シンポジウム 「日本語教育は学習者コーパスで変わる ―横断コーパス・縦断コーパスそれぞれの特徴―」

日時:
2018年4月30日 @ 1:00 PM – 4:40 PM
2018-04-30T13:00:00+09:00
2018-04-30T16:40:00+09:00
場所:
国立国語研究所 講堂
日本、〒190-0014 東京都立川市緑町10−2
参加費:
無料
お問い合わせ:
国立国語研究所 共同研究発表会事務局
042-540-4300

現在,『多言語母語の日本語学習者横断コーパス (I-JAS) 』の公開が順次行われています。この大規模な横断コーパスは,日本語教育の研究に活用され,学習者の習得過程や誤用の実態が徐々に明らかになっています。一方,学習者個々の成長や変化といった質的な面に目を向けることも,研究の重要な視点の一つです。

そこで,今回の発表では,第一部として,I-JAS の構築と研究成果をご紹介し,I-JAS の特徴を再検討します。つづいて,新たに構築中の,JFL環境の中国語を母語とする日本語学習者の4年間の習得過程を追った『北京日本語学習者縦断コーパス (B-JAS) 』をご紹介します。さらに第二部では,B-JAS のデータを用い,音声,聴解,会話における,学習者のゼロ初級から中級までの2年間の変容について発表者それぞれの観点から研究結果をご報告します。

多面的な学習者コーパスの構築により,日本語教育における言語習得の研究や学習者の指導法に対し,新たな可能性を提案することを目指します。

プログラム

13:00~13:10趣旨説明

野山 広 (国立国語研究所 准教授)

13:10~14:10第一部 : I-JAS・B-JAS の紹介

13:10~13:55基調講演「中国語母語の日本語学習者の発話に見る語用論的転移」迫田 久美子 (広島大学 特任教授,国立国語研究所 客員教授)

I-JAS の特徴を示した上で,依頼のロールプレイに見られた中国語母語の日本語学習者の語用論的転移の可能性を検討します。I-JAS のロールプレイの発話に,依頼の開始から依頼の命題までのプロセスで,日本人母語話者の発話と仏語,英語,スペイン語,中国語を母語とする日本語学習者の言語形式の比較を行った結果,中国語母語話者には他の話者には極めて少ない聞き返し (念押し) の特徴が観察されました。そして,それを中国語母語話者同士が中国語で行った場合と比較した結果,類似の傾向が見られ,聞き返し (念押し) の形式に母語の語用論的転移の可能性がみられることがわかりました。

13:55~14:10「B-JAS の特徴」野山 広 (国立国語研究所 准教授)

B-JAS は中国人日本語学習者4年間の日本語習得の縦断調査です。I-JAS の横断調査データとクロスマッチする調査項目を取り入れているため,I-JAS の同じ日本語レベルの学習者と比較が可能です。同時に,口頭能力の成長だけではなく,テストによる学習者の能力を縦断的に測っています。また,中国で現在行われている日本語学科のカリキュラムと日本語習得の関係性を見ることができます。

14:10~14:25休憩 (15分)

14:25~15:35第二部 : B-JAS を用いた研究の観点

14:25~14:55「中国人学習者における尾高型アクセントの語の習得」張 林 (北京師範大学 講師)

日本語の平板型アクセントと尾高型アクセントは単語内に下がり目がなく,語の後ろに助詞・助動詞などがない場合,平板型と尾高型は同じに聞こえます。そのため,日本語学習者にとって,尾高型アクセントの語の習得は難しいです。本研究は『B-JAS』の文字データから学習者の自発発話にある尾高型アクセントの語を抽出し,音声データを用いて学習者の発音実態と2年間の変容について考察します。

14:55~15:25「語彙習得過程における誤用の変容」費 暁東 (北京外国語大学北京日本学研究センター 講師)

音声の聴き取りの変容,学習者の語彙の聴き間違いがどのように変容していくかを具体例とともに示します。語彙の使用に関する誤用例を分析し,漢字語彙や仮名語彙にはどのような特徴が見られるかを検討します。また,誤用を修正していく過程では,母語からの影響がどのように観察され,その影響がどのように変容していくかを作文や会話のデータに基づいて検討します。

