「全国に夜間中学の開設を」――永田町で政治家と教師の研修交流会

超党派の夜間中学等義務教育拡充議員連盟と全国夜間中学校研究会共催の「全国に夜間中学の開設を!研修交流会」と銘打ったイベントが7月27日、東京・永田町の衆議院第一議員会館であった。様々な事情で義務教育を受けられなかった人たちのために新な学びの場として夜間中学を1県に1校つくろう、という取り組み。報道では与野党対立が強調されることが多いが、そこには議員が党派を超えて連携し、100人を超える教師らと交歓する珍しい光景があった。

義務教育議連が法案を作成し、2016年12月に成立した義務教育機会確保法。この法律によって文科省が見て見ぬふりをしてきた夜間中学が大きな注目を集めるようになった。夜間中学の教師たちが議員会館に足を運び熱心に政治家に働きかけた。政治の側もその熱意にしっかりと応えてできた法律だ。業界団体の場合は、業界の利益のため政治家に献金や選挙応援と引き換えに法律の制定や改正をしてもらうケースが多いが、夜間中学の拡充で喜ぶのは教育に恵まれなかった立場の人たちだ。機会確保法では「国籍を問わず」に夜間中学で教育を受ける権利を保障。その多くが投票権のない外国人だ。

研修交流会には義務教育議連事務局長の笠浩史衆院議員をはじめ、浮島智子、畑野君江両衆院議員と神本美恵子参院委員の3人の副会長、河村建夫衆院議員の計5人の国会議員が姿を見せた。このほか、静岡県焼津市と茨城県鉾田市の市議も駆け付けた。会長の馳浩衆院議員は急な所用のため参加できなかったが、国会が閉会中にもかかわらず、会場は議員と教師らの熱気がムンムン。

冒頭あいさつした笠事務局長は機会確保法に「3年後見直し」の規定があることから、「法律をしっかりと充実察せた行くために法改正が必要なのか、どういう施策がさらに必要なのか、ということを超党派で国会の場でもしっかり取り上げていきたい」と述べた。

義務教育を受けられなかった人は全国に百数十万人いると推定される。しかし、公立の夜間中学は8都府県に31校あるだけ。北海道、東北、中四国、九州には1校もない。法律ができて2年近く時間が経過し、ようやく埼玉県川口市と千葉県松戸市に近く夜間中学が開校する見通しとなったが、まだまだ不十分だ。あくまで1県1校、さらには夜間中学の質的向上が目標だ。

こうした中で政府は6月に夜間中学の設置・充実の方針を盛り込んだ「教育振興基本計画」を閣議決定した。基本計画には「夜間中学の設置促進」が盛り込まれた。法律の制定とそれを受けた活動の強化によって徐々に成果も表れている。研修交流会には不祥事続きで世間の批判を浴びている文部科学省から高橋道和初等中等教育局長ら幹部が出席し、夜間中学の施策の充実に向けて決意を述べた。

また、研修交流会では政治家や教師たちのスピーチのほか、夜間中学の卒業生2人が体験談を語った。その中で夜間中学という学びの場があることが人生の大きな糧となったと振り返り、学びの場を充実させることの重要性を語った。最後に研究会側から笠事務局長に「義務教育を十分に受けていない人々に対する教育保障を前進させるための要望書」が手渡された。

                                                                                                                                                                           石原 進

石原 進(いしはら・すすむ)日本語教育情報プラットフォーム代表世話人

投稿者プロフィール

「にほんごぷらっと」の運営団体である日本語教育情報プラットフォーム代表世話人。元毎日新聞論説副委員長、現和歌山放送顧問、株式会社移民情報機構代表取締役。2016年12月より当団体を立ち上げ、2017年9月より言葉が結ぶ人と社会「にほんごぷらっと」を開設。

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