コラム 日本語議連発足から8日で1年 議論は順調に進んできたが…

[写真は昨年12月1日に開かれた第二回総会]

日本語教育推進議員連盟(河村建夫会長)が発足して、8日で1年が過ぎた。日本語議連としては設立総会で役員人事を決めて議論をスタートさせてから計8回の総会(勉強会)を開くとともに、中川正春会長代行を座長とする立法チームを設置し、日本語教育推進基本法(仮称)の法案づくりの具体的な検討始めている。これまでは順調なテンポで議論が進んでいるようだ。

日本語議連の参加を呼び掛ける「ご案内」では、在留外国人が急増する現状を踏まえ「日本語教育の基盤を強化する必要がある」として、日本語教育推進基本法の制定を目指す考えを明らかにした。裏を返せば、日本語教に関する法的な整備が整っていないということ。日本語議連が目指す方向は明確だ。

その理由は設立総会に出席した関係省庁などの顔ぶれを見てもわかる。呼ばれたのは、文化庁、文部科学省、内閣府、法務省、外務省・国際交流基金、厚生労働省、経済産業省の各担当者。日本語教育の行政事務との関りが多岐にわたっていることが一目瞭然だ。そのことは同時に、一元的に責任を持つ官庁がはっきりしていないことを示している。

初の総会で議員のひとりが「問題ではないか」と指摘したのは、外国人留学生の時間外活動(週28時間)を超えた過度のアルバイト。日本語議連の約1か月後に西日本新聞社が連載記事で「出稼ぎ留学生」を取り上げた。同紙はネパールやミャンマーからの留学に悪質エージェントが絡んでいる実態などを報じた。

こうした状況を受けて法務省入国管理局(入管局)は留学生受け入れの審査を厳格化した。加えて日本語議連の動きとは別に入管局は日本語教育機関の告示基準の大幅改定を行った。これは日本語学校にとっては学校運営をめぐり大きな改革を迫るもので、「負担増」と受け止める日本語学校が少なくない。

入管局の審査の厳格化に対して日本語学校の間からは「うちはきちんと対応しているのに……」とぼやき声が上がっていたが、一部とはいえビジネス優先で留学生を労働者としかみない日本語学校の存在があるのも否定できない事実だ。それが留学生政策をゆがめているとしたら、行政と業界が一体となって対処しなければならない。

そもそも日本語議連の発足にあたり議員側の問題意識としてあったのは、そうした日本語学校の在り方だ。問題点の多くは、学校側だけでなく留学生受け入れの仕組みそのものにある、という。法的に株式会社立の日本語教育を「教育」として位置付けないなど文部科学省の対応が不十分であり、日本語学校の「管理」のほとんどを入管局に任せているのが実情だ。留学生が急増する中で、従来の仕組みのままでは矛盾が広がるばかりではないか。それを是正できるのは民意を吸収できる政治の力しかないのだ。

一方、日本語学校側にも様々な動きが出ている。文化庁が昨年10月に作成した資料によると、日本語学校の業界団体は一般財団法人日本語教育振興協会、一般社団法人全国日本語学校連合会、一般社団法人全国専門学校各種学校日本語教育協会の3団体。当時は法人格をまだ持っていないが、日本語学校ネットワーク(後に一般社団法人化)も業界団体として活動していた。このうち全国専門学校各種学校日本語教育協会が再編され、全国専門学校日本語教育協会、全国各種学校日本語教育協会、全日本学校法人日本語教育協議会の3団体が新たに発足した。団体の再編が今後の日本語議連の活動に影響を及ぼすのかどうか。

また、政治的に予想外の展開があった。10月の衆院の解散・総選挙だ。この選挙で日本語議連の会長、会長代理、事務局長など幹部のほとんどが再選されたのは何よりだった。中心的な議員が議席を失うと、議連の活動が休止状態になりかねない。日本語教育推進基本法制定の動きがとん挫する恐れがあった。他の議員連盟では、幹部の落選で活動が中断または停滞するケースはよくあるという。

