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2018年度 公開シンポジウム 本物の自尊心を育むために
- 2018/9/18
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日本、〒113-0033 東京都文京区本郷7丁目3−1
◆企画趣旨
昨今,様々なデータにより日本の若者の自尊心が低いということが問題視されている。
しかし,文化社会心理学の中では,この自尊心の相対的な低さは,むしろ日本人の特長や美点を反映している可能性が高いことも理解されている。たとえば,欧米では自己高揚的傾向が強いため,自尊心得点が高く出やすいが,それは必ずしも実力に裏打ちされた自尊心ではなく,自尊心を高く保たなければ社会適応しにくいという状況に対する一種のマインドセットであると考えられる。いっぽう,日本人の場合には,他者から批判されないように自ら自己の欠点や改善点を見つけ出し,問題点を改善しようとする中で,実力が高まるとともに,謙虚さなどの美点にもつながる。Markus, H.は,アメリカ人は自分と異なる意見を聞くときに,頭の中が反論でいっぱいになって素直に聞けないが,日本人のいいところは,自分と異なる意見でも,頭の中を白紙にして聞けるところだ,という指摘もしている。
また,日本人は現時点での自己の欠点などを見出して改善しようとするため,自尊心の得点は低めに出やすいが,こうした改善を重ねる結果,将来の自分は幸せになると信じていることを示すデータもある。ただし,自己批判的傾向が強まりすぎると,うつや自信喪失などの病理的状態につながりうる。
さらに,欧米の場合は自分で自尊心を高く保つ必要があるが,日本の場合は,謙譲の美徳により,自分を低めて相手をあげ合うことにより,お互いに相手の自尊心を高めあうような,互恵的社会でもある。こうした安心社会は,欧米の多民族社会からは羨望のまなざしで見られている。
したがって,Rosenbergの自尊心尺度のように,他人に比べて自分が個人的にどの程度有能か,ということを問うような方法では,高い値が出にくいことをもって,一概に問題視するべきではない。真に自尊心を高めるとはどういうことか,客観的なデータ,測定法,うつなどの病理との関連,教育的介入の効果,などの点から考える機会としたい。