軍政と戦うミャンマーの民主派勢力、私たちに何ができるのか

軍政と戦うミャンマーの民主派勢力、私たちに何ができるのか

ロシアのウクライナ侵攻が続いています。加えてイスラエルとパレスチナ・ハマスの戦闘が勃発。世界のあちこちで罪のない人たちが命を落とし、傷ついています。人々の安心、安全が地球規模で脅かされています。

ウクライナやパレスチナのほかに、私たち日本人が目を向けなければならないのがミャンマーです。2021年2月1日に軍事クーデターが起き、軍事力で民主派勢力を攻撃しています。これは内政問題との見方もできるかもしれませんが、軍の暴走は看過すべきではありません。市民への発砲、暴行、レイプ……まさに暴挙です。

軍の圧倒的な武力攻撃に対し、民主派勢力も銃をとり、少数民族の武力組織も軍との戦いに参戦しています。最近、形勢は徐々に民主派有利に傾いているといいます。軍の中には離脱者が出ているとの報道もあります。

民主派勢力は、軍に対抗して国民統一政府(NUG)を立ち上げ、今春から欧米や日本などへのロビー活動を展開しています。日本でも活動を始め、超党派の「ミャンマーの民主化を支援する議員連盟」(中川正春会長)はこのほど、NUGの外務大臣のジン・マー・アウン氏を招いて集会を開きました。

ジン・マー・アウン氏のスピーチ (PDF)

ジン・マー・アウン氏は1976年生まれ。国民民主連盟(NLD)の幹部で2015年の総選挙で選出された国会議員です。大学時代に学生運動に参加して逮捕され、11年間投獄された経験があります。2012年には米国務省の「国際勇気ある女性賞」を受賞、2014年には世界経済フォーラムでワールド・グローバル・リーダーにノミネートされました。

40代の女性の政治リーダーですが、そもそも先の総選挙で当選したミャンマーの国会議員の57%が女性です。男社会の軍事政権との戦いでも、女性が重要な役割を果たしていると言えそうです。

同氏は日本特派員協会でも記者会見を行いましたが、今回の来日で①目指すは軍事独裁政権の打倒と連邦民主主義国家の実現②軍政は支配できていない地域が多く、NUGが管理するエリアでは税の徴収も行われている③国内、国外のミャンマー人からNUGに資金援助が行われている④連邦制国家の創設は少数民族も合意している——などのメッセージを日本側に送っています。議員連盟の集会でのスピーチの日本語訳を添付します。ぜひとも同氏の訴えに目を通してみてください。

日本政府はミャンマー情勢にどのように対応しているのか。ミャンマーは戦後、軍の長期政権下で経済が低迷していたが、アウン・サン・スーチー氏らのNLDが政権を獲得したあと、日本政府、財界は貿易対象国として新生ミャンマーに注目しています。そうしたことから、大規模なODAを投入するなどして支援に力を入れてきました。

しかし、日本の努力は軍事クーデターで暗転しました。日本政府はクーデターを厳しく批判しましたが、その一方で軍事政権とのパイプは維持しています。日本が軍事政権との関係を断つことで、後ろ盾であるロシア、中国の側に押しやることは得策ではないと判断したようですが、どっちつかずの対応がなお続いています。

とはいえ、正当性のない軍事政権が力を失い、NUGが支配地域を広げていった場合、日本政府はどうするのでしょうか。支持を広げつつあるNUGとの関係をどう構築するのかは大きな課題になるのは間違いありません。政府はこれから難しい対応を迫られそうです。

ところで出入国在留管理庁の統計によると、在日ミャンマー人は2023年6月末現在で6万9613人にのぼります。前年同期に比べて1万3374人増えています。1990年代に当時の軍事政権の迫害から逃れて来日した在留ミャンマー人が少なくありませんが、クーデター後は、母国が混乱から逃れるように来日する人が増え、また、最近は帰りたくても帰れない人も多いようです。

そうした在留ミャンマー人の多くが軍事政権に批判的です。NUGの駐日代表に選ばれた人は、東京在住の少数民族出身者です。彼らは物心両面でNUGを支援しています。私たちに身近なところに軍と戦っているミャンマー人がいるわけです。私たち日本人に何ができるのか。政府の今後の対応を注視しつつ、自身の問題として考えたいと思います。

にほんごぷらっと編集長・石原 進

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