中小企業127万社が後継者不足で廃業の危機 「日本語人口」増やし優秀な外国人材を後継ぎに

中小企業127万社が後継者不足で廃業の危機 「日本語人口」増やし優秀な外国人材を後継ぎに

中小企業の後継者不足が深刻化している。高齢で引退した社長の後継ぎがいないため廃業に追い込まれる例が少なくない。2025年には127万社が後継者不足で存続の危機に直面するという。雇用の7割を抱え、日本経済の土台を支える中小企業。その危機を救う手立てはないのか。外国人の労働力といえば、技能実習制度などで低スキルの人材を受け入れるケースが大半だが、中小企業を救済する高度人材はいないのか。

「廃業 or 承継 大量引退時代の最終決断」――経済誌「週刊ダイヤモンド」1月27日号でこんな特集を組んでいる。その記事では「中小企業庁が衝撃的なシナリオを提示した。日本の企業の3社に1社が2025年に廃業の危機を迎えるというものだ。6割以上の経営者が70歳を超え、半数の企業で後継者が不在――。大廃業時代が足音をたてて迫っている」と警鐘を鳴らす。

特集によれば、後継者が足りないため、127万社が廃業の危機に陥り、650万人の雇用を失う。その結果、22兆円分ものGDPが喪失する恐れがある、という。まさに「恐怖のシナリオ」だ。しかも、東京商工リサーチによれば、廃業する企業の約半数が経営黒字なのだ。「優良企業が大量に退出していく姿は異様にも映る」と嘆く。確かにショッキングな話だ。

特集では、その対策として「後継者不足や経営難の中小企業を第三者へ売却(M&A)」や「事業承継支援の担い手として期待がかかる全国の地方銀行」を取り上げるが、中小企業が自力での事業を承継できる道筋までは示していない。もとより現状では、中小企業は自らお後継者不足に対しては、思考停止の状態にあるようだ。

そもそも、中小企業の経営者は販売、営業などを一手に仕切るワンマン社長が少なくない。そうした数十万人の「団塊の世代」の社長が2020年ごろに引退時期を迎えるが、少子化や身内に家業意識が薄れていることもあり、後継ぎを育成するより「廃業」を選択する社長が多いが現状だという。

だったら、外国人の高度人材を中小企業の後継者にできないのか。外国人労働者127万8000人(2027年10月末)のうち専門的・技術的分野の在留資格を持つ「高度人材」は23万8000人いる。政府は高度人材の彼らに起業を促し、起業に関わる規制を緩和する方針だという。彼らへの期待はあるのだ。ただし、前提となるのはレベルの高い日本語能力とビジネスセンスだ。専門知識やそれなりの事業資金や意欲も不可欠だ。

中小企業の後継者となるには、さらにいくつかのハードルを越える必要がある。何より経営者の信頼を得なければならない。人並み以上のリーダーシップ、経営者としての資質も欠かせない。関係会社など得意先との付き合い、日本的のビジネスの流儀も求められる。そんな外国人材をどう探すのか。

一方、中小企業の側も、発想の転換が迫られる。優秀な人材は、国籍や民族を問わず優秀である。むしろグルーバル化が進み、外国人材が持つ多様な発想を事業に生かそうという積極さが重要になる。「外国人なんて…」などと考えていては、前に進めない。数ある原石の中から宝石を探し出し、磨き上げるような人材育成への努力がなければ、外国人材を後継者にすることはできない。実際、東大阪市のある中小企業では、経営者が雇用した中国人留学生の高い能力に目をつけ、将来、自分の後継者にしたいと経営のノウハウを学ばせているという。

ハノイのVCIアカデミーは、ベトナム人のトップクラスの大学を卒業した若者に日本語と日本社会の基礎知識やビジネスマインドを教え、日本の中小企業に正社員として就職させる人材会社だ。設立から11年でハノイ工科大やハノイ貿易大など出身の約300人が日本の中小企業で働いている。管理職に昇進し、役員にまでなった人材もいる。

代表の阿部正行氏は「VCIアカデミーはまだ歴史が10年余り。就職先の中小企業では中堅幹部も少しずつ増えてきたが、社長になったケースはまだない。しかし、VCIから複数のベトナム人を採用していただいている東北地方のある農業関係の会社では、社長がベトナム人社員を将来、分社化した会社の責任者にしたいと話していた。ベトナム人を後継者にする企業が現れる可能性はあるだろう」と話す。

阿部氏はハノイ在住26年。人材育成の経験から「日本に行ってサムライになろう」というベトナム語の著書を出版し、発行部数は1万部を超えた。ベトナムではベストセラーだ。日本で働くにあたっての心構えを説く本だが、ベトナムで「日本語人口」が増え、日本語を理解する多くの優秀な人材の中から「サムライ=社長」を夢見る若者が育つかもしれない。

