外国人労働者の受入れ拡大に国はどう対応すべきか 毎日新聞の「論点」を読み解く

外国人労働者の受入れ拡大に国はどう対応すべきか 毎日新聞の「論点」を読み解く

外部識者が社会の課題について主張を展開する毎日新聞のオピニオン欄の「論点」。10月3日の朝刊では「外国人就労の拡大策」をテーマに、大手コンビニ・ローソンの竹増貞信社長、群馬県大泉町の村山俊明町長、ニッセイ基礎研究所の鈴木智也研究員の3氏の意見を掲載した。人手不足が深刻化する中、政府は外国人労働者の受け入れ拡大の方針に舵を切った。これを受けて竹増氏は外国人の受け入れ枠をより広げるよう求め、村山市は急増する外国人住民へのサービスなどを国に責任で行うよう要望した。そして鈴木氏は長期展望の下で、日本が外国人から「選ばれる国」を目指すべきだと主張する。3氏の立場は違うが、求めているのは政府主導の「新たな国づくり」ではないか。

外国人受け入れの「対象業種をもっと広げよ」というのはローソンの竹増氏。ローソンは、正社員として外国人を数多く採用するなど人材のグローバル化では最先端企業の一つだ。かつて、ある国際ワークショップで同社の人事担当者が「外国人の社員が幹部になれば、会社が変わることができる」と話していた。会社の仕組みそのものをグローバル化しなければ、企業が生きていけない時代がくるというわけだ。

ローソンでは2016年からベトナムや韓国で研修施設をつくり、レジの操作方法などを来日前に研修できる仕組みを作った。すでに200人が研修を受け、うち100人が採用面接を受けた。また店舗用に5カ国語の接客マニュアルや接客方法を寸劇で解説する動画も作成したという。

しかし、留学生は週28時間の限られた時間でアルバイトとして働くことはできても、正社員として外国人がコンビニの店頭で働くことはできない。コンビニで働くことは接客用の日本語が身につくほか、季節の商品を扱うから日本の文化や風習も体験できる。にもかかわらず、学校を卒業して引き続き働きたいと思っても、現行の入管法では就労ビザが取得できないのだ。優秀な留学生の人材が帰国してしまい、加盟店の店主から落胆の声を聞くことが多いという。

竹増社長は「日本は人手不足にもかかわらず、日本で働きたいという外国人が働きにくい制度設計になっている」と嘆く。留学生のうち大学などを卒業後に日本で就職するのは3割程度。それを5割にしたいというのが政府の考えだ。高等教育を受けた留学生は、いわゆる高度人材。政府は来年4月から外国人労働者の受け入れ拡大の方針を掲げているが、「5割」を目指し、留学生が卒業後にコンビニで働ける仕組みができるのかどうか。

大泉町は外国人住民が町の人口の18%を占める。その比率は全国の自治体で最も高い。外国人の国籍も43カ国にのぼる。ブラジルが最多の56%、ペルー13%、ネパール9%と続く。彼らは「パナソニック」や「SUBARU」など大手の下請け企業の貴重な戦力だ。同時に地域社会を構成する生活者でもある。災害情報などを伝える全国瞬時警報システム(Jアラート)の多言語化、ポルトガル語の広報紙の発行、日本語教育など行政としての取り組む課題は少なくない。

違う国籍や民族の外国人が増えてコミュニティーが複雑化すると、行政としてまとめていくのが難しいともいう。村山町長は「人口に占める外国人の割合が2割を超えると、住民感情も変わってくるだろう。町長として双方の板挟みになり、日々、悩んでいる」と打ち明ける。国はこうした苦労を自治体につけを回してきた。生活者としての処遇に対し国がきちんと責任を持つべき時代を迎えている。

ニッセイ基礎研究所の鈴木研究員は今回、政府が外国人労働者の受け入れを拡大することに対して短期的な対応策としては「評価できる」という。ただ、その効果は十数年で消えるとみる。長期的な視点でみれば、問題解決のための「布石」という見方だ。また、鈴木氏は、政府が世論に配慮して「移民受け入れ」ではないと言っていることにも言及する。移民受け入れに反発する世論への配慮だろうとしながら、「世論が割れるという意味では、欧州の失敗に学ぶことがある」という。

ドイツでは当初、移民を歓迎したが、移民がドイツ語を話せずに社会的に孤立し、移民排斥や社会の分断につながった。鈴木氏はこうした状況に陥らないようにするには「日本語教育が一番重要だ」と強調する。外国人労働者を社会的孤立させず日本人とコミュニケ―ションがとれる環境を整える必要があるというのだ。種々の行政サービス、失業保険、年金医療、社会保険への加入なども必要だという。要は日本語教育などを担保しながら、「日本人と平等な処遇」をすればいいのだ。

アジアでは中国やタイなどでも高齢化で働く人材が不足する。経済成長に陰りがでてきた日本の魅力も低下しつつある。日本が一定の技能を持つ外国人労働者を受け入れるには、日本そのものが「選ばれる国」になる必要がある、と鈴木氏は指摘する。そのためにまず日本人側の外国人への理解が不可欠だ。政府は、外国人労働者受け入れ拡大の方針に対し国民への啓発、広報も重要な事業として取り組まねばならないだろう。

