日本語議連の中川会長代行、馳事務局長の立法者の立場で日本語教育基本法の踏み込んだ議論 日本言語政策学会のシンポで

日本語議連の中川会長代行、馳事務局長の立法者の立場で日本語教育基本法の踏み込んだ議論 日本言語政策学会のシンポで

日本言語政策学会の第20回記念研究大会の特別シンポジウムが6月17日、東京都新宿区の早稲田大学で開かれ、ゲストスピーカーとして招かれた日本語教育推進議員連盟の中川正春会長代行と馳浩事務局長が、対話形式で日本語教育推進基本法(仮称)の理念や成立に向けての取り組みなどを紹介した。議連をけん引する両氏がそろって外部の催しに参加したのは初めて。2人は日本語教育に関するそれぞれの「想い」を語るなど、日本語議連とは一味違った中身の濃い議論が展開された。また中川氏はこの中で、日本語教育推進基本法の法案を秋の臨時国会に提出する意向を重ねて表明した。

この日のシンポのテーマは「言語保障から学力保障へ」。中川氏は地元三重県鈴鹿市で多文化共生の取り組みをリードし、一方、馳氏はフリースクールや夜間中学の支援のための義務教育機会確保法の成立の立役者で、ともに精力的に社会活動に関わる行動派の議員だ。帝京大大学院の木村哲也氏が司会を務め、約100人がシンポの議論に耳を傾けた。


[議論の口火を切る日本語教育推進議員連盟の中川正春会長代行]

シンポでは、日本語議連の発足に向けての問題意識を問われた中川氏が議論の口火を切った。中川氏はまず「多文化共生、日本の将来は国を開くということを避けては通れない課題。しかし、移民という言葉にアレルギーを持つ人たちがいるのが現実だ。今回、日本語教育をしっかりと社会の中に仕組みとして定着させていきたいと思った」と語った。また海外で「日本語講座」の数が減り、「中国語講座」が増加する現状に危機感を募らせ、「海外で日本語をどのように展開していくかということを国家戦略として持つということ、クールジャパンの本当の基本はここにないといけない」と述べた。さらに中川氏はインバウンドの外国人観光客が急増する中で、日本語を多言語化することで日本の魅力をもっと発信すべきだと強調した。

馳氏は「言いたいことは中川先生とほぼ同じ」と述べたうえで、自身が議員立法に力を注いでいることに触れ、すでに自身が関わって議員立法で33本の法律を成立させたことを明らかにした。最も多いのは田中角栄元首相の36本だといい、「何とかこれを超えてやろうというのが私の国会議員としての目標」と意欲を示した。

また、馳氏は縦割り行政で日本語教育に関する取り組みが省庁間で連携が取れていない現状を問題点として指摘した。その話の流れの中で馳氏は私(石原)に日本語教育に関係する省庁の数を質問。私は自分の認識として「10省庁」と答えた。実は先の日本語議連第10回総会には文部科学省、法務省、経済産業省など8府省庁の担当者が出席したが、技能実習生を受け入れる官庁の国土交通省と農水省の担当者も呼ぶ必要があると考えていたからだ。ただし、防衛省でさえ、国際的な防衛交流事業としてミャンマーの陸軍学校で日本語教育を行うなど日本語教育に関係している。日本語教育は外国人が関係するほぼ全府省庁にまたがるテーマだといっていいだろう。こうした省庁間の「バラバラな取り組み」をただし、連携して政府を挙げて日本語教育を推進するための法的な仕組みが日本語教育推進基本法だ。


[議員立法に力を注いでいることに触れる日本語教育推進議員連盟の馳浩事務局長]

この省庁連携について、中川氏が基本法の原案の一部を紹介。「政府は、関係省庁相互の調整を図ることにより、日本語教育の総合的、一体的かつ効果的推進を図るため、日本語教育推進協議会を設ける。関係府省は、日本語教育に関し専門的知識を有する者、日本語教育に従事する者及び日本語教育を受ける立場にある者によって構成する日本語教育推進専門家会議を設け、関係府省相互の調整を行うに際してその意見を聴く」とある部分だ。

要するに基本法が制定されれば、関係省庁の担当者が協議会の場で事業の調整を行い、また有識者で構成する専門家会議が日本語教育の推進に必要な施策をまとめ、協議会に提言する仕組みができる、というわけだ。しかも、法的な枠組みができれば予算措置もつけられる。政府の「お墨付き」で日本語教育ができるようになる。

