令和の時代に目指すべきは、「開かれた共生社会」

令和の時代に目指すべきは、「開かれた共生社会」

新しい元号「令和」が発表された2019年4月1日、外国人労働者の受け入れ拡大の改正入管法が施行され、法務省の外局として「出入国在留管理庁」が発足した。平成元年(1989年)にも、日系人受け入れの入管法の大改正があった。人口減少の危機を背景に、平成は「入口と出口」で外国人の受け入れ拡大に大きく舵を切った時代だった。平成の時代も残すところ1か月。さて、令和はどんな時代になるのだろうか。

平成30年の昨年、安倍政権は思い切った外国人材受け入れ拡大を決断した。人手不足で中小企業は悲鳴を上げていた。アベノミクスが減速しそうになった。「開国」に踏み切らざるをえなかった。安倍政権は「移民政策とは異なる」と断ったうえで、「共生社会」の実現を目指すという。外国人から「選ばれる国」にならなければならないとも言った。

平成の時代を振り返ると、バブルに沸く中、「定住者」という日系人向けの在留資格を新設したことで、日系人がどっと来日した。もともと日本と血でつながる移民の子孫だ。事実上の移民のUターンだった。政府はデカセギだからすぐに帰るだろうとたかをくくっていたが、家族を呼び寄せるなどして、その数は一時30万人を超えた。

総務省は2006年、外国人との「多文化共生プラン」を作成。地方自治体の外国人対応の指針を示した。政府は外国人を「生活者」として扱うようにもなった。外国人の住民登録が始まり、「外国人市民」や「外国人町民」が私たちの隣人として暮らすようになった。外国人支援のボランティアが外国人に日本語を教え、NPOが困窮する外国人やその子供に手を差し伸べるようになった。

ところが、2008年のリーマンショックの際には、大手製造業の下請け企業は即座に日系人のクビを切り、政府は帰国支援金を出して帰国を促した。当時、日本人も職を失ったが、まずツケを押し付けられたのは外国人だった。だが、マスコミなどから企業への批判の声は出なかった。外国人は景気の調整弁でしかなかったのだ。傷心を胸の帰国した日系人は少なくなかった。

また、外国人受け入れでは、研修を名目にした技能実習生制度が拡大の一途を続けた。留学生を貴重な労働力として活用した。いわゆる「単純労働者」は受け入れない、と言っていながら、裏口から労働力としての外国人を受け入れてきた。平成の時代は、政府はそんな矛盾を抱えながら、外国人を受け入れてきた。

政府は昨年秋の臨時国会で入管法を改正し、ミドルスキルの外国人労働者の受け入れるため「特定技能」という在留資格を創設した。批判の多い技能実習生をシフトさせることを想定した仕組みだ。それでも5年間で14の業種に34万5000人の労働者の受け入れるという。従来の技能実習生や留学生なども受け入れるわけだから、外国人は急増するに違いない。

政府は、外国人支援のための「総合的対応策」をまとめているが、こちらの方は準備不足で対応の遅れが目に見えている。様々な機関での日本語教育をはじめ、多言語の相談窓口の設置、外国人児童生徒の教育の充実、外国人の支援組織の拡大、さらには日本人の意識を変えるための「多文化教育」が各方面で必要になるだろう。令和の時代には、様々な課題が待っている。平成から引き継いだ外国人問題の課題開設の対応に追われることになるのは間違いない。

日本が「外国人に選ばれる国」になるには、偏見や差別のない「共生社会」を作らなければならないのは当然だ。日本人が多様な文化を受容し、外国人の家族が住み続けたいと思う社会だ。内向きでない、寛容な「開かれた共生社会」。平成を引き継ぐ令和の時代には、そんな社会を目指すべきだ。

石原 進

石原 進(いしはら・すすむ)日本語教育情報プラットフォーム代表世話人

投稿者プロフィール

「にほんごぷらっと」の運営団体である日本語教育情報プラットフォーム代表世話人。元毎日新聞論説副委員長、現和歌山放送顧問、株式会社移民情報機構代表取締役。2016年12月より当団体を立ち上げ、2017年9月より言葉が結ぶ人と社会「にほんごぷらっと」を開設。