毎日新聞の「論点」は以下のURLで。

http://mainichi.jp/articles/20181003/ddm/004/070/032000c

石原 進

石原 進(いしはら・すすむ)日本語教育情報プラットフォーム代表世話人

投稿者プロフィール

「にほんごぷらっと」の運営団体である日本語教育情報プラットフォーム代表世話人。元毎日新聞論説副委員長、現和歌山放送顧問、株式会社移民情報機構代表取締役。2016年12月より当団体を立ち上げ、2017年9月より言葉が結ぶ人と社会「にほんごぷらっと」を開設。

この著者の最新の記事

関連記事

コメントは利用できません。

イベントカレンダー

6月
28
終日 第34回小出記念 日本語教育学会 年... @ オンライン
第34回小出記念 日本語教育学会 年... @ オンライン
6月 28 終日
開催日:2025年6月28日(土) ・場所:オンライン(Zoom) ・予定(日本時間): 9:40-10:10 会員総会 10:20-10:30 開会・プログラム説明 10:30-12:20 講演   「対話を通した学習者オートノミーおよびウェルビーイングの促進」 講師:加藤聡子氏(神田外語大学 学習者オートノミー教育研究所 特任准教授) 13:20-16:50 口頭発表 16:55-17:10 総括 ・参加費:会員無料・非会員2000円(発表者以外の参加申し込み方法は5月下旬にお知らせします)
7月
5
終日 日本語ジェンダー学会 第25回年次... @ 実践女子大学(渋谷キャンパス)
日本語ジェンダー学会 第25回年次... @ 実践女子大学(渋谷キャンパス)
7月 5 終日
第25回年次大会 研究発表募集要項 2025年7月5日(土)に実践女子大学(渋谷キャンパス)にて開催される、第25回年次大会での研究発表を募集します。以下の要領でお申込みください。  発表資格: 研究代表者=当日の発表者は、応募および発表時点で当学会の会員である必要があります。会員登録は、当学会事務局で随時受け付けておりますので、応募時までに会員登録をお済ませください。 会員登録はこちら新しいウィンドウで開きますからお願いします。 なお、研究代表者以外の連名者は、会員・非会員は問いませんが、採択された場合、後日の参加申込みは連名者も含み全員にしていただきます。 発表内容: 言語(特に日本語)・言語による作品・言説・発話・言語使用状況・言語使用環境等をジェンダーの観点から論じた内容を含む未発表のもの(発表内容は、大会テーマに関わるもの or 関わらないもの、どちらでもよい) → 大会テーマ「メディア・ことば・ジェンダー」 発表言語と時間: 日本語で30分(口頭発表20分+質疑応答10分)以内  申し込み期間: 2025年3月3日(月)–  5月7日(水)24:00 (JST) 申し込み方法: 当学会のウェブサイト上の「研究発表申込み書新しいウィンドウで開きます」をダウンロードして、研究者名、発表タイトル、発表概要(1000-1500文字)などを記入してアップロードする。 → 3月3日(月)以後に、こちら新しいウィンドウで開きますにアップロードしてください。 可否通知: 審査後5月16日(金)までに研究発表担当の実行委員からご本人に結果を通知します。場合によっては、一定の条件や修正への要求が提示される場合があります。 予稿集原稿: 採択された方は、6月6日(金)24:00までに予稿集に掲載する発表要旨を日本語で執筆してください。場合によっては、修正や加筆をお願いする場合があります。執筆要項は可否通知の際にお知らせします。 ★二重投稿や剽窃などの不適切な原稿に関しては厳しく対処致しますので、研究者としての良識をもってご執筆ください。 以上.
7月
12
終日 言語科学会 第26回年次国際大会(J... @ 愛媛大学 城北キャンパス
言語科学会 第26回年次国際大会(J... @ 愛媛大学 城北キャンパス
7月 12 – 7月 13 終日
言語科学会第 26 回年次国際大会(JSLS2025)開催・研究発表募集のご案内 言語科学会 (JSLS: The Japanese Society for Language Sciences) では以下の要領で、 第 26回年次国際大会 (JSLS2025) を開催いたします。 大会日程: 2025 年 7 月 12 日(土)~ 13 日(日) 開催場所: 愛媛大学 城北キャンパス(愛媛県松山市文京町 3) 大会ウェブサイト: http://www.jslsconference.jpn.org/jsls2025/ 基調講演: Jae DiBello Takeuchi 氏 (Indiana University Bloomington)
8月
7
10:00 AM 令和7年度日本語学校教育研究大会 @ 国立オリンピック記念青少年総合センター
令和7年度日本語学校教育研究大会 @ 国立オリンピック記念青少年総合センター
8月 7 @ 10:00 AM – 8月 8 @ 4:30 PM
日本語学校教育研究大会では、各日本語教育機関における実践・事例の報告の機会として、発表の場を設けています。 意見・アイディア交換の場としてぜひご活用ください。 皆様からのご応募お待ちしております。

注目の記事

  1. セサルの挑戦 第10回 国際紅白歌合戦をプロデュースする宮崎計実さん …
  2. 移民政策の先駆者・故坂中英徳さんを偲んで 第二話 日本型移民政策の提言(下) 元…
  3. 日本語議連が日本語教育の課題解決に向け22回総会を開く 昨年度の登録日本語教員の試験の合格率は62%…

Facebook

ページ上部へ戻る
多言語 Translate