ロサンゼルスの英字紙編集長から「LA大火から1か月」のレポート

ロサンゼルスの英字紙編集長から「LA大火から1か月」のレポート

岩手県大船渡市の山林火災で大きな被害が出でているが、1月には米西海岸のロサンゼルス(LA)で大きな山火事が発生したことが記憶に新しい。LAで日本文化を英語で情報発信する、カルチュラル・ニュース編集長の東繁春さんから「LA大火から1カ月」のレポートが「にほんごぷらっと」に寄せられた。

東さんは東日本大震災などの時には現地を訪れ、震災レポートを英語で米国人などに発信している。気候変動が地球を覆い、LAでも過去に例を見ないような強風が被害を拡大させた。レポートでは、米国での被災者支援の在り方などを伝えてくれた。

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15万3000人が避難したロサンゼルス大火災から1カ月

カルチュラル・ニュース編集長、しげひがし(東 繁春)
higashi@culturalnews.com

ロサンゼルス・カウンティー行政地域とは

ロサンゼルスは、広い定義では、約1800万人が住む関東平野ほどの広い地域を指す。2025年1月7日に、アルタデナ地区とパシフィック・パリセーズ地区(略してパリセーズ)で発生した山火事は、アルタデナで住宅約6000軒、商業施設約150棟、小規模建物約3000カ所を、パリセーズでは住宅約5400軒、商業施設約160棟、小規模建物約1100カ所を焼失した。

火災による死亡者は、アルタデナで17人、パリセーズで12人だった。行方不明者は、1月16日の時点でアルタデナが24人、パリセーズが7人だった。

アルタデナで起こった山火事は、出火場所の地名からイートン火災と呼ばれ、パリセーズは、パリセーズ火災と呼ばれている。

アルタデナ地区とパリセーズ地区は、ともにロサンゼルス・カウンティー行政地域に属していて、今回の大火災はロサンゼルス・カウンティー火災とも呼ばれている。

ロサンゼルス・カウンティー行政地域の人口は約960万人で、その中に人口380万人のロサンゼルス市が含まれている。今回火災のあったパリセーズ地区は人口約2万3000人でロサンゼルス市に含まれている。

ロサンゼルス・カウンティー行政地域にはロサンゼルス市をはじめ、全部で88市がある。アルタデナ地区は人口約4万3000人で、アン・インコーポレッド地区と呼ばれ、市制がなく、警察・消防などの行政サービスはロサンゼルス・カウンティーが直接提供している。

County of Los Angeles はこれまでは、ロサンゼルス郡と訳されてきた。しかし、現在の County of Los Angeles は人口が約1000万人の、東京都にも匹敵する大きな行政地域になっているので「郡」とは訳さず「ロサンゼルス・カウンティー行政地域」と訳したほうが、日本人には、わかりやすいと思う。

ロサンゼルス・カウンティー行政とロサンゼルス市は、1月10日から22日まで、毎朝8時から1時間の One Voice Press Conference (カウンティと市の合同記者会見)を開いた。場所は、ロサンゼルス・カウンティー議会の議場で、この記者会見は、YouTubeライブで同時中継された。この中継には、AIによる60カ国語への翻訳サービスもついていた。

わたしは、1月11日の合同記者会見に参加したが、500人くらいは入れる傍聴席にいたのは、テレビ局が5社程度と数人だった。YouTube ライブは、毎回、500人から1000人くらいが見ていたが、記者会見の現場に来ていたのは、地元ロサンゼルス・タイムズの記者だけだった。

避難先のホテル代は保険会社や連邦政府が支払う
ロサンゼルスでは、毎年、冬場にはサンタナ・ウインドと呼ばれる強風が内陸から海岸に向かって頻繁に起こっている。今回の大規模山火事は、例年にない異常強風で、風速は時速で100マイル(160キロ)だったことが原因だった。

焼失した住宅は計約1万軒だったが、火災が燃え広がった1月8日から10日にかけては、計15万3000人に避難命令が出された。

約1万軒の住宅が焼失した大火災だが、日本の大災害との大きな違いは、仮設住宅がまったく建てられなかったことだ。被災者の一時避難先としては、ホテルが使われた。アメリカの住宅災害保険では、災害の際の一時避難先としてホテル代が適用される。こうした保険を持っていない被災者には、米国緊急事態管理庁(FEMA)がホテル代を支給する制度になっている。

一時避難先はホテル以外に、さまざまで、友人宅、親戚宅、自己所有のセカンド・ハウスという場合もあった。ホテルにも、友人・親戚宅にも行くことができず、米国赤十字が提供したシェルター(一時避難所)を利用した被災者は、アルタデナ地区で1000人以上だった。アルタデナ被災者のシェルターは、隣接のパサデナ市の中心部にあるパサデナ・コンベンション・センターが使われた。

