「日本語教育」には強い追い風 「日本語学校」はどこ吹く風?

人手不足が深刻化する中で、政府は経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)などで「外国人材を幅広く受け入れていく仕組み」を構築する方針を示した。一方、超党派の日本語教育推進議員連盟は日本語教育推進基本法(仮称)の秋の臨時国会での成立を目指している。これにより、日本語教育が大きくクローズアップされ、早くも日本語教育関係者に強い追い風が吹き始めた。しかし、その最前線にある日本語学校の存在感がいかにも薄い。業界団体が分裂した中で、日本語学校がどこに向かおうとしているのか、何を求めているのか。

日本は歴史的に例のないスピードで人口減少が進んでいる。2050年には人口がいまの3分の2になり、3人に1人以上が高齢者という厳しい時代を迎える。過疎化が急激に進み、北海道夕張市のように財政破たんする自治体が相次ぎ、後継者不足で人材倒産する企業が続発するのではないか。

政府はすでに直面している人材難に強い危機感を抱いている。人口減少は「脅威」と言ってもいいのではないか。政府は「移民政策とは異なるもの」とは言いつつも、これまでの方針を大きく転換、外国人の受け入れ枠を大幅に拡大する方針だ。先に閣議決定した「骨太の方針2018」には「従来の専門的・技術的分野における外国人に限定せず、一定の専門性・技能を有し即戦力となる外国人材を幅広く受け入れていく仕組みを構築する必要がある」と記述した。

政府は、必要な労働力を得るため新たな在留資格を設けると宣言している。具体的に想定しているのは農業、建設、造船、介護、宿泊の5分野だ。ほかにも必要に応じて受け入れ枠を増やしていくとみられる。身分に基づく日系人の「定住者」という在留資格も、「3世まで」だったのを「4世まで」に拡大した。

骨太の方針では「外国人受け入れの環境整備は、法務省が総合調整機能を持って司令塔的役割を果たす」と言う。出入国管理に責任を持つ法務省が総合調整のかなめになる方向を示しているわけだ。外国人受け入れの「仕組みづくり」が大きく進展するのは間違いない。政府としても本気で取り組むべき問題だと認識しているようだ。

日本語教育については、外国人留学生の日本での就職の拡大、「高度人材のポイント制」の見直しに言及し、「これらの前提として、日本語教育機関において充実した日本語教育が行われ、留学生が適正に在留できるような環境整備を行っていく」としている。

骨太の方針は、安倍内閣の政策の基本方針となる最も重要な文書だが、政府はほかにも「規制改革実施計画」や「未来投資戦略2018」、さらには「まち・ひと・しごと創生基本方針2018」という文書も閣議決定している。これらの文書には、労働力不足を補う外国人労働者をはじめ、外国人観光客の受け入れ、外国人留学生の日本企業への就職の促進、外国人との共生の在り方などが盛り込まれ、同時に日本語教育の充実などにも言及している。まさに「外国人受け入れ元年」とでも言えそうな文書のオンパレードだ。

日本語議連が作成した日本語教育推進基本法の原案(政策要綱)では、日本語教育を国や地方自治体の「責務」とし、外国人を雇用する企業にも「努力義務」を課し、関係省庁の連携強化、国内、国外の日本語教育普及についても細かく規定した。国内の日本語教育では、外国人児童生徒をはじめ、外国人留学生、技能実習生、難民など分野を分けて記述した。

また、関係省庁による施策の調整機関としての日本語教育推進協議会と協議会に意見具申をする日本語教育推進専門家会議の設置も規定した。民間の有識者による専門家会議の意見を聞きながら協議会で「基本方針」を策定し、それを閣議で決定する、という段取りが見えてくる。閣議決定で政府として意思決定したことは、各省庁が予算を付けて事業として実施する。基本法が成立すれば、日本語教育の在り方が大きく前進することは間違いない。

しかし、日本語学校に関しては素っ気ない記述だ。原案では「日本語教育機関に関する制度の整備」について、国が「検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする」とされているが、あくまで「検討条項」として書かれているに過ぎない。検討項目は次の4点だ。

  • イ 当該制度の対象となる機関の類型及びその範囲
  • ロ 外国人留学生の在留資格に基づく活動の管理に対する協力に係る日本語教育機関の責務の在り方
  • ハ 日本語教育機関の教育水準の維持向上のための評価制度等の在り方
  • 二 日本語教育機関における日本語教育に対する支援の適否及びその在り方

基本法が成立したら、政府はイから二までの4項目について検討を加えることになるが、政府は日本語学校のどの団体からどのように意見を聴取するのか。日本語学校の業界団体は7つもあり、そこに加盟していない学校も数多くある。業界団体そのものに「正当性」があるのかどうか。先に触れた日本語教育推進専門家会議に日本語学校の代表を送るとしたら、どの団体から選ぶのか。

政府としては、業界団体に意見の対立や見解の相違する事項があったとしたら、検討すらしないだろう。検討を先送りするのか、それとも業界側の意見を無視して政府が独自に判断してことを運ぶことになるのか。

