外務省・IOMの国際ワークショップが映す時代の変化

外務省・IOMの国際ワークショップが映す時代の変化

外務省と国際移住機関(IOM)主催の「社会統合のための国際フォーラム」が10月31日、東京都港区の赤坂区民センターで開かれた。外国人受け入の在り方を一歩踏み込んで考える政府の催しの1つで、今年で15回目。昨年12月の入管法の大幅改正により、「特定技能」という外国人労働者の受入れ拡大の仕組みができて初めてのフォーラムだ。

今回のテーマは「地域社会における外国人の円滑な受入れ」。外国人が急増する時代にあって、外国人と地域社会の関わりをどのようにとらえるか。全国の自治体、地域住民などが真剣に考えるべきテーマだ。パネルディスカッションなどの顔ぶれからも、主催者サイドの意図が読み取れる。

パネリストは、外国人市民の支援に心血を注ぐ岡山県総社市長の片岡聡一さん▽外国人との交流イベントを開催するなど国際交流の最前線で活動する名古屋国際センターの加藤理絵さん▽ブラジル出身の日系二世で、デカセギ先の日本で起業してビジネスに成功し、架け橋人材の育成に取り組む斉藤俊男さん▽きめの細かなサポートで4000人を超えるインドネシアから技能実習生を受け入れながら1人の失踪者も出していない、日本・インドネシア経済協力協会専務理事の柴田雅代さんの4人。

ここでパネリストの発言を詳しく紹介する余裕はないが、活動する地域は違っていても、自治体のリーダーシップ、「やさしい日本語」を使った交流活動をはじめ、外国人の起業家や外国人の育成・活用の取り組みの様々な「好事例」は、多様な示唆を聴く人に与えたと思う。この4者が同じ地域で連携、協力しながら活動したら……。多文化共生の輝くような社会ができるかもしれない。

パネルディスカッションに先立ってシンガポール国立大アジア研究所の研究員が多民族国家シンガポールの移民受け入れの現状や課題、教訓などを紹介。この中でカレーを作る事から起きたインド人と中国人の近隣トラブルの修復への取り組みを報告した。ディスカッションのコーディネーターを務めた山脇啓造明治大学教授は「『カレー事件』などシンガポールの事例は日本にとって大変参考に興味深いものであり、4人パネリストが多様な観点から外国人と地域社会の関係を議論したことは有意義だった」と総括した。

話は変わるが、三重、愛知、岐阜の3県では、地域社会における外国人支援に関して新たな動きが出ている。外国人支援のNPOの計9団体がこのほど、「外国人支援・多文化共生ネット」(代表・三重のNPO法人愛伝舎の坂本久海子理事長)を発足させた。地方自治体・地域や外国人を雇用する企業との連携を目指している。この動きを主導したのは、藤原浩昭・前名古屋出入国在留管理局長だ。

改正入管法は、その目的に外国人の「公正な管理」を書き加えた。そのために政府は126の施策を盛り込んだ「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」を策定。藤原前入管局長はその施策の1つである「外国人の支援に関わる人材・団体の育成とネットワークの構築」に着目し、旧知の愛伝舎理事長に呼びかけてできたのがネットワークだ。不法就労の外国人の摘発などが任務の入管が「多文化共生」の社会づくりに動こうとしている。

ちなみに藤原前入管局長は外務省から出向した外交官。しかも約10年前の「社会統合のための国際ワークショップ(当時)」の開催の取り仕切った外国人課長の経験者だった。私も国際ワークショップのパネリストを務めたことがある。その縁で藤原前入管局長、坂本理事長とつながりができ、「外国人支援・多文化共生ネット」のアドバイザーを務めている。

人と人とのつながりで点が線になった。どのようにそれを共生社会という面にするのか。時代が大きく変わる中で、様々な取り組みが始まっている。今回の国際フォーラムでは、パネリストらの発言から新たな時代の胎動が感じられた。