米国赤十字は、2月14日で、支援金受付を締め切り、まだ、同じ日に、150人が滞在していたシェルターをパサデナ・コンベンション・センターから近郊、ドアルテ市内の体育館に移した。

災害支援手続きは、基本・オンラインで

住宅災害保険の手続きやFEMAへの支援金手続きは、すべてオンラインか電話になっている。火災発生からの1週間は、コンピューターのない人はパブリック図書館に行き、コンピューターを使えと案内が出た。

1月14日に、アルタデナ地区とパリセーズ地区の被災者のために、近郊の2カ所に Disaster Recovery Center (災害復旧センター)が開設された。災害復旧センターは、FEMA、カウンティー行政区、パリセーズ地区ではロサンゼルス市の出先が集まり、被災者がワンストップで被災・支援手続きが対面でできるようになっている。2月11日には、毎日、約600人が手続きに来ているとFEMAが発表している。

行政は、オンラインで手続きができる被災者は、災害復旧センターに来る必要はないと、案内している。

2月17日からは、焼け跡の瓦礫撤去が陸軍工兵隊によって始まった。陸軍工兵隊によれば、すべての瓦礫撤去には18カ月かかる見通しだ。ほとんどの被災者が、陸軍工兵隊に瓦礫撤去を依頼することを選択しているが、この手続きも自己申告制で、申告期限は3月31日までになっている。3月31日までに申告をしなかたった場合は、自費で瓦礫撤去をすることになる。

住宅災害保険に瓦礫撤去費が含まれている場合は、その費用を連邦政府に支払わなくてはならない。あるいは、保険の瓦礫撤去費をつかって自前で業者を選択して、自前の瓦礫撤去を行うこともできるが、それを選択するひとは、少ない。

災害発生場所にあらわれる略奪者

今回のロサンゼルス大火災と日本の大規模災害との、もうひとつの大きな違いは、火災が起こった直後に、略奪者が被災地に侵入したことだ。中古の消防車を運転して被災地に乗り込んだ偽消防士もいた。このため、被災地には直ちに、州兵が動員され警備が強化された。1月末までは、アルタデナ地区では、被災者だけにしか被災地域に入ることが認められなかった。被災地区に通じる道路のすべての入り口には、州兵と警察官が配置されていた。

パリセーズ地区では2月17日現在でも、幹線道路のパシフィック・コースト・ハイウエーの通行は、必要がある人のみと警告され、パリセーズ地区へは被災者か被災者の依頼を受けた業者しか立ち入ることが許されていない。

人種の多様性を発信した LA Voice 集会

1月28日、パリセーズ地区に近いユダヤ教の施設、レオ・ベック・テンプルで、ユダヤ人とパレスチナ人の対話を進めてきた LA Voice による、被災者の声を届ける集会が開かれた。ロサンゼルス市長も出席した集会はテレビ中継も入った。

司会は、このテンプルのラビが行ったが、被災者は、薬局を経営していた中国人、老人介護のため、被災地区に通っていたラテン系介護人、教会が焼失したメソジスト派の牧師、アルタデナ地区で自営業の黒人と、被災者にも人種の多様性があることを発信していた。

民間による支援活動

日本でも、大きく報じられているようにドジャース球団の大谷翔平選手が50万ドルの寄付をしたことなど、さまざまな被災者への支援活動が行われている。

わたし自身が直接体験したのは、Pasadena Japanese Cultural Institute (パサデナ日系文化会館)のテータイム(茶話会)だった。パサデナ日系文化会館は、アルタデナ被災地に近い場所にある。1月までは、被災者への支援物資を集め、配給する場所にもなっていた。1月と2月は、毎週、日曜日の午後1時から3時まで、テータイム(茶話会)を開いている。リトル東京サービス・センターからソーシャル・ワーカーも参加して、被災者や、避難体験者の声を聞いている。

Pasadena Buddhist Temple(パサデナ仏教会)は、西本願寺派の寺院である。パサデナ仏教会は、200-300人は入る大きな本堂と事務所棟、体育館、大きな駐車場をもっている。この施設にまで、火の粉が飛んできたが、消すことができた。パサデナ仏教会の3軒先の住宅は焼けている。この仏教会で、週2回、85食の無料の弁当配布が行われている。月曜日は、リトル東京にあるアゼイ・レストランから、金曜日は、サンゲーブルにあるヤマ・スシ・マーケットから弁当が提供されている。

