日本語教育推進議員連盟(日本語議連)の事務局次長で公明党参院議員の里見隆治氏が2日、都内で開いた一般社団法人全国各種学校日本語教育協会(堀道夫理事長)主催の研究セミナーで講演し、日本語教育推進基本法案の骨子案を示しながら、日本語議連として今後、議論すべき論点などを提示した。この中で日本語議連が制定を目指す基本法の輪郭が明らかにされた。日本語議連は衆院解散・総選挙後に活動を再開し、骨子案をもとに基本法制定に向けて議論を詰めるものとみられる。

研究セミナーは、先に発足した全国各種学校日本語教育協会のお披露目のイベントとして開かれた。「これからの日本語教育と外国人留学生の人材活用を考える――“日本語教育推進基本法”制定に向けて」がテーマ。講演のほか、「グローバル人材の育成とこれからの日本語教育」と題したシンポジウムも開かれた。

講演の講師は当初、日本語議連事務局長で自民党前衆院議員の馳浩氏が予定されていた。しかし、衆院解散・総選挙で馳氏が地元・石川県で選挙準備に追われる事態となり、急きょ里見氏が代役を務めることになった。

里見氏が提示した骨子案(PDFで別掲)は、議連内に設置された立法チームの中川正春座長(日本語議連会長代行)の「試案」で、今後の議論のたたき台になるもの。それによると、骨子案では「第一 総則」「第二 基本方針」「第三 基本的施策」「第四 日本語教育推進協議会」の4章で構成。総則には「目的」「定義」「基本理念」が盛り込まれている。基本法が制定されれば、政府内で責任官庁が明確になり、日本語教育に関する施策を総合的に推進するための方策が示される見通しだ。

里見氏は講演で、今後の議論の焦点となるとみられる「基本的施策」について、議連内の議論をはじめ、関係機関や団体から寄せられた意見や要望などをもとに論点を示した。「第四 基本的施策」には、日本語教育の①普及推進②質の保証③調査研究――の3項目を列記。これに関連して里見氏は日本語学校について▽日本語教教育の専門機関として位置付けてほしい▽所管官庁を明確にしてほしい▽留学生の在留管理への協力について日本語教育機関の責務を明確にしてほしい――などの要望があったと述べたうえで、「日本語教育機関に法的根拠を与える。所管官庁を決める、こうした点について方向性を法案で定められないかという議論をしている」と述べた。

また、日本語教育の質の保証に関する施策については、▽人材不足に対して、必要な資質、能力、キャリアパスを明らかにしてほしい▽一定の基準や指針を設け。資格化をしてほしい▽待遇改善を図ってほしい▽研修について基準や指針を設けてほしい▽レベルに応じた教材の開発をしてほしい▽就労のための人材育成、プログラムの開発が必要ではないか――などの声があったという。

さらに里見氏は日本語教育推進協議会について、日本語教育を文部科学省・文化庁と外務省とだけでなく、法務省、厚生労働省、総務省、国土交通省など多くの省庁が一体となって総合的に推進するための機関として紹介。すべてに責任を負う所管官庁については、「これからの検討課題であり、議連の中にいろいろな意見がある」と述べるにとどまった。ただ、国内と国外(の日本語教育)は統一しにくいのではないか」とも述べ、文部科学省と海外の日本語教育に携わる国際交流基金を所管する外務省を中心にどのような枠組みにするのが適当か、今後、議論をしていくとの考えを示した。

日本語議連が目指す基本法の制定は、来年の通常国会以降になるとみられるが、議連の活動が後押しする形で、政府は6月に閣議決定した未来投資戦略2017と骨太の方針2017にそれぞれ初めて「日本語教育の充実」という文言を盛り込んだ。里見氏は、政府が日本語重視の姿勢を示したことを受けて文化庁が来年度予算の概算要求の中で「外国人に対する日本語教育の推進」の事業費を前年比約1.5倍の3億2,500万円に増額したことを指摘し、すでに議連の活動の「効果」が表れているとアピールした。

この後、行われたシンポジウム「日本語教育推進基本法の制定に向けて」では、坂東真理子昭和女子大理事長、井上洋日本経団連前参事、小林光俊全国専修学校各種学校総連合会会長、吉岡正毅全国日本語教師養成協議会代表理事、大日向和知夫日本語学校ネットワーク代表理事の5人がパネリストとして意見を述べた。(了)