石原 進

石原 進(いしはら・すすむ)日本語教育情報プラットフォーム代表世話人

投稿者プロフィール

「にほんごぷらっと」の運営団体である日本語教育情報プラットフォーム代表世話人。元毎日新聞論説副委員長、現和歌山放送顧問、株式会社移民情報機構代表取締役。2016年12月より当団体を立ち上げ、2017年9月より言葉が結ぶ人と社会「にほんごぷらっと」を開設。

この著者の最新の記事

関連記事

コメントは利用できません。

イベントカレンダー

7月
20
10:00 AM 【!!追加募集!!】NPO法人日本... @ オンライン (オンライン上での集合研修 および 動画視聴による個人学習) ・「就労者の異文化適応」「教材研究」は対面(東京・大阪)で実施。 オンラインでの参加も選択可能。
【!!追加募集!!】NPO法人日本... @ オンライン (オンライン上での集合研修 および 動画視聴による個人学習) ・「就労者の異文化適応」「教材研究」は対面(東京・大阪)で実施。 オンラインでの参加も選択可能。
7月 20 2025 @ 10:00 AM – 2月 8 2026 @ 2:45 PM
【!!追加募集!!】NPO法人日本語教育研究所 主催文部科学省委託 令和7年度現職日本語教師研修プログラム普及事業 就労者に対する日本語教師【初任】研修 就労者に対する日本語教師養成 –日本語教育研究所の多様な研修実績及び人材を活かしたビジネス日本語教育/指導- ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ この研修は、これから新たに就労者に日本語を教えたいと考えている方を主な対象としています。スキルアップにぜひお役立てください。 再受講をご検討の方へ 本研修はこれまでに弊所の研修をご受講された方も、再度ご参加いただけます。 実際に現場に出て、もう一度確認したいことなども出てきているのではないでしょうか。 さらに実践的な指導力を高める良い機会となりますので、ぜひご検討ください。 ─────────────────── ■期間 2025年7月20日(日) ~ 2026年2月8日(日) *日程等の詳細は、募集要項のリンク先からご覧ください。 ■対象 日本語教育機関認定法に基づく「登録日本語教員」を対象としますが、本法の経過措置期間内(令和10年度まで)は、令和6年度までに下記を修了した方も対象とします。 1)日本語教師として下記のいずれかの要件を満たす方  ①大学/大学院で日本語教育に関する教育課程を修了し、大学/大学院を卒業/修了した方  ②大学/大学院で日本語教育に関する科目の単位を26単位以上修得し、大学/大学院を卒業/修了した方  ③公益財団法人日本国際教育支援協会「日本語教育能力検定試験」に合格した方  ④学士の学位を有し、日本語教師養成講座 420 単位時間以上を修了した方 2)原則として、就労者への日本語教育歴が0~3年未満の方 ■定員 100名 ■受講料 20,000円(税込) ※教材費込み ■申込方法 以下のリンクからお申し込みください。 https://forms.gle/JWtnJ6WzzCNQvQx88 ■申込締切 2025年6月30日(月)【募集期間延長しました!!】 ■募集要項 https://docs.google.com/document/d/1uHn1k6zdRIgcQ2-lK5Uyr1Qa5vlwzXCFvKEUw3UjJVU/edit?usp=sharing ■お問い合わせ NPO法人 日本語教育研究所(研修事務局) nikken.kenshu@gmail.com
8月
1
12:00 AM 「実践のプロセスを協働でふり返る... @ 新潟ユニゾンプラザ
「実践のプロセスを協働でふり返る... @ 新潟ユニゾンプラザ
8月 1 @ 12:00 AM – 10月 4 @ 11:59 PM