石原 進(いしはら・すすむ)日本語教育情報プラットフォーム代表世話人

投稿者プロフィール

「にほんごぷらっと」の運営団体である日本語教育情報プラットフォーム代表世話人。元毎日新聞論説副委員長、現和歌山放送顧問、株式会社移民情報機構代表取締役。2016年12月より当団体を立ち上げ、2017年9月より言葉が結ぶ人と社会「にほんごぷらっと」を開設。

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6月
12
12:00 AM 留学生対象の日本語教師初任者研修... @ オンライン(ZOOM)
留学生対象の日本語教師初任者研修... @ オンライン(ZOOM)
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日振協による文部科学省委託の初任研修が今年も始まります。 告示校で10年程度専任で経験されている方対象です。 OJTで実際の運営に関わりながら研修運営を肌で学んでいただけます。 研修詳細は協会ホームページより、チラシと募集案内をダウンロードしてご確認ください。   「日振協 留学生対象の日本語教師初任者研修」は「オンライン映像講義」「(オンライン)集合研修」「自己研修(自律的学習)」の三位一体の編成により、①自律的・持続的な成長力 ②対話力 ③専門性という3つの資質・能力の育成を目指すもので、忙しい仕事の合間を縫って学べるよう、また地方の教育機関に所属している受講生への負担を減らすため、e-Learningを利用した研修となっています。 2020年度から、この初任者研修と並行して、「育成研修」を併せて実施しています。「育成研修」は初任者研修のサポートを行いながら研修の企画や実施方法を学び、将来全国各地で初任者研修の実施担当者として活躍していただく人材を育成する研修です。具体的には以下のことを目指しています。 ①初任者教員の協働的かつ自律的な学びを支援し、21世紀に活躍できる日本語教師としての資質・能力及びICT活用能力の獲得へと導く ②研修委員に必要な経験と能力を身につける 研修は、フルオンライン(zoom使用)で実施いたします。学内で初任者の指導を任されている方、地方在住でなかなか研修機会に恵まれない方など全国各地からご参加いただきたく存じます。修了生は今後実施委員になっていただく可能性もございます。どうぞ奮ってご応募ください。 チラシ(PDF 裏表2頁/1枚)
6月
29
12:00 AM 留学生に対する日本語教師初任研修 @ オンライン
留学生に対する日本語教師初任研修 @ オンライン
6月 29 2024 @ 12:00 AM – 1月 31 2025 @ 12:00 AM
本研修のカリキュラムは文化審議会国語分科会の「日本語教育人材の養成・研修の在り方について(報告)」に基づいており、初任者が体系的・計画的に日本語指導を行うための実践的能力として (1)自律的・持続的な成長力 (2)対話力 (3)専門性 の3つの資質・能力の養成を狙いとした90単位時間のプログラムです。忙しい仕事の合間を縫って学べるよう、また地方の日本語教育機関の新任の先生方への負担を減らすため、e-Learningを利用した研修となっています。 研修形態はフルオンラインです。昨年度同様、今後日本語教師にますます求められるであろうICT活用能力(オンライン授業やハイブリッド授業の実践等)に重点を置いた研修を行います。 つきましては、ぜひ多数の日本語教師初任者の方にご参加いただきたく下記のとおりご案内いたします。どうぞよろしくお願い申し上げます。 チラシ(PDF 表裏2頁/1枚)
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凡人社日本語サロン研修会 『でき... @ 大阪会場TKP 大阪本町カンファレンスセンター
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8月
5
10:00 AM 令和6年度日本語学校教育研究大会 @ 国立オリンピック記念青少年総合センター
令和6年度日本語学校教育研究大会 @ 国立オリンピック記念青少年総合センター
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一般財団法人日本語教育振興協会では、日本語教育機関に勤務する教職員等のための「日本語学校教育研究大会」を実施しております。 今年度は2024年8月5日(月)・6日(火)に、5年ぶりの対面開催で行います。 大会では、各日本語教育機関における実践・事例の報告の機会として、発表の場を設けています。 意見・アイディア交換の場としてぜひご活用ください。 皆様からのご応募お待ちしております。 発表応募締切:2024年5月15日(水) 発表応募要項・申込方法: https://www.nisshinkyo.org/news/detail.php?id=3076&f=news ※プログラム内容・参加お申込み方法など、大会の詳細については、 随時 https://www.nisshinkyo.org にてご案内してまいりますので、ぜひご覧下さい。

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