PDF: 日本語教育推進基本法案(仮称)骨子案イメージ

石原 進(いしはら・すすむ)日本語教育情報プラットフォーム代表世話人

投稿者プロフィール

「にほんごぷらっと」の運営団体である日本語教育情報プラットフォーム代表世話人。元毎日新聞論説副委員長、現和歌山放送顧問、株式会社移民情報機構代表取締役。2016年12月より当団体を立ち上げ、2017年9月より言葉が結ぶ人と社会「にほんごぷらっと」を開設。

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6月
12
12:00 AM 留学生対象の日本語教師初任者研修... @ オンライン(ZOOM)
留学生対象の日本語教師初任者研修... @ オンライン(ZOOM)
6月 12 2024 @ 12:00 AM – 1月 31 2025 @ 12:00 AM
日振協による文部科学省委託の初任研修が今年も始まります。 告示校で10年程度専任で経験されている方対象です。 OJTで実際の運営に関わりながら研修運営を肌で学んでいただけます。 研修詳細は協会ホームページより、チラシと募集案内をダウンロードしてご確認ください。   「日振協 留学生対象の日本語教師初任者研修」は「オンライン映像講義」「(オンライン)集合研修」「自己研修(自律的学習)」の三位一体の編成により、①自律的・持続的な成長力 ②対話力 ③専門性という3つの資質・能力の育成を目指すもので、忙しい仕事の合間を縫って学べるよう、また地方の教育機関に所属している受講生への負担を減らすため、e-Learningを利用した研修となっています。 2020年度から、この初任者研修と並行して、「育成研修」を併せて実施しています。「育成研修」は初任者研修のサポートを行いながら研修の企画や実施方法を学び、将来全国各地で初任者研修の実施担当者として活躍していただく人材を育成する研修です。具体的には以下のことを目指しています。 ①初任者教員の協働的かつ自律的な学びを支援し、21世紀に活躍できる日本語教師としての資質・能力及びICT活用能力の獲得へと導く ②研修委員に必要な経験と能力を身につける 研修は、フルオンライン(zoom使用)で実施いたします。学内で初任者の指導を任されている方、地方在住でなかなか研修機会に恵まれない方など全国各地からご参加いただきたく存じます。修了生は今後実施委員になっていただく可能性もございます。どうぞ奮ってご応募ください。 チラシ(PDF 裏表2頁/1枚)
6月
29
12:00 AM 留学生に対する日本語教師初任研修 @ オンライン
留学生に対する日本語教師初任研修 @ オンライン
6月 29 2024 @ 12:00 AM – 1月 31 2025 @ 12:00 AM
本研修のカリキュラムは文化審議会国語分科会の「日本語教育人材の養成・研修の在り方について(報告)」に基づいており、初任者が体系的・計画的に日本語指導を行うための実践的能力として (1)自律的・持続的な成長力 (2)対話力 (3)専門性 の3つの資質・能力の養成を狙いとした90単位時間のプログラムです。忙しい仕事の合間を縫って学べるよう、また地方の日本語教育機関の新任の先生方への負担を減らすため、e-Learningを利用した研修となっています。 研修形態はフルオンラインです。昨年度同様、今後日本語教師にますます求められるであろうICT活用能力(オンライン授業やハイブリッド授業の実践等)に重点を置いた研修を行います。 つきましては、ぜひ多数の日本語教師初任者の方にご参加いただきたく下記のとおりご案内いたします。どうぞよろしくお願い申し上げます。 チラシ(PDF 表裏2頁/1枚)
7月
27
1:30 PM 凡人社日本語サロン研修会 『でき... @ 大阪会場TKP 大阪本町カンファレンスセンター
凡人社日本語サロン研修会 『でき... @ 大阪会場TKP 大阪本町カンファレンスセンター
7月 27 @ 1:30 PM – 4:00 PM