ただ、解散・総選挙によって、日本語議連の活動に多少の影響が出ることは避けられそうもない。特別国会は11月1日に開会。会期は12月9日まで39日間と決まったが、日程的には窮屈なのが現状だ。新人議員の加入呼びかけも必要だ。民進党の分裂などで政治状況が混とんとしている。さらに河村会長が多忙な予算委員長に就任したことで、日本語議連の日程調整が難しくなりそうだ。

日本語教育には日本語学校をめぐる問題以外にも日本語教師や日本語ボランティアの育成など、課題は少なくない。日本語議連には幅広い課題を包括した議論が求められる。立法チームが作成した「基本法」の法案が総会で議論されれば、様々な観点から意見が出るだろう。日本語議連の本格的な活動は来年の通常国会に持ち越されそうだが、新たな気持ちで再出発されることを期待したい。

(了)

石原 進(いしはら・すすむ)日本語教育情報プラットフォーム代表世話人

投稿者プロフィール

「にほんごぷらっと」の運営団体である日本語教育情報プラットフォーム代表世話人。元毎日新聞論説副委員長、現和歌山放送顧問、株式会社移民情報機構代表取締役。2016年12月より当団体を立ち上げ、2017年9月より言葉が結ぶ人と社会「にほんごぷらっと」を開設。