15:25~15:55「中国人日本語学習者のフィラー習得過程の実態」石黒 圭 (国立国語研究所 教授),布施 悠子 (国立国語研究所 プロジェクト非常勤研究員)

日本語学習者の話し方は,話す言葉は日本語,間に入るフィラーは母語という話し方になりがちで,こうした話し方に慣れていない日本人に,耳障りだと受け取られることもしばしばです。しかし,母語のフィラーが混じる話し方は日本語のレベルの向上につれて徐々に減少し,使われるフィラーの質も日本語学習の過程でかなり変わる印象を受けます。本発表では,こうした学習者のフィラー使用の実態を,B-JAS のデータによって縦断的かつ実証的に明らかにすることで,日本語教育におけるフィラー教育のあり方を考えます。

15:55~16:30全体ディスカッション

司会 : 野山 広
登壇者 : 石黒 圭,張 林,費 暁東,布施 悠子
コメンテーター : 迫田 久美子

16:30~16:40閉会の辞

石黒 圭 (国立国語研究所 教授)

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6月
12
12:00 AM 留学生対象の日本語教師初任者研修... @ オンライン(ZOOM)
留学生対象の日本語教師初任者研修... @ オンライン(ZOOM)
6月 12 2024 @ 12:00 AM – 1月 31 2025 @ 12:00 AM
日振協による文部科学省委託の初任研修が今年も始まります。 告示校で10年程度専任で経験されている方対象です。 OJTで実際の運営に関わりながら研修運営を肌で学んでいただけます。 研修詳細は協会ホームページより、チラシと募集案内をダウンロードしてご確認ください。   「日振協 留学生対象の日本語教師初任者研修」は「オンライン映像講義」「(オンライン)集合研修」「自己研修(自律的学習)」の三位一体の編成により、①自律的・持続的な成長力 ②対話力 ③専門性という3つの資質・能力の育成を目指すもので、忙しい仕事の合間を縫って学べるよう、また地方の教育機関に所属している受講生への負担を減らすため、e-Learningを利用した研修となっています。 2020年度から、この初任者研修と並行して、「育成研修」を併せて実施しています。「育成研修」は初任者研修のサポートを行いながら研修の企画や実施方法を学び、将来全国各地で初任者研修の実施担当者として活躍していただく人材を育成する研修です。具体的には以下のことを目指しています。 ①初任者教員の協働的かつ自律的な学びを支援し、21世紀に活躍できる日本語教師としての資質・能力及びICT活用能力の獲得へと導く ②研修委員に必要な経験と能力を身につける 研修は、フルオンライン(zoom使用)で実施いたします。学内で初任者の指導を任されている方、地方在住でなかなか研修機会に恵まれない方など全国各地からご参加いただきたく存じます。修了生は今後実施委員になっていただく可能性もございます。どうぞ奮ってご応募ください。 チラシ(PDF 裏表2頁/1枚)
6月
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12:00 AM 留学生に対する日本語教師初任研修 @ オンライン
留学生に対する日本語教師初任研修 @ オンライン
6月 29 2024 @ 12:00 AM – 1月 31 2025 @ 12:00 AM
本研修のカリキュラムは文化審議会国語分科会の「日本語教育人材の養成・研修の在り方について(報告)」に基づいており、初任者が体系的・計画的に日本語指導を行うための実践的能力として (1)自律的・持続的な成長力 (2)対話力 (3)専門性 の3つの資質・能力の養成を狙いとした90単位時間のプログラムです。忙しい仕事の合間を縫って学べるよう、また地方の日本語教育機関の新任の先生方への負担を減らすため、e-Learningを利用した研修となっています。 研修形態はフルオンラインです。昨年度同様、今後日本語教師にますます求められるであろうICT活用能力(オンライン授業やハイブリッド授業の実践等)に重点を置いた研修を行います。 つきましては、ぜひ多数の日本語教師初任者の方にご参加いただきたく下記のとおりご案内いたします。どうぞよろしくお願い申し上げます。 チラシ(PDF 表裏2頁/1枚)