凡人社日本語サロン研修会 『できる日本語』ブラッシュアップ講座 ~課題に向き合い、仲間とともに,より良い実践をめざしませんか~   [日時・会場・定員] 全日:13:30~16:00(受付開始 13:00) ※各会場先着順、定員になり次第締め切ります     【日付】2024/7/27 (土) 【会場】大阪会場TKP 大阪本町カンファレンスセンター(大阪市中央区久太郎町3-5-19) 【定員】80名   【日付】2024/9/1 (日) 【会場】福岡会場博多バスターミナル(福岡市博多区博多中央街2) 【定員】60名   [対 象] 主に日本語学校の教師・関係者、日本語教育ボランティア、日本語教育に関心のある方   [参加費] 無料 ※要予約   [講 師] 嶋田 和子 先生(『できる日本語』監修) 他『できる日本語』著者の先生方   [内 容] 『できる日本語』の輪が広がり続け、「実践について学べる場がほしい」という声がたくさん寄せられています。 そこで、現在『できる日本語』を使っていらっしゃる方々に向けて、「ブラッシュアップ講座」を開くこととしました。 当日は、具体例を挙げながらより良い実践について考えていきます。 事前にお寄せいただいた質問の中から共通の課題を取り上げ、ご一緒に解決に向けて考えていきます。 また、すでにあちらこちらで【できる日本語ネットワーク】が生まれていますが、今回の対面講座で、さらに新たな輪が生まれることをめざします。   [お問い合わせ・お申込み] 主催:アルク・凡人社 お問い合わせ・申し込み先(担当:凡人社/坂井)   E-mail:ksakai@bonjinsha.co.jp   ※下記お申込みフォームかQRコードかメールにてお申し込みください。 メールでお申し込みの際はタイトルに「日本語サロン研修会(●/●)@●●」と入れて、本文にご氏名・ご所属・ご連絡先をご記入ください。 ※●/●部分は開催日時と場所をご記入ください。   お申込みフォーム→https://x.gd/3kYVu
8月
5
10:00 AM 令和6年度日本語学校教育研究大会 @ 国立オリンピック記念青少年総合センター
令和6年度日本語学校教育研究大会 @ 国立オリンピック記念青少年総合センター
8月 5 @ 10:00 AM – 8月 6 @ 4:30 PM
令和6年度日本語学校教育研究大会 1 開催日時 本大会 2024年8月5日(月)10:00~16:45 8月6日(火)10:00~16:15 ポストセッション 2024年8月23日(金)19:30~21:00 2 会場 国立オリンピック記念青少年総合センター(東京都渋谷区) 3 参加方法 会場参加:8/5、6は会場参加。後日一部プログラムのアーカイブ配信視聴可。8/23ポストセッションに参加可。 オンライン参加:一部プログラムのライブ配信・後日アーカイブ配信を視聴可。8/23ポストセッションに参加可。 3 応募締切:2024年7月24日(水) 4 詳細、申込方法 https://www.nisshinkyo.org/news/detail.php?id=3163&f=news 「日本語教育の適正かつ確実な実施を図るための日本語教育機関の認定等に関する法律」施行に伴い、各校においては教育理念や到達目標、評価方法、および教育・学習内容等の見直しを進められていることと存じますが、認定されることがゴールではなく、その先を見据えて、自分たちの教育、および学校全体を見直し、リニューアルすることが大事なのではないでしょうか。 今回は、大会のテーマを「これからの新しい日本語学校の話をしよう」とし、プログラムを企画しました。 日本語学校教育に興味・関心をお持ちの方ならどなたでもご参加いただけます。 皆様のご参加お待ちしております。 【8/5】 講演「日本語教育機関の認定と登録日本語教員について」 (文部科学省総合教育政策局日本語教育課) 講演「技能実習制度及び特定技能制度をめぐる状況と育成就労制度の創設について」 新井靖久(出入国在留管理庁政策課 課長補佐) 講演「『逆向き設計』論に基づくカリキュラム設計-より良い教育評価を目指して」 奥村好美(京都大学 教育学研究科 教育学環専攻教育・人間科学講座准教授) パネルディスカッション 加藤早苗(インターカルト日本語学校 校長)亀田美保(大阪YMCA日本語教育センター センター長) 山本弘子(カイ日本語スクール 代表) 【8/6】 分科会Ⅰ「大学との教育連携を考える~送り出し側と受け入れ側の視点~」 分科会Ⅱ「自ら学び続けるために~学習者と教師のオートノミー~」 義永美央子(大阪大学 国際教育交流センター 教授) 分科会Ⅲ「モジュールボックスを使って学習活動と評価を考えよう!」 自由研究発表・ポスター発表・デモンストレーション・トーキングショップ 協賛団体紹介ブース 【8/23】 ポストセッション(オンライン交流イベント) 〔問い合わせ先〕一般財団法人日本語教育振興協会 事業部 小野寺陽子 TEL:03-6380-6557 FAX:03-6380-6587 E-mail: nisshinkyo2@gmail.com

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