特定技能は「共生社会のバロメーター」になるのか

特定技能は「共生社会のバロメーター」になるのか

新たな在留資格「特定技能」による外国人の受け入れが始まって1年3カ月が経過した。人手不足に対応するための即戦力の労働者を受け入れるのが狙いだったが、受け入れは伸び悩み、加えて新型コロナウイルスの感染拡大で外国人の入国がストップしてしまった。日本は相対的に外国人労働者の賃金が低下している。日本の魅力は共生社会をどう作り、選ばれる国なるか、にかかっている。今後、特定技能が増えるのかどうか。共生社会がそのバロメーターになるのではないか。

日本経済新聞が7月3日の朝刊で「伸びぬ特定技能 遠い『開国』」の見出しの特集記事を掲載した。特定技能の外国人受け入れが新型コロナウイルス感染症の収束後の経済再生の大きな課題となるとして、「日本が働く場所として外国人に選ばれる国にしていけるかが問われている」と言う。

特定技能は外食や宿泊、介護、建設など14業種を対象とする。3年間の技能実習を修了するか、日本語の試験や業種ごとの技能評価試験で合格した外国人に付与される。賃金は日本人と同水準とし、技能実習では原則認めていなかった転職も同じ業種内では認める仕組みだ。優秀な人材を即戦力として呼び込めるとの期待があった。

しかし、同紙によると、昨年4月から今年4月末までの特定技能の資格を得た外国人は4496人。当初の目標は2019年度で最大4万7550人だったから、1割にも満たない数だ。しかも、3月末時点で受け入れた3987人のうち、9割を超える3663人が国内の技能実習生からの移行だ。海外からの受験に合格して入国したのは281人しかいない。手続きの複雑さや企業側の負担が重荷なって伸び悩んでいると同紙は指摘する。

アジアでは外国人材の争奪合戦が始まっている。賃金で日本は競争力を失いつつある。韓国、台湾、シンガポールなどのほか、中東も立派なライバルだ。ベトナムやインドネシア、フィリピンなどから他国への出稼ぎの選択肢が広がっている。フィリピンからは世界各国に人材が派遣されているが、2018年に日本へは約7万6000人だったのに対し、サウジアラビアに行った労働者は約56万人にのぼった。

同紙で佐々木聖子入管庁長官がインタビュー記事に答え、特定技能について「もともと特定技能という制度は人材不足に対応するために即戦力となる外国人を受け入れるというのが目的だ。受け入れたいと思う方が制度を活用できるようにするのが大前提となる」と語り、複雑な制度をより分かりやすくすることが必要だとの認識を示した。

一方で佐々木長官は「日本社会そのものが魅力的か、暮らしやすいかについては、やはり上手な共生社会づくりに努めていく必要がある。2018年末に『外国人材の受け入れ・共生のための総合的対応策』というメニューを政府全体で作った。メニューをいかに実現していくかが、日本が選ばれる国になる一つの要素だろう」と話す。

特定技能で来日する外国人が増えるかどうかは、魅力的な共生社会を作っていけるかにかかっているという。だとすると、特定技能の受け入れの状況が共生社会のあり様を示すバロメーターになるのではないか。日本の社会の在り様が問われることになる。

石原 進

石原 進(いしはら・すすむ)日本語教育情報プラットフォーム代表世話人

投稿者プロフィール

「にほんごぷらっと」の運営団体である日本語教育情報プラットフォーム代表世話人。元毎日新聞論説副委員長、現和歌山放送顧問、株式会社移民情報機構代表取締役。2016年12月より当団体を立ち上げ、2017年9月より言葉が結ぶ人と社会「にほんごぷらっと」を開設。

