継承語教育がつなぐ多言語多文化社会――オンライン国際フォーラムで活発な議論

継承語教育がつなぐ多言語多文化社会――オンライン国際フォーラムで活発な議論

複数言語環境の中で育つ日本国内外の子どもの言語発達を考える「バイリンガル・マルチリンガル子どもネット(BMCN)」主催の「日本語教育推進法に関するオンライン国際フォーラム」の総括イベントが12月6日に開かれた。10月から日本を含む6地域の代表がネット上で母語継承語教育に関する講演とディスカッションを繰り広げ、総括イベントは一連の議論の総集編だ。継承語教育をキーワードに、多言語多文化社会が抱える問題や課題を浮き彫りにするとともに、国際的なネットワーク構築に向けた取り組みともなった。日本語教育推進法施行後、初の大きな成果と言える。

講演とディスカッションは、日本とアジア(香港、タイ、韓国)、豪州、北米(カナダ、アメリカ)、南米(ブラジル、パラグアイ、ペルー、アルゼンチン、ボリビア)、欧州(スイス、ドイツ、フランス)の5地域で行われた。日本からは愛知県のスペイン語と日本語のバイリンガル子育ての実践者らが登壇した。フォーラムは各国それぞれの録画講演、ディスカッション、さらには12月の総括イベントを合計すると計15時間を超える長時間のイベントとなった。

国際フォーラムの議論を通じて目指したのは、①現場の課題と理解②交流連携の推進③将来に向けての「重要事項の総括」④公的支援の推進――。各テーマに関する議論は多様かつ多彩なものとなり、移民受け入れ国などに比べて対応が遅れている日本国内における言語政策を考えるうえでも重要な情報をもたらしてくれた。詳しくは、以下のオンライン国際フォーラムのサイトをご覧いただきたい。

https://www.bmcn-net.com/forum

議論された母語継承語教育とは何なのか。海外の邦人や日本にルーツを持つ人の場合、継承すべきは日本語であり、国内の在留外国人にとっては日本語ではなく自分の出身国の言語ということになる。継承語教育はそれぞれの国の文化や政策を反映するものになり、まさに多様性を反映した教育だ。母語継承語教育によって育つバイリンガル、マルチリンガルの子どもたちは、急テンポでグローバル化が進む社会において貴重な人材になるはずだ。

BMCNは、自分たちの子ども含めた継承語教育を実践、または研究する人たちの国際ネットワークだ。今回の国際フォーラムが開催に至った背景には、2008年秋の日本語教育推進法案の修正をめぐる署名活動があった。原案にはなかった「海外にルーツを持つ子どもたちへの母語継承語教育」を法案に盛り込むよう議連に求め、国際的な運動として広がった。2週間で海外から2000人の署名が集まり、その熱い訴えが法案修正につながった。

日本語教育推進法の19条には「海外に在留する邦人の子、海外に移住した邦人の子等に対する日本語教育の充実を図るため、体制の整備その他必要な措置を講ずる」と書き込まれた。その結果、母語継承語教育を推進する法的根拠ができたのだ。今回の国際フォーラムは、推進法に則り国際交流基金が「知的交流会議助成プログラム」としてバックアップした。

ところで、継承語に関する地域別の講演、ディスカッションは、各国・各地域の国情や文化、さらには歴史をも反映し、まるで「多文化多言語の世界旅行」のようだった。ブラジルやペルーなど南米の日本語教育は、戦前の移民たちの血の滲むような努力から生み出された。北米、欧州、豪州は移民国家として多言語・多文化の先進地として継承語教育の施策も進んでいる。EUは多文化主義を超えた「インターカルチュラルシティ」プログラムを実践、移民の能力を引き出す取り組みを都市同士で連携して進めている。日本では2017年10月に浜松市がインターカルチュラルシティに加盟した。アジアには漢字圏の国もあることから、継承語の教育現場でも地理的、文化的に日本との距離的な近さを感じさせる。

総括イベントでは、BMCNアドバイザーのカルダー淑子さん(米国)が国ごとの取り組みを細かく分析した。スイス、オーストラリア、カナダなどの現地政府の言語政策について、「政策の背景には、多様な言語文化を市民の共有財産と考える発想があり、マイノリティの言語を尊重するという考えもある」と指摘した。

そうした現状を踏まえ、「多様な実践を比較検証する中で、有効なカリキュラムを探り、指導技術を積み上げる、これが私たちの取り組む最大の課題ではないか」と、ネットワークを通じた日本と海外、各国の教師の間の連携・協力を呼びかけた。

また、カルダーさんは海外の子どもたちの教育に関して、文部科学省の外郭団体が支援している補習校について、認可補習校だけでも3万人近い学齢期の子どもを受け入れており、継承日本語の世界最大の教育機関だと紹介。にもかかわらず、日本政府が支援の対象にしているのは、帰国を前提にした子どもたちだけであり、永住者の子どもは対象外とされている現状を指摘した。カルダーさんは、日本語教育推進法に基づき、これまで放置されてきた継承語教育の取り組みに対して日本政府の支援を求めた。

総括ではNPO法人日本語教育研究所の西原鈴子理事長が日本語教育推進法の歩みを振り返り、日本語教育推進議員連盟会長代行の中川正春元文科相が海外の活動にエールを送った。日本国内のディスカッションには日本語教育学会の石井恵理子会長も参加、国内外の関係者の人的な連携、協力が図られた。また、継承語教育の国際的な研究者として知られるジム・カミンズ氏(トロント大学名誉教授)の講演も行われた。

最後にBMCN代表の中島和子トロント大学名誉教授が国際フォーラムを総括した。中島さんは就学前の継承語学習の重要性を指摘したほか、小学校の中学年になると継承語の学習意欲が低下することや、教師不足を大きな課題として挙げ、課題解決に向けて日本国内、海外の関係者の連携の重要性を訴えた。

かつて、集団就職で上京する中卒の若者たちを「金の卵」と呼んだ。彼らは日本の高度成長を支える大きな力となった。モノづくりなどの貴重な労働力となったからだ。グローバル化が急速に進展したいまは、海外にルーツを持つ子どもたちは「ダイヤモンドの原石」なのかもしれない。海外だけでなく国内の在留外国人の子どもたちも母語を継承し、日本語を習得すれば日本を支えるバイリンガルのグローバル人材になるはずだ。

バイリンガル・マルチリンガルの今回のフォーラムには計900人が参加したという。参加者たちは、オンラインによって情報共有・連携協力の大切さ体感した。その連携の輪が国境を越えて大きく広がる可能性について、参加者がオンラインを通じて感じ取れた意味は大きい。今後の活動の足掛かりになるに違いない。

「にほんごぷらっと」は、日本語教育議員連盟の発足から日本語教育推進基本法制定の動き、さらに政府の日本語教育推進の基本方針の策定の動きなどをサイトで伝えてきた。それは単に情報を発信するだけでなく、推進法の目的にもある共生社会の構築に資する取り組みでもあると自負している。また、継承語教育の推進は、「にほんごぷらっと」が提唱する「海外の日本語人口1億人」の構想にも重なる。

今回の国際フォーラムの総括は、取り組みが大きく遅れている日本に対して様々な問題提起を投げかけている。このフォーラムがきっかけとなって、多様性に富んだ新たな活力が国際的に大きく広がることを期待したい。

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