母語・継承語・バイリンガル教育学会発足 海外の研究者も活発な議論

母語・継承語・バイリンガル教育学会発足 海外の研究者も活発な議論

母語・継承語・バイリンガル教育学会(MHB)が8月8、9の両日、東京都三鷹市の国際基督教大学で設立総会を開き、研究会から装いを新たにし正式な学会として活動をスタートした。台風の影響で一部のプログラムが割愛されるなど運営上の苦労もあったが、様々な角度からの日本語教育に関して活発な議論を展開した。

初日の総会では、湯川笑子・立命館大教授を初代会長に選出した。会員登録は約200人。MHBは①文化言語の多様な子どもの言語能力評価(アセスメント)を研究するアセスメント部会②海外の日本語を継承語として教える研究者らの海外継承日本語部会③文化・言語の多様な子どもの作文力の育成をめざすバイリンガル作文学会④内外のインターナショナル・スクールの実践活動の強化などを図るインターナショナル・スクール部会――の4つの特別部会を設置した。

「継承語」とは、生活している現地語ではなく、親から受け継ぐ言葉、先祖が使っていた言葉である。継承語教育とは主に海外においては日系人にとっての日本語、国内の海外にルーツを持つ子ども達にとっては母国の言語教育に取り組む学問領域である。子どものアイデンティティーを育む言語教育でもあり、国内だけでなく、海外生活が長い日本人子女の日本語教育としても重要な課題だ。

今回の学会の研究大会テーマは「新時代のマルチリンガル教育を考える〜バイモーダルろう教育からの示唆〜」。2日目の9日は、ろう教育に関する発表を中心に進められた。ろう者の第一言語は手話であり、日本語とは違う。日本人のろう者にとって日本語は第二言語であり、母語を「手話」とした上で第二言語の「日本語」を使えるバイリンガルろう者をどのように育てていくのかが、MHBの重要な活動の一つである。

しかし、ろう教育で日本語教育が「バイリンガル教育」として注目されて来たのは比較的最近のことであり、MHBの活動はまだ大きな広がりにはなっていないよう。学会の部会としても、ろうに関するものはまだない。

 

そうした中、2月の「やさしい日本語シンポジウム」では、一橋大学庵功雄教授が「ろう教育は日本語教育のど真ん中」と述べ、第二言語習得の手法でろう児の教育は格段に向上するとの考えを示した。「やさしい日本語」がつないでくれたご縁で筆者も「Facebook学習コミュニティで外国人とろう者が共に日本語を学ぶ実践」というタイトルで、同じ第二言語学習者同士、外国人とろう者が一緒に学んだら心地よい学習環境になるのではないかということを、「やさしい日本語」+「手話通訳」で発表した。今後MHB学会でのさらなるろう教育の盛り上がりを期待したい。

2018年7月19日、MHB学会の関係者が中心となって、日本語教育推進議員連盟に「日本語教育振興基本法案の成立に向けて−在外日本語教育からの要請」という要請書が提出されている。今後も外国人への日本語教育だけでは見えてこない視点を社会に発信してほしい。

                                                                                                                      吉開 章

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