政府が「入国管理庁」創設へ 外国人受け入れ歴史的な転換期に 

政府が「入国管理庁」創設へ 外国人受け入れ歴史的な転換期に

政府は7月24日、外国人労働者受け入れに関する関係閣僚会議の初会合を開いた。安倍晋三首相は「即戦力となる外国人受け入れが急務だ。2019年4月をめざし、準備作業を速やかに進めてほしい」と指示した。政府は外国人受け入れの中核組織として法務省に「入国管理庁」を創設する方針だ。秋の臨時国会で関係法令を整備する考えで、日本語教育推進議員連盟が成立を目指す日本語教育推進基本法(仮称)の行方と併せ、外国人受け入れの在り方は歴史的な転換期を迎える。

政府は6月に閣議決定した「骨太の方針」(経済財政運営と改革の基本方針)で、新たな在留資格を創設することによって、これまで認めていなかった分野についての外国人労働者の受け入れを行う方針を示した。建設、農業、介護、造船、宿泊の5分野に加え、製造業も視野に入れ、深刻な人手不足を海外からの労働力で補完しようというわけだ。

安倍首相は「移民政策はとらない」と繰り返し強調しているが、外国人受け入れの拡大路線に舵を切ったことは間違いない。労働力不足によって日本経済が失速しては、アベノミクスを売り物にしてきた安倍政権の存立そのものが危うくなるからだ。

報道によると、関係閣僚会議では今後の外国人受け入れ拡大に向けた支援策として①インタ―ネットを使った日本語教材の提供②生活・就労の一元的相談窓口の設置③医療機関の体制整備――など検討するという。その体制整備に関連して閣議後の記者会見で上川陽子法相は「入国管理庁のような外局を設けることも含め、適切な組織体制、人員確保を速やかに検討したいと述べた。

浜松市などでつくる「外国人集住都市会議」が外国人問題の窓口一本化のため政府に「外国人庁」の設置を強く求めており、こうした要望が実現することは地方自治体にとって極めて意味が大きい。入国管理庁は法務省入国管理局を中心とした組織になると見られるが、地方自治体としては「管理」より教育や福祉、雇用など「生活」に関わる課題を重視しており、これらの課題に対応するためどのような組織になるか注目される。

また、体制整備の中で、最も重視されるのが日本語教育だ。政府もその重要性の認識を共有しているが、日本語議連が成立を目指す日本語教育推進基本法と政府方針との兼ね合いがどうなるのか。外国人労働者のための日本語教育といっても、職種によって教育の中身も変わってくる。また、検定の在り方についても、最も一般的な日本語能力試験は進学のための検定試験だ。教育・検定のあり方も重要課題になりそうだ。

いずれにしろ安倍首相が来年4月の新たな外国人受け入れの体制整備に向け、「速やかな準備」を指示している以上、関係機関は待ったなしの対応が迫られることになる。「移民」という言葉を避け、ともすれば外国人との距離を置きたがるようなイメージを持たれる安倍政権だが、歴代政権がちゅうちょしてきた「移民国家としての装い」を整えることになる。

                                                                                                                                                                             石原 進

石原 進(いしはら・すすむ)日本語教育情報プラットフォーム代表世話人

投稿者プロフィール

「にほんごぷらっと」の運営団体である日本語教育情報プラットフォーム代表世話人。元毎日新聞論説副委員長、現和歌山放送顧問、株式会社移民情報機構代表取締役。2016年12月より当団体を立ち上げ、2017年9月より言葉が結ぶ人と社会「にほんごぷらっと」を開設。