この著者の最新の記事

関連記事

コメントは利用できません。

イベントカレンダー

6月
28
終日 第34回小出記念 日本語教育学会 年... @ オンライン
第34回小出記念 日本語教育学会 年... @ オンライン
6月 28 終日
開催日:2025年6月28日(土) ・場所:オンライン(Zoom) ・予定(日本時間): 9:40-10:10 会員総会 10:20-10:30 開会・プログラム説明 10:30-12:20 講演   「対話を通した学習者オートノミーおよびウェルビーイングの促進」 講師:加藤聡子氏(神田外語大学 学習者オートノミー教育研究所 特任准教授) 13:20-16:50 口頭発表 16:55-17:10 総括 ・参加費:会員無料・非会員2000円(発表者以外の参加申し込み方法は5月下旬にお知らせします)
7月
5
終日 日本語ジェンダー学会 第25回年次... @ 実践女子大学(渋谷キャンパス)
日本語ジェンダー学会 第25回年次... @ 実践女子大学(渋谷キャンパス)
7月 5 終日
第25回年次大会 研究発表募集要項 2025年7月5日(土)に実践女子大学(渋谷キャンパス)にて開催される、第25回年次大会での研究発表を募集します。以下の要領でお申込みください。  発表資格: 研究代表者=当日の発表者は、応募および発表時点で当学会の会員である必要があります。会員登録は、当学会事務局で随時受け付けておりますので、応募時までに会員登録をお済ませください。 会員登録はこちら新しいウィンドウで開きますからお願いします。 なお、研究代表者以外の連名者は、会員・非会員は問いませんが、採択された場合、後日の参加申込みは連名者も含み全員にしていただきます。 発表内容: 言語(特に日本語)・言語による作品・言説・発話・言語使用状況・言語使用環境等をジェンダーの観点から論じた内容を含む未発表のもの(発表内容は、大会テーマに関わるもの or 関わらないもの、どちらでもよい) → 大会テーマ「メディア・ことば・ジェンダー」 発表言語と時間: 日本語で30分(口頭発表20分+質疑応答10分)以内  申し込み期間: 2025年3月3日(月)–  5月7日(水)24:00 (JST) 申し込み方法: 当学会のウェブサイト上の「研究発表申込み書新しいウィンドウで開きます」をダウンロードして、研究者名、発表タイトル、発表概要(1000-1500文字)などを記入してアップロードする。 → 3月3日(月)以後に、こちら新しいウィンドウで開きますにアップロードしてください。 可否通知: 審査後5月16日(金)までに研究発表担当の実行委員からご本人に結果を通知します。場合によっては、一定の条件や修正への要求が提示される場合があります。 予稿集原稿: 採択された方は、6月6日(金)24:00までに予稿集に掲載する発表要旨を日本語で執筆してください。場合によっては、修正や加筆をお願いする場合があります。執筆要項は可否通知の際にお知らせします。 ★二重投稿や剽窃などの不適切な原稿に関しては厳しく対処致しますので、研究者としての良識をもってご執筆ください。 以上.
7月
12
終日 言語科学会 第26回年次国際大会(J... @ 愛媛大学 城北キャンパス
言語科学会 第26回年次国際大会(J... @ 愛媛大学 城北キャンパス
7月 12 – 7月 13 終日
言語科学会第 26 回年次国際大会(JSLS2025)開催・研究発表募集のご案内 言語科学会 (JSLS: The Japanese Society for Language Sciences) では以下の要領で、 第 26回年次国際大会 (JSLS2025) を開催いたします。 大会日程: 2025 年 7 月 12 日(土)~ 13 日(日) 開催場所: 愛媛大学 城北キャンパス(愛媛県松山市文京町 3) 大会ウェブサイト: http://www.jslsconference.jpn.org/jsls2025/ 基調講演: Jae DiBello Takeuchi 氏 (Indiana University Bloomington)
8月
7
10:00 AM 令和7年度日本語学校教育研究大会 @ 国立オリンピック記念青少年総合センター
令和7年度日本語学校教育研究大会 @ 国立オリンピック記念青少年総合センター
8月 7 @ 10:00 AM – 8月 8 @ 4:30 PM
日本語学校教育研究大会では、各日本語教育機関における実践・事例の報告の機会として、発表の場を設けています。 意見・アイディア交換の場としてぜひご活用ください。 皆様からのご応募お待ちしております。

注目の記事

  1. 「『素顔の国際結婚』の今」を読んで 国籍法と国際家族のあり方を考える まず、家族へのひときわ強…
  2. ロサンゼルスの英字紙編集長から「LA大火から1か月」のレポート 岩手県大船渡市の山林火災で大き…
  3. セサルの挑戦 第10回 国際紅白歌合戦をプロデュースする宮崎計実さん …

Facebook

ページ上部へ戻る
多言語 Translate