この他、議論は外国人児童生徒のアイデンティティの問題をはじめ、いじめや発達障害、ミャンマー難民への対応などにも及んだ。馳氏は彼らのアイデンティティに配慮するには日本語教育だけでは十分ではなく、母国の言葉や文化などを教えることで自分の民族に誇りを持たせる教育も重要だと述べ、そのための大学での教師の育成の必要性も指摘した。中川氏は第三国定住のミャンマー難民を受け入れた地元鈴鹿市の小学校で実践したコミュニティスクールの活動を紹介。ミャンマー難民との共生を通じて地元の人たちがミャンマーや難民について学び、ダイバーシティへの関心が高まったという。

質疑では、基本法の原案で基本理念に「出入国管理との有機的な連携」との記述があるのをとらえ、「一定の日本語能力を持たない外国人」については法務省入管局が滞在を認めないことになるのかどうか、との質問があった。これに対し馳氏は「排除するという観点は残る」としながらも、「ポジティブにこれくらいのこと(一定の日本語能力)は必要です、というのが立法者の意思」と述べた。基本理念の精神は、排除するのを目的とはしていない、という考えだと受け止めたい。日本語議連として、そうした立法者の意思を国会での法案審議の中で示すことが必要だと思う。

基本法案の行方についての質問では、中川氏が「(法案提出の)目標としているのは秋の臨時国会」と述べたが、その一方で、「成立するかしないかは、与党と野党がどれだけケンカしているかにかかっている」とも語り、法案成立時期については明言を避けた。また、基本法の原案で「国の責務」として所管官庁を明確にするよう求めていることについて中川氏は、「文部科学省と外務省の共管」で主管することを想定しているとし、現在は文化庁国語課で日本語教育の一部事業を担っているが、「文科省トータルで対応できるところまで持っていきたい」と語った。

石原 進(いしはら・すすむ)日本語教育情報プラットフォーム代表世話人

投稿者プロフィール

「にほんごぷらっと」の運営団体である日本語教育情報プラットフォーム代表世話人。元毎日新聞論説副委員長、現和歌山放送顧問、株式会社移民情報機構代表取締役。2016年12月より当団体を立ち上げ、2017年9月より言葉が結ぶ人と社会「にほんごぷらっと」を開設。