この著者の最新の記事

関連記事

コメントは利用できません。

イベントカレンダー

7月
20
10:00 AM 【!!追加募集!!】NPO法人日本... @ オンライン (オンライン上での集合研修 および 動画視聴による個人学習) ・「就労者の異文化適応」「教材研究」は対面(東京・大阪)で実施。 オンラインでの参加も選択可能。
【!!追加募集!!】NPO法人日本... @ オンライン (オンライン上での集合研修 および 動画視聴による個人学習) ・「就労者の異文化適応」「教材研究」は対面(東京・大阪)で実施。 オンラインでの参加も選択可能。
7月 20 2025 @ 10:00 AM – 2月 8 2026 @ 2:45 PM
【!!追加募集!!】NPO法人日本語教育研究所 主催文部科学省委託 令和7年度現職日本語教師研修プログラム普及事業 就労者に対する日本語教師【初任】研修 就労者に対する日本語教師養成 –日本語教育研究所の多様な研修実績及び人材を活かしたビジネス日本語教育/指導- ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ この研修は、これから新たに就労者に日本語を教えたいと考えている方を主な対象としています。スキルアップにぜひお役立てください。 再受講をご検討の方へ 本研修はこれまでに弊所の研修をご受講された方も、再度ご参加いただけます。 実際に現場に出て、もう一度確認したいことなども出てきているのではないでしょうか。 さらに実践的な指導力を高める良い機会となりますので、ぜひご検討ください。 ─────────────────── ■期間 2025年7月20日(日) ~ 2026年2月8日(日) *日程等の詳細は、募集要項のリンク先からご覧ください。 ■対象 日本語教育機関認定法に基づく「登録日本語教員」を対象としますが、本法の経過措置期間内(令和10年度まで)は、令和6年度までに下記を修了した方も対象とします。 1)日本語教師として下記のいずれかの要件を満たす方  ①大学/大学院で日本語教育に関する教育課程を修了し、大学/大学院を卒業/修了した方  ②大学/大学院で日本語教育に関する科目の単位を26単位以上修得し、大学/大学院を卒業/修了した方  ③公益財団法人日本国際教育支援協会「日本語教育能力検定試験」に合格した方  ④学士の学位を有し、日本語教師養成講座 420 単位時間以上を修了した方 2)原則として、就労者への日本語教育歴が0~3年未満の方 ■定員 100名 ■受講料 20,000円(税込) ※教材費込み ■申込方法 以下のリンクからお申し込みください。 https://forms.gle/JWtnJ6WzzCNQvQx88 ■申込締切 2025年6月30日(月)【募集期間延長しました!!】 ■募集要項 https://docs.google.com/document/d/1uHn1k6zdRIgcQ2-lK5Uyr1Qa5vlwzXCFvKEUw3UjJVU/edit?usp=sharing ■お問い合わせ NPO法人 日本語教育研究所(研修事務局) nikken.kenshu@gmail.com
8月
1
12:00 AM 「実践のプロセスを協働でふり返る... @ 新潟ユニゾンプラザ
「実践のプロセスを協働でふり返る... @ 新潟ユニゾンプラザ
8月 1 @ 12:00 AM – 10月 4 @ 11:59 PM
介護・医療現場や日本語教育などにおける実践について協働でふり返ります。 省察や学びに興味がある仲間と語り、聴き、関わる中で学び合ってみませんか。 皆さま 平素お世話になっております。 「学びを培う教師コミュニティ研究会」からのお知らせです。 この度、ラウンドテーブル2025秋~新潟~「実践のプロセスを協働でふり返る-語る・聴くから省察へ」を開催することになりました。 https://manabireflection.com/archives/activities-japan/%e6%96%b0%e6%bd%9f%e3%83% a9%e3%82%a6%e3%83%b3%e3%83%89%e3%83%86%e3%83%bc%e3%83%96%e3%83%ab2025%e7%a7%8b%e 3%81%ae%e3%81%94%e6%a1%88%e5%86%85 ◆コーディネーター 池田広子(目白大学) ◆ファシリテーター 秋田久美子(大起日本語学校) 上田和子(武庫川女子大学) 宇津木奈美子(獨協大学) 小西達也(早稲田大学) 佐野香織(武蔵野大学) 冨樫里真(青山国際教育学院) ◆日時:2025年10月4日(土)9:30~16:30 ※昼食休憩があります。 ◆場所:新潟ユニゾンプラザ 4階特別会議室 https://www.unisonplaza.jp/access/ (JR越後線上所駅 徒歩10分) ◆参加費:無料 ◆申し込み締め切り:9月22日(月) ◆申し込みhttps://docs.google.com/forms/d/1PjUaqHxz6vCaRlw86qx5vwubQkmWm6bu4a_S84 MMVIg/viewform?edit_requested=true 皆さまのご参加を心よりお待ちしております。 学びを培う教師コミュニティ研究会事務局
8月
23
10:00 AM シリーズ 就労分野の日本語教育—『... @ オンライン
シリーズ 就労分野の日本語教育—『... @ オンライン
8月 23 @ 10:00 AM – 12:00 PM
社会人一般(初級)への教え方講習会です。 「JBP」シリーズの著者が、忙しい社会人を対象とした教え方の秘訣を実践例とともに紹介します。
8月
26
10:06 AM 第11回日本語教育支援システム研究... @ 英キール大学(Keele University)
第11回日本語教育支援システム研究... @ 英キール大学(Keele University)
8月 26 @ 10:06 AM
第11回日本語教育支援システム研究会(CASTEL/J)国際大会 第11回日本語教育支援システム研究会(Computer Assisted Systems for Teaching and Learning Japanese – CASTEL/J)国際大会を英国中部スタッフォードシャー州にあるキール大学(Keele University)にて英国日本語教育学会(BATJ)・キール大学ランゲージ・センターとの共催で開催することとなりました。 日本語教育支援システム研究会国際大会は、日本語教育関係者、日本語教育のリーダーに日本語教育におけるテクノロジー使用の最先端の動き、将来の方向性を共有する機会を作ってきました。2020年のパンデミックにより授業のオンライン化・ハイブリッド化が進み、それに加えて、この数年の人工知能(AI)技術の急速な発展と普及により、日本語教育は元より私たちを取り巻くテクノロジー環境が大きく変化しています。これらの技術的発展を効果的に教育・学習に取り入れ促進していくことは今まで以上に重要となっています。世界中からこの分野の優れた研究者、実践者が集まるこの国際大会に是非ご参加ください。 日時:2025年8月26日(火)〜27日(水) 会場:英スタッフォードシャー州キール大学チャンセラーズ・ビルディング 共催:英国日本語教育学会(BATJ)、キール大学ランゲージ・センター

注目の記事

  1. 移民政策の先駆者・故坂中英徳さんを偲んで 第二話 日本型移民政策の提言(上) 元東京…
  2. 日豪の友好の歴史を見直そう——日豪議員連盟が「穣の一粒」と「藤田サルベージ」で勉強会  …
  3. 日本語教師の熱い想いを伝える「日本語学校物語」 文科省の担当者に読んでほしい 昨年暮に出版され…

Facebook

ページ上部へ戻る
多言語 Translate