容を含む未発表のもの(発表内容は、大会テーマに関わるもの or 関わらないもの、どちらでもよい) → 大会テーマ「メディア・ことば・ジェンダー」 発表言語と時間: 日本語で30分(口頭発表20分+質疑応答10分)以内  申し込み期間: 2025年3月3日(月)–  5月7日(水)24:00 (JST) 申し込み方法: 当学会のウェブサイト上の「研究発表申込み書新しいウィンドウで開きます」をダウンロードして、研究者名、発表タイトル、発表概要(1000-1500文字)などを記入してアップロードする。 → 3月3日(月)以後に、こちら新しいウィンドウで開きますにアップロードしてください。 可否通知: 審査後5月16日(金)までに研究発表担当の実行委員からご本人に結果を通知します。場合によっては、一定の条件や修正への要求が提示される場合があります。 予稿集原稿: 採択された方は、6月6日(金)24:00までに予稿集に掲載する発表要旨を日本語で執筆してください。場合によっては、修正や加筆をお願いする場合があります。執筆要項は可否通知の際にお知らせします。 ★二重投稿や剽窃などの不適切な原稿に関しては厳しく対処致しますので、研究者としての良識をもってご執筆ください。 以上.
7月
12
終日 言語科学会 第26回年次国際大会(J... @ 愛媛大学 城北キャンパス
言語科学会 第26回年次国際大会(J... @ 愛媛大学 城北キャンパス
7月 12 – 7月 13 終日
言語科学会第 26 回年次国際大会(JSLS2025)開催・研究発表募集のご案内 言語科学会 (JSLS: The Japanese Society for Language Sciences) では以下の要領で、 第 26回年次国際大会 (JSLS2025) を開催いたします。 大会日程: 2025 年 7 月 12 日(土)~ 13 日(日) 開催場所: 愛媛大学 城北キャンパス(愛媛県松山市文京町 3) 大会ウェブサイト: http://www.jslsconference.jpn.org/jsls2025/ 基調講演: Jae DiBello Takeuchi 氏 (Indiana University Bloomington)
8月
7
10:00 AM 令和7年度日本語学校教育研究大会 @ 国立オリンピック記念青少年総合センター
令和7年度日本語学校教育研究大会 @ 国立オリンピック記念青少年総合センター
8月 7 @ 10:00 AM – 8月 8 @ 4:30 PM
日本語学校教育研究大会では、各日本語教育機関における実践・事例の報告の機会として、発表の場を設けています。 意見・アイディア交換の場としてぜひご活用ください。 皆様からのご応募お待ちしております。

注目の記事

  1. 移民政策の先駆者・故坂中英徳さんを偲んで 元東京入管局長で移民政策研究所所長の坂中英徳…
  2. 労災防止に「やさしい日本語」を 日本語議連の里見事務局長が国会で議論 日本語教育推進議員連盟事…
  3. ロサンゼルスの英字紙編集長から「LA大火から1か月」のレポート 岩手県大船渡市の山林火災で大き…

Facebook

ページ上部へ戻る
多言語 Translate