この著者の最新の記事

関連記事

コメントは利用できません。

イベントカレンダー

7月
20
10:00 AM 【!!追加募集!!】NPO法人日本... @ オンライン (オンライン上での集合研修 および 動画視聴による個人学習) ・「就労者の異文化適応」「教材研究」は対面(東京・大阪)で実施。 オンラインでの参加も選択可能。
【!!追加募集!!】NPO法人日本... @ オンライン (オンライン上での集合研修 および 動画視聴による個人学習) ・「就労者の異文化適応」「教材研究」は対面(東京・大阪)で実施。 オンラインでの参加も選択可能。
7月 20 2025 @ 10:00 AM – 2月 8 2026 @ 2:45 PM
【!!追加募集!!】NPO法人日本語教育研究所 主催文部科学省委託 令和7年度現職日本語教師研修プログラム普及事業 就労者に対する日本語教師【初任】研修 就労者に対する日本語教師養成 –日本語教育研究所の多様な研修実績及び人材を活かしたビジネス日本語教育/指導- ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ この研修は、これから新たに就労者に日本語を教えたいと考えている方を主な対象としています。スキルアップにぜひお役立てください。 再受講をご検討の方へ 本研修はこれまでに弊所の研修をご受講された方も、再度ご参加いただけます。 実際に現場に出て、もう一度確認したいことなども出てきているのではないでしょうか。 さらに実践的な指導力を高める良い機会となりますので、ぜひご検討ください。 ─────────────────── ■期間 2025年7月20日(日) ~ 2026年2月8日(日) *日程等の詳細は、募集要項のリンク先からご覧ください。 ■対象 日本語教育機関認定法に基づく「登録日本語教員」を対象としますが、本法の経過措置期間内(令和10年度まで)は、令和6年度までに下記を修了した方も対象とします。 1)日本語教師として下記のいずれかの要件を満たす方  ①大学/大学院で日本語教育に関する教育課程を修了し、大学/大学院を卒業/修了した方  ②大学/大学院で日本語教育に関する科目の単位を26単位以上修得し、大学/大学院を卒業/修了した方  ③公益財団法人日本国際教育支援協会「日本語教育能力検定試験」に合格した方  ④学士の学位を有し、日本語教師養成講座 420 単位時間以上を修了した方 2)原則として、就労者への日本語教育歴が0~3年未満の方 ■定員 100名 ■受講料 20,000円(税込) ※教材費込み ■申込方法 以下のリンクからお申し込みください。 https://forms.gle/JWtnJ6WzzCNQvQx88 ■申込締切 2025年6月30日(月)【募集期間延長しました!!】 ■募集要項 https://docs.google.com/document/d/1uHn1k6zdRIgcQ2-lK5Uyr1Qa5vlwzXCFvKEUw3UjJVU/edit?usp=sharing ■お問い合わせ NPO法人 日本語教育研究所(研修事務局) nikken.kenshu@gmail.com
8月
29
12:00 AM 令和7年度 文部科学省委託 主任教... @ オンライン+いずれかの対面研修会場(東京会場:国立オリンピック記念青少年総合センター/大阪会場:関西研修センター(KKC)/福岡会場:リファレンス駅東ビル貸会議室)
令和7年度 文部科学省委託 主任教... @ オンライン+いずれかの対面研修会場(東京会場:国立オリンピック記念青少年総合センター/大阪会場:関西研修センター(KKC)/福岡会場:リファレンス駅東ビル貸会議室)
8月 29 2025 @ 12:00 AM – 1月 8 2026 @ 12:00 AM
令和7年度 文部科学省委託 主任教員研修 @ オンライン+いずれかの対面研修会場(東京会場:国立オリンピック記念青少年総合センター/大阪会場:関西研修センター(KKC)/福岡会場:リファレンス駅東ビル貸会議室) | 東京都 | 日本
一般財団法人日本語教育振興協会は標記研修を開催いたします。 昨年度に引き続き、より質の高い研修成果を求めて、研修の核となる2日間の集合研修を東京会場、大阪会場、福岡会場で全て対面にて実施することにいたしました。特に、東京会場は国立オリンピック記念青少年総合センターに宿泊して研修を行うので、研修に参加した仲間や講師との絆がより一層深まることを期待しております。もちろん、どちらの会場での研修も日本全国からご参加いただけます。 加えて、オンデマンドによる事前学習を多く取り入れるなど、集合研修での成果をより高めるための工夫がされております。さらに、各参加者が自校の教育の質向上のための取り組みを発表する機会を作り、より質の高いフィードバックが得られるように集合研修後のフォローアップも強化するなど、より密度の濃い研修プログラムとなっております。 受講希望者におかれましては、7月28日(月)までに,所定の応募方法にて,ご応募くださるようお 願いいたします。 また、当協会の主任教員研修は告示校を対象としているため、たとえ常勤3年以上の経歴を有していても認定校・告示校の教員(認定日本語教育機関の審査申請済みの教育機関(新規開校含む)に所属する主任教員を含む)でない限り研修の対象とはなりません。 