大災害では被災者のニーズは多様化する

今回のロサンゼルス大火災の被災者には、わたしが知っている人がいた。まず、芥川賞作家の米谷ふみ子さん(94歳)。実は、米谷さんとは、火災の前日1月6日の夜、約1時間、電話で話をしていた。共同通信社が1月14日に「過去が全部消えた」と米谷さんの消息を報じている。わたしは、米谷さんのパリセーズの自宅を2024年に訪れていて、米谷さんが失ったものがよくわかる。

クレアモント大学院ドラッカー経営学部のジェレミー・ハンター准教授のアルタデナの自宅には、5年ほど前に訪れたことがある。ハンター先生は、火災発生直後からフェースブックで、家を失ったことを発信し、1月10日にはCNNテレビに出演している。

わたしは、2011年の東日本大震災の時、4月16日から現地に入り、被災地の取材を始めている。東北3県には、その後4年間、毎年数回、取材に訪れている。2016年の熊本震災には5月に現地を取材した。2018年の西日本豪雨は、故郷の広島県呉市が被災地だったこともあり、現場に行った。

大災害を取材していると、被災者が何万人にもなる大災害では、被災者のニーズが実に多様であることを知ることができた。そして、それは時間の経過とともに変わっていく。被災直後は、食料や洋服が足りないが、一時滞在先が決まると、ニーズは変わってくる。被災直後には、被災者に現金のドネーションは必要なことだが、住む場所が確保できると、被災者に次に必要となるのは、仕事だ。生活費を稼ぐことができる仕事が見つかれば、すこしずつ先のメドがついてくる。いつまでもドネーションに頼る生活を続けることはできない。

ロサンゼルス・カウンティーの北方にあるベンチュラ・カウンティーで2017年に、大火災を経験した被災者によれば、大組織による支援活動は、被災者が期待する期間より早く終了してしまい、その後、被災者は頼れるものがなくなってしまうが、元の生活に戻るまで、3年から7年はかかる。

今回のロサンゼルス大火災のFEMAの活動も、3月10日で支援申請を打ち切ることがすでに発表されている。それと同時期に災害復旧センターも閉鎖されると予測される。

パサデナ日系文化会館では、3月以降も月1回のペースでテータイム(茶話会)を続けていくことを相談している。

わたしは、オンラインで「被災者との接し方」の説明会を開きたいと考え、東日本大震災から被災地支援活動をしている日本の宗教者グループと、1月末から連絡を取り合っている。

住宅約1万軒が焼失しているので、被災者の数は数万人になる。また、また家は焼けなかったが15万人近いひとが一時避難を経験していて、家をなくした被災者と日常、接することになる。

今回のロサンゼルス大火災では、日本のような仮設住宅がなく、また、シェルターの滞在者も比較的に数が少ないので、被災者のいる場所にボランティアに行く機会は少ない。その代わり、被災者が突然、目の前に現れるという経験が多くなると思う。

わたし自身の経験で、2月初めに、パサデナの芸術教育施設アーモリー・センターで、アーティストのための支援金申請の説明会が行われた。その時、大柄の男性でアーモリー・センターのスタッフという人から話かけられたので、わたしは自己紹介した。そうしたら、そのスタッフから「わたしも家を失った」ということばが出たが、どう話を続けていいのか考え始めたら、相手は気をきかせてか、すぐに、立ち去ってくれた。

この広大なロサンゼルスで、自分から被災地に行くことは、ほとんどないと思うが、予期しない場で被災者と出会うことが多くなると、わたしは予測している。大災害が起こると大規模な募金活動が行われる。多くのひとは、募金をしたことで被災者への支援は済ませたと考えている。しかし、被災者の再建は、何年にもわたって続くことで、ニーズも時間の経過とともに変わって行く。

今回、わたし自身が大災害の現地に生活していることから、継続的に被災者のニーズをくみ取り、コミュニテーに告知する仕事をしたいと考えている。その第1歩として、「被災者との接し方・オンライン説明会」を実現させたいと思っている。

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ロサンゼルス火災の被災者との接し方・オンライン説明会を
3月9日、午後7時(ロサンゼルス時間)に行います。

上智大学グリーフ・ケア研究所の葛西賢太(かさい・けんた)先生が
家や肉親を亡くされた方とは、どのように話をしたらよいのかを説明します。

日本からもオンライン参加ができますので、参加を希望の方はカルチュラル・ニュース編集長、しげひがし(東 繁春)のhigashi@culturalnews.com へ連絡してください。

(注)「15万3000人が避難したロサンゼルス大火災から1カ月」の元になるデータは、すべて https://www.culturalnews.com に掲載してあります。

 

 

 

 

 

 

 

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