そもそも基本法の原案で、日本語学校の関係事項が検討事項とされたのは業界団体が複数あるため合意形成が難しいと日本語議連が判断したからではないか。外国人が増えれば日本語教育の「需要」が増大する。日本語学校のビジネスの幅が広がるはずだ。企業に勤める外国人のために夜間の日本語学校があってもいい。不足する日本語教師を補うためには資格がありながら家庭に入ったままの主婦らに教壇にたってもらうための「公的な手当」を設けられないのか。外国人留学生の成績優秀者が日本語教師養成課程に通う際、助成金を出せないのか……。少なくとも団体間で一致できることは連携・協力して政府にモノ申すことぐらいすべきだろう。

日本語議連は、秋の臨時国会に日本語教育推進基本法案を提出する意向だ。しかし、政局が混迷すれば超党派の議員立法といえども成立がおぼつかなくなる。「法案の早期成立」で一致できるのでれば、各党党首に団体名を連ねた要望書を出してはどうか。業界団体の連携・協力の第一歩となるかも知れない。

石原 進(いしはら・すすむ)

石原 進(いしはら・すすむ)日本語教育情報プラットフォーム代表世話人

投稿者プロフィール

「にほんごぷらっと」の運営団体である日本語教育情報プラットフォーム代表世話人。元毎日新聞論説副委員長、現和歌山放送顧問、株式会社移民情報機構代表取締役。2016年12月より当団体を立ち上げ、2017年9月より言葉が結ぶ人と社会「にほんごぷらっと」を開設。

この著者の最新の記事

関連記事

コメント

  1. If you are going for finest contents like I do, only visit this web site all the time as it
    presents quality contents, thanks

  2. Spot on with this write-up, I really think this website needs much more attention. I’ll probably
    be returning to read through more, thanks for the
    advice!

  3. Keep on writing, great job!

  4. Sling tv coupons and promo codes for november 2018

    It is not my first time to pay a visit this site, i am browsing this web site
    dailly and get fastidious facts from here daily. Sling tv coupons and promo codes for
    november 2018

  5. When I originally commented I appear to have clicked on the -Notify me
    when new comments are added- checkbox and now whenever a comment
    is added I get four emails with the exact same comment.
    Perhaps there is a means you can remove me from that service?
    Cheers!

  6. I read this paragraph fully about the difference
    of hottest and earlier technologies, it’s awesome article.

  7. Ahaa, its nice conversation regarding this piece of writing here at this web site, I have read all that, so
    at this time me also commenting at this place.

  8. Excellent post. I used to be checking constantly this blog and I am inspired!
    Extremely useful info particularly the closing part
    🙂 I handle such information a lot. I used to be seeking this certain information for
    a very long time. Thanks and best of luck.

  9. Hi, I log on to your new stuff like every week.
    Your writing style is witty, keep it up!

  10. I don’t even know how I ended up here, but I thought this post
    was great. I do not know who you are but certainly you’re going to a famous blogger if you aren’t already 😉 Cheers!

  11. Descargar facebook
    It is really a great and helpful piece of information. I’m satisfied
    that you simply shared this useful information with us.
    Please stay us up to date like this. Thank you for sharing.
    Descargar facebook

  12. Normally I don’t learn post on blogs, however I wish to say that this write-up very forced me to try
    and do so! Your writing taste has been amazed me.
    Thank you, quite great article.

  13. If you are going for finest contents like myself, only pay a quick visit this website every day because it
    provides quality contents, thanks

  14. I always emailed this blog post page to all my contacts, because
    if like to read it next my friends will too.

  15. We are a gaggle of volunteers and opening a new scheme
    in our community. Your website offered us with helpful information to work
    on. You have done an impressive process and our entire neighborhood shall be
    thankful to you.

  16. Greetings! Very useful advice within this post! It’s the
    little changes that make the biggest changes. Thanks a lot
    for sharing!

  17. It’s very effortless to find out any matter on net as compared to
    textbooks, as I found this paragraph at this website.

  18. Wow, that’s what I was seeking for, what a material!

    present here at this web site, thanks admin of this website.

  19. It’s really very difficult in this active life to listen news
    on Television, so I just use web for that reason, and take the most recent news.

  20. Pretty! This was an extremely wonderful
    post. Many thanks for providing these details.

  21. I’m impressed, I have to admit. Seldom do I come across a blog that’s equally educative and amusing,
    and let me tell you, you’ve hit the nail on the head.
    The problem is something which too few people are speaking intelligently about.
    I am very happy I found this in my hunt for something regarding this.

  22. Hey There. I found your blog the usage of msn. That is a really well written article.
    I’ll make sure to bookmark it and come back to learn more of your helpful information. Thanks for
    the post. I’ll definitely return.

  23. Hi just wanted to give you a quick heads up and
    let you know a few of the images aren’t loading correctly.
    I’m not sure why but I think its a linking issue. I’ve tried it in two different web browsers and both show the same outcome.

