第14回中国人の日本語作文コンクールの文集を読んで ――IT時代で深化する日本への関心と理解

第14回中国人の日本語作文コンクールの文集を読んで ――IT時代で深化する日本への関心と理解

第14回中国人の日本語作文コンクール(日本僑報社・日中交流研究所主催)の入賞作の作品集が日本僑報社から出版された。今回のテーマは「中国の若者が見つけた日本の新しい魅力」「日本の『中国語の日』に私ができること」「心に残る、先生のあの言葉」の3つ。作品集に目を通して印象深かったのは、「新しい日本の魅力」については実に細かな視点と生き生きとした描写が目についたことだ。旅行や留学を通じての「日本体験」が増え、インターネットを通じた日中交流も急テンポで進んでいるようだ。

今回のコンクールの応募作品は計4288点。前回を約250点上回った。テーマ別では「中国の若者が見つけた日本語新しい魅力」が2045点でトップだった。女性の応募が圧倒的に多く、男性の4.4倍にのぼった。

昨年12月12日の「日本語の日」に北京の日本大使館で最優秀賞(日本大使賞)に選ばれた復旦大学の黄安琪(こう・あんき)さんらの表彰式が行われた。作品集の書名はテーマのひとつから取った「中国の若者が見つけた日本の新しい魅力――見た・聞いた・書いた、新鮮ニッポン」。最優秀賞をはじめ一等賞から3等賞までの計81点の作文を掲載、そこには日本人が気づいていない「日本の魅力」が満載だ。

 

さて、中国の若者はどのように「日本の魅力」を発見したのか。最優秀賞の黄さんの「車椅子で、東京オリンピックに行く!」は、60歳になる祖母を東京オリンピックに連れて行きたいという話。2008年の北京五輪を前にして祖母は交通事故で車椅子の生活に。楽しみにしていた北京五輪に行けなかった。黄さんは短期交流プログラムで京都に留学してバスが車椅子のお客さんに丁寧に対応している光景を見て感激。黄さんはそこに日本の魅力を見つけ、「おばあちゃんを東京へ連れて行くよ、車椅子で」と言うのだ。

一等賞の中南財経政法大学の王美娜(おう・ぴな)さんは作品の中で「日本のことをいまだにひどい国だと思っている多くの中国人に、実際に日本に行って、本当の姿を見てもらいたい」と言う。というのは、王さんは東京に一人旅をして帰国間際に財布をなくしてしまった。宿泊先の大家さんが最寄の駅に問い合わせ、交番に連れていってくれ、遺失物届けに自分の財布を見つけた時の感激を書いた。「日本人はね、困った時、助けてくれるやさしい人がたくさんいるよ」と。

同じく一等賞の清華大学の王婧瀅(おう・せいえい)さんの作品も面白い。奈良の平城京跡を訪ねた際に出会ったのは82歳でボランティアとしての観光ガイドのおじいさん。65歳の時、中国に行って「まだ若く、時間もあるので中国語の勉強を始めた」と言う。その話を聞いた時、王さんは「涙が出そうなほど励まされたと感じた」と書いた。

このほか、ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)を通じた日中関係の親密ぶりを取り上げた作品も印象に残った。二等賞の作品ではフィギアスケートの羽生結弦選手が韓国・平昌の冬季オリンピックで演技を終えた時、中国CCTVが実況で「容姿は宝石の如く、姿は松の如し、軽さは大白鳥の如し、美しさは舞う龍の如し」と中継しことを取り上げた。この言葉を日本人が翻訳してツイッターで流したところ、「中国の人たちの言葉は本当に美しいな」などとのリツイートが7千を超えたことに注目、日本人が中国人を褒めたことに感動し、「日本の新しい魅力」だというのだ。

インターネットを通じて「くまモン」などの「ゆるキャラ」を紹介し、日本語の勉強を理解するようになった両親の話。アニメの「ワンピース」の主人公がラーメンをよく食べていたことから、日本のグルメに関心を持つようになり。「美味しい味を通して日本人の精神を感じることができる」と書いた作品もあった。作品集には、日本人も気づかない「日本の魅力」がちりばめられている。

「中国の若者が見つけた日本の新しい魅力」は、コンクールに協力した日本語教師による「私の日本語作文指導法」の体験記も収録されている。日本僑報社刊2,000円

http://duan.jp/item/267.html

最優秀賞と一等賞の作品5点は後日、「にほんごぷらっと」でも紹介します。

石原 進

石原 進(いしはら・すすむ)日本語教育情報プラットフォーム代表世話人

投稿者プロフィール

「にほんごぷらっと」の運営団体である日本語教育情報プラットフォーム代表世話人。元毎日新聞論説副委員長、現和歌山放送顧問、株式会社移民情報機構代表取締役。2016年12月より当団体を立ち上げ、2017年9月より言葉が結ぶ人と社会「にほんごぷらっと」を開設。