8月
5
10:00 AM 令和6年度日本語学校教育研究大会 @ 国立オリンピック記念青少年総合センター
令和6年度日本語学校教育研究大会 @ 国立オリンピック記念青少年総合センター
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令和6年度日本語学校教育研究大会 1 開催日時 本大会 2024年8月5日(月)10:00~16:45 8月6日(火)10:00~16:15 ポストセッション 2024年8月23日(金)19:30~21:00 2 会場 国立オリンピック記念青少年総合センター(東京都渋谷区) 3 参加方法 会場参加:8/5、6は会場参加。後日一部プログラムのアーカイブ配信視聴可。8/23ポストセッションに参加可。 オンライン参加:一部プログラムのライブ配信・後日アーカイブ配信を視聴可。8/23ポストセッションに参加可。 3 応募締切:2024年7月24日(水) 4 詳細、申込方法 https://www.nisshinkyo.org/news/detail.php?id=3163&f=news 「日本語教育の適正かつ確実な実施を図るための日本語教育機関の認定等に関する法律」施行に伴い、各校においては教育理念や到達目標、評価方法、および教育・学習内容等の見直しを進められていることと存じますが、認定されることがゴールではなく、その先を見据えて、自分たちの教育、および学校全体を見直し、リニューアルすることが大事なのではないでしょうか。 今回は、大会のテーマを「これからの新しい日本語学校の話をしよう」とし、プログラムを企画しました。 日本語学校教育に興味・関心をお持ちの方ならどなたでもご参加いただけます。 皆様のご参加お待ちしております。 【8/5】 講演「日本語教育機関の認定と登録日本語教員について」 (文部科学省総合教育政策局日本語教育課) 講演「技能実習制度及び特定技能制度をめぐる状況と育成就労制度の創設について」 新井靖久(出入国在留管理庁政策課 課長補佐) 講演「『逆向き設計』論に基づくカリキュラム設計-より良い教育評価を目指して」 奥村好美(京都大学 教育学研究科 教育学環専攻教育・人間科学講座准教授) パネルディスカッション 加藤早苗(インターカルト日本語学校 校長)亀田美保(大阪YMCA日本語教育センター センター長) 山本弘子(カイ日本語スクール 代表) 【8/6】 分科会Ⅰ「大学との教育連携を考える~送り出し側と受け入れ側の視点~」 分科会Ⅱ「自ら学び続けるために~学習者と教師のオートノミー~」 義永美央子(大阪大学 国際教育交流センター 教授) 分科会Ⅲ「モジュールボックスを使って学習活動と評価を考えよう!」 自由研究発表・ポスター発表・デモンストレーション・トーキングショップ 協賛団体紹介ブース 【8/23】 ポストセッション(オンライン交流イベント) 〔問い合わせ先〕一般財団法人日本語教育振興協会 事業部 小野寺陽子 TEL:03-6380-6557 FAX:03-6380-6587 E-mail: nisshinkyo2@gmail.com
8月
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10:00 AM 母語・継承語・バイリンガル教育(... @ オンライン(ZOOM)
母語・継承語・バイリンガル教育(... @ オンライン(ZOOM)
8月 6 @ 10:00 AM – 8月 9 @ 9:00 PM
母語・継承語・バイリンガル教育(MHB)学会は、国内外の幼児・児童・生徒・成人が読み書きも含むマルチリンガル能力を身につけられる言語教育の方法、理論、研究方法を探ることを目的としており、学会誌の発行や研究大会の開催などの活動をしています。 2024年度は「母語・継承語・バイリンガル教育研究の未来を描く〜次の10年を見据えて〜」をテーマにした研究大会を、来る8月6日から9日までの4日間に渡り、オンラインで開催いたします。関心をお持ちの多くの方のご参加をお待ちしております。

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