  24. Great post.

  1. この記事へのトラックバックはありません。

CAPTCHA


イベントカレンダー

11月
24
全日 2018(平成30)年度秋季大会 in静岡 @ プラサヴェルデ
2018(平成30)年度秋季大会 in静岡 @ プラサヴェルデ
11月 24 – 11月 25 全日
学会では,毎年春と秋の2回,大会を開催しています(大会委員会担当)。 会員でなくても,関心のある方は参加費を収めて講演やシンポジウム研究発表を聞くことができます。 大会参加者に配布する予稿集は,大会終了後余部がある場合,希望者へ頒布しています。
全日 第25回日本教育メディア学会年次大会 @ 鹿児島大学教育学部
第25回日本教育メディア学会年次大会 @ 鹿児島大学教育学部
11月 24 – 11月 25 全日
2018年 第25回日本教育メディア学会年次大会 開催概要・日程 日時:2018年11月24日(土)ー25日(日) 会場:鹿児島大学教育学部 〒890-0065 鹿児島市郡元1丁目20番6号 開催スケジュール(予定) 11月23日(金) 15:00〜18:00 理事会(附属教育実践総合センター2階演習室) 11月24日(土)会場 午前:鹿児島大学教育学部附属小学校 午後:鹿児島大学教育学部第1講義棟 9:30〜 受付(午前:鹿児島大学教育学部附属小学校または教育学部第1講義棟) 受付は,午前中:附属小学校 午後:教育学部講義棟入り口(1階)にて設置します。 10:00〜11:30 地元企画:公開授業と振り返り 公開授業(低学年算数を予定) 授業者:伊藤優一郎(鹿児島大学教育学部附属小学校) 司会:中川一史(放送大学)、コメンテータ:佐藤幸江(金沢星稜大学) 12:30〜13:20 総会(第1講義棟103講義室) 13:30〜15:30 一般研究発表(1 件あたり 30 分発表)※質疑と交代を含む 15:45〜17:00 鼎談『教育メディアのこれまでと展望』(仮) 登壇者:堀田博史(園田学園女子大学)、黒上晴夫(関西大学) 宇治橋祐之(NHK放送文化研究所) 17:30〜19:30 懇親会(同キャンパス内大学生協エデュカを予定) ※24日(土)は,大学生協の中央食堂(理学部側)は営業しています。また近隣の店も営業しておりますので,弁当の申し込みは行いません。 11月25日(日)会場:鹿児島大学教育学部第1講義棟,第2講義棟  9:00〜 受付(教育学部第1講義棟1階) 9:30〜11:30 課題研究発表 11:30〜12:30 昼食(当日は大学生協がお休みです。当日弁当申し込み受け付けます) 12:30〜14:30 一般研究発表(1 件あたり 30 分発表)※質疑と交代を含む 15:00〜16:20シンポジウム『新学習指導要領における教育の情報化の展開』(仮) 登壇者:安彦広斉(文部科学省),稲垣忠(東北学院大学), 鹿児島県内の教育委員会担当者,鹿児島県内の小中高教員 コーディネータ:山本朋弘(鹿児島大学)
12月
1
10:00 AM 第14回 協働実践研究会 @ 麗澤大学 東京研究センター(アイランドタワー4階)
第14回 協働実践研究会 @ 麗澤大学 東京研究センター(アイランドタワー4階)
12月 1 @ 10:00 AM – 5:00 PM
【第14回協働実践研究会】 https://goo.gl/NTD3jo ◆日時:2018年 12月1日(土) 10:00~17:00(予定) ◆場所:麗澤大学 東京研究センター(アイランドタワー4階) 東京メトロ・丸の内線「西新宿駅」に直結、 「新宿駅」西口から徒歩10分 ◆プログラム 10:00~12:00 ピアラーニング入門講座 池田玲子(鳥取大学) 12:00~13:00 昼休み 13:00~13:30 協働実践の今 1(研究会活動報告) 13:30~14:10 これからの協働実践を考える 舘岡 洋子(早稲田大学) 14:10~14:40 休憩 14:40~17:00 協働実践の今 2(ポスター発表)  
2:00 PM 『移動とことば』公開「合評会」 @ 早稲田大学(早稲田キャンパス)19号館610教室
『移動とことば』公開「合評会」 @ 早稲田大学(早稲田キャンパス)19号館610教室
12月 1 @ 2:00 PM – 5:00 PM
『移動とことば』公開「合評会」 「移動とことば」という課題を問う本書を,比較教育学,社会学,日本研究の視点から論評する「合評会」を,以下の通り開催します。 日時: 2018年12月1日(土)14:00〜17:00 場所: 早稲田大学(早稲田キャンパス)19号館610教室 参加費: 無料※直接会場までお越し下さい(使用言語:日本語) http://gsjal.jp/kawakami/ http://www.9640.jp/book_view/?774
ページ上部へ戻る