この著者の最新の記事

関連記事

コメントは利用できません。

イベントカレンダー

6月
28
終日 第34回小出記念 日本語教育学会 年... @ オンライン
第34回小出記念 日本語教育学会 年... @ オンライン
6月 28 終日
開催日:2025年6月28日(土) ・場所:オンライン(Zoom) ・予定(日本時間): 9:40-10:10 会員総会 10:20-10:30 開会・プログラム説明 10:30-12:20 講演   「対話を通した学習者オートノミーおよびウェルビーイングの促進」 講師:加藤聡子氏(神田外語大学 学習者オートノミー教育研究所 特任准教授) 13:20-16:50 口頭発表 16:55-17:10 総括 ・参加費:会員無料・非会員2000円(発表者以外の参加申し込み方法は5月下旬にお知らせします)
7月
5
終日 日本語ジェンダー学会 第25回年次... @ 実践女子大学(渋谷キャンパス)
日本語ジェンダー学会 第25回年次... @ 実践女子大学(渋谷キャンパス)
7月 5 終日
第25回年次大会 研究発表募集要項 2025年7月5日(土)に実践女子大学(渋谷キャンパス)にて開催される、第25回年次大会での研究発表を募集します。以下の要領でお申込みください。  発表資格: 研究代表者=当日の発表者は、応募および発表時点で当学会の会員である必要があります。会員登録は、当学会事務局で随時受け付けておりますので、応募時までに会員登録をお済ませください。 会員登録はこちら新しいウィンドウで開きますからお願いします。 なお、研究代表者以外の連名者は、会員・非会員は問いませんが、採択された場合、後日の参加申込みは連名者も含み全員にしていただきます。 発表内容: 言語(特に日本語)・言語による作品・言説・発話・言語使用状況・言語使用環境等をジェンダーの観点から論じた内容を含む未発表のもの(発表内容は、大会テーマに関わるもの or 関わらないもの、どちらでもよい) → 大会テーマ「メディア・ことば・ジェンダー」 発表言語と時間: 日本語で30分(口頭発表20分+質疑応答10分)以内  申し込み期間: 2025年3月3日(月)–  5月7日(水)24:00 (JST) 申し込み方法: 当学会のウェブサイト上の「研究発表申込み書新しいウィンドウで開きます」をダウンロードして、研究者名、発表タイトル、発表概要(1000-1500文字)などを記入してアップロードする。 → 3月3日(月)以後に、こちら新しいウィンドウで開きますにアップロードしてください。 可否通知: 審査後5月16日(金)までに研究発表担当の実行委員からご本人に結果を通知します。場合によっては、一定の条件や修正への要求が提示される場合があります。 予稿集原稿: 採択された方は、6月6日(金)24:00までに予稿集に掲載する発表要旨を日本語で執筆してください。場合によっては、修正や加筆をお願いする場合があります。執筆要項は可否通知の際にお知らせします。 ★二重投稿や剽窃などの不適切な原稿に関しては厳しく対処致しますので、研究者としての良識をもってご執筆ください。 以上.
7月
12
終日 言語科学会 第26回年次国際大会(J... @ 愛媛大学 城北キャンパス
言語科学会 第26回年次国際大会(J... @ 愛媛大学 城北キャンパス
7月 12 – 7月 13 終日
言語科学会第 26 回年次国際大会(JSLS2025)開催・研究発表募集のご案内 言語科学会 (JSLS: The Japanese Society for Language Sciences) では以下の要領で、 第 26回年次国際大会 (JSLS2025) を開催いたします。 大会日程: 2025 年 7 月 12 日(土)~ 13 日(日) 開催場所: 愛媛大学 城北キャンパス(愛媛県松山市文京町 3) 大会ウェブサイト: http://www.jslsconference.jpn.org/jsls2025/ 基調講演: Jae DiBello Takeuchi 氏 (Indiana University Bloomington)
8月
7
10:00 AM 令和7年度日本語学校教育研究大会 @ 国立オリンピック記念青少年総合センター
令和7年度日本語学校教育研究大会 @ 国立オリンピック記念青少年総合センター
8月 7 @ 10:00 AM – 8月 8 @ 4:30 PM
日本語学校教育研究大会では、各日本語教育機関における実践・事例の報告の機会として、発表の場を設けています。 意見・アイディア交換の場としてぜひご活用ください。 皆様からのご応募お待ちしております。

注目の記事

  1. 主権国家である以上、国境管理をおろそかにすることはできない。その重責を担うのが出入国在留管理…
  2. 日本語教育機関認定法が成立 施行は来年4月 認定日本語教育機関、国家資格の登録日本語教員が誕…
  3. 移民政策の先駆者・故坂中英徳さんを偲んで 第二話 日本型移民政策の提言(上) 元東京…

Facebook

ページ上部へ戻る
多言語 Translate