《令和7年度 主任教員研修の特徴》 ︎「日本語教育の適正かつ確実な実施を図るための日本語教育機関の認定等に関する法律」の成立により、ますます注目が集まる「日本語教育の参照枠」や「日本語教師の人材育成」について理解を深める事ができる ︎ 現場の“今”を意識した研修プログラムにより、過去の研修受講者が再度受講しても満足できる研修である ︎ グループワークでは経験別や所属学校の属性別のグループを構成することにより、多様な受講者の満足度を保証する 《令和7年度 主任教員研修のねらい》 ◆「日本語教育の参照枠」に基づく学習成果の評価と手法を理解し、実践に活かす力を養う ◆ 人材育成の目的や考え方を知り、自校が求める教員像に近づけるための育成方法を考え実践する ◆ 今の悩みを共有できる仲間や、相談できる先輩とのネットワークを獲得する 《研修について》 ◆研修期間  2025年8月29日(金)~2026年1月8日(木)まで       ※7月29日~8月25日まで事前課題への取り組みがあります       ※研修の詳細な日程については当協会のホームページよりご確認ください ◆開催場所 オンライン(Zoom)+下記いずれかの会場       【東京会場】国立オリンピック記念青少年総合センター       【大阪会場】関西研修センター(KKC)       【福岡会場】リファレンス駅東ビル貸会議室 ◆定員 108名(会場定員:東京会場54名/大阪会場36名/福岡会場18名) ◆参加資格 以下の(1)〜(3)のいずれかの条件を満たす方  (1) 認定校・告示校の主任教員  (2) 認定校・告示校で 3 年以上の常勤教員経験を有する主任教員予定者  (3) 認定申請済機関の主任教員 ◆参加要件 ・研修の全日程に参加できる方 ※参加決定後の会場変更は不可 ・オンライン集合研修において、静かで研修に集中できる環境から参加できる方 ・インターネット環境が整っており、PC で研修に参加できる方  ※スマホやタブレットからの参加は不可 ・自校にて実際に課題改善を行い、その取り組みを発表し、研修レポートとして提出できる方 ◆受講料 30,000円(消費税込)      ※東京会場参加者については、別途宿泊費及び食費等(20,000 円程度)が発生します。       詳細な費用については、参加決定者に対して別途お知らせいたします。      ※大阪・福岡会場参加者については、交流会参加費が発生します。       詳細な費用については、参加決定者に別途お知らせいたします。 ◆詳細・申込方法 https://www.nisshinkyo.org/news/detail.php?id=3370&f=news          ★上記サイトに掲載されている開催案内をよくお読みいただきますようお願いいたします ◆応募締切 2025年7月28日(月) 〔問い合わせ先〕 一般財団法人日本語教育振興協会 主任教員研修担当 Eメール:shuninken@gmail.com TEL:03-6380-6557
10月
5
10:00 AM 凡人社オンライン日本語サロン研修... @ オンライン
凡人社オンライン日本語サロン研修... @ オンライン
10月 5 @ 10:00 AM – 11:30 AM
凡人社オンライン日本語サロン研修会 『組織文化をつくる言語戦略』刊行記念イベント [日 時] 10月5日(日)10:00~11:30(オープン 9:40)※日本時間   [会 場] オンライン   [対 象] 日本語教師、企業での言語教育に携わる方、人材育成や D&Iに関心のある方など   [定 員] 250名(先着順、定員になり次第締め切ります)   [参加費] 無料 ※ 要予約、前々日(10/3)17時までに招待URLを送ります   [講 師] 親松 雅代 氏(株式会社メルカリ Language Education Team)   [内 容] 『組織文化をつくる言語戦略』(三修社発行)刊行を記念して、著者である親松雅代氏によるオンラインセミナーを開催します! 親松氏は、組織の3割が外国籍、国籍は約55か国に及ぶ、多様な言語的文化的背景を持つメルカリで、日本語教育をはじめ様々な言語施策、コミュニケーション施策を推進してきた第一人者です。 CEFRの理念や行動中心アプローチをベースにしたメルカリの言語教育とはどのようなものか、また、企業の人事の視点から日本語教育に求めるもの、AI時代の言語教育をどう見据えているかなど、企業の言語教育の最先端の生の声をお届けします。   [お問い合わせ・お申込み] 主催:三修社・凡人社 お問い合わせ・申し込み先(担当:凡人社/坂井) E-mail:ksakai@bonjinsha.co.jp ※ 下記お申込みフォームかメールでお申し込みください。 ※ メールでお申し込みの際はタイトルに「オンライン日本語サロン研修会(10/5)」と入れて本文にご氏名・ご所属・ご連絡先をご記入ください。 お申込みフォーム→https://forms.gle/7fMGAukbfybxMzxC9
10月
18
2:00 PM オンライン講義:タスクベースの言... @ オンライン
オンライン講義:タスクベースの言... @ オンライン
10月 18 @ 2:00 PM – 3:30 PM
オンライン講義:タスクベースの言語指導とは? ―タスク支援型からタスク基盤型へ― ■会場 オンライン(Zoomミーティング) ■日時 2025年10月18日(土)14:00–15:30 ※録画配信等はありません ■参加費 無料 ■講師 小柳かおる 先生(上智大学言語教育研究センター/大学院言語科学研究科教授) 福岡県出身。ジョージタウン大学にて博士号(言語学)取得。(社)国際日本語普及協会(AJALT)を経て渡米、アメリカ国際経営大学院、ジョージタウン大学等の日本語講師。上智大学比較文化学部(現 国際教養学部)助教授などを経て現職。2018年9月から2019年8月まで、フランス国立東洋言語文化大学(INALCO)日本学研究センター特別招聘研究員。 著書に『改訂版 日本語教師のための新しい言語習得概論』(単著、スリーエーネットワーク、2021)、『第二言語習得について日本語教師が知っておくべきこと』(単著、くろしお出版、2020)、『認知的アプローチから見た第二言語習得』(峯布由紀氏との共著、くろしお出版、2016)、『第二言語習得の普遍性と個別性』(向山陽子氏との共著、くろしお出版、2018)など。

注目の記事

  1. 新年を迎えて 2024年は日本語教育の大変革の年 日本語教師は新たな自己改革を 2024年…
  2. 認定日本語教育の法案を閣議決定、国会に提出 政府は2月21日、「認定日本語教育機関」と「登録日…
  3. 移民政策の先駆者・故坂中英徳さんを偲んで 元東京入管局長で移民政策研究所所長の坂中英徳…

Facebook

ページ上部へ戻る
多言語 Translate