この著者の最新の記事

関連記事

コメントは利用できません。

イベントカレンダー

7月
12
終日 言語科学会 第26回年次国際大会(J... @ 愛媛大学 城北キャンパス
言語科学会 第26回年次国際大会(J... @ 愛媛大学 城北キャンパス
7月 12 – 7月 13 終日
言語科学会第 26 回年次国際大会(JSLS2025)開催・研究発表募集のご案内 言語科学会 (JSLS: The Japanese Society for Language Sciences) では以下の要領で、 第 26回年次国際大会 (JSLS2025) を開催いたします。 大会日程: 2025 年 7 月 12 日(土)~ 13 日(日) 開催場所: 愛媛大学 城北キャンパス(愛媛県松山市文京町 3) 大会ウェブサイト: http://www.jslsconference.jpn.org/jsls2025/ 基調講演: Jae DiBello Takeuchi 氏 (Indiana University Bloomington)
7月
20
10:00 AM 【!!追加募集!!】NPO法人日本... @ オンライン (オンライン上での集合研修 および 動画視聴による個人学習) ・「就労者の異文化適応」「教材研究」は対面(東京・大阪)で実施。 オンラインでの参加も選択可能。
【!!追加募集!!】NPO法人日本... @ オンライン (オンライン上での集合研修 および 動画視聴による個人学習) ・「就労者の異文化適応」「教材研究」は対面(東京・大阪)で実施。 オンラインでの参加も選択可能。
7月 20 2025 @ 10:00 AM – 2月 8 2026 @ 2:45 PM
【!!追加募集!!】NPO法人日本語教育研究所 主催文部科学省委託 令和7年度現職日本語教師研修プログラム普及事業 就労者に対する日本語教師【初任】研修 就労者に対する日本語教師養成 –日本語教育研究所の多様な研修実績及び人材を活かしたビジネス日本語教育/指導- ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ この研修は、これから新たに就労者に日本語を教えたいと考えている方を主な対象としています。スキルアップにぜひお役立てください。 再受講をご検討の方へ 本研修はこれまでに弊所の研修をご受講された方も、再度ご参加いただけます。 実際に現場に出て、もう一度確認したいことなども出てきているのではないでしょうか。 さらに実践的な指導力を高める良い機会となりますので、ぜひご検討ください。 ─────────────────── ■期間 2025年7月20日(日) ~ 2026年2月8日(日) *日程等の詳細は、募集要項のリンク先からご覧ください。 ■対象 日本語教育機関認定法に基づく「登録日本語教員」を対象としますが、本法の経過措置期間内(令和10年度まで)は、令和6年度までに下記を修了した方も対象とします。 1)日本語教師として下記のいずれかの要件を満たす方  ①大学/大学院で日本語教育に関する教育課程を修了し、大学/大学院を卒業/修了した方  ②大学/大学院で日本語教育に関する科目の単位を26単位以上修得し、大学/大学院を卒業/修了した方  ③公益財団法人日本国際教育支援協会「日本語教育能力検定試験」に合格した方  ④学士の学位を有し、日本語教師養成講座 420 単位時間以上を修了した方 2)原則として、就労者への日本語教育歴が0~3年未満の方 ■定員 100名 ■受講料 20,000円(税込) ※教材費込み ■申込方法 以下のリンクからお申し込みください。 https://forms.gle/JWtnJ6WzzCNQvQx88 ■申込締切 2025年6月30日(月)【募集期間延長しました!!】 ■募集要項 https://docs.google.com/document/d/1uHn1k6zdRIgcQ2-lK5Uyr1Qa5vlwzXCFvKEUw3UjJVU/edit?usp=sharing ■お問い合わせ NPO法人 日本語教育研究所(研修事務局) nikken.kenshu@gmail.com
8月
7
10:00 AM 令和7年度日本語学校教育研究大会 @ 国立オリンピック記念青少年総合センター
令和7年度日本語学校教育研究大会 @ 国立オリンピック記念青少年総合センター
8月 7 @ 10:00 AM – 8月 8 @ 4:30 PM
日本語学校教育研究大会では、各日本語教育機関における実践・事例の報告の機会として、発表の場を設けています。 意見・アイディア交換の場としてぜひご活用ください。 皆様からのご応募お待ちしております。
8月
26
10:06 AM 第11回日本語教育支援システム研究... @ 英キール大学(Keele University)
第11回日本語教育支援システム研究... @ 英キール大学(Keele University)
8月 26 @ 10:06 AM
第11回日本語教育支援システム研究会(CASTEL/J)国際大会 第11回日本語教育支援システム研究会(Computer Assisted Systems for Teaching and Learning Japanese – CASTEL/J)国際大会を英国中部スタッフォードシャー州にあるキール大学(Keele University)にて英国日本語教育学会(BATJ)・キール大学ランゲージ・センターとの共催で開催することとなりました。 日本語教育支援システム研究会国際大会は、日本語教育関係者、日本語教育のリーダーに日本語教育におけるテクノロジー使用の最先端の動き、将来の方向性を共有する機会を作ってきました。2020年のパンデミックにより授業のオンライン化・ハイブリッド化が進み、それに加えて、この数年の人工知能(AI)技術の急速な発展と普及により、日本語教育は元より私たちを取り巻くテクノロジー環境が大きく変化しています。これらの技術的発展を効果的に教育・学習に取り入れ促進していくことは今まで以上に重要となっています。世界中からこの分野の優れた研究者、実践者が集まるこの国際大会に是非ご参加ください。 日時:2025年8月26日(火)〜27日(水) 会場:英スタッフォードシャー州キール大学チャンセラーズ・ビルディング 共催:英国日本語教育学会(BATJ)、キール大学ランゲージ・センター

注目の記事

  1. 移民政策の先駆者・故坂中英徳さんを偲んで 第五話 2050年の「ユートピア」 元東京入管局長の…
  2. 日豪の友好の歴史を見直そう——日豪議員連盟が「穣の一粒」と「藤田サルベージ」で勉強会  …
  3. 小説家を目指す日系ペルー人 山田マックス一郎さんが語る夢とは 山田…

Facebook

ページ上部へ戻る
多言語 Translate