この著者の最新の記事

関連記事

コメントは利用できません。

イベントカレンダー

7月
1
終日 留学生に対する日本語教師初任者研修 @ オンライン開催
留学生に対する日本語教師初任者研修 @ オンライン開催
7月 1 2023 – 1月 3 2024 終日
日振協による文化庁委託の初任者研修が今年も始まります。 告示校で3年程度までの経験者対象です。 映像講義の視聴とテスト、数回のオンライン集合研修、自分の授業を改善する自己研修の3つに分かれており、様々な角度からの学びと教師としてのステップアップを目指せるカリキュラムとなっております。 研修詳細は https://www.nisshinkyo.org/index.php 最新トピックスをご覧ください。
10月
17
1:00 PM 全8回_【少人数】養成講座修了者向... @ オンライン開催
全8回_【少人数】養成講座修了者向... @ オンライン開催
10月 17 @ 1:00 PM – 12月 5 @ 3:00 PM
全8回_【少人数】養成講座修了者向け日本語教師実践スキルアップコース_23年10月17日(火)~12月5日(火)毎週火曜13:00-15:00 @ オンライン開催
【少人数】全8回_養成講座修了者向け日本語教師実践スキルアップコース_初級 初級の実習(技能別)を徹底的に復習できます。 養成講座の授業を担当しているTCJ日本語教師養成講座の専任教務リーダーが教育実習を指導する講座です。 【講師】 岩崎 透(TCJ日本語教師養成講座 教務リーダー) 経歴:大学卒業後、印刷会社大手に入社。国内MBAを取得し、国際協力活動に従事し複数の国で日本語を教えはじめる。その後、異文化理解と日本語教育への関心が深まり、筑波大学大学院にて日本語教育を専攻。修了後は、国際交流基金にてインドネシアで教師育成研修を推進。帰国後TCJ入社。現在は養成講座の教務リーダーとして実技指導の教壇に立ちながら、日本語教師の新任研修や育成サポートも実施。 Youtubeでも活躍中 https://www.youtube.com/@nihongo_kyoushi_yousei/about 【こんな方にお勧め】 ・自分の授業の進め方に自信がない方 ・受講生とのコミュニケーションの取り方が不安な方 ・経験したことのないレベルを担当することなった方 ・資格は取ったけど、実際の教壇に立つまでに再度実技を学んでおきたい方 ・職場の人に聞きにくいことについて、情報交換・知識交換をしたい方 ・対面授業しか経験がなく、オンラインでの授業もできるようになりたい方 【対象】養成講座を修了している方 ※TCJ養成講座以外の方もご参加いただけます。 【講座回数】 計8回(約2か月) 【総講座時間】 16時間(週1回/1回2時間) 【日時】 10月17日~12月5日まで。毎週火曜日13:00-15:00 (10/17、10/24、10/31、11/7、11/14、11/21、11/28、12/5) 【講座内容】 第01回 文法「聞きにくい…、初級文法の授業ってこれでいいの?」 第02回 文法 模擬授業(普通形・名詞修飾) 第03回 読解「初級の読解って語彙じゃない…?どうやってやると効果的?」 第04回 読解 模擬授業(トピック導入・大意取り・精読) 第05回 聴解「聴解って、音声流して、解答言って、再度聞いて…。このやり方でいいのかな?」 第06回 聴解 模擬授業(聴解授業のやり方) 第07回 会話「会話の授業が丸暗記の授業になっちゃう。学生は楽しそうにしてるけど…これでいいのかな?」 第08回 会話 模擬授業(タスク中心の授業、ICTツールも使いこなそう!) 【受講料】 88,000円(税込) 【受講形式】 オンライン(Zoom) 【修了書発行基準】 全8回のうち、6回以上出席、かつ、偶数回(模擬授業の回)の全参加の方に、受講修了書を発行いたします。 ※奇数回は、録画します。欠席された方は動画でキャッチアップいただけます。 ※全8回における修了書発行のため、1回ずつの申込はできません。 【定員】 12人(少人数制) 【問い合わせ先】 東京中央日本語学院 養成講座事業部 https://xn--euts3n8lg6bk91h.jp.net/

注目の記事

  1. 日本語教育機関認定法が成立 施行は来年4月 認定日本語教育機関、国家資格の登録日本語教員が誕…
  2. 軍政と戦うミャンマーの民主派勢力、私たちに何ができるのか ロシアのウクライナ侵攻が続い…
  3. 日本語議連第19回総会 日本語教育機関認定法の施行に向けて政省令など議論 日本語教育推…

Facebook

ページ上部へ戻る
多言語 Translate