介護・医療現場や日本語教育などにおける実践について協働でふり返ります。 省察や学びに興味がある仲間と語り、聴き、関わる中で学び合ってみませんか。 皆さま 平素お世話になっております。 「学びを培う教師コミュニティ研究会」からのお知らせです。 この度、ラウンドテーブル2025秋~新潟~「実践のプロセスを協働でふり返る-語る・聴くから省察へ」を開催することになりました。 https://manabireflection.com/archives/activities-japan/%e6%96%b0%e6%bd%9f%e3%83% a9%e3%82%a6%e3%83%b3%e3%83%89%e3%83%86%e3%83%bc%e3%83%96%e3%83%ab2025%e7%a7%8b%e 3%81%ae%e3%81%94%e6%a1%88%e5%86%85 ◆コーディネーター 池田広子(目白大学) ◆ファシリテーター 秋田久美子(大起日本語学校) 上田和子(武庫川女子大学) 宇津木奈美子(獨協大学) 小西達也(早稲田大学) 佐野香織(武蔵野大学) 冨樫里真(青山国際教育学院) ◆日時:2025年10月4日(土)9:30~16:30 ※昼食休憩があります。 ◆場所:新潟ユニゾンプラザ 4階特別会議室 https://www.unisonplaza.jp/access/ (JR越後線上所駅 徒歩10分) ◆参加費:無料 ◆申し込み締め切り:9月22日(月) ◆申し込みhttps://docs.google.com/forms/d/1PjUaqHxz6vCaRlw86qx5vwubQkmWm6bu4a_S84 MMVIg/viewform?edit_requested=true 皆さまのご参加を心よりお待ちしております。 学びを培う教師コミュニティ研究会事務局
8月
23
10:00 AM シリーズ 就労分野の日本語教育—『... @ オンライン
シリーズ 就労分野の日本語教育—『... @ オンライン
8月 23 @ 10:00 AM – 12:00 PM
社会人一般(初級)への教え方講習会です。 「JBP」シリーズの著者が、忙しい社会人を対象とした教え方の秘訣を実践例とともに紹介します。
8月
26
10:06 AM 第11回日本語教育支援システム研究... @ 英キール大学(Keele University)
第11回日本語教育支援システム研究... @ 英キール大学(Keele University)
8月 26 @ 10:06 AM
第11回日本語教育支援システム研究会(CASTEL/J)国際大会 第11回日本語教育支援システム研究会(Computer Assisted Systems for Teaching and Learning Japanese – CASTEL/J)国際大会を英国中部スタッフォードシャー州にあるキール大学(Keele University)にて英国日本語教育学会(BATJ)・キール大学ランゲージ・センターとの共催で開催することとなりました。 日本語教育支援システム研究会国際大会は、日本語教育関係者、日本語教育のリーダーに日本語教育におけるテクノロジー使用の最先端の動き、将来の方向性を共有する機会を作ってきました。2020年のパンデミックにより授業のオンライン化・ハイブリッド化が進み、それに加えて、この数年の人工知能(AI)技術の急速な発展と普及により、日本語教育は元より私たちを取り巻くテクノロジー環境が大きく変化しています。これらの技術的発展を効果的に教育・学習に取り入れ促進していくことは今まで以上に重要となっています。世界中からこの分野の優れた研究者、実践者が集まるこの国際大会に是非ご参加ください。 日時:2025年8月26日(火)〜27日(水) 会場:英スタッフォードシャー州キール大学チャンセラーズ・ビルディング 共催:英国日本語教育学会(BATJ)、キール大学ランゲージ・センター

注目の記事

  1. 労災防止に「やさしい日本語」を 日本語議連の里見事務局長が国会で議論 日本語教育推進議員連盟事…
  2. 衆院解散で議員生活に別れ 日本語議連の中川正春さんが引退へ 衆院が9日解散されたが、日本語教育…
  3. 移民政策の先駆者・故坂中英徳さんを偲んで 元東京入管局長で移民政策研究所所長の坂中英徳…

Facebook

ページ上部へ戻る
多言語 Translate